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救急・集中治療アドバンス 敗血症

救急・集中治療アドバンス 敗血症 published on
INTENSIVIST Vol.15 No.2(2023年2号)「Book Review」より

評者:土井研人(東京大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野教授)

Sepsisは腐敗を意味するギリシャ語のseptikosを語源としており,ヒポクラテスの時代から死に至る重篤な病態として認識されていたと考えられている.以来,人類は病原体との戦いを敗血症というリングにおいて継続してきた歴史があり,いまだ現在進行形であり完全決着がついていない状況である.敗血症の最新の定義であるSepsis-3では「感染に対する制御不十分な生体反応に起因する生命に危機を及ぼす臓器障害」とあるように,臓器における障害の重要性が強調されており,敗血症の診療においては単純に病原体を排除するだけでは不十分であることは明らかである.一方,病原体にはさまざまな特徴があり,それに対して個別に治療戦略を立てる必要がある.外敵の情報に基づいた戦略なくして敗血症に対する勝利は得られないであろう.

本書はタイトルに「感染症と臓器障害への対応」とあるように2つのパートから構成されている.前半は,総論に加えて感染症学の専門家による適切な診断と治療のアプローチについての各論が詳細に解説されている.集中治療室において敗血症診療に従事している場合,得てして臓器障害に対する治療に関心が集中し,肝心の病原体との戦いについてはコンサルテーションに依存していることが多いが,本書により感染症学の考え方をあらためて学ぶことができると思われる.後半においては,敗血症による臓器障害管理に加えて,臨床工学や理学療法など多職種による敗血症診療が紹介されている.加えて,敗血症管理の工夫として,最先端の知見や実際の臨床現場で有用な手法が解説されている.これらにより,これまでの敗血症診療にさらなるブラッシュアップが期待できると思われる.

このように本書は感染症学と集中治療医学の2つの柱からなり,敗血症という古来より人類の最大の敵である病態を,最先端の知見を含めて深く理解するためには最適の書であると言えよう.是非,十分な時間をとって思考を巡らせつつ読んでいただければと思う.

エコーでできる評価と管理 バスキュラーアクセス超音波50症例

エコーでできる評価と管理 バスキュラーアクセス超音波50症例 published on
腎と透析 Vol.87 No.2(2019年8月増大号)「書評」より

評者:春口洋昭(飯田橋春口クリニック)

