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ENT臨床フロンティア 実戦的耳鼻咽喉科検査法

ENT臨床フロンティア 実戦的耳鼻咽喉科検査法 published on

まさに実戦的な仕様になった書籍

耳鼻咽喉科・頭頸部外科 Vol.84 No.10(2012年9月号) 書評より

評者:高橋姿(新潟大学医学部耳鼻咽喉科教室教授)

本書『実戦的耳鼻咽喉科検査法』は,タイトルが示す通りの,まさに実戦的な仕様になった書籍である。一口に耳鼻咽喉科検査法と言っても,耳鼻咽喉科・頭頸部外科で扱う臓器・組織は多彩であり,聴覚・平衡・嗅覚の感覚器から鼻腔・咽頭の呼吸器,口腔・咽頭・喉頭・気管へ続く消化器がある。さらには顔面神経,三叉神経,舌咽・舌下神経などの脳神経,唾液腺や甲状腺ならびに頸部の疾患も対象となる。それらのすべての領域の検査法を網羅した成書は多数あるが,非常に厚くて重いものや,分冊となって取り扱いも不便であり,多忙な日常診療にあっては実用的な書物とは言い難い。
専門編集者の小林俊光教授は,「序」において,「超多忙な耳鼻咽喉科開業医や第一線の勤務医の先生方に役立つ」ために,「①手間暇がかからず,②大がかりな装備を必要とせず,③被験者の負担も少ない検査法に重点を」置いたと記している。その結果,数多の検査法の中から絞り込まれた項目が,従来とは異なる序列に記載されることになったと思われる。検査法の選択には,単に臨床現場での使用頻度だけでなく,鑑別診断における重要性も加味されている。
気づいた点を列挙する。まず,第1章がCT,MRIの画像診断から始まり,複雑といわれる耳鼻咽喉科領域の正常解剖を解説している。次いでX線検査,さらに内視鏡診断に続く。また,内視鏡診断では「良性疾患,とくに小児における利用法」として,検査時に協力が得られづらい,正確な所見を取るのが困難な小児の内視鏡検査法を単独に取り上げている。
耳管機能検査の良否は,鼓室形成術の成否を左右するほど重要である。しかし,従来はそれほど大きく扱われることはなかった。本書では,鼓膜形成術の術前検査としての耳管機能検査を詳しく解説し,耳科手術への適応の考え方を具体的に述べている。
第5章の聴覚機能では,古典的な音叉による検査法も取り上げ,その意義を改めて解説している。また,従来は開業医があまり行っていないOAE,ABR,ASSR,アブミ骨筋反射検査の他覚的聴力検査を取り上げ,その実施を促している。耳鳴検査法では検査法のみならず,TRTなどの治療法まで言及している。また,検査法の説明だけでなく,検査法の組み合わせによる感音難聴の鑑別診断法も興味深い。
第10章の「呼吸機能をみる」では,耳鼻咽喉科固有の鼻腔通気度,睡眠時呼吸障害に加えて,主に内科医が扱う呼吸機能検査も取り上げ,上気道から下気道まで気道全体の呼吸機能の理解を促している。
それぞれの項目ごとに,単に検査法の記載に留まらず,検査の結果得られる異常所見の読み方,鑑別疾患,さらには治療法にまで言及していてきめ細かい。どの項目でもイラストや写真が多用されていてわかりやすい。さらに,欄外にその項のまとめや豆知識といった一言メモがあり,読む者の理解を助ける工夫が随所にある。まさに実戦的である。
さらに,本書においてはいろいろなところにコラムやアドバイスの記事が書かれていて,それが非常に有用である。コラムでは,新しい疾患概念(auditory neuropathy)や検査(ASSRを理解する),検査機器紹介(知っておきたいオプションのめまい検査法),診療のコツ(機能性難聴の検査と心因性難聴診断のコツ)などが,わかりやすい読み物として掲載されている。これらのアドバイスやコラムを,診療時間外に,時間に余裕ができた時に拾い読みすることで,耳鼻咽喉科検査法の最新情報を知ることができる。日常臨床における知識が広がることは必至である。
最後に,付録として「患者への説明用イラスト集」があり,患者さんに理解しやすい図が多数掲載されている。検査結果の説明の際に,ここにあるイラストをコピーし,説明内容を追記しながら説明に用いれば,患者さんへのインフォームドコンセントの助けになり,良質な医療の実践にもつながる。
多くの耳鼻咽喉科専門医に本書の活用をお奨めしたい。


