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医療現場の清浄と滅菌

医療現場の清浄と滅菌 published on

滅菌業務に関わる全てのスタッフを対象に,初心者にも理解できる内容になっている

Medical Tribune 2012年12月27日 本の広場より

病院やクリニックで患者の治療に使用される全ての機器や医療材料は,絶対的に安全なものでなくてはならない。日本医療機器学会の認定で2000年に第二種滅菌技士が,2003年に第一種滅菌技師が誕生して以来,わが国の滅菌に関する知識や技術水準は飛躍的に進歩を遂げてきた。その一方で,医育機関では滅菌に関する教育カリキュラムが充実しておらず,医師や看護師が滅菌に関する技術や知識を学ぶ機会は少ない。
滅菌の要諦は,医療機器を患者に対して安全に使用できるようにし,患者と作業者の双方にとって不用意に危険が降りかからないように処理することである。滅菌作業にかかる責務は「確実な安全性の保証」にある。
滅菌業務に関わる全てのスタッフを対象に,感染性徴生物の増殖力や生物学的対策,滅菌の基本である高圧蒸気滅菌の原理と仕組みを中心に,初心者にも理解できる内容になっている。

新しい体位変換

新しい体位変換 published on

動的外力によって生じた褥瘡の特徴や発生のメカニズムについて,症例で詳しく説明

臨牀看護 Vol.39 No.14(2013年12月号) 書評より

書評者:田中秀子(淑徳大学看護栄養学部教授)

体位変換の目的は,治療や処置に必要な体位を保持することと,同一体位による関節拘縮,循環障害,呼吸障害,褥瘡の発生を予防することである。通常,仰臥位から側臥位へ,また仰臥位から長座位へなどに,枕や毛布,クッション,スライディングシートなどの物品を用いながら,看護者の手によって行われる。
褥瘡が最も発生しやすい部位は仙骨部であるが,とくにファーラー位などでは仙骨部にずれを生じ,褥瘡の悪化をまねくとして注意が促されてきた。そのためファーラー位にしたときには必ず,体位変換で生じたずれを取り除くために,ベッドから身体を離して「背抜き」を行うことが推奨され,背抜きは浸透しつつある。しかし,そのほかの移送時や対象者の体位を変えるときはどうだろうか。看護者は“体位を変えること”に主眼をおき,そのときに生ずるずれへの配慮は十分とはいえなかったのではないか。
本書では,褥瘡の創の悪化(変化・変形)の原因が,不適切な体位変換,身体移動,ベッド操作やおむつ交換にあると指摘している。著者はこれまでも多くの症例を経験し,その症例の分析によって出された結論から体位変換の危険性について述べている。
看護職として非常にショッキングであったのは,「(人の手による)体位変換によって褥瘡が悪化する」という内容である。つまり,今までの体位変換の方法には,褥瘡創面へ悪影響を及ぼす動作が含まれているということである。著者は「静的外力」と「動的外力」について解説しているが,「静的外力」とは重力のもと,身体にかかる過剰な圧のことで,これは体圧分散寝具によって軽減できるものであるが,一方「動的外力」は身体が他の力によって動かされることによって生じる外力であり,例えば手を背部に滑り込ませるときに無理やり押し込むことによって生じる。高齢者などは,そのときに皮膚がよれ,重なり,それが褥瘡発生につながりかねない。この動的外力が問題であると著者は指摘している。看護職としては耳の痛いところであるが,悔しいかな現場の忙しい臨床では,それぞれの対象者の特性や疾患に適した体位変換は行われてはいないのが現実であろう。
本書ではこの動的外力によって生じた褥瘡の特徴や発生のメカニズムについて,症例で詳しく説明している。褥瘡があるときの体位変換の方法についてもわかりやすく言及されており,実践に活かせる内容になっている。
本書の内容は看護界に一石を投じるものである。褥瘡ケアの専門家ばかりでなく,広く看護や介護に従事する人たちにも必携の書である。