近年,バスキュラーアクセス(VA)の診断だけでなく,管理,穿刺,PTA(経皮経管的血管形成術)など広い領域で超音波(エコー)が利用されるようになってきている。つい10年前と比べると,隔世の感を禁じえない。その間,数冊のテキストが販売され,手に取った方も少なくないと思う。
そのなかで,本日紹介するテキストは,「症例に沿ってエコーを用いてVAをどのように考えていくか?」というものであり,内科学に例えると「診断学」に近く,今までの教科書とは一線を画している。本書は,「バスキュラーアクセス超音波の基本知識」,「バスキュラーアクセス 症例50」,「step up! バスキュラーアクセス超音波検査」の3部構成となっている。
「バスキュラーアクセス超音波の基本知識」は,血管解剖,プローブ走査,機能評価,造設術前評価,形態評価に分かれており,VAエコーの基礎を集中して学ぶことができる。特にプローブ走査では,実際の写真と,それによって描出されるエコー所見が示されており,解剖を立体的に理解する一助となる。これは,VAエコー初心者にとっては,とてもありがたい試みである。また「step up! バスキュラーアクセス超音波検査」では,基礎知識で触れることがなかった細かなコツ等が記載されており,VAエコー中級者にとっても有用であろう。
ただ,なんといっても本書のハイライトは50の症例である。AVFとAVG,動脈表在化に分けられた症例は,術前評価から,脱血不良,瘤,静脈高血圧症,感染など,考えられるすべてのトラブルであり,見開き2ページで1症例がまとめられている。左のページには,シャント肢の写真と血管走行,また触診を中心とした理学所見が示されている。右ページにはポイントとなるエコー画像が提示されているため,読者は,左ページの写真や理学所見を参考にしながら,エコー画像を容易に理解できるようになっている。
また,すべての症例で検査目的,理学所見,エコーのポイント,総合評価,そしてその後の経過が示されており,症例に対してどのように考え,検査を進めたのかが明らかにされる。さらに,治療法とその後の経過が記載されているため,エコー検査の有用性を実感できる。
本書はいろいろな利用法があるが,私は次の方法を勧める。まずは,症例の左半分の上肢の写真と理学所見,臨床症状をもとにして病態を推理する。なぜ,そのような症状が出現したのかを考えてもらいたい。この「考える」という過程が大切であり,ある程度,病態を推測した後に,右のエコー所見と比較して,理解を深めるのがよいだろう。読み進めるうちに,VAに対する理解が格段に進歩していることを自覚できると思う。本書はエコーのテキストであるが,それ以上に「考える力」を養うテキストとなっている。実際エコーを行わなくても,本書をこのように使用することで,VA診療の実力が相当向上するのは間違いない。
著者の小林大樹氏は,20年前からVAの超音波検査を始め,現在ではVAエコーのスペシャリストとして広く認識されている。小林氏は,VAエコーの裾野を広げるために全国で講演活動を行っている。現在,透析クリニックでVAエコーを行うことが珍しくなくなり,VAエコーを得意とする透析スタッフも多くなった。その最大の貢献を果たしたのが,まぎれもなく小林氏である。毎日のように数多くのVAエコーを手掛けるなかで,培った技術と思想を1冊に凝集した本テキストには,彼の情熱があふれている。
本書は,数多くのエコーテキストの編集を手掛けている寺島茂氏が編集を担当し,また監修にはVA治療のスペシャリストである末光浩太郎氏が携わっている。この上のない両氏のサポートもあり,大変充実したテキストに仕上がっている。透析診療,血管診療に関わる医療者にとっては,まさに必携のテキストであり,多くの方に届いてほしいと願っている。

救急・集中治療アドバンス 急性循環不全

救急・集中治療アドバンス 急性循環不全 published on
麻酔 Vol.68 No.9(2019年9月号)「書評」より

評者:山浦 健(九州大学大学院教授)

救急・集中治療アドバンス『急性循環不全』は,麻酔・集中治療と循環器内科のエキスパート達が,それぞれの専門領域での診断・病態・治療法を一つ一つバランスよく積み重ねた,まさに金字塔のような一冊である。
さまざまな医療現場で遭遇する“ショック”は,迅速な診断と初期治療が予後を左右するため,知識の整理と準備が重要である。このクリティカルな病態に対しては“チーム医療”で対応する必要があり,本書は医師,看護師,臨床工学技士などのすべての医療従事者が理解できるように,病態の理解に必要となる基礎的な内容と,最新の知見やガイドラインを上手に組み合わせて分かりやすくまとめてある。
具体的な内容としては,循環不全(ショック)の診断の補助となる血液ガス,バイオマーカーを含めた血液検査,心エコー,CT検査,心臓カテーテルなど各種検査法による診断のほか,低血圧や組織酸素代謝異常など循環不全時に特に重要な位置を占める“心拍出量”の測定モニタリングに関する最新の考え方や,輸液蘇生についても分かりやすく解説してある。「症状・疾患における病態と治療」ではショックの病態を産科ショックや内分泌疾患によるショックも含めて8つに分類して解説し,さらには虚血性心疾患から心筋症,心筋炎,たこつぼ症候群まで循環器疾患に伴うショックを幅広く網羅し,その後の「治療選択」では一般的な治療法のほか,これらの重症心疾患に対するIABP,ECMOや補助人工心臓などの補助循環を含めた高度治療に至るまでを紹介しているのが特長である。
しかも,難しくなりがちな内容の中に,図やフローチャートを多く取り入れることで理解しやすく工夫し,さらに「アドバイス」「コラム」や「トピックス」などをちりばめ,実臨床上での注意点を分かりやすく解説してあり,通読しているといっぱいになりがちな頭を少しリラックスさせ,本書の内容を整理するのに役立つだけでなく,新しい知識を気軽に取り入れられるのもありがたい。
これまで,救急・麻酔・集中治療などそれぞれの立ち位置で書かれてきた書籍が多い中, この一冊は麻酔・集中治療と循環器内科の高度なコラボレーションを実現させ,それぞれの領域を専門とする医師が読んでも分かりやすく最新の知見を得ることができる逸品である。この書は,病態生理だけでなく循環生理,呼吸生理,薬理など臨床と基礎の融合,すなわち医学教育で推奨されている“らせん型カリキュラム”の特長を備えた,医療従事者の生涯一貫教育のモデルとなる教科書といっても過言ではないだろう。どのような医療現場でもアナフィラキシーショックや敗血症性ショックに遭遇する可能性があり,救急・集中治療医,麻酔科医,循環器内科医など急性期医療を担う医師はもちろん,すべての医師,看護師,さらには医学生にも読んでいただきたい一冊である。

