Skip to content

産科婦人科ベストセレクション 産科救急マニュアル

産科婦人科ベストセレクション 産科救急マニュアル published on

産科救急に対応するための必読書が登場!

産科と婦人科 Vol.88 No.10(2021年10月号)「書評」より

評者:三浦清徳(長崎大学産科婦人科教授)

このほど中山書店から,『産科救急マニュアル』が発刊された.
本書は,我が国の産科医療のトップリーダーである藤井知行先生と永松健先生が監修,編集を担当し,いずれの項目も第一線のスペシャリストが執筆を担当している.本書の内容は3つの側面から構成され,産科救急に対応するための必修知識から,いわゆる「ガイドライン」に記載されている標準治療を補完する最新知識まで盛り込まれている.それぞれ,1章の基本手技編では産科救急の現場で共通言語となるバイタルサイン・検査・救急蘇生の基礎知識について,2章の症候編では産科救急で遭遇することが想定される臨床所見への対応について,3章の疾患編では妊産婦の救急疾患への対応について記載されている.よって,本書を最初から最後まで通読すると,産科救急の基礎から最新知識まで体系的に理解し,突然の母体・胎児の急変に遭遇しても最善の診療を行いうる知識が自然と身につくようになっている.
これからの産婦人科医療を担う若手医師については当然のこと,すでに最前線で活躍されている指導医にとっても,日々の産科救急医療の向上に役立つ一冊である.“Hope for the best and prepare for the worst”ということわざもある.ぜひ,母児の健康を願う(hope)多くの医師にご一読いただきたい医学書(prepare)として推薦したい.

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 4 不妊症

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 4 不妊症 published on

評者:苛原 稔(徳島大学大学院医歯薬学研究部長・産科婦人科)

 かつて中山書店から刊行された『新女性医学大系』は、産科婦人科学の膨大な領域を網羅し、刊行当時の最高水準の医学者によって執筆された、日本の産科婦人科学の知の集大成といえるシリーズで、他を寄せつけない堂々たる存在感があった。
このたび完結となった『Science and Practice産科婦人科臨床』シリーズは、ボリュームこそコンパクトになったが、知の集大成という『新女性医学大系』の系譜を確実に受け継いで企画されているのに加えて、総編集にあたられた藤井知行先生の高い見識から、近年の医療の流れであるEBMや各種ガイドラインとの整合性を重視する編集コンセプトを導入し、単なる知識の羅列でなく、産科婦人科学の本質に迫る構成と内容となり、ある意味で『新女性医学大系』を越える進化を遂げている。実地医家が診療机の上に置いて日常診療に役立てることも、産婦人科研究医や研修医が基礎から臨床までの詳細を知ることもできる、コンパクトにして重厚な素晴らしいシリーズといえる。
 そのシリーズの最後に今回配本された4巻『不妊症』は、現代日本の生殖医学のトップリーダーである大須賀穣先生が専門編集され、最新鋭の研究者や実地医家を執筆者に選び、EBMに基づく膨大な知識をみごとに整理・解説しており、現在の生殖医学や不妊症学の全てを知る上で必要かつ十分な構成と内容である。生殖医学や不妊症学は生物学、基礎医学、臨床医学が複雑に交じり合う特殊で奥深い体系の学問である上に、治療には倫理や社会的な知識を要するなど、多彩な知識を適切に理解することが必要で、またEBMが得にくい領域でもある。それゆえ、EBMに基づいて多様な知識をわかりやすく解説する書物は得難い。この4巻『不妊症』はまさにそれを実現しており、生殖医学や不妊症を正しく理解したい医師や研修医、医学生や医療関係者に最適の必携書である。

エビデンスに基づく 皮膚科新薬の治療指針

エビデンスに基づく 皮膚科新薬の治療指針 published on
Visual Dermatology Vol.20 No.9(2021年9月号)「Book Review」より

評者:井川 健(獨協医科大学医学部皮膚科学講座)

