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総合小児医療カンパニア 乳幼児を診る

総合小児医療カンパニア 乳幼児を診る published on

小児臨床に携わる方は是非一読を

小児科診療 Vol.78 No.5(2015年5月号) 書評より

書評者:堀内 勁(聖マリアンナ医科大学小児科)

小児科の実地診療では本来の疾病治療から疾病予防と育児支援へとその内容が広がってきている.特に育児支援は,症状から病因を探り治療するという,通常の医療の取り組みだけでは足りない.
本書は育児支援を自然科学と人間科学とをあわせた視点で捉えることから始め,子どもの成長発達と親としての成長,それに伴う育児不安までを視野に入れた構成となっている.また,成長発達に伴うつまづきについても簡潔に要点が捉えられ,小児科医としてどのように対処すればよいかが述べられている.
実際に乳児健診の場で傷つけられ,自信をなくして,私のもとに相談にみえる家族は少なくない.小児科医として育児支援に携わっていると,自分の知識は仮説の集まりにすぎず,親子1組ずつの真実はすべて同一ではないことに気づく.
私たちが親子を評価し,判断し,挙げ句の果てに品定めをするのではなく,親子をとりまく環境や,子育ての物語を傾聴することで,その物語の流れの中で問題が解消していくように支えることができる.いってみれば,解決型の小児科臨床から解消型の育児支援への転換が期待される.小児臨床に携わる方は是非一読をお薦めする.

総合小児医療カンパニア 小児科コミュニケーションスキル

総合小児医療カンパニア 小児科コミュニケーションスキル published on

「子どもへの説明」と「保護者への説明」が実例を含めて記載されている

小児内科 Vol.46 No.5(2014年5月号) Book Review

書評者:窪田満(埼玉県立小児医療センター総合診療科)

かつて,「ムンテラ」という言葉があった。最近使用されなくなってきた理由は,そのニュアンスに「患者を言いくるめる」という響きがあるからであろう。この本は,決して「ムンテラ」のための本ではない。目の前の子どもを,保護者を,さまざまな相談にこられた一人の人間として捉え,プロフェッショナルである私たちが「コミュニケーション」という手段を用いて,真摯にその要求に対応するための方法を説いてくれている。
この本には,「子どもへの説明」と「保護者への説明」が実例を含めて記載されており,大変参考になる。とくに「言わない方がいい言葉」には,はっとさせられる。実際に,喉元まで出かかった言葉は確かにある。子どもへの配慮,保護者の精神面や親子の関係性への配慮,地域医療への配慮などがまだまだ自分には足りないことに気づかされる。
そして,読み進めていて,ハタと気がつく。私には同じ言葉を発するのは無理だと。高いレベルの対応力や,珠玉の言葉たちは,「スキル=技術」であることは理解できる。しかし,それは執筆者の先生方が培ってこられた「人間力」に裏打ちされたものなのだ。先生方のクリニックを受診する前は心配顔だった親子が,クリニックから帰る時には,きっと笑顔になっているのだろう。病気を診てもらった以上に,色々な話ができた,コミュニケーションができた満足感を持って家路についているのだろう。自分もいつか,こういう小児科医になりたい,そう思わせてくれる。ここに書かれている珠玉の言葉を,今,そのまま使うことはできないが,必ずスキルを身につけて自分の診療に反映させたい。
この本を,日々「コミュニケーション」を積み重ねている,すべての小児科医にお勧めする。

総合小児医療カンパニア 小児科医の役割と実践

総合小児医療カンパニア 小児科医の役割と実践 published on

奇妙にして,稀有なる本

小児科診療 Vol.76 No.12(2013年12月号) 書評より

書評者:岩田健太郎(神戸大学医学部教授)

