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プリンシプル消化器疾患の臨床 膵・胆道疾患診療の最前線

プリンシプル消化器疾患の臨床 膵・胆道疾患診療の最前線 published on
胃と腸 Vol.54 No.1(2019年1月号)「書評」より

評者:田中雅夫(下関市立市民病院)

『膵・胆道疾患診療の最前線』は《プリンシプル消化器疾患の臨床》シリーズ4冊のうちの最後の発行である.人口の高齢化とともに胆膵疾患の増加は著しく,手前みそながら今や肝臓疾患よりも日常診療上重視すべきではないかと思うくらいであるが,消化器疾患の分類は一応上部・下部・肝胆膵となるので最後になるのは仕方がない.
この《プリンシプル消化器疾患の臨床》シリーズの頁構成は非常によくできている.最前線やアップデートと銘打った成書は多く,それぞれに工夫と趣向をこらしているが,本シリーズほど読んで頭に入りやすいページ構成はそうはない.フローチャートや図をたくさん有効に活用し,文章も少し長い程度の箇条書きで極めて読みやすい.全ての記述が一息で読めるように,細かいことは星印で示して注釈として別に解説している.急ぐ場合には,表題のすぐ下のPointの数行を読むだけでもざっとその項目の特徴をつかむことができる.これまでと常識が変わったというような話題はTOPICSとして色づけされているし,著者から「これだけは絶対に逃さないで欲しい」といった強調点もAdviceとして色づき枠で示してあって面白い.
第Ⅰ章が疾患の概念や疫学,病態生理などの総論,第Ⅱ章が検査・診断法,第Ⅲ章,第Ⅳ章が治療法の総論と各論になっている.第Ⅰ章で,疾患概念として書かれていることと,第四章で治療法各論として書かれていることに若干の重複は見られるが,使われている図はそれぞれに工夫されていて役に立つ.その一例をあげると,第Ⅰ章「疾患概念」の膵嚢胞性腫瘍の項目に膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)の画像(p.31)があるが,嚢胞内に造影される小結節が描出されていてIPMNの国際診療ガイドラインで提唱されているworrisome featuresの一つを例示している.第Ⅳ章「治療法各論」のIPMNの項目であげられている画像(p.250)も同じくworrisome featuresのうちの一つ,Doppler EUSで血流を認めない3.8mmの小結節を示しているが,膵液細胞診が陽性であり切除した結果はIPMN由来浸潤癌であったという.この例ひとつを見ても本疾患の診断の困難さとそれを克服する方法を理解することができよう.本書は項目によっては重複をよしとしてそのような読み方もできて面白い.
編集者の下瀬川徹氏は,日本消化器病学会と日本膵臓学会の理事長を合わせて務めるという忙しさをものともせず,いろいろあるであろう悩みを顔にも出さず淡々と業務を進める方で,多方面にわたって気配りのできる方である(日本膵臓学会は前理事長).本書の編集もそのような気配りが細かく行き届いて極めて読みやすいものとなっている.『膵・胆道疾患診療の最前線』は《プリンシプル消化器疾患の臨床》シリーズの最後を飾るのにふさわしい一冊で,ぜひとも手元において診療の役に立てたい.

プリンシプル消化器疾患の臨床 ここまできた肝臓病診療

プリンシプル消化器疾患の臨床 ここまできた肝臓病診療 published on
胃と腸 Vol.53 No.2(2018年2月号)「書評」より

評者:林紀夫(関西労災病院院長)