臨床力をアップする漢方

臨床力をアップする漢方 published on
内科 Vol.123 No.6(2019年6月号)「Book Review」より

評者:巽浩一郎(千葉大学医学部呼吸器内科教授)

西洋医学(内科)と東洋医学のW専門医である加藤士郎先生(筑波大学附属病院臨床教授)が編集した漢方の指南書である.W専門医のWには「西洋医学と東洋医学の双方に精通している」の意味と「Wide(広い視点を有する)な視点に立てる」の意味が含まれている.
ご自身が納得できるすぐれた臨床医になりたいのであれば,Wideな視点をもつことが重要である.漢方を知ることはWideな視点をもつことに繋がる.漢方を処方するためには,患者さんの病歴聴取時のスタイルが重要であり,五感を研ぎ澄ます必要がある.また漢方の考え方を知ることで別世界が拡がるので,自分自身の人生も豊かになる.そのための指南書が本書である.
医学生時代に漢方教育はほとんど受けてこなかった世代の医師が漢方を処方している(90%の医師が漢方薬を処方した経験があるという統計もある).自分の担当している患者さんから「この漢方薬を処方していただけますか?」というパターンもかなりある.漢方薬を処方した契機はいろいろあると思われるが,自分の使っている漢方薬がどのような薬効をもっているかを少し知っておいて損はない.西洋薬は医学生時代,研修医時代の学習でその薬効などはかなり身についている.しかし,漢方薬に関して学ぶ機会はほとんどなかったはずである.
本書には内科系各診療科から外科,感覚器,産科,小児科までほぼすべての診療科がカバーされそれぞれのエキスパートが寄稿しているが,読者はご自身の専門領域における各論からどれどれと読んでみるのが一般と思われる.単行本の医学書を最初の1頁目から読み始め最後まで読み通すことはほとんどない.自分に関係する箇所から読むことになる.その読み方がお勧めである.西洋医学的病名の括りから入る.そのなかで「お薦め漢方薬3つ」が次に目に入るはずである.これは「次の一手」を知るのに重要である.自分の処方した漢方薬の効果が不十分と判断した場合に,では「次の一手は何?」になる.西洋薬でも同様であるが,「次の一手」候補をたくさんもっている方がすぐれた棋士である.
それぞれの専門医が経験した症例があげられており,クリニカルポイントでは西洋医学的観点と東洋医学的観点を混合して解説してある.双方の視点を混ぜての解説が優れているし納得しやすい.東洋医学的視点のみで記載されてしまうと感覚の世界になってしまう.西洋医学的診察法で診療に従事してきた医師にとっては,普段の日常臨床での感覚プラスアルファの視点をもつことが適切な漢方処方に繋がることを教えてくれているのが本書である.


medicina Vol.56 No.6(2019年5月号)「書評」より

評者:小林祥泰(島根大学医学部特任教授)