人の手によらない体位変換を

月刊ケアマネジメント 2013年10月号 Let’s read Booksより

褥瘡予防・治療の第一人者である著者の最新刊。褥瘡にならないために、これまで推奨されてきた「2時間おきの体位変換」に疑問をなげかけ、むしろ人の手による体位変換が褥瘡を悪化させていることを解き明かしている。
理屈はこうだ。人の手による体位変換は、体圧を受ける部位の移動と分散という「静的外力」を排除する。一方で、圧やずれという「動的外力」を創面に生じさせ、治癒に影響を与えてしまう。つまり体位変換が不要なのではなく、動的外力の影響を少なくした優しい体位変換の方法が必要ということだ。例えば人の手で行う際には、ポジショニング手袋やスライディングシートの使用したり、そのほか自動体位変換マットレス、ポジショニングピローの活用も提案している。
体位変換の意義について考察しつつ、実際の14のケースについて治療経過とケアのポイントを写真つきで紹介している。最新の褥瘡ケアを学びたい看護師はもちろん、介護職も参考になる一冊。

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 すべてがわかる ALS(筋萎縮性側索硬化症)・運動ニューロン疾患

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 すべてがわかる ALS(筋萎縮性側索硬化症)・運動ニューロン疾患 published on

我が国の頭脳が結集して作り上げたALS・運動ニューロン疾患の最高の著書

BRAIN and NERVE Vol.65 No.10(2013年10月号) 書評より

書評者:田代邦雄(北海道大学名誉教授/北祐会神経内科病院顧問)

このたび,『すべてがわかるALS・運動ニューロン疾患』と題する書籍が出版された。難病が多い神経疾患,その中でも“難病中の難病”である本疾患に対し,タイトルで“すべてがわかる”と言及されている如く,この領域のトップ・リーダで専門編集者である祖父江元名古屋大学教授が,本邦におけるエキスパートを網羅し,本文総計370ページにわたる単行本を完成されたことに対し,まず心からなる敬意を表する次第である。
その内容は,I章「運動系の構造と機能」に始まり,II章以降は「臨床像と診断」「関連運動ニューロン疾患」「病態関連遺伝子と遺伝子変異」「病態」,そしてVI章の「治療と介護」に至り,さらに最後には興味あるCase Study 5症例を呈示,Lectureとして解説するという構成となっている。
各章内の記載は,そのテーマごとにまず主要論点を薄黄色の下地にPointとして呈示,つづいて鮮明な図表を交えて簡潔・明瞭な解説,そして必須文献を付し,さらに欄外にKey words,Memoを配する本シリーズで用いられている構成で,読者の理解がさらに深まるよう配慮されている。
本書の企画,そして執筆者の人選も含めた重要ポイントについては祖父江先生の序文に簡潔明瞭,しかも実に見事に網羅,紹介されており,また,その期待に応えて我が国の頭脳が結集して作り上げたALS・運動ニューロン疾患の現時点での最高の著書,むしろ“バイブル”とも称することのできるものであり,これらをベースとして今後さらなる発展を目指す心意気も伝わってくるのである。
各章ごとの個々の内容について触れることはできないが,ALSの臨床ならびに研究は世界レベル,そして共同作業にも繋がり,一方,歴史的には「神経学の父」とされるCharcot(1825-1893)まで遡る。また重要な診断基準の策定の歴史は,1990年5月,世界中のALSの権威がWFNの招請でスペインのEl Escorialに集合,1994年にEl Escorial WFN基準として発表,その後1998年に米国Virginia州Airlie Houseで検討・策定したのが「改訂El Escorial基準(Airlie House基準)」である。さらに2006年横浜で開催の第17回ALS/MND国際シンポジウムの後に専門家が淡路島に集合し電気生理学的手段を取り入れた「Awaji基準」を提唱したことも画期的な出来事で,日本の貢献大なることが示されたのである。薬物治療についての大きな進歩は残念ながら達成できていないが,米国での治療の現状はコロンビア大学の三本博先生より,また日本からは患者ケア,リハビリ,災害対策も含めての詳しい解説もなされている。
本疾患の世界的専門誌は1999年に“Amyotrophic Lateral Sclerosis and other motor neuron disease”として発刊され,その後“Amyotrophic Lateral Sclerosis”,そして2013年より誌名を“Amyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Degeneration”へと発展的に変更している。その理由・経緯についても,現在この専門誌のEditorial Boardに名を連ねておられる祖父江先生が簡潔に本書の序文で触れておられ,本疾患の診断,治療,研究の世界的レベルに日本も参画,かつ着実に実績を積み重ねてきていることを実感,今後さらなる発展を期待しつつ書評の纏めとさせていただく。