体系化された教科書よりも実践的で、多忙な臨床医でも読みやすい

全医協連ニュース(JMC NEWS) No.125 蒼翠号(2012年7月号) 書籍紹介より

浦野正美(浦野耳鼻咽喉科医院理事長)

このたび、中山書店から《ENT臨床フロンティア》シリーズが刊行されました。この企画は耳鼻咽喉科の日常診療に直結するテーマに絞った、全10巻のユニークなシリーズです。従来の体系化された教科書よりも実践的で、多忙な臨床医でも読みやすく、日常診療の中で本当に必要と考えられる項目のみが、わかりやすく解説されています。今回、『耳鼻咽喉科の外来処置・外来小手術』、『実戦的耳鼻咽喉科検査法』の2冊が同時に出ています。
『耳鼻咽喉科の外来処置・外来小手術』では、耳鼻咽喉科の一般的な診療所で行われる外来処置・小手術にテーマを絞り、第一線ですぐに役立つよう実践的・実用的に解説してあります。各手技の要諦を簡潔に示し、かつ写真やイラストレーションを豊富に用い、視覚的に理解しやすい構成となっています。巻末にはインフォームドコンセントに際して利用できる説明文例やイラスト集も収載されています。ベテラン専門医の座右の書となるとともに、これから耳鼻咽喉科専門医をめざす研修医にも大いに役立つ技術指南書になるものと思います。
また『実戦的耳鼻咽喉科検査法』では、超多忙な耳鼻咽喉科医が時間をかけずに正しく診断して、最適な治療方針を決定するための検査法を厳選して解説してあります。大がかりな装備を必要とせず、被検者の負担も少ない検査法を実戦的に使いこなすための1冊です。
この《ENT臨床フロンティア》シリーズは、ほぼ2~3か月に1冊のペースで刊行される予定です。全10冊をまとめて予約すると予価の10%引きになる特典もありますので、ぜひ、ご一読ください。

15レクチャーシリーズ リハビリテーションテキスト  リハビリテーション統計学

15レクチャーシリーズ リハビリテーションテキスト  リハビリテーション統計学 published on

複雑な統計手法を,数字を使わずに驚くほど簡単に,そして鮮やかに説明

理学療法 Vol.32 No.4(2015年4月号) 本の紹介より

書評者:大渕修一(東京都健康長寿医療センター研究所)

統計を自在に操ることは専門職にとって大変なあこがれです.しかし,そこに立ちはだかるのが数学の壁です.半ば,諦めがちな人も多いと思います.この本があれば諦める必要はありません.
数学が苦手な人が理解できるように,数字をできるだけ使わずに書かれているところが本書の特徴です.たとえば,標準偏差と標準誤差の違いは多くの初学者の落とし穴ですが,本書では,標準偏差は“データのばらつき”,標準誤差は“平均のばらつき”と一刀両断です.説明には全く数式が出てきません.しかし統計を使い分ける観点では,これさえわかれば十分です.もし一つ一つのデータのばらつきをみたいのであれば標準偏差を使えばいいのですし,グループ同士の比較をしたいのであれば標準誤差を使えばいいことがたちどころに理解できます.一事が万事,この本は複雑な統計手法を,数字を使わずに驚くほど簡単に,そして鮮やかに説明しています.
とはいえ変数の尺度の問題をはしょってしまってはとても皆さんにお勧めできません.たとえば,リンゴが好きを1として,普通を2,嫌いを3として,グループの平均をとっても何も意味をなさないことは理解できると思います.しかし,表計算ソフトを使ってコード化して集計をするとわかっていても平均をとったり,百分率で示したりする間違いを犯してしまいます.このような誤用を防ぐために尺度の問題についてはしっかりと理解しなければなりません.
それというのも変数がどのような尺度なのかは臨床家しかわかり得ないからなのです.たとえばブルンストロームステージがどのようなものかわからなければどんなに凄腕の統計学者であってもどんな統計手法を使ったらいいのか皆目見当がつきません.統計学者がポイントにしているのは,内科学の本に書いてあるブルンストロームステージの性質ではなくて,名前のようなものなのか,順番がついているようなものなのか,足し算して意味をなすようなものなのか,割り算して意味をなすようなものなのかなのです.この点を本書は臨床家の視点に立って十分な紙幅を割いて説明しています.
このように本書は臨床家が統計手法を使い分けるために必要な事柄が,過不足なく収められています.この本で統計学者になることはできませんが,よい統計の利用者になることはできるでしょう.

