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耳・鼻・のどのプライマリケア

耳・鼻・のどのプライマリケア published on

これまでになかった新しい耳鼻咽喉科クリニカルトレンド

ENTONI No.166(2014年5月号) Book Review

書評者:黒野祐一(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学)

まさしく本書は“これまでになかった”耳鼻咽喉科外来診療の教則本であり,しかもその最先端が凝集されている.このことは,本書の執筆者が,実地医家でありながら現在国内外の学会で活躍し,数々の学会賞を受賞されている,今まさに時の人ともいえる佐藤公則先生であることから容易に想像できる.
本書の第1章には,まず「①耳鼻咽喉科外来診療に求められること」として,耳鼻咽喉科外来診療とくにオフィスサージャリーを行う際に留意すべきポイントが具体的に記されている.そして,これに続く第2章からは,②耳を診る,③鼻・副鼻腔を診る,④口腔・顎顔面を診る,⑤咽頭・喉頭を診る,⑥気管・食道・頸部を診る,⑦音声・言語を診るとして,それぞれの領域における代表的疾患の診断や保存的治療,さらに外科的治療の手技やコツが詳細に記されている.最近は大学病院など基幹病院でも外来手術が行われるようになり,また,多くのサージセンターが設置され,オフィスサージャリーが注目されている.しかし,その多くは複数の耳鼻咽喉科医で実施されており,一般の実地医家にはあまり関係が無いように思われるかもしれない.ところが,佐藤先生はただ一人でこれらすべての領域の診療そして手術を行い,本書に提示されている症例はいずれも先生の自験例である.それゆえに本書は大きな説得力を備えている.
本書の各論にも特色がある.たとえば,「デンタルインプラント治療に伴う上顎洞合併症に耳鼻咽喉科はどう対応するか」,「口腔粘膜疾患の診方・考え方」,「耳鼻咽喉科診療所における睡眠医療への取り組み」,「耳鼻咽喉科外来における音声治療への取り組み」等々,それぞれの専門書にはあっても,プライマリケア関連の書物ではほとんど取り扱われなかった事項である.その理由は,佐藤先生のクリニックが「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」だけでなく,同院の理事長であるお父様が歯科医であることから「歯科口腔外科」も標榜し,さらには「睡眠呼吸障害センター」と「ボイスセンター」を併設していることから納得できる.しかも,一般的な事柄に加えて,国内外の雑誌に掲載された先生ご自身の論文を引用した最新の情報も含まれ,非常に読み応えのある内容になっている.また,随所に鮮明な写真やイラストが挿入され,さらにアドバイス,コツ,メモ,ピットフォールなど著者のコメントが付記されており,とても理解しやすく,かつ楽しく読むことができる.
本書の「はじめに」に“医学と医術を研鑽する”というメッセージがあり,「鋭く観察し,深く思考し,洞察する努力をすることが医師としてのProfessional Careerの中で大切である」と記されている.基礎研究に今も携わっている佐藤先生の哲学をそこにみることができる.本書は単なる教則本ではなく,耳鼻咽喉科外来診療の新たなトレンドを示し,読者にもそれを実践する勇気を与えてくれるのではないか,そう予感させる一冊である.

動画でわかる呼吸リハビリテーション 第3版

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最近の呼吸リハビリテーションの知識と技術を網羅した,多くの読者のニーズに応える名著

理学療法ジャーナル Vol.47 No.3(2013年3月号) 書評より
評者:千住秀明(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)

本書は2006年8月に初版が出版されて以来,2012年11月までに3回の改訂と10回の増刷を行うなど,最近の呼吸リハビリテーションの知識と技術を網羅した,多くの読者のニーズに応える名著である.
内容は「第1章 呼吸リハビリテーションとは」「第2章 呼吸リハビリテーションに必要な呼吸器の知識」「第3章 呼吸リハビリテーションの進め方」「第4章 呼吸リハビリテーションに必要な評価」「第5章 呼吸リハビリテーションのプログラム」「第6章 呼吸リハビリテーションの実際」で章立てされ,執筆者は秋田大学を中心としているが,重要な章では臨床現場の第一線で活躍している諸先生方を配置するなど,情報の偏在を少なくする工夫がなされている.
本書の特徴は,①呼吸リハビリテーションを多角的・包括的に記載し,最近の知見によって呼吸リハビリテーションの科学的根拠を示すなど豊富な情報が満載されている,②各章が独立した内容で構成されているので,基本的事項から最新の知識まで,読者のニーズに応じて得ることができる,③DVDの動画が付いているので,呼吸リハビリテーションのサイエンス(科学的根拠)とアート(技術)をともに修得することができる,④臨床でよくみられる代表的な症例提示があるため,学生の臨床実習などで参考書としても活用しやすいことが挙げられる.
特に,第1章に記載されている「呼吸リハビリテーションの定義」では,米国呼吸器学会,欧州呼吸器学会が共同提案しAm J Respir Crit Care Med などで公開予定の新たな定義である「徹底した患者評価に基づいた包括的な医療介入である.続いて,運動療法,教育,行動変容だけでなく,患者個人個人に対してオーダーメイド治療を行い,慢性呼吸器疾患患者の心身状況を改善し,長期のアドヒアランスを増強する行動を促進しようとするものである」を採用していることなどは,著者らの呼吸リハビリテーションのより新しい情報を提示したいとの熱意が読み収れる特記すべき事項である.また,本書の内容には,秋田大学グループの長年の臨床研究によって培われた知識と技術が随所に活用され,本テキストが単なる情報の提供だけでなく,臨床的な知識と技術に裏付けされた確かな情報であること示している.
2012年11月の同時期に,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸器学会,日本リハビリテーション医学会,日本理学療法士協会の共同により『呼吸リハビリテーションマニュアル―運動療法』(照林社)の第2版が出版されたが,本書とともに呼吸リハビリテーション分野で学ぶ理学療法士に愛読され,呼吸リハビリテーションの普及・発展に寄与し呼吸器障害の患者さんの福音となることを願っている.