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 小脳と運動失調

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わが国が誇る小脳研究の金字塔

BRAIN and NERVE Vol.65 No.6(2013年6月号) 書評より

評者:金澤一郎(国際医療福祉大学大学院長)

「小脳はなにをしているのか」という問いに,現在のわが国の英知を結集して挑戦したのが本書である。専門編者である西澤正豊先生が序で書かれたように,わが国には伊藤正男先生という小脳の基礎研究の巨人と,脊髄小脳変性症(SCD)の運動失調に対する治療薬のTRHを世に出された祖父江逸郎先生という小脳疾患研究の巨人がおられる。このことが日本での小脳機能あるいは小脳疾患への関心を高めてきた。その表れが厚生労働省の「運動失調症調査研究班」であり,昭和50年に始まった後,現在までに挙げた功績は数限りない。特に疫学的研究と脊髄小脳変性症各病型の病因遺伝子に関する業績は世界に誇るべきものである。
そうした業績の中で,忘れられている疫学調査の結果が一つある。多系統萎縮症(MSA)には,自律神経症状で始まり,ほぼ2年以内に小脳症状や錐体外路症状が加わるという概念で集積した「SDS」があり,その頻度が日本では全SCDの7%弱に及ぶ。しかもその80%以上が男性であるという事実は見過ごせない(平成元年の平山班の統計)。SDSをないがしろにするのは勝手だが,ここに新発見のヒントがあるに違いないと私は思う。いつか挑戦して欲しいと思っている。
本書は,非常に緻密に物を考える西澤先生の編集になるだけあって,ほぼ完璧な構成になっていて,「わが国が誇る小脳研究の金字塔」と言って良い。小脳の機能局在,症候学,検査法,臨床と分子生物学を合わせた病態,治療,それに非常に役に立つ7例のcase studyが続く。それだけではない。ほとんど全ページがカラー印刷である他,ポイント,コラム,メモ,キーワード,などきめ細かい配慮によって理解を助ける仕掛けも豊富である。また,各ページの外側には4cm以上の余白があって,自分でメモができるようになっている。これほど配慮の行き届いた本を私は知らない。だから,索引を入れて本文336ページの本書が12,000円というのはやや高いという印象があるかも知れないが,その内容を見れば納得する。本書を,是非とも蔵書に加えられることをお薦めする。

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 最新アプローチ 多発性硬化症と視神経脊髄炎

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 最新アプローチ 多発性硬化症と視神経脊髄炎 published on

微に入り細に入り読者に理解してもらおうとする努力,編集に感服させられる

BRAIN and NERVE Vol.65 No.3(2013年3月号) 書評より

評者:田代邦雄(北海道大学名誉教授/北祐会神経内科病院顧問)

