明日からの臨床にきっと役立つ1冊

作業療法ジャーナル Vol.47 No.12(2013年11月号) 書評より

書評者:目良幸子(東名古屋病院附属リハビリテーション学院,作業療法士)

がんは日本での死亡原因の1位を占め,男性の2人に1人,女性の3人に1人が生涯でがんを経験するといわれる現代はまさにがんの時代です.しかし作業療法の対象疾患としてがんが注目されるようになったのは,2007年(平成19年)に「がん対策基本法」が施行され,2010年(平成22年)の診療報酬改定で「がん患者リハビリテーション料」が認められてからです.
また「緩和ケア」とはWHOの定義によると「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して.痛みやその他の身体的問題,心理社会的問題,スピリチュアルな問題を早期に発見し,的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって,苦しみを予防し,和らげることで,クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチである」とされています(本文より).この「緩和ケア」という言葉,本当に味わい深く,リハの理念にも通じる概念ですが,残念ながら今まではあまり作業療法の世界になじみのない言葉でした.
このようにがんといい,緩和ケアといい,「身近なようでよく知らない,学校でもしっかり学んだことがなかった」言葉に対して私たちは漠然と苦手意識をもってしまい,敬遠しがちです.特にがんが進行し.さまざまな終末期症状が出現して,対象者自身やご家族が心身ともに苦しいと感じられる時期になると,どのように接したらよいのかさえわからないと立ちすくんでしまいます.でも実際は「脳血管障害」や「リウマチ」の作業療法を実践するために必要な基礎知識があるのと同じように,がんや緩和ケアについてもこの領域でよく使われる用語や症状への対応について知っていれば.リハの流れや作業療法の内容は特殊なものではありません.
とはいえ,がん関連の専門書籍には,OTが手に取って利用しやすい本はまだあまり多くありません.そのような状況で「いやいや,OTにも十分に活用していただけますよ!」と思わせる本がこの『緩和ケアが主体となる時期のがんのリハビリテーション』です.がんの作業療法の領域で大活躍中の島﨑寛将氏を中心に編集されて,がんのリハビリテーションについて初心者にも読みやすくまとまっています.特に第4章「家族ケアとしてのリハビリテーション」や第5章「がんのリハビリテーションで用いるコミュニケーション・スキル」,第7章「おわりに―自分自身のためのストレスマネジメント」の項目等は立ちすくんでしまいそうなときに読んでみてください.「ああ,そうなのか」という具体的なアドバイスが手に入ります.がんや緩和ケアに興味はあるけれど自信がないという方.ぜひ手にとってご覧ください.明日からの臨床にきっと役立つ1冊です.


緩和ケアが主体となる時期のがんのリハビリテーションを学習するのに好適な入門書

がん看護 Vol.18 No.6(2013年10-11月号) BOOKより

書評者:木澤義之(神戸大学大学院医学研究科先端緩和医療学分野/特命教授)

本書は,進行期のがん患者さんに対するリハビリテーションに関する実践的な本です.がんリハビリテーションというと,周術期や骨髄移植患者さんの社会復帰をめざした介入に関する手引書は今までもみられましたが,緩和ケアが主体となる時期,終末期に焦点を当てた本はほかに類を見ません.リハビリテーションには機能訓練や筋力増強の印象も強いかもしれませんが,そもそもは「再び適した(=自分らしい)状態になること」であり,この時期の患者さんに向き合う1つのキーワードともいえるでしょう.
この本には,治癒がむずかしく,生命の危機に直面した患者さんとそのご家族をリハビリテーションの視点からどう支えるかについて,理念から実際まで,コミュニケーションから専門的なスキル,地域連携にいたるまで詳しく書かれています.また,バーンアウトしないための医療者自身のストレスマネジメントにも言及されています.執筆者を拝見いたしますと,実際に緩和ケアの現場で患者さんの診療・ケアにあたっている方々が担当しており,まさにかゆいところに手が届き,かつ簡潔な内容となっています.
進行期のがん患者さんは,日常の生活や自由に行動できる範囲が徐々に狭くなり,喪失を繰り返していきます.そのような環境でも,しなやかに,たおやかに生きることを支援し,自律とコントロール感を多職腫チームで支えていくことこそ,本書の根底に流れる思想であることを一読して感じました.
リハビリテーション専門職だけではなく,あらゆる医療者,とりわけ,がん医療や緩和ケアに携わる看護師にとって,緩和ケアが主体となる時期のがんのリハビリテーションを学習するのに好適な入門書であるということができると思います.この本の読者によって,緩和ケアにおけるリハビリテーションがさらに普及し.少しでも患者さんのしなやかな生を支えることができれば,と考えています.