本書は一見,実に奇妙な本である.でも,得心した.本書は「小児医学」のテキストではなく,「小児医療学」のテキストなのだ.
たとえば,地域や行政とのかかわりかたを論じる教科書は稀有である.しかし,予防接種の公費負担を勝ち取るためのノウハウは,小児科医としてはぜひ教えてほしいところだろう.子育て関連支援法についてだって学びたい.現代小児の周辺にある衣食住の現実(レトルト食品の売上とか)も知りたい.小児慢性疾患患者の成人医療へのトランジションも切実な問題だ.本書にはこうした現場の切実な問題が(たぶん)すべて網羅されている.
自分たちが有効活用されるためには,家庭での小児のケアが重要になる.小児が発熱したとき,どのように家庭でケアできるのか.ふつうのテキストは医療が何を提供するのかを語る.本書は医療が提供しなくてもよい条件を検討する.
あるいは,時間外診療のありかた,電話のかけかた.いずれも現場における切実な問題で,どれも(ふつうの)教科書には書いていない.学校でも教えてくれない.保護者に電話で「大丈夫でしょうか」と言われたとき,どう答えるか.「ご心配だったら,受診してください」は通俗的な回答だ(ぼくもよくそう言っていた)が,相手の欲するのはそういうことではない.では,どう答えればよいのか.それは本書の103ページに書いてある.
とくに感心したのは,「他科協働」というセクションを設けていることだ.眼科との,耳鼻科との,歯科との,整形外科との協働のありかた.実に必要なスキルだが,Nelsonにはこういうセクションはないし(18版),Rakelの家庭医学にもない(8版).他科との協働はスローガンとしてはよく聞かれる.本書ほど具体性をもってそれを示した教科書をぼくは他に知らない.
本書はおそらく,きわめて厳しい環境下で歯を食いしばる小児科医たちの切実な魂の結実である.教科書を読んで感動することは,まずない.でも,本書には心が震えた.

総合小児医療カンパニア 予防接種マネジメント

総合小児医療カンパニア 予防接種マネジメント published on
メディカル朝日 2013年8月号 BOOKS PICKUPより

接種の実際に役立つ情報を整理

PC医が基礎臨床能力を備えて総合診療力を高めることを目標に刊行中の、全10巻シリーズ2巻目。今年4月の予防接種法改正の最新情報にのっとり、総論でワクチンの基礎知識、在庫管理、接種勧奨・実践法、個別の接種スケジュールの立て方、接種ミス回避法、保護者の質問への答え方などを、各論では各疾患の概説、接種目的・方法、副反応、注意事項を詳しく解説した。

朝日新聞出版より転載承諾済み(承諾番号24-2029)
朝日新聞出版に無断で転載することを禁止します


本書の執筆者たちの願いは,わが国のすべての子どもたちが,あらゆるVPDの脅威から確実に守られること

小児科診療 Vol.76 No.8(2013年8月号) 書評より

評者:松平隆光(松平小児科)

今ほど子どもの医療に携わる医療関係者が予防接種に関心をもったことはない.これは,定期接種の種類が増え,ワクチンで防げる病気(vaccine preventable diseases: VPD)から子どもを守ることの重要性を再認識したためである.しかし,ワクチンを安全に有効的に使うためには,日々変るワクチン事業に精通しておく必要がある.
本書は毎日臨床の第一線で予防接種の実務に携わっている小児科医が執筆者となっており,その内容は豊富な知識と経験によるものである.また読者が理解しやすいように「ワクチンについて知る」,「ワクチン接種を行う」,「役に立つ情報を利用する」の3部から構成されている.2013年3月に可決・成立した予防接種法改正案を盛り込み,各ワクチンの接種法はもちろん,ワクチンプラン,接種勧奨のタイミング,予診票のチェック,ワクチン在庫管理,副反応への対応,接種ミス回避など,接種医として当然知っておくべき事項が記載されている.
本書の執筆者たちの願いは,わが国のすべての子どもたちが,あらゆるVPDの脅威から確実に守られることである.


パンを切り分けて食べるように実地医家の先生方の知識が惜しみなく分け与えられている

小児内科 Vol.45 No.6(2013年6月号) Book Reviewより

評者:窪田満(埼玉県立小児医療センター総合診療科)

この本は,「総合小児医療カンパニア」シリーズの2冊目である。「カンパニア」とは,パンを分け合う人々という意味とのことである。そういえば,「カンパーニュ」という素朴なパンがある。そのパンを切り分けて食べるように,実地医家の先生方の知識が惜しみなく分け与えられているのが,このシリーズの最大の魅力だろう。
例えば,今まで数多くの予防接種に関する本が出ているが,ワクチンの発注の仕方を教えてくれる本はあっただろうか。保護者の質問にどう答えるか,接種ミスを起こさないようにするにはどうするかなど,ガイドラインを読んだだけでは分からないような,明日から役に立つ知識が記載されており,執筆者の先生方の真摯な思いに触れる気がする。本物の小児科医がそこにいて,大切なものを分け与えてくださっている感覚だ。
各論では,各ワクチンに関する解説の後の「接種勧奨に役立つフレーズ」や「このワクチンのツボ」が興味深い。さらにその後の1ページに,患者さんにそのままコピーをお渡しできる解説文が記載されている。ここまで実地医家の先生方が,その知識,技術を分け与えてくださるのかと,感嘆せざるを得ない。文書類の解説も,実に実際的である。
この分け与えて頂いたカンパーニュは,見た目は派手ではないが,経験に裏打ちされた,味のある,素晴らしいものである。この本を,予防接種に関わる全ての小児科医にお勧めする。