多発性硬化症(multiple sclerosis : MS)は1868年のCharcotによる臨床症候の記載に遡るほど歴史的であるばかりでなく,現在に至るまで神経学領域では最も重要な疾患の一つとされている。その神経症候,病態の理解,そして診断と治療への道筋はもとより,特に近年のこの疾患概念に関する注目度・関心は非常に高く,神経内科を中心に,その関連する基礎ならびに臨床の各専門領域において日進月歩の進展が見られるのである。
このたび,『最新アプローチ 多発性硬化症と視神経脊髄炎』と題する最先端の書が出版されたことの意義は大であり,これらの疾患の重要性かつ論点を提言したことになる。すなわち本書では,この両疾患を並列に取り上げ,それらの病態と診断,治療とケアも含め,各項目に最適なエキスパートを配置して論旨を展開している。
その構成は各項目のトップに「Point」として先ずエッセンスを呈示,さらに豊富でカラフルな図表,必要に応じて重要な事項をColumnとして薄紫のバックを用いて本文の一部にとりあげ,また欄外にはKeywordsの簡潔・明快な解説,さらにMemoとして疑問やその説明を追加するなど,微に入り細に入り読者に理解してもらおうとする努力,編集にも感服させられるのである。
日本における多発性硬化症の臨床像・疾患概念の変遷,診断基準の問題,臨床疫学,神経病理,補助診断法,鑑別診断,病因病態の理解,また治療とケアの諸問題は多岐にわたるが各分担執筆者が見事にまとめているとともに,本書のタイトルにも取り上げられている疾患としての「多発性硬化症」と「視神経脊髄炎」との相互関係はいかなるものであるか! という現在神経学領域で最もホットな話題について,まさに論壇で熱くなるような活発な論議が展開されている。
多発性硬化症そして視神経脊髄炎についてのディベートは,これらの疾患を専門にする神経学関係者は(筆者個人も含めて)各々の見解・結論を既に持っているであろうが,本書の役割は,冒頭にも述べたごとく,この重要課題である多発性硬化症/視神経脊髄炎について日本の神経学が“フランク”そして“オープン”に意見交換することが重要かつ必須であり,本書がそのための試金石になってくれることを信ずるとともに,今回,このテーマをとりあげまとめられた編集担当者,各執筆者の努力に対し心からの敬意を表し,書評のまとめとさせていただくこととする。

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 てんかんテキスト New Version

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てんかんも分子生物学の言葉で説明される時代が到来したと実感

BRAIN and NERVE Vol.64 No.10(2012年10月号) 書評より

評者:葛原茂樹(鈴鹿医療科学大学教授)

てんかんは,わが国において患者数が約100万人と推定されている頻度の高い疾患であるにもかかわらず,医学分野では比較的地味な存在であった。ところが,近年,自動車運転中のてんかん発作による交通事故発生を契機に,にわかに大きな社会的関心を集めるようになった。事故の大部分は怠薬による発作であり,きちんと服薬すれば発作の大部分はコントロール可能という成績が示されているので,最新最適のてんかん診療を学び実践することは,患者と社会に対する医師の社会的責任でもある。このような要請に正面から応えることができる指南書として,このたび中山書店から『てんかんテキスト New Version』が刊行された。
本書読了後の第一印象は,てんかんも分子生物学の言葉で説明される時代が到来した,という実感である。従来のてんかん学は,臨床病型に基づく分類と脳波検査を軸とした現象論的記述が主であったのに対して,本書ではニューロンの異常興奮病態と治療薬の作用機序の分子生物学的基盤が詳述されている。総論で,古典的てんかん概念の紹介に続いて,一挙にイオンチャンネルと受容体の分子病態学と分子遺伝学が展開し,焦点性てんかん病巣の病理学の記述が,カラーの顕微鏡写真付きで現れるのも新鮮である。
臨床診断では,高齢期発症てんかんの増加と非痙攣性発作が多いという指摘が注目される。検査は,古典的脳波所見に加えて,外科的治療を念頭に,てんかん原性域(epileptogenic zone)同定に必要な諸検査(硬膜下電極,脳磁図,PETとSPECT,最新のMRI,近赤外線スペクトロスコピィなど)の検査目的・所見・長所・限界が解説され,臨床的初発症状域,脳波上の発作起始域,形態画像の構造異常病変との関係の解説も明快である。治療についてはガイドラインをベースに,古典的薬物と新規薬の作用機序から臨床適用までが解説され,社会生活で問題になる妊娠や運転,生活支援についても具体的に紹介されている。
各項は10頁以内にまとめられ,明快なカラーの図表がふんだんに配置されているので,テンポよく読み進むことができる。ベテランにも初心者にも,是非一読を勧めたい1冊である。

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 識る 診る 治す 頭痛のすべて

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最も求めていた内容が余すことなく網羅されている

BRAIN and NERVE Vol.64 No.3(2012年3月号) 書評より

評者:岩田誠(東京女子医科大学名誉教授)