皆さんご存じ(本当の意味でこの言葉を使える方です),京都大学名誉教授/静岡社会健康医学大学院大学学長でいらっしゃいます宮地良樹先生とその時その時のguest editorsともいえる先生(方)が編集を担当されておられる,「エビデンスに基づく」シリーズの第5弾です.
今回は,これまた皆さんご存じ(本当の意味で……以下略),京都大学教授でいらっしゃいます椛島健治先生とご一緒で,前/現京都大学教授による編集はこのシリーズだけでももう2冊目のようですね.さらに内容とは関係のないお話で恐縮ですが,最近,自分も我が医局のFacebookを通して宮地先生の情報を時々収集しておりますが(お友達申請ありがとうございます!),その情報によると,この本が217冊目の,いわゆる「宮地本」になるそうです.
さて,ここ10年くらい,皮膚科における治療薬物のラインナップの充実具合といいますか,臨床の現場に供されるスピードといいますか,そのあたりをみてみますと,自分が皮膚科医になった2〇年前(隠す必要はないですが……)ころに比べると隔世の感があります.
おそらく,20世紀後半あたりからの生命科学分野の研究の爆発的な進歩があり,そのような中から,まだまだほんの少しだと思うのですが,実を結んだものが少しずつ臨床の現場に出てきている状況なのでしょう.
いずれにしろ,最近の新規薬物をみておりますと,ターゲットを絞った,いわゆる,分子標的のお薬が多くなってきております.これは,近年の薬物開発の流れが,蓄積された研究の結果から推測される病態形成機序をバックにして,病態特異的に治療ターゲットを設定するという傾向があるからだろうと考えられます.この場合,基本的に余計なものに影響を与えることをなるべく排除する方向ですから,副反応発現の面からすると従来のものに比べて少ないことが予想されますし,治療効果発現はターゲットがピンポイントに近くなり,はまれば絶大である(狭く,深く)ことは,乾癬やアトピー性皮膚炎ですでに経験していることです.本書を一読し,新規治療薬物の根底にあるこのようなストラテジーを頭の片隅においておくことは臨床の場において決して損にはなりません.
本書で論じられる対象疾患は,最近ブレイク中(?)のアトピー性皮膚炎や乾癬のみならず,悪性腫瘍,感染症から自己免疫疾患,希少疾患に至るまで,皮膚科のかなり広い分野にわたっております.しかも,どれもわれわれ皮膚科医がちょっと困ったなー,と思うような疾患であるところがまたにくいところです.さらに言えば,これほど多くの分野で新しい薬物,新しい治療方針が論じられる必要がある皮膚科という診療科のここ最近の大躍進の様がこの本に凝縮されているような気もしたりするのです.
『エビデンスに基づく皮膚科新薬の治療指針』,間違いなく素晴らしい本です.あとは皆さんが手にとって確かめてください.

脳卒中データバンク2021

脳卒中データバンク2021 published on
内科 Vol.128 No.5(2021年11月号)「Book Review」より

わが国の脳卒中医療の現状を映す鏡

評者:戸田達史(東京大学大学院医学系研究科神経内科学教授)

国内多施設での登録事業「日本脳卒中データバンク」が活動を始めてから20年余が過ぎました.本事業を創始された小林祥泰先生(島根大学名誉教授)を中心に数年ごとに解析結果をまとめて出版されるのを,これまで楽しみに読んできました.数年前に国立循環器病研究センターに管理運営が移管されたと聞き及んでいましたが,移管後初めてのまとめとなる最新版「脳卒中データバンク2021」が,今春刊行されました.「脳卒中・循環器病対策基本法」も法制化され,一般市民の方々の脳卒中への関心も高まる中で,時宜を得た企画といえます.
脳卒中は戦後の一時期,国民の最大の死因であり続け,現在でも約300万人の有病者をかかえる国民病です.一命を取り留めても高度の後遺症を遺す患者も多く,国民の健康寿命の延伸に大きな障碍となります.発症後早期に脳組織を不可逆的に損傷させるため,長年にわたって有効な治療法を欠き,治らぬ病気とみなされた時期が続きました.しかし今世紀に入ってt-PA静注療法(静注血栓溶解療法)や経皮的な機械的血栓回収療法の開発,脳画像診断の進歩などに伴い,飛躍的に治療成績を高めるようになりました.そのような脳卒中診療の転換期であるこの約20年のデータをふんだんに掲載した本書は,まさに「わが国の脳卒中医療の現状を映す鏡」といえましょう.
本書では,2018年末までに登録された急性期脳卒中(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血),一過性脳虚血発作の患者20万例弱の臨床情報を,多くの分担執筆者が独自の切り口で解析しています.たとえば脳卒中は何歳くらいで多く発症するのか,どのくらい重症で,どのくらいの割合で後遺症を遺し,また自宅復帰できるのか,そのようなごく単純な疑問にも,十分な症例数で回答を示しています.興味深いテーマごとに解析された結果は,多数のグラフや表で示されており,視覚的にもわかりやすいものになっています.
わが国には,脳卒中や認知症,頭痛,てんかんなど,非常に多くの患者を有する神経疾患がありますが,その正確な発症者数や臨床転帰を把握するのはなかなか困難です.脳卒中においては,前述した対策基本法に基づく全国患者登録が早晩始まるそうですが,全国の患者を悉皆性高く収集するにはまだ相当の時間を要するでしょう.そのような中で脳卒中医家はもとより,一般開業医の先生方やふだん神経疾患を診る機会の少ない医師,脳卒中のリハビリに携わる医療スタッフの方々などにも,本書をお手元に置き,あるいは電子版を端末に載せ,脳卒中に関して湧き上がる疑問を解く参考書として,ぜひ役立てていただきたく思います.


