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この1冊でカーボカウント・インスリンポンプ・CGMがわかる! 糖尿病3Cワークブック

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1型糖尿病診療のツボを押さえたテキストブック登場

プラクティス Vol.30 No.4(2013年7月号) PUBLICATIONより

評者:松久宗英(徳島大学糖尿病臨床・研究開発センター)

昨今,1型糖尿病治療の進歩は目覚ましいものがある.食事療法では,糖質量を把握し最適な追加インスリン量を定めるカーボカウント(Carbohydrate counting)が普及した.治療デバイスとして,インスリンポンプ(CSII : Continuous subcutaneous insulin infusion)が機種改良と保険点数の変更により使用しやすくなり,基礎インスリン補充のテーラーメード化が可能となった.インスリン補充の適正化をさらに進めたのが,皮下ブドウ糖濃度を連続測定するCGM(Continuous glucose monitoring)である.以上3つの「C」のエッセンスを凝集した医療スタッフ向けテキストブック『糖尿病3Cワークブック』が出版された.それぞれのCに関する良書はすでにあるが,3つを統合する1型糖尿病治療の包括的解説書は国内では本書がはじめてであろう.特に,随所にちりばめられた豆知識が1型糖尿病診療のツボを見事に押さえている.
本書を手に取ると,まず著者の豊富な臨床経験に基づく日常診療に即した70の設問に向き合うこととなる.基礎知識の難易度★から日常診療の必須知識を難易度★★.さらに患者個々の状況に応じた応用的指導法を難易度★★★で展開し,最後は知るヒトぞ知る(知らなくてもいい?)マニアックの難易度で締めくくられている.糖尿病専門医でも同答に窮する問題が後半はならんでおり,著者との知恵比べは時間を忘れて楽しめる.「はるさめと糸こんにゃくの違い」から「たこやきとチーズケーキのカーボカウント」,さらには「おいしいカレーの作りかた」まで素材から調理法に至るまで幅広くカーボカウントの知識が網羅されている.インスリンポンプに関しても.基本的使用法からよく遭遇するトラブルとその対処方法,また水泳や入浴時の注意など日常生活で患者自身が知っておくべき工夫の数々が盛り込まれている.一方,わが国では導入されて日が浅いCGMについても,その活用方法はカーボカウントとCSIIとともに用いることにあるとして質問が設けられている.
解説では,エビデンスに基づく知見を最大限伝えるべく豊富な参考文献を駆使し,実践性を重んじた具体的な記述を行うよう配慮されている.また,患者と家族へのケアに関してもきめ細かく記載されており,療養指導を担う医療スタッフには役立つポイントである.
本書のもうひとつの特徴は,43のコラムである.博学な著者の真骨頂であるコラムを読んでいくだけで,1型糖尿病診療の全般にわたる基礎からマニアックな知識まで得ることができる.海外では1型糖尿病患者でもパイロットになれることなど興味深い内容である.
本書は医療スタッフ向けに作成されているので,医療スタッフ同士の勉強会のネタとして利用でき,またそのまま患者に応用できる設問も多いため,患者指導の手引き書としても活用できる.一番お読みいただきたいのは1型糖尿病診療が難しいと考えておられる糖尿病専門医や専門医を志す若い医師である.先生方の臨床に資する情報が得られることに間違いはない.本書の3Cに,患者同士のコミュニケーション(Communication)を統合した4Cで1型糖尿病診療を行うことが現在の最良の組み合わせと考えている.