日常診療の中で,頭痛は誰にでも生ずる最もありふれた自覚症状の1つであるから,どのような診療科の医師であっても,自分が診ている患者が頭痛を訴える機会に出会うことがあるはずである。そのようなときに,自分は頭痛のことはよくわからないからといって,ろくに話を聞くこともせず頭痛専門医に紹介するというのも悪いことではないが,患者側からみれば,頭痛ごときでわざわざ専門医を受診するなんて,と受け取る人は少なくないだろう。一方では,頭痛を訴えて受診すると,すぐに頭のCTスキャンやMRI,MRAを撮り,何も異常はありませんといわれ,適切な解決策をみつけてくれる医者にめぐり合うまで,痛む頭を抱えて次々と医者廻りをする患者も少なくない。日常診療の場で今もなお繰り返されているこのような浪費的医療の根源にあるのは,一般の医師たちの,頭痛診療の重要性に対する認識不足と,頭痛診療に対する勉強不足であるが,そのような事態をきたしたそもそもの原因は,頭痛のメカニズムに対する科学的な教育と,頭痛の診断と治療に関する実践教育が不十分であったことである。

評者は,今から30年以上前,母校の学生に神経内科学の講義を行うことになったとき,それまで1度もなされたことがなかった頭痛の系統講義を始めた。当時は,頭痛の科学的メカニズムはほとんどわかっておらず,病態を十分に説明できないことに,自分ながらもどかしさを感じていた。ここに紹介する『識る 診る 治す 頭痛のすべて』には,その当時の私が,最も求めていた内容が,余すことなく網羅されている。もし,30年前にこのような書物が存在していたなら,評者は躊躇することなく,ここに書かれていることのすべてを,学生たちに伝えようと試みたであろう。そのような教育を受けた学生たちは,卒業後どのような診療科の医師になったとしても,自分の患者が語る頭痛の訴えに耳を貸し,自らの適切な意見を述べたうえで,頭痛診療の専門医に紹介するだろうし,無駄な画像検査の回数は激減するであろう。頭痛診療の専門家だけではなく,あらゆる分野の臨床に携わっている,あるいはこれから携わろうとする,すべての医師・医学生に読んでいただきたい本である。

アクセプトされる英語医学論文作成術

アクセプトされる英語医学論文作成術 published on

最新論文を実例にスマートな論文を

メディカル朝日 2015年2月号 BOOKS PICKUPより

最近話題のコピペはもちろんご法度。専門分野の先行文献を読解して規則に従った引用、言い換えをしたうえで、自らの主張をreviewersに速やかに認めてもらうためのテクニックを実践的にまとめた。論文作成のイロハから、タイトル、アブストラクト、緒言、図表の説明、方法、結果、考察、よく使われる表現、略語、単位など、投稿の注意点まで、初心者にも役立つ構成。

朝日新聞出版より転載承諾済み(承諾番号24-0347)
朝日新聞出版に無断で転載することを禁止します

DSM-5を読み解く 神経発達症群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連

DSM-5を読み解く 神経発達症群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連 published on

DSM-5に慣れる必須の1冊

精神医学 Vol.57 No.3(2015年3月号) 書評より

書評者:長尾圭造(長尾こころのクリニック院長)