この本の大きな特徴は,西洋医学と東洋医学ともに実績あるW専門医が執筆していることである.東洋医学を教わっていない医師には,陰陽五行説に拘り過ぎず,科学的かつわかりやすく専門に応じた手引き書が必要である.この点でW専門医が漢方処方のコツをまず有害事象の科学的機序の解説,近年解明されてきた五苓散のアクアポリンを介した作用機序と臨床応用など,また,フレイルや誤嚥性肺炎予防に補中益気湯,半夏厚朴湯といった未病対策から説明しているのは受け入れやすい.
「漢方臨床総論」では,総合内科での有用性,高齢者のポリファーマシー対策とQOL改善,感染症での限界とともに西洋薬が効きにくい感冒後長引く咳に竹じょ温胆湯などの有用性を教えている.また,一般に漢方が使われない救急医学でも,西洋医学では障害因子を抑制,東洋医学は防御反応を促進することから,漢方薬吸収動態を考慮した含有生薬数の少ない漢方薬の短期集中投与や注腸投与など現場体験に基づいた治療法が述べられ,臨床に役立つ.
「漢方臨床各論」では,漢方の有用性が高い分野を中心に具体的に解説されている.読みやすいのは冒頭に例えば呼吸器疾患で漢方が有効な3疾患が記載され,各々についてお薦め漢方薬3つが適応の違いを付けてまず提示されていることである.例えば嚥下性肺炎では,半夏厚朴湯が第一選択だがこれは嚥下能力のみが低下している時と付記がある.次の補中益気湯はそれに加えて全身体力低下がある時といった具合である.心不全には,牛車腎気丸,木防已湯,五苓散の順に記載されているが,前二者でBNPの有意な低下の報告があるとか,五苓散がトルバプタン無効例に有効であった報告も紹介されている.文献的根拠がきちんと示されているのもこの本の特徴である.冠攣縮性狭心症に四逆散と桂枝茯苓丸が有効というのもストレス緩和と駆お血薬で納得できる.単に血管拡張薬だけよりも理にかなっている.認知症のお薦めは抑肝散,加味帰脾湯,釣藤散で,すでに臨床治験のエビデンスもある漢方薬である.全身性強皮症で西洋薬抵抗性のレイノー症状に当帰四逆加呉茱萸生姜湯が有効というのは参考になる.良性めまいの第一選択は半夏白朮天麻湯であるが筆者も同感である.女性の冷え症の機序による独自のタイプ別分類に基づく処方,さらに冷えが異常分娩を増加させ,五積散が改善するというのは驚きであった.全体を通して今までの入門書よりも具体的で使いやすいお薦めの本である.

離島発 とって隠岐の外来超音波診療

離島発 とって隠岐の外来超音波診療 published on

だから,この本は売れる!

Orthopaedics Vol.30 No.7(2017年7月号) Book Reviewより

書評者:皆川洋至(城東整形外科)

著者は整形外科医ではない.運動器を含む全ての臓器を扱う「総合医」である.日本海でクルーザー“White Stone”を乗り回す漁師であり,アワビ養殖や養鶏を自ら営む.最近,猟銃免許も取得した.そればかりではない.信号機のない島で,世界最速の電気自動車テスラを乗り回す暴走族でもある.破天荒医師はへき地診療の神髄をABCDEに集約させる(A:antenna,B:balance,C:communication,D:daily work,E:enjoy).しかし,著者には誰もが踏みとどまる常識の壁がない.東日本大震災直後,妻の裕子医師に「1カ月は帰ってこない」と言い残し,頭を刈り上げ島を飛び出した.まさにF:foolish,ジョブズ顔負けの行動力がある.
隠岐・西ノ島(島根県)の島前病院院長として20年,島民約6千人の命と生活を支えてきた.本土までフェリーで約3時間.隔離された小さな島では,専門医の常套句「うちじゃありません」が通用しない.ガラパゴス環境が生み出した本書は,徹底した解剖の知識と経験に裏付けられた「現場志向」の実用書である.運動器を専門とする整形外科医であれば,パラパラめくっただけで本書の価値を瞬時に理解できるはず,これは使える.「はい,湿布・痛み止め」でお茶を濁す外来診療に無力感を抱く医師には必読書である.手術対象にならない,しかし日常診療でありがちな愁訴を劇的に取り去る最先端手技【エコーガイド下Hydrorelease】のノウハウが満載されているからである.また,エコー時代を担う若手医師には「現場思考」の入門書にもなる.患者の訴えを解決するステップが詳細に読み取れるからである.
いまや頸・腰・肩・膝などパーツの専門家集団になりつつある整形外科.パーツの手術を数多くこなせば,簡単に「自称専門家」になれる.パーツの専門学会では,毎年新たな手術手技がトピックとなり,手術適応がないcommon diseaseには興味・関心が注がれない.医師ファーストが作り出す「専門」の世界は,裾野の狭い尖った山と光が射さない深い谷間を生み出した.専門の壁を取り除き,患者ファーストで経験を積み重ねた非整形外科医が運動器診療の谷間に火を灯したのが本書である.非常に読みやすく分かりやすい,しかも実践すれば患者さんが笑顔になる.スタッフも笑顔,そして何より本人が笑顔.まさに良い実用書とはこういうものである.買って読む価値がある.だから,この本は売れる!

