胃と腸 53巻1号(2018年1月号)「書評」より

評者:菅野健太郎(自治医科大学)

私自身のことで恐縮であるが消化器内科を志す大きな動機となったのは,患者さんが多いこととともに,2重造影法や内視鏡によって自らの手で診断できるということにあった.現在では,CTやMRIなどの画像診断は主に放射線科が担っているが,内視鏡をはじめとする画像診断の魅力が消化器内科を志す大きな磁力として働いていることは間違いないであろう.現在,内視鏡や超音波は単に診断ではなく治療にも拡大し,わが国の消化器内科医の技能は名実ともに世界をリードしているといっても過言ではない.
このたび下瀬川徹教授監修のもとに東北大学諸氏の総力を結集してまとめられた消化器画像診断アトラスは,美しい画像が豊富であることは無論,各疾患に対し疾患の概要,典型的な画像所見とその成り立ち,確定診断へのプロセス,治療について簡潔かつ要を得た記述と必要最小限の文献が記載されており,これまでに例のない,まさに圧巻の絢爛たる画像アトラスである.
下瀬川教授は大学では副学長,医学部長,病院長という要職を歴任される一方,日本消化器病学会理事長として学会を指導されてこられたのであるが,東北大学第三内科学教室からの伝統を受け継ぎ,個々の症例を大切にし,その基本情報としての画像診断の水準を高める不断の努力を積み重ねられてきたことが紙背の随所に窺うことができ,改めて深く敬意を表したい.画像アトラスという表題でありながら,本書の内容が画像の羅列にとどまらず奥行きや深さが感じられるのは,大切に蓄えられてきた個々の症例の画像から優れた物語が紡ぎだされているからではないだろうか.すなわち本書の画像アトラスは,単に美麗な画像を収集しているのではなく,その疾患がどのように成り立ち,それが形態変化としてどのように表現されるのかについて各執筆者が真剣に向き合ってきた姿を彷彿させられ,画像を提供していただいた患者さんの生活史や担当医との対話などにも読者の想像を誘うのである.もちろん,東北大学消化器内科では,形態変化の背後にある分子レベルの異常にも踏み込んだ優れた研究を行ってきているが,本書ではその詳細についてはきわめて限定的な記述にとどまっており,これは本書の焦点を絞るための抑制的な配慮と思われる.
本書はわが国の消化器画像診断の到達点を示すマイルストーンとして,初学者から熟達者まで幅広い読者に自信を持って勧められるアトラスであるが,できれば英文出版して世界にも発信していただきたいと願うのは高望みであろうか.


内科 121巻1号(2018年1月号)「BOOK Review」より

評者:田尻久雄(日本消化器内視鏡学会理事長)

この度,『消化器画像診断アトラス』(監修:下瀬川徹教授,編集:小池智幸先生,遠藤克哉先生,井上淳先生,正宗淳先生)が,中山書店から刊行された.上部・下部消化管だけでなく,肝胆膵を含めた消化器領域全般の典型的画像所見を網羅したアトラスである.
本書の特徴は,主要な疾患の様々な画像診断の高品質画像(内視鏡,US,CT,MRI, PET,EUS,ERCP,病理所見等)が豊富に収載されていること,疾患ごとに「概要」「典型的な画像所見とその成り立ち」「確定診断へのプロセス」「治療」の要点が簡潔に解説されていることである.初めて本書を手にとり,非腫瘍性疾患,腫瘍性疾患と臓器別に整理されている項目を1頁毎に開いて読み進みながら,“日を瞠るような鮮明な画像”が“十分な大きさで配列されている”ことに驚きとともに感銘を受けた.
「典型的な画像所見とその成り立ち」では,所見の特徴の解説中に図番号を明示し,画像上見えている病変の形態の形成機序について言及されている点は,監修された下瀬川徹教授の画像診断を通じて消化器病学研究にかける真摯な姿勢と基本哲学を示すものである.
「確定診断へのプロセス」では,鑑別診断の手順とポイントをわかりやすく具体的に解説されており,読者がそれぞれの疾患に深い関心をもたれると思われる.さらに随所に最新の診断基準,治療指針も解説されているので,診療の合間に役立つような工夫がされている.
参考文献は,国内外の必要不可欠な文献が精選されていることも日常診療で忙しい若い先生方に親切な配慮である.本書は,全体をとおして消化器内科,消化器外科を選択する研修医にとって疾患の正しい理解と診断・治療に至るプロセスが理解できるように簡潔にまとめられており,指導医の先生方が実際に教えていく時に役に立つポイントもよく整理されている.
下瀬川徹教授率いる東北大学消化器内科ならびに東北大学関連病院の先生方の総力を結集した大作であり,長く歴史に残る名著になることは間違いない.これから消化器病学,消化器内視鏡学を目指す若い先生のみならず,指導施設で若い先生を教える立場にある先生や実地医家の先生の日常診療に即役立つものと考えている.是非とも座右に具えていただき,適宜参照していただきたい.