文献や理論を無機的に詰め合わせたのではなく、患者ケア(Care)の観点から良心的に解説している

糖尿病ケア Vol.10 No.7(2013年7月号) おすすめBOOKより

評者:能登洋(国立国際医療研究センター病院糖尿病・代謝・内分泌科医長/東京医科歯科大学医学部臨床教授)

3Cとは、糖尿病患者の療養指導や治療最適化に重要なカーボカウント(Carbohydrate Counting)・インスリンポンプ(CSII)・持続グルコースモニタリング (CGM)という三種の神器のことである。3C黎明期にある日本において、本書は実地経験が豊富で教育活動にも勤しんでいる著者によって書き下ろされた待望の実用書である。
読者は課題をとおして学んでいく構成となっているが、コラムも多くあり、楽しく読み進められるように工夫されている。文献や理論を無機的に詰め合わせたのではなく、患者ケア(Care)の観点から良心的に解説していることも本書の特長であり、糖尿病4Cワークブックと称してもよいであろう。

子どもの心の診療シリーズ 6 子どもの人格発達の障害

子どもの心の診療シリーズ 6 子どもの人格発達の障害 published on

たいへんなケースと向かい合うための多くの重要なヒントが散らばっている

精神療法 Vol.38 No.3(2012年6月号) 書評より

評者:牧真吉(名古屋市中央療育センター)

本書は,子どもの心の診療シリーズ8冊のうちの1冊であるが,一番最後になって出されたものであり,やはり,最後にならざるをえない題材である。それというのは,国際疾病分類(ICD)ではわざわざ「成人のパーソナリティ障害」としてあるように,子どもに対してはパーソナリティ障害を診断はしないという了解事項があるからである。それでも現実には子どもでも似たような事態があるのをどのように考えるのかということで,子どもの人格発達の障害という題名に工夫がこらされていると思う。どのように書き進まれるのだろうかと大変興味が引かれるテーマである。「はじめに」のところでこの辺りの経緯が書いてあり,どのようにしてパーソナリティが発達していき,どんなことでその発達がうまくいかなくなるのだろうかという疑問を刺激され,興味をひいた。

Iの総論の中でこれまでに子どもの人格についてはどのように考えられてきたのかをまとめて,その行き着いた先としてKernbergの人格の構成要素を用いながら人格の発達を考えている。IIでは,そこであげられたパーソナリティを構成する要素について分担して書かれており,それぞれの領域で今わかっていることが詳しく書かれている。この内容は全体を組み立てて理解をしないことには収まりのつかない内容であり,その努力は読者に託されている。この本にあるように同時にいろいろな考え方,見方を身につけることができることが一番役に立つはずであるが,そうするとストンとわかった実感を持つことができない。現に分担執筆者も自分の範囲を超えてもあれもこれも書いていかざるをえない。その膨らみをいかに消化しながら読み進むことができるかを問われてしまう。それほどに内容は濃いものである。個々に取り上げてもヒントになることは多く,ジェンダーの項では,生物学的な性でさえも簡単に二分することはできず,スペクトルのように連続していることを知らされた。また母子関係のところでは,「そのような母親が,人一倍の感度を働かせて子どもに向かい合うということがいかにたいへんであるかを考えずに,育児を不適切であると判断することは,支援の手がかりを見失いかねない」さらには,心的外傷,アタッチメント,発達障害の関係,分析的な理解など得ることが多く,いろいろ考えさせられる。

IIIでは,パーソナリティ障害とその前段階としての性格傾向を取り上げ,IVでは,治療論を取り上げている。その中で,松田が,治療の要点としてあげている中に,「治療スタッフと治療者自身の疲弊を癒やすための方法と場について話題にし,あらかじめ準備しておくことが必要である」と書いているなど,たいへんなケースと向かい合うための多くの重要なヒントがこの本の中には散らばっている。そうしたことを読者が見つけ出していくおもしろさがある。まさに叢書の一冊となっている。

経口免疫療法Q&A

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乳児健診や一般診療の場で,小児の診察に携わるすべての方にお勧めしたい

小児科診療 Vol.76 No.1(2013年1月号) 書評より

評者:西本 創(さいたま市民医療センター小児科)