medicina Vol.58 No.9(2021年8月号)「書評」より

評者:宮本 享(京都大学医学部附属病院長)

「脳卒中データバンク2021」には,1999年に研究開始された日本脳卒中データバンクに,日本全国の130を超える施設から登録され蓄積された約17万例の急性期脳卒中の臨床情報解析が掲載されている.
本書の第1部には,日本脳卒中データバンクの概要とデータ分析が記載されている.まず,脳卒中に対する医療政策を行うにあたって,本邦における脳卒中のデータベースがないことが大きな問題であることに20年以上前に注目し,本事業を立ち上げられた小林祥泰先生をはじめとする先達の慧眼に深甚なる敬意を表したい.標準化された診断名と評価尺度に基づいて登録された精度の高いデータに基づく分析であり,経年変化などの分析は本邦における脳卒中の変遷を示す貴重なデータと考えられる.
つづいて第2部では,疾患や病態,治療法その他のテーマごとに,日本脳卒中データバンクに登録された膨大な症例をもとに分析と解説がなされている.各項目の冒頭には,わかりやすくサマリーが箇条書きに掲載されている.
さいごに第3部では,日本脳卒中データバンクを用いた研究論文についての解説がなされており,本書は「本邦における最近20年間の脳卒中医療のとりまとめ」といってよい内容となっている.豊田一則先生を中心とした「国循脳卒中データバンク2021編集委員会」の皆様のご尽力に感謝したい.
2018年12月に「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」いわゆる脳卒中・循環器病対策基本法が成立し,循環器病対策推進基本計画が策定され,悉皆性がある脳卒中・循環器病の情報をどのように収集していくかということが,現在検討されている.多数の治療施設が全国に分散していて均てん化が求められ,急性期医療であり,地域連携で転院をしていく脳卒中の登録には,治療施設が集約化されており,データ登録に時間的余裕がある「がん登録」とは異なる課題がある.今後,循環器病対策推進基本計画に基づく登録事業を成功させるうえでも,日本脳卒中データバンクのこれまでのノウハウは大変貴重な経験であり,それをまとめた本書を,本邦における脳卒中医療従事者には是非精読していただきたい.

小児科ベストプラクティス 小児白血病・リンパ腫-Strategy & Practice

小児科ベストプラクティス 小児白血病・リンパ腫-Strategy & Practice published on

小児科診療 Vol.84 No.8(2021年8月号)「書評」より

評者:五十嵐 隆(国立成育医療研究センター理事長)

ヒトの遺伝子は24,000以上が同定され,いわゆる難治性疾患の約6割は遺伝子の異常に起因する.小児のがんも同様で,体細胞のみならず生殖細胞の遺伝子の変異が単一あるいは複数組み合わさることが原因となることが明らかとなった.小児白血病・リンパ腫を正しく理解し,原因に応じた個別化治療を実施することが求められており,そのためには病気の原因となる遺伝子の異常を知ることが第一歩である.近年の遺伝子解析技術の劇的な進歩により,小児白血病・リンパ腫の原因遺伝子の異常が多数解明されている.
小児がんの研究で画期的貢献を果たした滝田順子教授がこのたび編集された本書には,こうした小児白血病・リンパ腫の原因に関する最新かつ難解な知見が疾患ごとにわかりやすく記載されているだけでなく,CAR-T療法などの最新の治療法の紹介や移行期医療を含めた長期フォローアップ体制など,白血病・リンパ腫に罹患した子どもやAYA世代の人たちにbiopsychosocialな観点から総合的に最善の治療を提供するために必要な貴重な情報も紹介されている.小児白血病・リンパ腫の生存率は確かに改善したが,現時点でも救命できない患者さんも少なくない.さらに,救命されても治療に起因する様々な障害に悩み,将来への不安を抱えて生活されているのが実情である.小児白血病・リンパ腫の治療にあたる小児科医・内科医等に本書が大いに利用されることを願う.