子どもたちと保護者に寄り添う医療のための秘訣や知恵が凝縮された一冊

田中美紀(一般社団法人 細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会 代表理事)

一般社団法人 細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会の田中です.私たちの会は,2006年以降,細菌性髄膜炎を患ったご本人,お子さんをもつご家族,医療従事者,一般の賛同者で構成され,当事者家族の交流や疾患の情報提供などとともに,日本で起こる細菌性髄膜炎の多くを防ぐことのできるヒブ,小児用肺炎球菌ワクチンの導入・普及を訴えてまいりました.
その過程で,全国の多くの小児科の先生方からご支援やご助言を得,そして私たちの声に耳を傾け,ともに行動を起こしてくださった結果,切に願ったヒブ,小児用肺炎球菌,両ワクチンの定期接種化へとつながりました.
本書でも指摘されているように予防接種制度にはまだまだ多くの課題が残されておりますが,一歩前進したことはたいへん喜ばしいことです.しかしながら,いくら目の前に良いワクチンがあり,制度が整っても実際に接種行動を保護者に起していただかなければ,子どもたちを守ることはできません.まだ判断力がない幼い子どもたちに代わって,保護者が理解し納得したうえで接種することが必要不可欠になってまいります.
しかし,保護者の知識や理解度も千差万別なため,各保護者にマッチした説明や情報提供が必要です.精選された先生方が小児医療の現場で培われた豊富なご経験をもとに書かれた知識,手法,アドバイスは,多くの疑問や不安を抱える保護者に寄り添い,良い関係の元で子どもたちを守ろうと思ってくださる医療者にとって必読の内容だと感じました.
また,専門知識の乏しい私にも理解できるような情報の整理がなされてたいへん読み進めやすく,医師だけではなく小児の予防接種に関わるすべての方に読んでいただきたいオススメの一冊となっています.

総合小児医療カンパニア 初期診療を磨く

総合小児医療カンパニア 初期診療を磨く published on

まさに珠玉の小児科初期診断学のサイエンスとアートのパール集

小児科診療 Vol.76 No.4(2013年4月号) 書評より

評者:永井 章(国立成育医療研究センター 総合診療部小児期・思春期診療科医長)

医学は,サイエンスに基づくアートであると述べたのは,著名な内科医William Oslerであるが,診断学においても,その徴候から適切に鑑別診断をあげ,適切に臨床推論を進めていくサイエンスの部分と,いかに診断に必要な医療情報を良好な閔係性をもとに適切に聞き出し取集するなどの熟練された技術より成り立つアートの要素が欠かせない.
第一線で活躍されている実施小児科医家により著された本書は,これまでの小児科診断学の成書にはない,サイエンスの部分のみならず,このアートの部分に大きく光があてられ非常に秀逸なものとなっている.診断のプロセスが非常に臨場感をもって記載され,それぞれのクリニカルパールには貴重なメッセージが込められ,読む者に直に伝わってくる.
本書は,カンパニアシリーズの初刊号であり,カンパニアは「共に分け合う」ということを意味するそうであるが,著者からのアートを伝承,共有するという,強い情熱も加わり,本書をより魅力的なものとしている.まさに珠玉の小児科初期診断学のサイエンスとアートのパール集であり,多くの第一線の小児診療の携わる小児科医にとって,必ずや新たな学びと共感を得られるものと確信する.ぜひ,ご一読を,薦めたい.