これまで即時型のアレルギー反応をきたす食物抗原に対しては,自然寛解が多いため,除去食を基本とし,自然寛解を待つのが一般的な対応であった.そんな中,2007年に神奈川県立こども医療センターから急速特異的経口耐性誘導療法が報告されたのは衝撃的だった.対症療法が主だった食物アレルギーに対し,根治的治療法の可能性が示唆されたのである.本書はその経口免疫療法をQ&A形式でわかりやすく紹介している.
第1章は食物アレルギーのトピックスについて紹介されており,Q1は「妊娠中の食物除去は有効ですか?」と日常診療で聞かれることが多い質問からはじまる.ここ数年で食物アレルギーに関する新しい知見が数多く発表され,食物除去に対するガイドラインは激変している.アレルギー診療を専門としない医師がすべてを網羅するのはなかなか困難であるが,本書では学会で話題となったテーマを紹介している.Lackらが2008年に報告したdual-allergen-exposure hypothesis (二重抗原曝露仮説)のイラストはこのところの学会で紹介されないことがないくらいだが,ピンとこない方は最近の経皮感作・経口免疫寛容の総論としてぜひ一読いただきたい.
第2章は「経口免疫療法の実際」と題し,実際に行われている方法について詳細に紹介されている.第3章は「経口免疫療法の理論」である.個人的に一番興味をそそられたのは第4章「症例-こんなに違う対応法」であった.当院でも緩徐・急速法とも施行しているが,ひとりひとりの違いに驚かされ,また学ぶことが多い.著者らの発表を聞いた際に,症例を丹念に観察しているという印象をもったが,その通りであった.15例の症例報告には治療で行き詰ったときのヒントが散りばめられている.
NHKスペシャルで特集が放送されて以来,患者家族より質問されることが多くなった.しかし,得られる情報も少なく,返答に窮することもあるだろう.経口免疫療法に興味がある方だけでなく,乳児健診や一般診療の場で,小児の診察に携わるすべての方にお勧めしたい.
最後に確認となるが,小児アレルギー学会食物アレルギー委貝会の見解は「経口免疫療法は専門医が体制の整った環境で研究的に行う段階の治療であり,一般診療として推奨しない」と位置づけていることを忘れてはならない.

DSM-5を読み解く 双極性障害および関連障害群,抑うつ障害群,睡眠-覚醒障害群

DSM-5を読み解く 双極性障害および関連障害群,抑うつ障害群,睡眠-覚醒障害群 published on

sourcebookに代わるものとして十分その役目を果たしている

臨床精神医学 Vol.44 No.8(2015年8月号) 書評より

書評者:上島国利(国際医療福祉大学)

本書は「DSM-5を読み解く」シリーズの第3巻であり,I双極性障害および関連障害群,II抑うつ障害群,III睡眠一覚醒障害群の3部により構成されている。
本書の目的は,さまざまな批判をあびながら世界の精神医学界を席巻しているDSM診断体系の成り立ちを伝統的な精神医学の歴史を俯瞰しつつ解説し,それらがDSM-5の成立や今後のよりよい応用に寄与することである。 DSM-IVについては,「The DSM IV Sourcebook」に,改訂作業でどのような論文が参照され,いかなる議論がなされたか記載されているが,DSM-5については,そのような書籍は今のところ発刊されていない。この状況下にあっては,本書は,sourcebookに代わるものとして十分その役目を果たしていると思われる。
まず注目されるのは,従来DSM-III以降われわれが慣れ親しんだ感情障害,気分障害の呼称がなくなり,それらに包括されていた単極性うつ病,双極性障害が分離されて別個に章立てされたという点である。クレペリンにより体系化された躁うつ病が,レオンハルトにより単極性障害と双極性障害に分離されたが,これらはあくまで気分障害の枠内の分離であった。ところがDSM-5では,「双極性障害および関連障害群」は,「統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群」と「抑うつ障害群」の章との間に位置づけられて2つの群の間の橋渡しをする位置にあるとされた。症候論,家族歴,遺伝的観点などが考慮された結果であろうが,DSM-IIへの回帰との指摘もあり,今後この章立ての妥当性についての議論がなされるものと思われる。