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 3 分娩・産褥期の正常と異常/周産期感染症

Science and Practice 産科婦人科臨床シリーズ 3 分娩・産褥期の正常と異常/周産期感染症 published on

産科と婦人科 Vol.88 No.9(2021年9月号)「書評」より

評者:金山尚裕(浜松医科大学名誉教授/静岡医療科学専門大学校学校長)

陣痛の発来機構など分娩の生理,分娩3要素の異常などの研究発表が日本で減少していることに危惧している.エストロゲンは分娩期に極めて高い値を示し,産褥期には激減することから分娩・産褥期ほど女性の体に大きな変化を来す時期はない.したがって,この時期は正常と異常の境が狭いため,恒常性の破綻が起きやすく重篤な疾患が多いのも特徴である.本書は分娩・産褥の生理とその異常が明快に解説されている.また妊娠は母体にとって半移植片であることから免疫学的寛容状態であり,感染症においても重症化しやすいともいわれているが,周産期分野の重要な感染症が網羅されているのも特徴である.
なにより信頼できるのは,全6章からなる本書が最新の情報を元にエビデンスレベルの高い内容になっていることであり,美しいイラストを多く用いて,読者に分娩,産褥,周産期感染症についての基礎的理解と臨床的理解が一目瞭然で得られるようになっている.
一読して感じたことは,臨床医には日々の臨床を深化させ,研究者には新たな研究テーマを見出す契機になり,研修医・助産師・学生にはこの分野の魅力を伝える一冊となっていることである.読者にとって本書は分娩・産褥期の知識を深め,診療技術の向上に繋がるものになるであろう.充実した内容からこの分野の研究発展にも寄与するものと確信している.

皮膚科ベストセレクション 皮膚科 膠原病

皮膚科ベストセレクション 皮膚科 膠原病 published on
Visual Dermatology Vol.20 No.7(2021年7月号)「Book Review」より

評者:椛島健治(京都大学大学院医学研究科皮膚科学)

われわれ皮膚科医が教科書を購入してまで勉強すべき領域として,まず膠原病があげられよう(あくまで個人的な意見ではあるが).われわれが目にする多くの皮膚疾患は,皮膚科医のみで対応することが可能であるのに比し,膠原病は他科との連携が不可欠であり,また,皮膚科とは離れたところで疾患概念や診断・治療法が発展することも多い.それゆえ,皮膚科が主催する学会に参加しても,膠原病に対する他科のアプローチや動向を探ることは難しいのが現実である.
そのような状況のなか,膠原病に関する新知見が次々と見出されている.例えば,皮膚筋炎における自己抗体のプロファイルに基づく臨床型・合併症・予後に関する新知見は,臨床の現場において非常に有益である.また,治療の選択肢も格段に増え,それらを適切に用いることができるかどうかで患者の予後は大いに変わってくる.それゆえ,医師たるもの,診療に関わる限り,勉強し続けなければならない.
これまでの皮膚科医向けの膠原病関連の教科書は,皮膚科医が執筆陣を占めることがほとんどであった.しかし本書は日本の第一線で活躍する免疫・膠原病内科,肝臓内科, 呼吸器内科医,さらには基礎医学研究者といったオールジャパン体制での陣容となっている.そしてなんと,間質性肺炎・腎クリーゼなどの診断と治療法や,線維化の基礎的な病態の詳細にまで触れられている.これだけ幅広い項目と執筆陣を取りそろえることができたのは,本書の編者である藤本学先生の見識の広さと人徳の成せる技であろう.
本書を通読すれば,膠原病に関しては怖いものなしである.あるいは通読するほどまでの時間や意欲がなくても,レファレンス本として用いるだけでも十二分の価値がある.それゆえ,本書があれば,膠原病に関する他科依頼を受けたときにもしっかりと対応できる(他科依頼に対して,皮膚科医が期待に応えられないようでは,皮膚科医の存在価値は下がってしまいますよね).それほどに完成度の高いー冊と言える.
しかしその一方で,膠原病には解明されなければならない課題がまだ残っていることにも気付く.本書を手にした次世代の人材が膠原病に興味を持ち,そしてその問題を解決していってくれることにも大いに期待したい.