15レクチャーシリーズ 理学療法・作業療法テキスト 運動学

15レクチャーシリーズ 理学療法・作業療法テキスト 運動学 published on

教員にとっても学生にとっても大変使いやすいテキスト

理学療法 Vol.30 No.4(2013年4月号) 本の紹介より

評者:高柳清美(埼玉県立大学)

改めて述べるまでもなく,運動学は,生理学や解剖学と並び,理学療法・作業療法の根幹となる学問の一つであり,さらに言えば,これこそが理学療法・作業療法のアイデンティティとも言える重要な学問である.本邦では,中村隆一先生らが記された「基礎運動学」は古くから名著として教科書に重用されている.しかし,すべての内容を限られた15回の講義で網羅し,解りやすく教授することは困難である.

小島悟氏は運動学の学問領域すべてを15回で網羅するには難しいところを,「15レクチャーシリーズ 理学療法・作業療法テキスト運動学」において,とりわけ重要と思われる15のテーマに紋り,それぞれを1回の講義の内容として展開している.学生が効率良く学べるよう配慮して構成されているところは見事である.各章の冒頭には,到達目標に加えて事前学習,事後学習のための情報が記されており,学生の予習・復習を促しやすい.また,各ページの欄外に「MEMO」や「試してみよう」といった小見出しが付けられ,重ねて強調すべき重要な点や,単なる知識としてだけでなく自らの体験として学べるような実験・実技が紹介されており,学びにメリハリが付くように工夫されている.これらは,学生の主体的な学びの助けとなるだろう.
全体を見渡してみると,解剖学に基づいた身体構造に関する記載の割合が高く,多少偏っている感はあるが,大多教の理学療法・作業療法の学生がそうであるように.臨床に従事するにあたって必要とされる知識として構成されていると思われる.本書はあくまでも理学療法・作業療法教育に主眼が置かれ,理解しやすい構成の内容となっている.理学療法・作業療法の発展に寄与するような,将来,運動学領域での研究活動を志すものにとっては,別途,参考書が必要であろう.なお,実習に即した内容は,後日発刊される『運動学実習』『臨床運動学』で扱われると聞く.どちらにしても,本書を用いて講義を行う教員が,ここに記された範囲外にも大きく広がる運動学の学問領域について正しく理解し,適切に用いることができれば,教員にとっても学生にとっても大変使いやすいテキストであると思われる.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 物理療法学・実習

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 物理療法学・実習 published on

理学療法士を目指す学生には授業要覧となり,教員には指導要領となる

理学療法 Vol.31 No.5(2014年5月号) 本の紹介

書評者:杉元雅晴(神戸学院大学総合リハビリテーション学部)

物理療法の治療目的は,「疼痛の管理」「創傷の管理」「神経・筋協調性運動の誘発」などに限定されています.とはいえ,必須専門科目である物理療法学を教えるには,多岐にわたる物理療法手段や物理学を根底にした生体作用メカニズムを理解しておく必要があります.また,理学療法が運動療法に偏重しているため,教育現場では物理療法学を教える教員が不足しています.すべての物理療法手段を教授する教員も少なく,物理療法手段別にオムニバス形式での授業も多くなっています.そのときには,重複と漏れがないように講義計画を構成しなければなりません.このテキストは,専門分野以外の物理療法手段を教える場合にも,漏れなく一定水準の知識を教授できるように構成されています.
一般的に,講義「物理療法学」は,2単位(1単位;15時間)で授業が組まれていることが多いようです.このテキストは教授内容を15回に配分していますので,講義計画を立てやすいと思います.冒頭にはシラバスとして,学習主題,学習目標(講義・実習),学習項目に分けて記載されており,教授計画を立てる時に重宝するでしょう.さらに,各レクチャーの冒頭に,「到達目標」「講義を理解するための復習事項」「講義を終えての確認事項」が設定されており,1つの講義内で確実に理解させる工夫がされています.ただ,項目ごとに簡潔に表現されていますので,教員による資料や物理療法分野の専門書で補充する必要があります.
最近では,文系の学生が理学療法を志望してきています.このテキストは,文系の学生にも物理療法に興味をもってもらい,理解してもらえるように,親しみやすい言葉で簡潔にまとめられています.さらに,各物理療法手段の巻末には,治療手段の理解を深められるように「物理療法学実習」が組み込まれています.学生に課題を考えさせ,実習を遂行するときには教員が必須事項を補う必要はありますが,物理療法機器の使用手順だけではなく,刺激条件を考えて実習課題をまとめる工程が含まれ,授業のヒントに活用できそうです.
このテキストは,物理療法学の講義の教育方針や各回の学習内容をまとめ,授業計画を立てる時のナビゲーターとなる書籍であります.理学療法士を目指す学生には授業要覧となり,教員には指導要領となるでしょう.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 神経障害理学療法学 II