中山書店から《プリンシプル消化器疾患の臨床》シリーズ3巻の『ここまできた肝臓病診療』(専門編集 佐々木 裕)が刊行された.このシリーズでは消化器疾患の臨床を臓器別に4巻に分けて,日常臨床で遭遇することの多い疾患を中心に最新の専門知識と診療実践のスキルを,視覚的にわかりやすく提示している.本書は本邦に多い肝疾患について疾病構造の変化を俯瞰しつつ,新たな疾患概念,診断法・治療法について図表を多く取り入れ理解しやすく記載している.
医学・医療の進歩には目を見張るものがあり,肝疾患の領域でも新しい診断マーカー・画像診断や有効性の高い治療薬が開発されただけでなく,疾患の概念が変わった疾患もあり,その進歩は際立っている.特に,本邦において疾患頻度の高いC型肝炎ウイルス(HCV)やB型肝炎ウイルス(HBV)関連肝疾患では,その診断や治療は大きな変貌を遂げている.C型肝炎の領域では従来のインターフェロン治療からインターフェロンフリーのDAA製剤による治療に大きく変わり,C型肝炎ウイルス排除率は非常に高くその治療効果も大きく改善したが,これらの薬剤の投薬に当たっては副作用や薬剤耐性など多くの専門的な知識が要求される.一方,NAFLD (非アルコール性脂肪性肝疾患)やNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)などの新たな疾患概念なども提唱され,肝疾患や消化管疾患など多岐にわたる消化器系疾患の臨床に携わっている消化器系領域の専門医が,常に最新の情報を知り日常の診療に活用することは容易なことではない.本書は,肝疾患総論,検査・診断,治療法総論,治療法各論で構成されている.肝疾患では個々の疾患で共通の診断法や治療法があり,本書のような構成の方が診断や治療をより体系的に理解でき,先生方にも有用と考える.また,カラー図を多く使い最新の情報をまとめられており,多忙な先生方でも容易に肝疾患の最新情報をご理解いただけ,日常の臨床にも有用な実用書である.
現在,日本では高齢者の増加にともない医療制度が大きく変貌をとげようとしており,専門医制度に関しても日本専門医機構が中心となり2018年4月からの新専門医制度の見直しが行われている.総合内科医のように内科全般を診療できる医師も必要であるが,肝臓や消化器などのより専門性が高い専門医の育成も重要な課題である.日本は肝疾患が多い国であり,疾患の診断や治療に専門性の高い判断が要求される時代には多くの肝臓専門医が必要であるが,肝疾患を専門とされていない先生方が肝疾患を診療される機会も多く,そのような先生方にも実践的な内容となっている本書をご活用いただき,日常診療にお役立ていただければと考える.

消化器画像診断アトラス

消化器画像診断アトラス published on
胃と腸 53巻1号(2018年1月号)「書評」より

評者:菅野健太郎(自治医科大学)

私自身のことで恐縮であるが消化器内科を志す大きな動機となったのは,患者さんが多いこととともに,2重造影法や内視鏡によって自らの手で診断できるということにあった.現在では,CTやMRIなどの画像診断は主に放射線科が担っているが,内視鏡をはじめとする画像診断の魅力が消化器内科を志す大きな磁力として働いていることは間違いないであろう.現在,内視鏡や超音波は単に診断ではなく治療にも拡大し,わが国の消化器内科医の技能は名実ともに世界をリードしているといっても過言ではない.
このたび下瀬川徹教授監修のもとに東北大学諸氏の総力を結集してまとめられた消化器画像診断アトラスは,美しい画像が豊富であることは無論,各疾患に対し疾患の概要,典型的な画像所見とその成り立ち,確定診断へのプロセス,治療について簡潔かつ要を得た記述と必要最小限の文献が記載されており,これまでに例のない,まさに圧巻の絢爛たる画像アトラスである.
下瀬川教授は大学では副学長,医学部長,病院長という要職を歴任される一方,日本消化器病学会理事長として学会を指導されてこられたのであるが,東北大学第三内科学教室からの伝統を受け継ぎ,個々の症例を大切にし,その基本情報としての画像診断の水準を高める不断の努力を積み重ねられてきたことが紙背の随所に窺うことができ,改めて深く敬意を表したい.画像アトラスという表題でありながら,本書の内容が画像の羅列にとどまらず奥行きや深さが感じられるのは,大切に蓄えられてきた個々の症例の画像から優れた物語が紡ぎだされているからではないだろうか.すなわち本書の画像アトラスは,単に美麗な画像を収集しているのではなく,その疾患がどのように成り立ち,それが形態変化としてどのように表現されるのかについて各執筆者が真剣に向き合ってきた姿を彷彿させられ,画像を提供していただいた患者さんの生活史や担当医との対話などにも読者の想像を誘うのである.もちろん,東北大学消化器内科では,形態変化の背後にある分子レベルの異常にも踏み込んだ優れた研究を行ってきているが,本書ではその詳細についてはきわめて限定的な記述にとどまっており,これは本書の焦点を絞るための抑制的な配慮と思われる.
本書はわが国の消化器画像診断の到達点を示すマイルストーンとして,初学者から熟達者まで幅広い読者に自信を持って勧められるアトラスであるが,できれば英文出版して世界にも発信していただきたいと願うのは高望みであろうか.