I双極性障害および関連障害群
双極性障害概念の拡大に伴う過小診断から過剰診断が危惧されたのが,ここ数年の傾向であったが,DSM-5では,小児期に重篤な気分調整障害を呈する障害が「重篤気分調節症」として抑うつ障害群に加えられた。また双極性エピソードの罹病回数の短縮もなされなかったことは過剰診断抑制策の1つとして考えられる。
また臨床では診断基準どおりの症例は極めて稀であった混合性エピソードは廃止され,「混合性の特徴を件う」という特定用語を用いることになっている。特定用語の活用は病状のより精緻な特徴を明らかにするためにDSM-5の随所で用いられるべきと思われる。

II抑うつ障害群
新たに加わった障害は,重篤気分調節症,持続性抑うつ障害(気分変調症),月経前不快気分障害でありそれぞれ歴史と導入の理由が記載されている。
DSM-IVの抑うつエピソードの診断基準から死別反応除外基準が削除され,死別後でも2週間の持続で診断可能となった。この除外基準の削除に関しては多くの批判があり,今後も論争が続くことも予想される。

III睡眠―覚醒障害群
ナルコレプシーの診断基準で髄液中オレキシン値,終夜睡眠ポリグラフ検査所見,MSLTの客観的検査データが基準の1つとなっているが,他の障害に先がけて生物学的マーカーが採用されたことは画期的なことであり,他の障害も次第に生物学的基準が明らかになっていくことと思われる。

以上DSM-5を読み解くという観点からの論点のいくつかについて紹介した。
DSM-IVまでのDSM体系分類は症状の羅列やその組み合わせから一定数以上の項目を満たす症候群を分離した操作的診断基準であり,病態に迫る生物学的知見がほとんど含まれていないという批判を受け続けてきた。そのような課題を克服するべくDSM-5は集積された臨床論文に基づいて,症候論から病因・病態論を取り入れようとする試みは常になされているが,現在の精神障害の生物学的研究はその域には達しておらず,一部を除いては成功していない。
将来的には,進歩の著しい脳機能画像,脳生理学,認知機能,遺伝要因などの生物学的知見が,症候学的知見と合わせることにより,より洗練されたDSMになりうるものと思われる。
総編集の神庭亜信教授の意図した「伝統的な精神医学が精神疾患をどのように概念化してきたか,DSMやICDの診断体系にどのような影響を与えたのか,DSM-5では何が変わり,何が変わらなかったのか,それはどうしてなのか」等々の課題に関して各筆者が現時点での到達点を記述しており比較的短い期間に読み込み,考察した結果に敬意を表したい。わが国の臨床でのDSM-5の使用経験の積み重ねが更なる発展に結びつくことを期待したい。
なおその使用に関しては,DSMの持つ功罪を吟味し,可能性やその限界については常に念頭に置く謙虚で慎重な態度が望まれる。
DSM-5の活用者が十分な精神病理学を身につけ,患者の呈する症状を懇切丁寧に分析し,適切な診断治療に結びつける素養を涵養することが何より重要といえよう。

ヴィジュアル糖尿病臨床のすべて 糖尿病治療薬の最前線

ヴィジュアル糖尿病臨床のすべて 糖尿病治療薬の最前線 published on

治療薬を基礎から学び即戦力に

メディカル朝日 2012年6月号 p.86 BOOKS PICKUPより

日進月歩の糖尿病治療薬(インスリン製剤を除く)の臨床を最新のエビデンスとともに解説したテキスト。投与法の基本を概説した後、各剤の作用機序と病態から見る選択法、具体的臨床応用法と注意点、そして処方の実際を詳説。単に血糖値を下げるだけではなく、複雑な代謝ネットワークによる様々な病態を把握して、個々の患者に適切な薬を処方する方法へと導く。

朝日新聞出版より転載承諾済み(承諾番号24-1461)
朝日新聞出版に無断で転載することを禁止します

ヴィジュアル糖尿病臨床のすべて スマートな糖尿病診断と治療の進め方

ヴィジュアル糖尿病臨床のすべて スマートな糖尿病診断と治療の進め方 published on

糖尿病学の急速な進歩を通覧するのに適している

「垂井清一郎:Book Review スマートな糖尿病診断と治療の進め方,内科109(2), p.360, 2012」より許諾を得て転載

評者:垂井清一郎(大阪大学名誉教授)

シリーズ全10巻(中山書店)は,今回の『スマートな糖尿病診断と治療の進め方』まで,すでに3冊が刊行されたことになるが,全体の企画・編集にこまやかな工夫が施されており,読者を惹きつけるに違いない.

