がん看護 Vol.25 No.6(2020年7・8月号)「BOOK」より
評者:足利幸乃(元 日本看護協会神戸研修センター)
学びの質は,どの本をテキストに用いるかによって大きく影響される.優れたテキストをインプットすることは,コンピューターに operating system (OS) をインストールすることに似ている.OSなしではコンピューターが動かないように,優れたテキストのインプットなしでは,効果的に知識を積み重ね,ケアに応用できるまで理解できない.優れたテキストには共通点がある.第一にターゲットとする読者が明確で目次がよくできていること,第二に編者・執筆者が分野に精通していること,第三に冊数や版を重ねていることである.
本書は,がん化学療法を受ける患者のケアにかかわる看護師にとって,これら3点を満たすテキストである.タイトルが示すように,こういうときにはこうするといったハウツー本ではなく,ケアをガイドする考え方と根拠となる知識について書かれた本である.初版が刊行された2007年は,がん化学療法の臨床試験や標準治療が確立した時期にあたり,がん化学療法の標準治療に伴う標準看護のテキストとして多くの読者の支持を得た.それから10年あまり,抗がん薬の種類や投与方法,患者ニーズは多様化の一途をたどっており,治療と療養の場は病棟から外来・在宅に移行した.
これらの変化を反映して,第3版には「AYA世代の患者に対するケア」「分子標的治療薬の新たな副作用」等の新しい項が設けられ,7章「外来がん化学療法における看護」の構成が一新されている.6章までの内容は,治療・療養の場に関係なく必要な共通の考え方と知識であり,7章は,思い切って外来がん化学療法の課題に絞った内容となっている.
読者は本書をテキストにして執筆者からがん化学療法看護を教わっていると見立て,自身の実践と関連性のある部分,関心や問題意識と関連のある部分から読み始めてみてはどうだろうか.初版からの読者にとってはがん化学療法看護のOSの更新,第3版が初めての購入となる読者にとっては最新OSの設定として機能することを願っている.