内科 121巻1号(2018年1月号)「BOOK Review」より

評者:田尻久雄(日本消化器内視鏡学会理事長)

この度,『消化器画像診断アトラス』(監修:下瀬川徹教授,編集:小池智幸先生,遠藤克哉先生,井上淳先生,正宗淳先生)が,中山書店から刊行された.上部・下部消化管だけでなく,肝胆膵を含めた消化器領域全般の典型的画像所見を網羅したアトラスである.
本書の特徴は,主要な疾患の様々な画像診断の高品質画像(内視鏡,US,CT,MRI, PET,EUS,ERCP,病理所見等)が豊富に収載されていること,疾患ごとに「概要」「典型的な画像所見とその成り立ち」「確定診断へのプロセス」「治療」の要点が簡潔に解説されていることである.初めて本書を手にとり,非腫瘍性疾患,腫瘍性疾患と臓器別に整理されている項目を1頁毎に開いて読み進みながら,“日を瞠るような鮮明な画像”が“十分な大きさで配列されている”ことに驚きとともに感銘を受けた.
「典型的な画像所見とその成り立ち」では,所見の特徴の解説中に図番号を明示し,画像上見えている病変の形態の形成機序について言及されている点は,監修された下瀬川徹教授の画像診断を通じて消化器病学研究にかける真摯な姿勢と基本哲学を示すものである.
「確定診断へのプロセス」では,鑑別診断の手順とポイントをわかりやすく具体的に解説されており,読者がそれぞれの疾患に深い関心をもたれると思われる.さらに随所に最新の診断基準,治療指針も解説されているので,診療の合間に役立つような工夫がされている.
参考文献は,国内外の必要不可欠な文献が精選されていることも日常診療で忙しい若い先生方に親切な配慮である.本書は,全体をとおして消化器内科,消化器外科を選択する研修医にとって疾患の正しい理解と診断・治療に至るプロセスが理解できるように簡潔にまとめられており,指導医の先生方が実際に教えていく時に役に立つポイントもよく整理されている.
下瀬川徹教授率いる東北大学消化器内科ならびに東北大学関連病院の先生方の総力を結集した大作であり,長く歴史に残る名著になることは間違いない.これから消化器病学,消化器内視鏡学を目指す若い先生のみならず,指導施設で若い先生を教える立場にある先生や実地医家の先生の日常診療に即役立つものと考えている.是非とも座右に具えていただき,適宜参照していただきたい.

プリンシプル消化器疾患の臨床 食道・胃・十二指腸の診療アップデート

プリンシプル消化器疾患の臨床 食道・胃・十二指腸の診療アップデート published on
胃と腸 Vol.52 No.11(2017年10月号)「書評」より

評者:浅香正博(北海道医療大学)

私が卒業したのは1972年であるが,当時からみると現在の消化器病学の進歩には本当に驚かせられる.上部消化管疾患に興味を持ってこれまで長い期間にわたって診療に従事してきたが,今日のような診療体系ができあがるなどとは考えることはできなかった.
当時の上部消化管の診断はバリウム検査が主体であり,内視鏡検査がようやく芽吹いてきたところであった.先端カメラで視野が狭く,ファイバー繊維を通して観察するため,直視で診断することは難しく,カメラで撮った写真を皆で検討し,診断をつけていた.この時代,胃の生理学的研究をするなどほとんど考えられなかった.研究テーマとしては画像診断と病理しかなかったので,科学とは無縁の世界であると半ば公然と言われていた.確かに当時,胃潰瘍にしても,いくら薬を飲ませても本当に治らなかった.3割ぐらいは外科に回さざるを得なかったのである.
ところが,その後の20年で事情は一変する.酸分泌機構が明らかになり, H2ブロッカーやPPIが開発されて胃潰瘍は治る病気になった.さらには,原因としてのピロリ菌が発見され,その除菌によって胃潰瘍は完治する病気になったのである.シメチジンを発見したBlackとピロリ菌を発見したMarshallとWarrenはそれぞれノーベル賞を受賞した.研究不毛の地と言われた上部消化管の世界から2つものノーベル賞が出たのである.
木下先生が専門編集された『食道・胃・十二指腸の診療アップデート』を読ませていただくと,この数十年間の消化器病学の進歩がよくわかる.診断が容易につくようになり,病態生理を加味した的確な治療も行えるようになってきた.本書を読んで診療に従事できる若い医師たちは幸せであると思うとともに,一つひとつの疾患の診断,治療に苦労してきた先人たちの足跡も多少は思い出してほしいと思っている.
本書は上部消化管疾患に興味のある方全員にお勧めしたい良書である.