先天代謝異常ハンドブック

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しばしば治療に難渋する腎症の診療・研究の方向性を明確に示している

小児科診療 Vol.76 No.6(2013年6月号) 書評より

評者:田村正徳(埼玉医科大学総合医療センター小児科主任教授)

「タンデムマス法により日本の新生児マススクリーニングの対象が大幅に広がった」という情報につられて軽い気持ちで本書を手にしました.ところが予想に反して小生の苦手とする代謝サイクル図もポイントを絞っていて理解しやすく,臨床最優先の視点から病態・症状・診断・治療・予後が簡潔明瞭に解説されているため,ぐいぐいと引き込まれて徹夜して最後まで読み通すことになりました.
本書は“ハンドブック”でありながら2012年までの最新の検査法や治療法の情報がつまっています.読み進めるにつれて,小生の30年以上の小児科医師の人生の中で,確定診断がつかないまま死なせてしまった子どもたちや“○○症候群”という診断名だけですませていた予後不良の赤ちゃんの顔が次々と思い出されてきて,「なぜ先天代謝異常の可能性を疑ってここまでの検査をせずにすませてしまったのだろう」と,後悔の念にさいなまれました.
小生のような悔いを残さないためにも,ぜひ臨床医を自負する小児科医師の皆様方には本書を手元に置いておくだけでなく,必ず通読しておくことをお薦めします.また一部には胎児診断のポイントも記載されていますので,小児科医師だけでなく出生前診断や胎児治療に従事する産科医師や麻酔科医師にも一読をお薦めする次第です.
文末になりますが,おそらくは一癖も二癖もある(失礼!)129名の専門家の最新の知見をもとにした記述を,かようにもわかりやすく統一した書式で纏めあげられた総編集者と専門編集者の統率力と監修力に最大限の敬意を表したいと思います.

小児保健

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小児科医がやさしくレクチャー 病気や医療の専門知識もコンパクトに解説

教育医事新聞 2010年9月25日より

小児保健の基礎知識をコンパクトに解説した「小児保健」(中山書店・2205円)が発行された。編著者は渡辺博・帝京大学医学部附属溝口病院小児科教授。
「本書は、私が上智社会福祉専門学校保育士科で行ってきた最近の講義録をもとにまとめたもの。小児保健を学ぶ人たちのテキストとして、授業で講義と併用しながら使いやすいように、あえて箇条書き形式をとり、簡潔な表現にしました」と同教授は話す。

同教授が小児科医であることから、専門医でしか教えられない病気や医療の知識もわかりやすく盛り込まれている。
「保育や児童教育関係を学ぶ教育現場では、看護学校などに比べ、どうしても小児の病気について接する機会が多くありません。学校で教えているうちに、学生たちも小児保健の重要な一部である病気や医療の専門知識を求めていることがわかりました」

取り上げられている内容は小児保健とは何かに始まり、発育・運動・栄養・遺伝・感染症・予防接種・アレルギー・障害・虐待など。小児保健に関する法律や地域の施設についても紹介している。さらに、重要な項目、必ず押さえておきたいことには、赤い二重丸の印が付けられていて一目瞭然。専門用語の解説や最新知見・情報を板書風に説いた「ミニレクチャー」の欄も随所に掲載。初めて小児保健を学ぶ読者には実に親切な構成だ。

また、乳児死亡率や発育パーセンタイルなどのグラフはもとより、誤飲などの事故への対処法、人工呼吸・心臓マッサージの具体的な方法などもシンプルなイラストつきで理解が深まるよう工夫されている。
「学生だけでなく、小児に関わるあらゆる職業の方々に、広く活用していただければ嬉しいです」

小児科臨床ピクシス 30 小児画像診断

小児科臨床ピクシス 30 小児画像診断 published on

画像に関する大切な知識がもたらされ,診断力は確実にアップする

小児科診療 Vol.75 No.8(2012年8月号) 書評より

評者:市橋光(自治医科大学附属さいたま医療センター小児科)

本書1冊で,疾患群では中枢神経,頸部,呼吸器,心大血管,腹部,腎・泌尿器,整形外科,新生児,胎児,検査ではX線写真,CT,MRI,超音波,核医学の内容が含まれ,小児科医が診療しなければならない幅広い領域の画像診断に対応できる充実した内容となっている.
1章の総論では画像の成り立ち,検査の適応と方法,放射線被ばくの問題について述べられている.これらを知ることで,患者への負担を最小限にし,診断に必要な画像を鮮明に撮ることが可能となる.さらに,系統的読影手順が示されており,小児科医が見落としなく読影できる方法を伝授してくれている.
2章以降では具体的な疾患ごとに,まず疾患の簡潔な説明があり,続いて鮮明な画像が豊富に掲載されている.画像の多くに矢印を入れてていねいな解説が施されているのでわかりやすい.画像の特徴が示されるとともに,なぜそのような画像を呈するのかを疾患の病態をもとに説明されているので,単なる暗記ではなく,疾患の病態と画像を結びつけて覚えることができる.
本書を通じて,画像に関する大切な知識が小児科医にもたらされることにより,その診断能力は確実にアップする.多くの小児科医に活用していただきたい1冊である.