「糖尿病学」は,さまざまな分野の知識を包含する広い医学の領域であるが,今回のシリーズでは必ずしも網羅的なスタイルをとらず,ことに大切で,最近注目されているところに次々にスポットをあて,併せてその周辺領域も取り上げるというかたちをとっている.目を通していくと,自ら最新の知見にも触れることになるように配慮されている.平素,糖尿病の患者を少なからず扱っておられる医家の方々も,近年における急速な進歩を通覧するのに適しているであろう.

このシリーズでは,トピックス欄やコラム欄が,ある自由さをもって重要なポイントに配置されており,突っ込んだ知見も提供されるよう工夫がなされている.たとえば,本書『スマートな糖尿病診断と治療の進め方』における「HbA1cの国際標準化」などの記述は,HbA1cの数字の奥にある本質を理解するうえで,格好の読みものであろう.

また,シリーズ既刊の『最新インスリン療法』の巻に示された「インスリン自己注射治療における皮膚をつまむことの大切さ,注射後の保持時間への注意」などは,心遣いの行き届いたユニークな記載であろう.さらに『糖尿病合併症―鑑別ポイントとベスト管理法』の巻に収載の「α-リポ酸によるインスリン自己免疫症候群(IAS)」などの項目は,IASが本邦で発見された病態であることを考慮しても重要なポイントであり,おそらく他書にはいまだ十分には記載されていない内容と思われる.

今後のこのシリーズの展開に期待したい.

ヴィジュアル糖尿病臨床のすべて 最新インスリン療法

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どこから読んでも面白い 最先端情報と実臨床の知恵が凝集

糖尿病診療マスター Vol.9 No.6(2011年11月号) New Booksより

評者:大西由希子(朝日生命成人病研究所 糖尿病代謝科 治験部長)

この本を最初に手にしたときに思った.「研修医のときにこの本が手元にほしかった!」そして,ぱらぱらとページをめくりながら感じた.「糖尿病臨床の現場で困ったときや研修医を指導するときにこういう本があると助かる!」じっくり読んでみると「糖尿病専門医の自分にとても役立つありがたい本だ!」と内容のレベルが高く充実していることを知った.

図表を使ってビジュアルに理解をしやすい構成になっており,ポイントが箇条書きでまとまっているため,どこから読んでも読みやすく面白い.理論にとどまらず,実践の場において出くわすさまざまな問題にも対処できるよう,最先端情報と実臨床の知恵が凝集されている.

第1章「インスリン治療の基本」ではインスリンの生理的生合成と作用機序,インスリンの分泌と抵抗性の評価についての記載ののち,インスリン製剤の歴史やインスリンの体内動態,インスリン投与量についての理論が紹介されている.さらにはインスリン製剤の種類と特性が述べられ,体内におけるインスリンの役割とインスリン治療の概要の基礎的理解が深まる.

第2章「2型糖尿病のインスリン治療」の「インスリン自己注射治療」では,手技や理論にとどまらず患者心理をふまえたうえで実臨床に役立つ国内外の大規模調査をわかりやすい図やグラフを用いて示し,エキスパートの糖尿病専門医の経験も盛り込まれている.低血糖やシックデイなど,インスリン治療を行う際に絶対に忘れてはならない注意事項の病態の理解と治療の実践にも役立つ.「外来インスリン導入例」ではさまざまな場合の具体的な症例が多数示され,インスリン導入を習得する医師のためにとても良いガイダンスになるだろう.「病棟でのインスリン治療」では糖尿病昏睡,糖尿病合併妊娠,ステロイド糖尿病,手術前後の血糖管理,肝硬変・肝疾患,腎不全・透析患者など頻度は多くなくとも重要である特殊な状況におけるインスリン治療についての解説がされている.MAT療法など新しい概念での治療法についての紹介も興味深い.「インスリン治療がしばしば難渋するケース」ではインスリンアレルギー,皮下硬結,インスリン抗体などインスリン治療に伴い遭遇する問題について扱い,また高齢者,認知症,精神疾患,高度肥満などインスリン治療を困難にする状態のインスリン治療についても解説する.