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 神経障害理学療法学 II published on

神経障害理学療法に力を入れたい,という編者および著者のメッセージが伝わってくるテキスト

理学療法 Vol.29 No.6(2012年6月号) 本の紹介より

評者:吉尾雅春(千里リハビリテーション病院 副院長・理学療法士)

大畑光司・玉木彰両氏責任編集による理学療法テキスト「神経障害理学療法学IおよびII」を拝読した.脳を中心とした中枢神経系の構造と機能および脳損傷による病態と回復のシステムを解説し,脳血管障害の評価と理学療法をはじめ,パーキンソン病,運動失調,頭部外傷,脳腫瘍,多発性硬化症,筋萎縮性側索硬化症の病態と理学療法のあり方について解説されている.
まず15回あるいは30回開講される講義をイメージしたシラバスを冒頭に配し,それぞれの単元で学習の主題や目標,項目を明らかにすることによって,難解な神経障害の領域に連続性を持たせて学習者の理解を助けている.それぞれのレクチャーにおいてもそれらを学ぶ意義や復習しておくべきことを示し,最後に試験を通して学習を導いている.
できるだけ根拠に基づいた解説を心がけたテキストであるという印象を受けた.特に脳卒中治療ガイドライン2009における判定を真摯に受け止めた内容になっている.また,世界的動向であるICFに基づく評価を模索しているのも特徴のひとつで,未完成ながらも今後の中枢神経障害領域の評価のあり方について方向性を示している.これらの取り組みは教科書としては当然のことであるが,理学療法の歴史がそれを許してくれない現実があった.いい意味で世代が交代してきている証しなのかもしれない.
それぞれの講義の内容・深度に温度差があるのが少々気になるが,理学療法士としての専門性をしっかり示すために,神経障害理学療法に力を入れたい,という編者および著者のメッセージが伝わってくるテキストである.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 神経障害理学療法学 I

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 神経障害理学療法学 I published on

神経障害理学療法に力を入れたい,という編者および著者のメッセージが伝わってくるテキスト

理学療法 Vol.29 No.6(2012年6月号) 本の紹介より

評者:吉尾雅春(千里リハビリテーション病院 副院長・理学療法士)

大畑光司・玉木彰両氏責任編集による理学療法テキスト「神経障害理学療法学IおよびII」を拝読した.脳を中心とした中枢神経系の構造と機能および脳損傷による病態と回復のシステムを解説し,脳血管障害の評価と理学療法をはじめ,パーキンソン病,運動失調,頭部外傷,脳腫瘍,多発性硬化症,筋萎縮性側索硬化症の病態と理学療法のあり方について解説されている.
まず15回あるいは30回開講される講義をイメージしたシラバスを冒頭に配し,それぞれの単元で学習の主題や目標,項目を明らかにすることによって,難解な神経障害の領域に連続性を持たせて学習者の理解を助けている.それぞれのレクチャーにおいてもそれらを学ぶ意義や復習しておくべきことを示し,最後に試験を通して学習を導いている.
できるだけ根拠に基づいた解説を心がけたテキストであるという印象を受けた.特に脳卒中治療ガイドライン2009における判定を真摯に受け止めた内容になっている.また,世界的動向であるICFに基づく評価を模索しているのも特徴のひとつで,未完成ながらも今後の中枢神経障害領域の評価のあり方について方向性を示している.これらの取り組みは教科書としては当然のことであるが,理学療法の歴史がそれを許してくれない現実があった.いい意味で世代が交代してきている証しなのかもしれない.
それぞれの講義の内容・深度に温度差があるのが少々気になるが,理学療法士としての専門性をしっかり示すために,神経障害理学療法に力を入れたい,という編者および著者のメッセージが伝わってくるテキストである.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 運動療法学