小児科臨床ピクシス 21 小児外来で役立つ外科的処置

小児科臨床ピクシス 21 小児外来で役立つ外科的処置 published on

必携! 小児診療における座右の書の1冊

日本医事新報 No.4600(2012年6月23日) BOOK REVIEWより

評者:久保実(石川県立中央病院副院長・いしかわ総合母子医療センター長(小児内科))

私は大学での研究生活を終えて地方の病院に赴任したが,そこは1人全科当直で,小児から成人まで,内科・外科を問わず救急診療する体制であった.小児のケガや腹痛などの症状に対し外科的処置の必要性の判断にしばしば迷い,そのつど外科の先生にコンサルトせざるをえず,心細く思ったものである.現在の病院には小児外科医が常勤でいるため,外科的疾患に出遭うことも多く,いろいろな経験ができて私は幸運であった.
近年では新臨床研修制度により外科の研修の機会はあるものの,小児科医を含め,ほとんどの医師は小児の外科的疾患について体系的な研修の機会はなく,稀に研究会や学会での報告に触れるのみである.しかし,実際には開業および病院小児科の診療においては,外科的疾患に出遭うことは日常茶飯事であり,医師には総合小児科的な役割,すなわち内科系・外科系疾患を問わず,すべての病態への初期対応・処置ができることが強く求められている.
編者の里見 昭先生は,小児救急医学会の副理事長をされていることからも分かるように,大学教授である一方,臨床の最前線において小児の外科的救急疾患の診療に当たってこられた臨床医でもある.本書には小児科医からよくコンサルトされる疾患,ぜひ知っておいてほしい疾患や処置などが選ばれている.
本書は「多くの小児科の先生方に臨床の場で気軽に使ってもらえる編集と内容に心がけた」とある通り,(1)日常診療に必要な外科的処置,(2)救急・応急のための外科的基本手技,(3)知っておくべき外科的救急疾患の病態と救急処置について,それぞれの章を設け,分かりやすく図解し,解説してある.巻末には,付表として小児急性中耳炎の治療アルゴリズムとアナフィラキシーショック治療が収載されている.
小児一般診療において座右の書として活用することをお勧めしたい.

小児科臨床ピクシス 20 かぜ症候群と合併症

小児科臨床ピクシス 20 かぜ症候群と合併症 published on

日常のかぜ診療を見直すきっかけとなる感染症の教科書

日本医事新報 No.4588(2012年3月31日) BOOK REVIEWより

評者:横田俊一郎(横田小児科医院院長)

小児科の外来診療はかぜに始まってかぜに終わると言っても過言ではない.かぜの大部分はウイルス感染症であり,有効な薬剤はほとんどない…と分かっていても,受診する患者の保護者の心配や要請も強く,投薬しないで帰宅させるのは容易ではない.自分自身も,副鼻腔炎や中耳炎,肺炎を合併していないだろうかと疑心暗鬼になり,つい過剰な検査や投薬を行ってしまうことも多い.できあがってしまった診療行動を変容させることは容易ではない.

しかし,日常のかぜ診療を見直し,少しは診療を変えてみようと真剣に考えさせてくれる本が出版された.それが本書である.

専門編集を担当している草刈 章氏は,日本外来小児科学会の中に生まれた,抗菌薬適正使用を考える会の主要メンバーの1人である.草刈氏が編集を担当したことにより,またこの会に参加した多くのメンバーが執筆を担当したことによって,本書は非常に内容の濃いものに仕上がったと言える.

かぜの診断と治療,特に抗菌薬の適正使用や保護者への説明,ホームケアについて詳しく解説されており,米国とのかぜ診療の違い,新しく始まったヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンが小児のかぜ診療にどのようなインパクトを与えているかなどが,分かりやすく述べられている.

それだけではなく,かぜ症候群の原因となる個別のウイルスや細菌感染症などの解説にも多くのページが割かれ,まさに日常診療の中で使える感染症の教科書ともなっている.一方で,外来では見逃してはならない合併症,鑑別しなくてはならない疾患をいつも考えながら診療しなくてはならないが,これらについても細やかな解説が加えられている.

かぜ診療を豊かなものにすることこそ,小児の外来診療を楽しむコツである.小児の外来診療に関わるすべての先生方に,ぜひ手に取っていただきたい1冊である.