第3章「1型糖尿病のインスリン治療」では用量設定の考え方に始まり,若年患者に対する指導のポイントやカーボカウント,インスリンポンプなどについて解説し,膵臓・膵島移植についての最新の話題にもふれている.

これから糖尿病臨床を学ぶ初期研修医,糖尿病専門医を志す内科医師,血糖コントロールが難しい症例に出合って困っている糖尿病専門医,あるいは糖尿病を専門としないが糖尿病患者を診療する医師……さまざまな読者層に対してそれぞれの立場に役立つ情報が満載の本だ.

医療現場の清浄と滅菌

医療現場の清浄と滅菌 published on

滅菌業務に関わる全てのスタッフを対象に,初心者にも理解できる内容になっている

Medical Tribune 2012年12月27日 本の広場より

病院やクリニックで患者の治療に使用される全ての機器や医療材料は,絶対的に安全なものでなくてはならない。日本医療機器学会の認定で2000年に第二種滅菌技士が,2003年に第一種滅菌技師が誕生して以来,わが国の滅菌に関する知識や技術水準は飛躍的に進歩を遂げてきた。その一方で,医育機関では滅菌に関する教育カリキュラムが充実しておらず,医師や看護師が滅菌に関する技術や知識を学ぶ機会は少ない。
滅菌の要諦は,医療機器を患者に対して安全に使用できるようにし,患者と作業者の双方にとって不用意に危険が降りかからないように処理することである。滅菌作業にかかる責務は「確実な安全性の保証」にある。
滅菌業務に関わる全てのスタッフを対象に,感染性徴生物の増殖力や生物学的対策,滅菌の基本である高圧蒸気滅菌の原理と仕組みを中心に,初心者にも理解できる内容になっている。

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 すべてがわかる ALS(筋萎縮性側索硬化症)・運動ニューロン疾患

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 すべてがわかる ALS(筋萎縮性側索硬化症)・運動ニューロン疾患 published on

我が国の頭脳が結集して作り上げたALS・運動ニューロン疾患の最高の著書

BRAIN and NERVE Vol.65 No.10(2013年10月号) 書評より

書評者:田代邦雄(北海道大学名誉教授/北祐会神経内科病院顧問)