産科婦人科ベストセレクション 子宮内膜症・子宮腺筋症

産科婦人科ベストセレクション 子宮内膜症・子宮腺筋症 published on
産科と婦人科 Vol.88 No.6(2021年6月号)「書評」より

評者:藤井知行(医療法人財団順和会山王病院病院長/国際医療福祉大学大学院教授)

子宮内膜症や子宮腺筋症は,厄介な病気である.毎月の激しい月経痛,腹腔内の癒着による慢性疼痛,妊孕性の低下などを引き起こし,女性の生活の質を著しく低下させ,社会全体でも経済的に大きなダメージを与えている.悪性化することもあり,また妊娠しても産科合併症が多いことがわかっている.この病気は,近年増加しており,その原因として,女性の出産年齢の上昇や出産数の減少による月経回数の増加が挙げられているが,現代社会において,女性のキャリア形成を考えると,容易に解決できる問題ではない.治療も,根治的な治療は子宮,卵巣の全摘術しかなく,卵巣機能や妊孕性を温存する薬物療法や手術療法が存在するが,再発も多く,長期の管理を必要とすることが多い.一方,この病気の病因・病態については,病理学,内分泌学,免疫学など多くの視点から多数の研究がなされ,少しずつだが知見が集積し,新たな治療の道筋が見えてきた.
本書は,わが国の子宮内膜症・子宮腺筋症研究と治療とのトップリーダーである,大須賀穣東京大学教授と甲賀かをり東京大学准教授が監修,編集を担当し,第一線の臨床家,研究者が執筆したものである.内容は,実際の臨床に即して項目が並んでおり,基礎から臨床まで系統的に記載され,本書を通読することにより,最適な診療を行うための深い知識が,自然に身につくようになっている.読者の日々の診療の向上に確実に貢献する一冊である.

皮膚科ベストセレクション 乾癬・掌蹠膿疱症ー病態の理解と治療最前線

皮膚科ベストセレクション 乾癬・掌蹠膿疱症ー病態の理解と治療最前線 published on
Visual Dermatology Vol.19 No.12(2020年12月号)「Book Review」より

評者:飯塚 一(医療法人社団 廣仁会 札幌乾癬研究所,旭川医科大学名誉教授)

評者は,長年,乾癬を専門にしてきた経緯があるが,乾癬と掌蹠膿疱症をテーマにした本書を手にして,この2つの疾患についての,特に近年の進歩を幅広く網羅した充実ぶりに驚きを感じざるを得なかった.この本には,この2つの難治性皮膚疾患についての,現時点で想定されるあらゆる問題点とその回答,さらに具体的な治療指針が満載されている.
基本的に情報は箇条書きに整理されており読みやすい.教育的な典型例の写真が冒頭に収められているのも親切であるし,何よりも編集者を含め,各執筆者の最新の情報を入れ込もうとする熱意が素晴らしい.おそらく本書を読んだ後では,個々の医師は,日常診療における対処に相当の変容がおこると予想される.
通常,皮膚科医にとって乾癬や掌蹠膿疱症は,決して診断に難渋するような疾患ではない.ところが,一歩病態に入ると,たとえば生物製剤の劇的な有効性に現れてくる病態理解は複雑になる一方である.これらを適切に整理した具体的な根拠と対応の記載は貴重であり,一読して,進歩を網羅した理解の深さと幅広さに感銘を受けるところが多かった.
今はやりのAIの世界ではディープラーニングという一種のブラックボックス化が進行中である.医師にとって本当に必要なのは,病態に基づく無理のない自然な説明と理解であり,クラスタリングと称して答えだけを提示されても納得感が得られないのは自明のことである.患者一人一人は千差万別であり,この教本に,詳しく述べられている病態理解を前提とした具体的なアプローチこそが重要と思われる.
われわれ皮膚科医は,乾癬にせよ掌蹠膿疱症にせよシンプルな病像を想定することが多いのだが,そのバックにある巨大な,それも最新の情報を,治療まで含めて深いレベルで提示しているという意味で本書は貴重であり,広く読まれることが期待される.本書は確かに「病態の理解と治療最前線」の名前に値する情報量に富む立派な教本である.