救急・集中治療アドバンス  急性呼吸不全

救急・集中治療アドバンス  急性呼吸不全 published on

呼吸管理に精通している先生方が直面している臨床に結びつく身近な1冊

救急医学 Vol.40 No.12(2016年11月号) 書評より

書評者:松田兼一(山梨大学医学部救急集中治療医学講座教授)

本書の書評を依頼された直後に藤野教授と某所でお目にかかった。書評依頼されたことを告げると,笑顔を浮かべながら,しかし鋭い眼差しで「あの本は本気で作りました」と言われた。その眼差しを見て本気で書評をしなければたいへん失礼に当たると感じ,その日から本書をじっくりと読みはじめた。
急性呼吸不全に関する書籍は多く出版されているが,本書がそれらとまったく異なる教科書であることは,読みはじめてすぐに理解できた。本書のはじめに取り上げている項目が「ARDS」であることからもそれをうかがい知ることができる。つまり本書は初心者向けの教科書ではなく,呼吸管理の専門家向けの書である。最新の知見が本当にわかりやすく解説されている。さらに,図表や写真がふんだんに使用されており,いつの間にか本書に没頭している自分に気がつく。
本書の特徴はカラフルな本文と全ページにわたってサイドノートを設けているところであろう。専門家に対する質の高い教科書にもかかわらずカラフルで,藤野先生の風貌から想像し難いくらい(?)美しい。写真・イラスト・フローチャートを多用して視覚的にも理解しやすい構成になっており,一見すると初心者向けの,専門家にとっては物足りない教科書に見える。もちろん中身は本物である。よく理解しているので斜め読みをしたい箇所においてはサイドノートとコラムのみ拾い読みし,本文は読み飛ばせばよい。それだけでもかなり楽しい知的作業である。通読して感じたことであるが,教科書を作成する際には通常,編者が分担執筆者をまず選出し,選出した執筆者から依頼原稿を集め一冊の本にする。その際,依頼原稿に編者が手を加えることは少なく,できあがった本としては章ごとの質のバラツキが認められることが正直いって多い。しかし,本書においてはどこを取り上げても一定以上の質が担保されている。これは編者の卓越した分担執筆者の選定と,集まった原稿に対して編者として並々ならぬ情熱を注がれた結果と拝察する。
本書は集中治療と救急医療の幅広いニーズにこたえる新シリーズの第1弾として配本されたもので,呼吸管理に精通している先生方が直面している臨床に結びつく身近な1冊であり,心から推薦することができる。本書を通読して,今後続くと予告されている『炎症と凝固・線溶』『急性肝不全・急性腎傷害・代謝異常』への期待も大きく膨らむところである。

癌診療指針のための病理診断プラクティス 腎・尿路/男性生殖器腫瘍

癌診療指針のための病理診断プラクティス 腎・尿路/男性生殖器腫瘍 published on

精微な病理組織写真はもとより沢山の画像写真や簡明なフローチャートなどが豊富に掲載されている

臨床泌尿器科 Vol.70 No.13(2016年12月号) 書評より

書評者:筧善行(香川大学理事・副学長/医学部泌尿器科教授)

