どこから読んでも面白い 最先端情報と実臨床の知恵が凝集

糖尿病診療マスター Vol.9 No.6(2011年11月号) New Booksより

評者:大西由希子(朝日生命成人病研究所 糖尿病代謝科 治験部長)

この本を最初に手にしたときに思った.「研修医のときにこの本が手元にほしかった!」そして,ぱらぱらとページをめくりながら感じた.「糖尿病臨床の現場で困ったときや研修医を指導するときにこういう本があると助かる!」じっくり読んでみると「糖尿病専門医の自分にとても役立つありがたい本だ!」と内容のレベルが高く充実していることを知った.

図表を使ってビジュアルに理解をしやすい構成になっており,ポイントが箇条書きでまとまっているため,どこから読んでも読みやすく面白い.理論にとどまらず,実践の場において出くわすさまざまな問題にも対処できるよう,最先端情報と実臨床の知恵が凝集されている.

第1章「インスリン治療の基本」ではインスリンの生理的生合成と作用機序,インスリンの分泌と抵抗性の評価についての記載ののち,インスリン製剤の歴史やインスリンの体内動態,インスリン投与量についての理論が紹介されている.さらにはインスリン製剤の種類と特性が述べられ,体内におけるインスリンの役割とインスリン治療の概要の基礎的理解が深まる.

第2章「2型糖尿病のインスリン治療」の「インスリン自己注射治療」では,手技や理論にとどまらず患者心理をふまえたうえで実臨床に役立つ国内外の大規模調査をわかりやすい図やグラフを用いて示し,エキスパートの糖尿病専門医の経験も盛り込まれている.低血糖やシックデイなど,インスリン治療を行う際に絶対に忘れてはならない注意事項の病態の理解と治療の実践にも役立つ.「外来インスリン導入例」ではさまざまな場合の具体的な症例が多数示され,インスリン導入を習得する医師のためにとても良いガイダンスになるだろう.「病棟でのインスリン治療」では糖尿病昏睡,糖尿病合併妊娠,ステロイド糖尿病,手術前後の血糖管理,肝硬変・肝疾患,腎不全・透析患者など頻度は多くなくとも重要である特殊な状況におけるインスリン治療についての解説がされている.MAT療法など新しい概念での治療法についての紹介も興味深い.「インスリン治療がしばしば難渋するケース」ではインスリンアレルギー,皮下硬結,インスリン抗体などインスリン治療に伴い遭遇する問題について扱い,また高齢者,認知症,精神疾患,高度肥満などインスリン治療を困難にする状態のインスリン治療についても解説する.

第3章「1型糖尿病のインスリン治療」では用量設定の考え方に始まり,若年患者に対する指導のポイントやカーボカウント,インスリンポンプなどについて解説し,膵臓・膵島移植についての最新の話題にもふれている.

これから糖尿病臨床を学ぶ初期研修医,糖尿病専門医を志す内科医師,血糖コントロールが難しい症例に出合って困っている糖尿病専門医,あるいは糖尿病を専門としないが糖尿病患者を診療する医師……さまざまな読者層に対してそれぞれの立場に役立つ情報が満載の本だ.