分類学には論理的な科学性はない。したがって分類はいかに役に立つかというもっともらしさ,つまり蓋然性や妥当性が問われるので,その時の事情や背景を基に恣意的にならざるを得ない。4回目の改訂となった今回のDSMは,特に子どもの分野では,近年の疫学,分子遺伝学,脳画像,家族・双生児研究,認知精神科学,環境・文化の影響による発達精神病理の進歩の影響を受け,大幅な見直しがなされた。その結果,診断名が増え,アセスメントと尺度や面接法も示された。
DSM-5の分類には診断名,診断的特徴,有病率,年齢による経過(症状の発展と経過),危険要因と予後要因,文化・性別に関する診断的事項,機能的結果(予後など),鑑別診断,併存症などが記されている。このそれぞれには,臨床経験と研究を基に議論を重ねた結果が書かれているため,そのコトバは重い。このため,これが作られてきた背景,その診断の意図,利用法,使い方などは,ベテランによる解説が何より望ましい。DSM-5に習熟するためにはガイドラインが必要となる。
本書の構成は,「DSM-5時代の精神科診断」では,これまでの歴史・開発の背景・経緯・全体の改定点・ディメンション的診断モデルのゆくえが描かれている。「児童精神医学の診断概念とDSM-5」では,DSM-5における構成上の再編とその背景が述べられている。「児童精神医学の診断概念の歴史的変遷」では,DSM体系の概要と幼児期から青年期に発症する障害の下位分類と単位障害の変遷が,「DSM-5とICD-11の相違点」では,meta-structureの違い,神経発達障害群,食行動障害および摂食障害群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群について解説されている。その後の章では,各診断名である神経発達症群/神経発達障害群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連といった,児童青年期に大事な疾患が取り上げられ,解説されている。
診断には,表出される症状,その表出症状を構成する背景症状,その背景症状を構成している病理,それが生じてきた環境と生物学的背景と順に考えを進めて,たどり着くことにより,初めて症状の理解と診断ができる。特に子どもの場合,症状形成の因果関係には,成人以上に,環境の影響が絡むし,症状の動揺性も強い。したがって,一人ひとりの患者を丁寧に診るには,DSM-5で取り上げられたそれぞれの視点から,考えを巡らせることにより,臨床の厚みが格段に増す。
今後の課題も多い。メンタルヘルスへの関心・アプローチから,カテゴリー診断の限界が見えたため,次元診断という捉え方をさらに進める必要があろうし,診断閾値以下のメンタルへルス状態へのアプローチ,遺伝子とそのエピジジェネティクスの出方やエンドフェノタイプと症状発現などを疾患との関連でとらえることも必要となる。DSM-6には,そのような視点からも変更がなされることも予想される。しかし,それまでのおそらく20年前後は,DSM-5が使われると考えると,誰もが,いずれは,できれば早く習熟しなければならない。そのための解説手引書としては,これまでの児童青年精神医学の来歴が示されているし,実際の診断項目の解説も分かりやすい。本書はDSM-5に慣れる必須の1冊となっている。研究者にとっては,DSM-6を,どのように計画すればいいのかを考える1冊でもある。

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科 最新薬物療法マニュアル-選び方・使い方

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科 最新薬物療法マニュアル-選び方・使い方 published on

枠外解説を読んでいるだけでかなりの知識を得ることができる

JOHNS Vol.31 No.4(2015年4月号) 書評より

書評者:飯野ゆき子(自治医科大学附属さいたま医療センター耳鼻咽喉科)