癌診療指針のための病理診断プラクティス 食道癌・胃癌

癌診療指針のための病理診断プラクティス 食道癌・胃癌 published on

画像診断,免疫組織化学などが普及した今日,時宜を得た書

胃と腸 Vol.47 No.9(2012年8月号) 書評より

評者:恒吉正澄(福岡山王病院病理診断科病理部長・検査部長)

本シリーズの総編集を担当する青笹克之先生はユニークな感覚をもって人体病理学に取り組んでいる病理学者である.青笹先生の提唱されたPAL(pyothorax-associated lymphoma 膿胸に随伴する悪性リンパ腫)は慢性の肺疾患である肺結核に伴う悪性リンパ腫で,1例を丹念に解析された後に,長年の忍耐強い疫学調査を基盤に解明されたものである.1例1例の診断の重要さを物語っている.
この「病理診断プラクティス」の各シリーズは臓器別に取り扱われ,写真,シェーマ,図・表を駆使した実践的なアトラスの面と,各疾患を系統的に解説する教科書的な面を併せ持つ力作である.写真は大半が光学顕微鏡のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色の組織像であるが,X線写真,内視鏡写真,肉眼写真なども積極的に取り入れ,また随所に免疫組織化学写真も加えられている.
医学・医療の高度化に伴い専門化が進み,各領域の専門性が要請されるが,大局的に物事の全体を把握することも必要である.病理組織診断は治療方針の決定に大きく関与する.本書は病理診断医が腫瘍の診断の現場で最も知識・情報が必要とされるテーマについて,その道のエキスパートが診断の真髄を披露し,明日からすぐに診断の役に立つシリーズを目指して企画されたものである.

病変を臓器別に配列
本シリーズは臓器別にまとめてあり,診断に到達するまでに必要な経緯として,「病理診断の流れ」,「診断のための基礎知識」,臨床医も加わり,写真とシェーマを豊富に用いた「診断のポイント」,「鑑別診断のフローチャート」が簡明に記載され,「臨床所見」,「病理所見」,「悪性度,予後」,「鑑別診断」などの項目に沿って,読みやすく整理されており,判りやすい.また,重要な項目は特に詳細に記述され,読者への配慮が感ぜられる.

類似疾患について理路整然と鑑別
本書では癌の診断に到達するのに臨床像,X線像,組織像,免疫組織化学所見を総合した判断が大切なことが強調されている.その一つとして,鑑別診断の項目に力点が置かれ,類似疾患について図表を駆使して理路整然と鑑別されている.この点は本書の一つの特徴であり,実践的参考書としての意義が大きいと思われる.

臨床医,若手病理医にも有用
本書は病理診断に携わる病理専門医のみならず,若手病理医さらに臨床医にも有用な参考書になると考えられる.実例を肉眼と組織のカラー写真にまとめて掲載し,また最後の章では実際の症例呈示により読者の興味が一層喚起される工夫がなされている.本書はやや厚めの書ではあるが,うまく利用すればpractical guideとして有用であり,また画像診断,免疫組織化学などが普及した今日,まことに時宜を得た書であると思う.

私事にわたって恐縮であるが,1985年,米国ニューヨーク市の留学先で骨腫瘍の世界的権威者Dorfman教授の言葉が印象深い.「大きなシリーズの例をまとめた論文も大切だが,未だ十分認識されていない数例を克明に解析した論文は貴重な価値がある.」診断病理医を志向している私は改めて一例一例の病理診断の重要さを諭され,その後,一年間近く,世界各地から送られてくるコンサルテーション例をディスカッション顕微鏡で同教授の指導の下,全例検鏡できた.

現在,一線病院の病理診断科の一人常勤病理医として臨床医と連携してチーム医療に携わっている中で,一例一例の病理診断の大切さを身を持って感じている.