生検や外科的治療で得られた摘出標本の病理診断は,泌尿器腫瘍に対する集学的治療の根幹に位置する.従って,ここが脆いと治療戦略は組み立てられないことになる.恥ずかしながら私は,大学病院で研修を始めた当初,このような明々白々のことに気付くことなく新たな治療手技を身につけることにいそしんでいた.病理診断医が如何にかけがいのない存在であることを身に沁みて感じたのは,卒後10年ほど経過し,ある関連医療施設でお世話になった70歳を超えた老病理診断医師との出会いを通してであった.この先生は病理診断の報告書を作成するにあたり,手術時の所見や患者の病態などに関してしばしば詳細な質問をされた.時には手術室にも入ってこられたように思う.病理診断申込用紙に所定の記載をして,病理診断を待つだけであった当時の私にとって,病理診断を下すために病理医が大きな重圧を感じながら仕事をされていることを初めて感じた時であった.
本書は,泌尿器腫瘍に精通された我が国のトップ病理医の先生方と泌尿器科医が協働して編纂された泌尿器腫瘍病理の実践的指南書である.精微な病理組織写真はもとより沢山の画像写真や簡明なフローチャートなどが豊富に掲載されていることにも目を奪われるが,病理の先生方のpoint by point の明解で統一された記述にも感銘を受ける.また,泌尿器腫瘍領域で臨床上課題となっているcontemporaryな事項に病理医としてどのような支援ができるか,といった極めて実践的な記載が随所にみられる(例えば,腎臓癌における腎摘除標本では,腫瘍から離れた非癌部のサンプリングが将来のCKDの発生を予測するため有用であることなど).本書は二つの読者対象を特に意識している様に見える.一つは,これから泌尿器腫瘍をサブスペシャルティの一つとして考える若い病理診断医であり,もう一つは泌尿器腫瘍の奥深さに気づき始めた若い泌尿器科医である.特に後者に対しては,病理診断医が我々泌尿器科医に何を求めておられるかが丁寧に記載されている.本書を通して,病理診断医との双方向性の質の高い意見交換ができる泌尿器科医が続々誕生することを願っている.

総合診療専門医シリーズ  総合診療専門研修の手引き

総合診療専門医シリーズ  総合診療専門研修の手引き published on

総合診療医たちのニーズに応える

総合診療 Vol.26 No.11(2016年11月号) GM Library 私の読んだ本より

書評者:齊藤裕之(山口大学医学部附属病院総合診療部)

この一冊を読み終えてまず感じたことは,「高い旅費と時間を費やして全国の名門と言われる総合診療の研修プログラムをわざわざ見学する手間が省けてよかった(ホッ)」という安堵感と,総合診療の教え方がますます明確になり,これで自施設の教育環境もさらに向上できるといった高揚感であった.
実は,全国300以上ある総合診療の研修プログラムも勝ち組と負け組のコントラストが目立つようになってきた.それもそのはず2007年から始まった日本プライマリ・ケア連合学会の認定プログラムは10年目を迎え,新しい専門医制度の導入が検討されることで,総合診療研修プログラムは内科や外科など歴史ある研修プログラムと同列で比較される時代になったのである.しかし,実際に専攻医を受け入れている総合診療研修プログラムは200余り.専攻医をしっかり教育して専門医まで取得させることができる研修プログラムは,さらに絞られるのが現状だ.
専門医を取得させることができる良質な総合診療プログラムの特徴は2つある.1つ目はプログラム統括責任者や指導医の「家庭医療/総合診療のプログラム理念」が明確であること.2つ目はプログラム内の数多くの指導医たちが総合診療を教えきれる「教育力」を備えていることである.
では,総合診療の指導医に求められる教育力とは何であろう? それは,何気ない日常診療にみえる総合診療医たちの活動を「概念化」して伝えられる力と,それが総合診療のコア能力のどこに位置づけられるかを「俯瞰」する力と言い換えることができる.
本書はさまざまな総合診療医たちのニーズに応えることができる.専攻医から「総合診療医って何ですか?」という質問に答えられない指導医は「第1章 総合診療専門研修がめざすもの」から読めばいい.「総合診療ってどのように研修するのですか?」という質問に答えられない指導医は「第2章研修をどのように学んでいくか」を読めばいい.
「現在の研修プログラムを今後どうやって改善していくのですか?」という質問に答えられなければ「第3章 さまざまなプログラムでの学び方の実例」を読めばいい.
総合診療専門医をコンスタントに輩出してきた研修プログラムは,本書に書かれている項目を丁寧に実践し続けた歴史の延長線上にある.現在,全国の総合診療研修プログラムが総力を挙げて日本の総合診療のあり方を創ろうとしている.元気のよい新設プログラムも増えている.まずは本書を研修プログラムの手引書として使ってみて,結果として各施設の家庭医療/総合診療のプログラムの理念が強固となり,総合診療医たちの診療を通じて地域住民の健康が支えられていくことを期待している.