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 運動療法学 published on

実に飽きさせないつくりになっている

理学療法ジャーナル Vol.49 No.2(2015年2月号) 書評より

書評者:高橋仁美(市立秋田総合病院リハビリテーション科)

好評教科書である中山書店の「15レクチャーシリーズ」から「運動療法学」が発刊された.運動療法は,疾病に侵されたものや障害を受けたものに対して,運動という手段を科学的に適用させる治療法であり,理学療法の中核として位置づけられる.理学療法士にとってはまさに治療の要となるわけだが,そのような意味からも本シリーズ待望の書と言える.
本書の最大の特徴は,運動療法を行ううえで必要な知識と技術を15回の講義で基礎から臨床まで深く理解できるようにまとめられている点である.学生はもちろんだが,教員にとっても非常に有用な教科書である.内容をみると,運動療法の基礎・リスク管理,そしてコンディショニング(全身調整)のための手段を最初に取り上げてから,関節可動域制限,筋機能障害,協調運動障害(運動失調とバランス機能障害)のそれぞれに対する運動療法,さらに基本動作能力・歩行能力再獲得と全身持久力改善のための運動療法が解説されており,背景となる基本的な理論と実際の介入方法をわかりやすく学ぶことできる.
意外であったのは,各論部分にあたるいわゆる疾患別の項である.感覚機能障害,がん,腎機能障害,熱傷,産科領域,高齢者,健康増進分野を対象としており,診療報酬体系の疾患別リハビリテーション料にある心大血管疾患,脳血管疾患等,運動器疾患,呼吸器疾患といった代表疾患については触れられていないことであった.しかし,この疑問は15レクチャーシリーズの他のテキストを参照することで理解できた.これらの代表疾患を含め理学療法の対象となる疾患の運動療法については,このシリーズの別のテキストで十分に記されているのである.15レクチャーシリーズは,限られた時間のなかで理学療法を効率的に教育できるよう工夫され,非常によくバランスがとれており,総編集の石川先生や責任編集の解良先生,そして玉木先生によるこのような着想力は流石であると感じた.
学生になった気分であらためて本書をじっくり拝読すると,実に飽きさせないつくりになっていると感じた.「図・写真・表」のほか,「MEMO」,「ここがポイント」,「覚えよう」,「気をつけよう」,「調べてみよう」などを欄外に入れることで,理解度を深めながら集中力が持続するように配慮されている.また,最初に到達目標,講義を理解するために必要なこと,講義後に確認することが明記されており,学生にとってはレクチャーごとに何を学ぶべきかが明確になっている.さらに,少し雑学的な要素も入った「Step up」や国家試験の備えにもなる「TEST試験」もうれしい.
本書によって,理学療法学の中心である運動療法学の講義を効率的に進めることができるものと確信する.このテキストは,学生の心をつかむことができる良書である.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 運動器障害理学療法学 II

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 運動器障害理学療法学 II published on

教育の本質をよく理解した執筆・編集陣によって完成度の高い内容にまとまっている

理学療法ジャーナル Vol.46 No.3(2012年3月号) 書評より

評者:内山靖(名古屋大学医学部保健学科)

わが国の理学療法士免許登録者は9万人を超え,理学療法士養成課程の一学年総定員数は18歳人口のおよそ1%を占めるに至っている.理学療法士の増加に伴い医学書に占める理学療法関連の書籍はここ10年で急増し,最近ではさまざまな特色を打ち出したシリーズ書も続々と発刊されている.

このような時流において,伝統ある医学書籍の出版社である中山書店から「15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト」が発刊されたことは誠に喜ばしい.本シリーズは,タイトルからも明らかなように,15コマで構成される講義形式に則った学生を読者対象に特化したものである.そのコンセプトに基づき,冒頭にはシラバスとともに流れがつかみやすい丁寧な目次が掲載され,本文には豊富な図表が取り入れられている.

今回紹介する運動器障害理学療法学は,IとIIの2冊に分けて30章で構成されている.特筆すべきは,講義と実技を連続した章として扱い,学生は病態を予め学んだうえで科学的背景に基づいた理学療法の評価と治療を一連の過程で学べるように工夫されている点である.実技の章では,実際の対象者や忠実なモデルによる写真が満載で,効率的かつ効果的な学習が展開されるように配慮されている.しかも,総分量を抑えた短文で表記されていながら,内容は基本に忠実で精選されている.ともすると,このくらいは分かっていてほしいという教員の願望から,内容が多岐にわたりかえって学習到達度を下げてしまうことがあるが,本書は教育の本質をよく理解した執筆・編集陣によって完成度の高い内容にまとまっている.まさに,学生主体のテキストであり,若手の教員への力強い教本ともいえるだろう.また,執筆は責任編集者と意思疎通がとれ認識を共有できる関係にある数人に限定されているため,全体の整合性が高く,細部にわたる統一感は学習者にとって理解を促す要素となる.