このたび,『すべてがわかるALS・運動ニューロン疾患』と題する書籍が出版された。難病が多い神経疾患,その中でも“難病中の難病”である本疾患に対し,タイトルで“すべてがわかる”と言及されている如く,この領域のトップ・リーダで専門編集者である祖父江元名古屋大学教授が,本邦におけるエキスパートを網羅し,本文総計370ページにわたる単行本を完成されたことに対し,まず心からなる敬意を表する次第である。
その内容は,I章「運動系の構造と機能」に始まり,II章以降は「臨床像と診断」「関連運動ニューロン疾患」「病態関連遺伝子と遺伝子変異」「病態」,そしてVI章の「治療と介護」に至り,さらに最後には興味あるCase Study 5症例を呈示,Lectureとして解説するという構成となっている。
各章内の記載は,そのテーマごとにまず主要論点を薄黄色の下地にPointとして呈示,つづいて鮮明な図表を交えて簡潔・明瞭な解説,そして必須文献を付し,さらに欄外にKey words,Memoを配する本シリーズで用いられている構成で,読者の理解がさらに深まるよう配慮されている。
本書の企画,そして執筆者の人選も含めた重要ポイントについては祖父江先生の序文に簡潔明瞭,しかも実に見事に網羅,紹介されており,また,その期待に応えて我が国の頭脳が結集して作り上げたALS・運動ニューロン疾患の現時点での最高の著書,むしろ“バイブル”とも称することのできるものであり,これらをベースとして今後さらなる発展を目指す心意気も伝わってくるのである。
各章ごとの個々の内容について触れることはできないが,ALSの臨床ならびに研究は世界レベル,そして共同作業にも繋がり,一方,歴史的には「神経学の父」とされるCharcot(1825-1893)まで遡る。また重要な診断基準の策定の歴史は,1990年5月,世界中のALSの権威がWFNの招請でスペインのEl Escorialに集合,1994年にEl Escorial WFN基準として発表,その後1998年に米国Virginia州Airlie Houseで検討・策定したのが「改訂El Escorial基準(Airlie House基準)」である。さらに2006年横浜で開催の第17回ALS/MND国際シンポジウムの後に専門家が淡路島に集合し電気生理学的手段を取り入れた「Awaji基準」を提唱したことも画期的な出来事で,日本の貢献大なることが示されたのである。薬物治療についての大きな進歩は残念ながら達成できていないが,米国での治療の現状はコロンビア大学の三本博先生より,また日本からは患者ケア,リハビリ,災害対策も含めての詳しい解説もなされている。
本疾患の世界的専門誌は1999年に“Amyotrophic Lateral Sclerosis and other motor neuron disease”として発刊され,その後“Amyotrophic Lateral Sclerosis”,そして2013年より誌名を“Amyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Degeneration”へと発展的に変更している。その理由・経緯についても,現在この専門誌のEditorial Boardに名を連ねておられる祖父江先生が簡潔に本書の序文で触れておられ,本疾患の診断,治療,研究の世界的レベルに日本も参画,かつ着実に実績を積み重ねてきていることを実感,今後さらなる発展を期待しつつ書評の纏めとさせていただく。

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 小脳と運動失調

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 小脳と運動失調 published on

わが国が誇る小脳研究の金字塔

BRAIN and NERVE Vol.65 No.6(2013年6月号) 書評より

評者:金澤一郎(国際医療福祉大学大学院長)

「小脳はなにをしているのか」という問いに,現在のわが国の英知を結集して挑戦したのが本書である。専門編者である西澤正豊先生が序で書かれたように,わが国には伊藤正男先生という小脳の基礎研究の巨人と,脊髄小脳変性症(SCD)の運動失調に対する治療薬のTRHを世に出された祖父江逸郎先生という小脳疾患研究の巨人がおられる。このことが日本での小脳機能あるいは小脳疾患への関心を高めてきた。その表れが厚生労働省の「運動失調症調査研究班」であり,昭和50年に始まった後,現在までに挙げた功績は数限りない。特に疫学的研究と脊髄小脳変性症各病型の病因遺伝子に関する業績は世界に誇るべきものである。
そうした業績の中で,忘れられている疫学調査の結果が一つある。多系統萎縮症(MSA)には,自律神経症状で始まり,ほぼ2年以内に小脳症状や錐体外路症状が加わるという概念で集積した「SDS」があり,その頻度が日本では全SCDの7%弱に及ぶ。しかもその80%以上が男性であるという事実は見過ごせない(平成元年の平山班の統計)。SDSをないがしろにするのは勝手だが,ここに新発見のヒントがあるに違いないと私は思う。いつか挑戦して欲しいと思っている。
本書は,非常に緻密に物を考える西澤先生の編集になるだけあって,ほぼ完璧な構成になっていて,「わが国が誇る小脳研究の金字塔」と言って良い。小脳の機能局在,症候学,検査法,臨床と分子生物学を合わせた病態,治療,それに非常に役に立つ7例のcase studyが続く。それだけではない。ほとんど全ページがカラー印刷である他,ポイント,コラム,メモ,キーワード,などきめ細かい配慮によって理解を助ける仕掛けも豊富である。また,各ページの外側には4cm以上の余白があって,自分でメモができるようになっている。これほど配慮の行き届いた本を私は知らない。だから,索引を入れて本文336ページの本書が12,000円というのはやや高いという印象があるかも知れないが,その内容を見れば納得する。本書を,是非とも蔵書に加えられることをお薦めする。