スーパー総合医 地域包括ケアシステム

スーパー総合医 地域包括ケアシステム published on

体系的に学びたい人にはおすすめ

アンフィニ No.528(2016年秋冬号) BOOKSより

私たちの国が直面している、世界に例のない少子高齢化は誰もが認識するところとなりました。近年はこれらに伴う虚弱(フレイル)化、加齢性筋肉虚弱症(サルコペニア)、認知症などが増加し、健康寿命を延ばすことに加え、たとえ弱ってしまっても、安心して住みなれた地域で住み続けることができるよう、専門職チームの構築とシステムが求められています。これが何度も耳にしてきた「地域包括ケアシステム」です。
本書は、総合診療医向けのテキストとして「地域包括ケアシステム」を学べるよう構成されています。さぞかしハードルの高い内容ではと思いきや「地域包括ケアシステム構築への社会的背景」「地域包括ケアにおける多職種協働」「地域包括ケアの実践」等々、これらにかかわる職種すべてに共通する基礎知識が整理してまとめられており、体系的に学びたい人にはおすすめです。地域包括ケアを支える重要なメンバーである、訪問看護師についても「全年齢層を対象とし、あらゆる疾病や障害のマネジメントと看護を行う」と、しっかりとページを割いて、その役割が記述されています。
特に「在宅での看取りの実際」の項目では、考えさせられました。多死社会の到来により、年間40万人を超える人々の死に場所がなくなるという現実の一方で、先進国ではあり得ないほど死の質が低いということ。これは特定の場で活躍する看護職のみの課題ではないでしょう。看護師による死亡診断への規制緩和の動きも進んでいるなか、私たちもこれらについて改めて向き合うことが求められています。
(田中志保)


地域包括ケアシステムの背景を分析し、取り組みの実際を紹介する

日本医療機器協会広報 No.237(2016年9-10月号) 医書の本棚より

700万人の団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年は、65歳以上の高齢者人口が3,700万人となる。この数字は現在のカナダの人口より多いという深刻な問題を抱えている。この時代の日本の医療は、これまでのように急性期病院での救命・延命・治癒・社会復帰を前提とした医療でなく、高齢者を地域で病気と共存しながらQOLの維持・向上を目指す、いわゆる支える医療提供体制で、この柱となるのが、“地域包括ケアシステム”なのである。
前期高齢者というのは65~74歳の年齢層であるが、本書によれば、このピークが今年、2016年に当たり、その数は日本全体で1,761万人である。老年人口(65歳以上)の割合が7%以上を高齢化社会(aging society)というが、それが14%を超えると高齢社会(aged society)と呼ばれるようになる。ちなみに2010年の国内の老年人口割合は、秋田県が最高で29.6%、最低は沖縄県の17.4%だという。
“地域包括ケアシステム”は、周知のように2025年までの達成目標として掲げられているが、この言葉が指す“地域”というのは、いわゆる中学校区にあたり、これは徒歩なら30分、人口にして約1万人が住む圏域を指し、ここで、たとえ“重度の要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるように、医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に実現するのが“地域包括ケアシステム”の目指すところなのである。
今後の医療・介護の改革はまさに“地域包括ケアシステム”を目指して実施されていくことになり、しかも、そこには“安全・安心な質の高い医療・介護サービスが効率的・効果的に提供される”ことが基本条件として存在するのだ。そこで重要なのは“医療が地域生活としっかり結びつく”包括的なサービス提供体制の構築が求められていることである。つまり、これまで臓器別専門治療のみに終始し、救命することが至上の役割であった地域医療から、より進化した“高度に進歩した臓器別専門治療が着実に生活につながる”という地域医療の継続を最終目標にした医療の在り方へと転換を図ることが不可欠だという。
本書は7つの章と付録から構成されている。1章で社会的背景を述べた後、2章では地域包括ケアシステムの概念を「医療、介護、生活支援、予防、住居」5つの領域それぞれの立場から論じている。3章では法律の視点から地域包括ケアシステムを捉え、4章と5章では行政や組織、団体がそれぞれ異なる立場から自分たちの役割と具体的な活動内容を語っている。医師だけでなく多職種が連携することで地域包括システムは構築・推進される。看護や介護など多くの職種が語っている構成は斬新と言えよう。
6章は、地域包括ケアシステム実践(成功)例である。地域包括ケアシステム、その概念と理想像はわかっていてもなかなか実施に移せない地域、もしくは構築しようと試みたけれど失敗したという地域も少なくない。微に入り細を穿った成功手法は、全国の地域の参考になるであろう。また地域包括ケアシステムになくてはならない在宅医療の、根幹に位置する「在宅看取り」について文化の視点から述べられているのも興味深い。
なお、付録「地域包括ケアシステムの現状と展望」は本書専門編集の太田秀樹先生と高齢者住宅財団理事長の髙橋紘士先生の楽しい対談である。とかく難しく語られがちな「地域包括ケアシステム」を、たいへんわかりやすく解説していただいている。
地域に根ざす多くの医療従事者達への示唆に富んだ提言が満載の1冊である。
(S.C)

