1型糖尿病診療のツボを押さえたテキストブック登場

プラクティス Vol.30 No.4(2013年7月号) PUBLICATIONより

評者:松久宗英(徳島大学糖尿病臨床・研究開発センター)

昨今,1型糖尿病治療の進歩は目覚ましいものがある.食事療法では,糖質量を把握し最適な追加インスリン量を定めるカーボカウント(Carbohydrate counting)が普及した.治療デバイスとして,インスリンポンプ(CSII : Continuous subcutaneous insulin infusion)が機種改良と保険点数の変更により使用しやすくなり,基礎インスリン補充のテーラーメード化が可能となった.インスリン補充の適正化をさらに進めたのが,皮下ブドウ糖濃度を連続測定するCGM(Continuous glucose monitoring)である.以上3つの「C」のエッセンスを凝集した医療スタッフ向けテキストブック『糖尿病3Cワークブック』が出版された.それぞれのCに関する良書はすでにあるが,3つを統合する1型糖尿病治療の包括的解説書は国内では本書がはじめてであろう.特に,随所にちりばめられた豆知識が1型糖尿病診療のツボを見事に押さえている.
本書を手に取ると,まず著者の豊富な臨床経験に基づく日常診療に即した70の設問に向き合うこととなる.基礎知識の難易度★から日常診療の必須知識を難易度★★.さらに患者個々の状況に応じた応用的指導法を難易度★★★で展開し,最後は知るヒトぞ知る(知らなくてもいい?)マニアックの難易度で締めくくられている.糖尿病専門医でも同答に窮する問題が後半はならんでおり,著者との知恵比べは時間を忘れて楽しめる.「はるさめと糸こんにゃくの違い」から「たこやきとチーズケーキのカーボカウント」,さらには「おいしいカレーの作りかた」まで素材から調理法に至るまで幅広くカーボカウントの知識が網羅されている.インスリンポンプに関しても.基本的使用法からよく遭遇するトラブルとその対処方法,また水泳や入浴時の注意など日常生活で患者自身が知っておくべき工夫の数々が盛り込まれている.一方,わが国では導入されて日が浅いCGMについても,その活用方法はカーボカウントとCSIIとともに用いることにあるとして質問が設けられている.
解説では,エビデンスに基づく知見を最大限伝えるべく豊富な参考文献を駆使し,実践性を重んじた具体的な記述を行うよう配慮されている.また,患者と家族へのケアに関してもきめ細かく記載されており,療養指導を担う医療スタッフには役立つポイントである.
本書のもうひとつの特徴は,43のコラムである.博学な著者の真骨頂であるコラムを読んでいくだけで,1型糖尿病診療の全般にわたる基礎からマニアックな知識まで得ることができる.海外では1型糖尿病患者でもパイロットになれることなど興味深い内容である.
本書は医療スタッフ向けに作成されているので,医療スタッフ同士の勉強会のネタとして利用でき,またそのまま患者に応用できる設問も多いため,患者指導の手引き書としても活用できる.一番お読みいただきたいのは1型糖尿病診療が難しいと考えておられる糖尿病専門医や専門医を志す若い医師である.先生方の臨床に資する情報が得られることに間違いはない.本書の3Cに,患者同士のコミュニケーション(Communication)を統合した4Cで1型糖尿病診療を行うことが現在の最良の組み合わせと考えている.


文献や理論を無機的に詰め合わせたのではなく、患者ケア(Care)の観点から良心的に解説している

糖尿病ケア Vol.10 No.7(2013年7月号) おすすめBOOKより

評者:能登洋(国立国際医療研究センター病院糖尿病・代謝・内分泌科医長/東京医科歯科大学医学部臨床教授)

3Cとは、糖尿病患者の療養指導や治療最適化に重要なカーボカウント(Carbohydrate Counting)・インスリンポンプ(CSII)・持続グルコースモニタリング (CGM)という三種の神器のことである。3C黎明期にある日本において、本書は実地経験が豊富で教育活動にも勤しんでいる著者によって書き下ろされた待望の実用書である。
読者は課題をとおして学んでいく構成となっているが、コラムも多くあり、楽しく読み進められるように工夫されている。文献や理論を無機的に詰め合わせたのではなく、患者ケア(Care)の観点から良心的に解説していることも本書の特長であり、糖尿病4Cワークブックと称してもよいであろう。