評者の役割としてあえて課題を提示するとしたら,運動器や運動器障害理学療法の枠組みや特徴について,明確に解説する総論部が見当たらないことである.15章の後にある試験のcomment欄で,運動器疾患について学んだ内容はすべての対象者に接するうえで生かすことができること,運動器疾患の理学療法は比較的理解しやすくほかの基本となる内容が数多く含まれていることが記載されているので,その具体的な内容を冒頭で記してあれば学生の学習意欲と理解が一層高まるものだろう.また,全項目を理学療法士のみで執筆することが最善かどうかは意見が分かれるところである.

いずれにしても本書は,これまでわが国で出版された学生を対象としたテキストのよい部分を存分に取り入れ,後発ゆえの利点を最大限に生かした所作である.教科書としてだけでなく,専門学校の学生はもとより大学生の自己学習書として,また,臨床学習でも大いに活用できる書籍として自信をもってお奨めしたい.

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 運動器障害理学療法学 I

15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 運動器障害理学療法学 I published on

教育の本質をよく理解した執筆・編集陣によって完成度の高い内容にまとまっている

理学療法ジャーナル Vol.46 No.3(2012年3月号) 書評より

評者:内山靖(名古屋大学医学部保健学科)

わが国の理学療法士免許登録者は9万人を超え,理学療法士養成課程の一学年総定員数は18歳人口のおよそ1%を占めるに至っている.理学療法士の増加に伴い医学書に占める理学療法関連の書籍はここ10年で急増し,最近ではさまざまな特色を打ち出したシリーズ書も続々と発刊されている.

このような時流において,伝統ある医学書籍の出版社である中山書店から「15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト」が発刊されたことは誠に喜ばしい.本シリーズは,タイトルからも明らかなように,15コマで構成される講義形式に則った学生を読者対象に特化したものである.そのコンセプトに基づき,冒頭にはシラバスとともに流れがつかみやすい丁寧な目次が掲載され,本文には豊富な図表が取り入れられている.

今回紹介する運動器障害理学療法学は,IとIIの2冊に分けて30章で構成されている.特筆すべきは,講義と実技を連続した章として扱い,学生は病態を予め学んだうえで科学的背景に基づいた理学療法の評価と治療を一連の過程で学べるように工夫されている点である.実技の章では,実際の対象者や忠実なモデルによる写真が満載で,効率的かつ効果的な学習が展開されるように配慮されている.しかも,総分量を抑えた短文で表記されていながら,内容は基本に忠実で精選されている.ともすると,このくらいは分かっていてほしいという教員の願望から,内容が多岐にわたりかえって学習到達度を下げてしまうことがあるが,本書は教育の本質をよく理解した執筆・編集陣によって完成度の高い内容にまとまっている.まさに,学生主体のテキストであり,若手の教員への力強い教本ともいえるだろう.また,執筆は責任編集者と意思疎通がとれ認識を共有できる関係にある数人に限定されているため,全体の整合性が高く,細部にわたる統一感は学習者にとって理解を促す要素となる.

評者の役割としてあえて課題を提示するとしたら,運動器や運動器障害理学療法の枠組みや特徴について,明確に解説する総論部が見当たらないことである.15章の後にある試験のcomment欄で,運動器疾患について学んだ内容はすべての対象者に接するうえで生かすことができること,運動器疾患の理学療法は比較的理解しやすくほかの基本となる内容が数多く含まれていることが記載されているので,その具体的な内容を冒頭で記してあれば学生の学習意欲と理解が一層高まるものだろう.また,全項目を理学療法士のみで執筆することが最善かどうかは意見が分かれるところである.

いずれにしても本書は,これまでわが国で出版された学生を対象としたテキストのよい部分を存分に取り入れ,後発ゆえの利点を最大限に生かした所作である.教科書としてだけでなく,専門学校の学生はもとより大学生の自己学習書として,また,臨床学習でも大いに活用できる書籍として自信をもってお奨めしたい.