各科スペシャリストが伝授 内科医が知っておくべき疾患102

各科スペシャリストが伝授 内科医が知っておくべき疾患102 published on
内科 Vol.126 No.5(2020年11月号)「Book Review」より

評者:伊藤 裕(慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科教授)

内科医が患者さんに「親身」になれる極意の書

もともと,医学は患者さんの痛み,苦しみを取り除く術として生まれた.そのために,患者さんが何をどう感じているか,その症状を虚心坦懐に聞くことが,医学の基本である内科の原点であることは言うまでもない.カナダの内科医,世界の医学教育に大きな影響を与え,私の母校の大先輩,聖路加国際病院名誉院長,日野原重明先生が敬愛してやまなかった,ウィリアム・オスラー(1849~1919年)も,“Listen to the patient. He is telling you the diagnosis”としている.
しかし果たして,私たちは患者さんの話を聞くだけで診断名を語ってくれていると思えるであろうか.
私は常々,教室員によい医者であるためのたった一つの秘訣として「親身」になることをあげている.私は「親身」に「Sym-Me」という英語をあてて,自己と同一視することとしている.その患者さんが自分の親だったらどうする? 自分だったらどうしてほしい? と考えて初めてなすべき医療がみえてくる.そんなことは当たり前と言われるかもしれない.実際,ほとんどの医者は親身になって診療にあたろうとしているはずである.しかし,現実にはその実現が難しいのは,親身になるためには専門的な知識が必要だからである.曖昧な知識があるだけでは,自信がもてず,他科の先生に紹介することになる.医師としてそれは誠実な対応かもしれないが,患者さんからすれば見放されたような印象になりかねない.いったん心理的な壁ができてしまうと,患者さんは自分が気になること全てをその医者に伝えようとしなくなり,そうなると我々は自分の専門領域の診断も正確に行うことができなくなる.私は,日野原先生が命名された「生活習慣病」を専門としている関係上,患者さんの生活習慣全般を理解し,患者さんが生涯にわたって付き合おうと思ってくれることが大切なので,この点はとくに重要である.
皮膚科がご専門の宮地良樹先生が編まれた『内科医が知っておくべき疾患102』は,内科医が患者さんに「親身」になれるための書である.この書に厳選された症状は,日常の内科外来できわめてよく遭遇するものであり,我々内科医が日ごろ患者さんから訴えられるものである.長年,患者さんを目の前に鋭く観察を続けてこられた皮膚科の宮地先生ならではの,まさに慧眼であると思われる.
内科外来で患者さんがこうした症状を訴えれば,「私の専門外ですし,専門の先生に診てもらってください」と言いがちである.「知っておくべき疾患」ではないと言い切るような内科医の先生もおられるのではなかろうか.しかし,そうした内科医は結局,「親身」な医療を実践できないのではと危惧する.本書に書かれた「ジェネラリストにとっての知識」をもっていれば,患者さんの訴えを怖がらず,門前払いせずに聞くことができる.そして,専門家への適時的なコンサルトも可能になる.
さらに,この本には各科のスペシャリストから内科医への適切なアドバイスが惜しみなく,それこそ「親身」になされている.それは,内科の専門化,細分化が批判される昨今,“本来ジェネラリストとしてあるべき内科医が,患者さんの状態を理解し,正しくできる医療を臆せずにやってください”という応援歌だと思う.間口の広い,患者さんから信頼される内科医,そして,他科との垣根を低くして,うまく連携できる内科医のための極意書として本書はあると考える.
人工知能(AI)の進歩で医師の職域は徐々に駆逐されていくのではないかという畏怖がある.しかし,患者さんの一断面の情報をつなぎ合わせるAIにはできない,患者さんに起こる様々な出来事をつぶさに知り,そのうえで日々変わっていく患者さんの人生の「物語」を語れる医師には,なかなかAIは追いつけないと思われる.そのような医師になるために,私はこの本を大切にしたいと思う.