はじめての学会発表 症例報告

はじめての学会発表 症例報告 published on

ああ,この本があったら,もっとクールな発表ができただろうな……

medicina Vol.53 No.9(2016年8月号) 書評より

書評者:山中克郎(諏訪中央病院総合内科)

私は國松淳和先生の活躍を非常に期待している.ユニークな課題へ果敢にチャレンジする精神,そして問題解決における着眼点が素晴らしい.不定愁訴や不明熱という皆が苦手な領域にもグイグイと切り込んで,理論的にわかりやすく解説していく.この本では「学会発表」「症例報告」がテーマである.
國松先生(Dr. K)の熱い指導を受けて,かわいい初期研修医が初めて学会報告を準備する様子が描かれている.「先生,学会で症例発表してみない?」と指導医から突然言われたら,研修医は緊張するだろうな……
まず症例の選び方,次に発表する学会をどう決めるかである.そして,抄録作成が始まる.漫画が効果的に使用されているので,若手医師は大事な流れをつかみやすいだろう.初期研修医による抄録の実例が提示されている.
作成された抄録に対する國松先生による赤ペン添削の実録まで記載されているのが嬉しい.「そうか,こんな点に着目してアドバイスすればいいのか」と若手医師から修正を頼まれる指導医にとっても大変参考になるに違いない.スライドで用いる視覚的効果の高い図表づくりでは.「セクシーかどうか」がポイントだという.なるほど,こんなスライドなら臨床経過は一目瞭然だ.聴衆を一気に魅了するに違いない.ポスター発表の準備では口演とは異なり「盛り込む」作業の重要性が強調されている.
最後は発表した内容を英語論文にすることである.ここまでできれば素晴らしい.この症例報告により,世界の誰かの命を将来救うことができるかもしれない.巻末には國松先生に指導を受けた先輩達からの温かいアドバイスがついている.
私の初めての学会発表は米国での基礎医学の学会においてだった.スーツで身を包み緊張でガチガチになりながら,たどたどしい英語で発表した.私の次に壇上に現れたのは,スポーツウェアを着た若者である.公園をジョギングし帰ってきたばかりという格好である.流れるように発表を終えフロアから多くの質問を受ける.隣でボスが「あの研究は最近Natureにアクセプトされたものだ」とつぶやくのを聞き,「学会発表は外見ではない,中身こそ大切」と思い知らされた.ああ,この本があったら,もっとクールな発表ができただろうな……


具体的ノウハウがスラスラと分かる

メディカル朝日 2016年8月号 BOOKS PICKUPより

多くの研修医を指導してきた著者が、経験をもとに学会発表・症例報告のノウハウをやさしくひもとく。指導医、初期研修医、後期研修医の3人が登場するマンガで、学会発表を勧められる場面から実際の発表後までの流れを解説した。それぞれの段階で基本的かつ重要な事項の解説と知っておきたい知識、エッセンスがまとめてあり分かりやすい。指導医にも大いに役立つ。

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