ある講演会で市村恵一先生のご講演を拝聴する機会があった。ご講演のタイトルは「薬を上手く使うコツ」である。日常臨床に則したお話で,感冒薬から抗菌薬,副腎皮質ステロイド,さらには漢方薬まで幅広い視点からお話をいただいた。聴衆一同感銘を受けたのは言うまでもない。このご講演のように,わかりやすくまた楽しく知識が得られる薬剤に関する本があればいいなあと感じた次第である。この想いがこの度実現した。 ENT臨床フロンティアシリーズ「耳鼻咽喉科最新薬物療法マニュアル―選び方・使い方」である。市村恵一先生が専門編集を担当されている。まさに先生のご講演を拝聴して感じた想いをそのまま著書としてまとめていただいた感がある。
内容に少し触れてみたい。28章から成り立っている。最初の2章は薬物療法の基本的知識に関してである。第1章は「各症状に対する薬物の適応と選び方」,第2章は「薬物の有害事象とその対策」。第1章ではP-drug(personal drug)という概念についても言及されている。P-drugはあまり馴染みのない言葉であるが,日本語では“医師個人の薬籠の中の薬”ということになる。多くの医師が臨床の場で薬剤を選択していく過程は以下のように認識されている。まず先輩医師に習って処方し,薬の名前や薬理作用を徐々に覚え,自分なりの処方にアレンジしてゆき,自分の経験をフィードバックして更にいろいろな薬剤の組み合わせを工夫する,という過程である。しかしこれは独断的になりがちでエビデンスに乏しいと指摘されている。1995年,WHOによりP-drugの概念が医薬品の適正使用の出版物のなかで述べられた。P-drugは「私の薬籠」に留まることではなく,薬剤に関するすべての情報を完全に把握し,患者個々の病態に応じた適切な薬物を選択するための過程を含んでいる。P-drugに沿った診療の流れに関しては本書の中で詳細に解説されている。
第3章からは抗菌薬から健胃薬まで22種類の内服あるいは全身投与薬剤に関する解説,25章からは点耳薬,点鼻薬,口腔用薬,軟膏・クリームといった耳鼻咽喉科で頻用されている外用薬についての解説である。一般的な薬理作用,有害事象,注意すべき事項,適応等,これらは『今日の治療薬』やこれまでの薬物療法に関する種々の書物に記載されていることとさほど大差はない。しかし本書の素晴らしい点は“Advise”“Tips”“Topics”“Column”といった別枠がもうけられており,まさに臨床の場で最も知りたい薬物療法に関する知識,あるいは疑問点に対する解答がちりばめられていることである。たとえば頸部膿瘍等の嫌気性感染症に対する抗菌薬治療。これまではクリンダマイシンを用いることが多かった。近年ではクリンダマイシンの嫌気性菌に対する耐性化が指摘され,この神話が崩壊している。この点に関しても詳細に解説されている。このように枠外解説を読んでいるだけでかなりの知識を得ることができる。
困った時に頼りになる1冊であることは間違いないが,パラパラめくって読んでいても非常に楽しく,また勉強になる1冊である。市村恵一先生が“序”で書かれている「読者に,本書を座右のレファランス書として脇机に君臨させるのみならず,ある程度通読してもらいたいと思う」という願いが込められたすばらしい書と考える。是非ご一読願いたい。


レファレンス書としてばかりでなく「読み物」としての魅力に満ちている

ENTONI No.175(2015年1月号) Book Reviewより

書評者:丹生健一(神戸大学耳鼻咽喉科頭頸部外科)

この度《ENT臨床フロンティア》シリーズとして中山書店から『耳鼻咽喉科 最新薬物療法マニュアル』が発売された。編集は多くの雑誌や書籍の企画をされてきた自治医科大学名誉教授 市村恵一先生である。
耳鼻咽喉科疾患に対して処方される薬剤は、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、消炎鎮痛剤、粘液溶解薬、抗ヒスタミン薬、副腎皮質ステロイド薬、粘液溶解薬、抗ヒスタミン薬、抗止血薬などの内服薬、点耳薬、点鼻薬、軟膏・クリームなどの外用薬等と多岐にわたる。本書では、それぞれの薬剤について、適応や使い方・選び方、注意すべき副作用など、最新の情報にもとづいて第一線の医師により解説されている。漢方薬も大きく取り上げられ、主な疾患に対する処方例が具体例に示されているのが有り難い。従来処方薬であったものが次々とOTC薬品として薬局やドラッグストアで販売されるようになってきた時代に応え、関連する一般市販薬や他科の薬剤についても説明が加えられている。
クラシックな切り口に加え、使い方のコツが「Tips」に、日々の臨床で出会う疑問や迷いへのエキスパートからの回答が「Advice」に掲載され、「Topics」に最新の話題も紹介されているのも本書の大きな特徴である。いずれの項も各執筆者の熱意が感じられる素晴らしい出来で、レファレンス書としてばかりでなく「読み物」としての魅力に満ちている。編集者の狙いが見事に成功し、類書と一線を画する耳鼻咽喉科医師必携の薬物療法ガイドとなった。座右の書として診察室に備えるだけでなく、教科書として通読することをお勧めする。
いうまでもなく、薬物療法は局所処置や手術とならび、耳鼻咽喉科診療の大きな柱である。特に外来では、薬物療法は耳鼻咽喉科診療の根幹をなしている。個々の患者の病態を総合的に把握し、最適な薬物療法が選択されることが求められる。読者の皆さんは、先達の教えや様々な経験に基づいて自分なりの薬の使い方―スタイル―を築き上げておられると思うが、ぜひ、日常診療に本書を活用することにより、自らのスタイルを見つめ直す機会を持っていただきたい。