整形外科臨床パサージュ 1 腰痛クリニカルプラクティス

整形外科臨床パサージュ 1 腰痛クリニカルプラクティス published on

腰痛診断のアルゴリズムをフローチャートで示し、多彩な図表で分かりやすく解説

ベストナース、2010年11月号 「必見! 2010年秋のお薦め図書総覧」より抜粋

整形外科臨床パサージュ・シリーズ第1巻として出版された「腰痛クリニカルプラクティス」。中村耕三・東京大学大学院医学系研究科整形外科学教授が総編集、札幌医科大学の山下教授が専門編集しました。患者の症状から訴え、診断、治療法選択に至る考え方の道筋を分かりやすく示し、専門医を目指す若い医師、第一線で活躍する運動疾患診療の専門医の日常診療をサポートする実用書になっています。

「日本人に一番多い主訴である腰痛から、どのようなことが考えられるか。診断アルゴリズムをフローチャートで示す一方、図表などを多く取り入れて、分かりやすく解説しました」と特徴を語ります。

高齢者、青少年、小児・成長期の腰・下肢痛からどのような疾患を考えるか、身体所見のとり方、補助診断法、評価法、治療方針の決め方、治療の進め方、主な疾患の診断の進め方、腰・下肢痛をきたす非脊柱疾患、難知(ママ)性慢性下肢痛の病態と治療を記載。エビデンスベースに、アップトゥデートな最新知見・先端技術も盛り込んでいます。

腰痛患者への生活指導、腰痛の運動療法も若年者、中高齢者ごとに記述するなど、看護師も活用できる分かりやすい書籍になっています。

今後、膝痛、運動器画像診断、骨粗鬆症、手・肘痛、軟部腫瘍、下肢スポーツ外傷などが発刊予定です。

整形外科手術イラストレイテッド 脊髄の手術

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正確・実践的・美しい の3つの条件を満たした手術書

Orthopaedics Vol.27 No.6(2014年5月号) BookReview

書評者:德橋泰明(日本大学医学部整形外科学系整形外科学分野)

すばらしい脊髄手術の手術書が刊行されたので,ぜひ紹介したい.
本書は,馬場久敏教授が編集を担当し,各術式についてはエキスパートの先生方が執筆しています.常々,手術書には3つの条件が必要と考えています.一つには正確であること(解剖は正確でなくてはならない),一つには実践的であること(経験に基づいた術者の視点で描かれていること),最後に美しいこと(手術も手術書もfineでなくてはならない)です.本書がこの3条件を満足していることは衆目の一致するところでしょう.また,術者である読者が追記できる白紙のスベースが十分にあり,読者のメモや経験も追加できるように配慮されています.さらに本書では,手術のポイントの場面がDVDに収録されており,立体的な把握に非常に有用です.
しかも今回の手術群は,common diseaseでなく,頻度は少ないがエキスパートとして心して立ち向かわなければならない比較的難度が高く,ハイリスクの手術が多く含まれています.私事ですが,整形外科教室に入局して間もない頃に,明日予定の脊髄腫瘍手術の手術書を医局で開いて予習していたときに先輩から「教授がするような,そんな一生,術者にならないような手術を勉強してどうするんだ.そんな暇があったら保険請求の勉強でもしとけ」と言われたことを思い出します.今になると確かに保険請求ももちろん大事になりましたが,その先輩も本書をみれば,もう少し違った意見を言うのではと思います.確かにすぐれた先人の手術書により私たちは育てていただきました.しかし,本書のようなすばらしい手術書により,よりfineな手術をより多くの方ができるようになり,多くの患者さんを救っていただきたいとつくづく思います.
一度書店でお目通しいただければ,この意味がご理解いただけると存じます.馬場久敏教授をはじめ,筆者の皆様,すばらしい手術書をありがとうございます.

整形外科手術イラストレイテッド 手関節・手指の手術

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イラストと動画による手外科専門医のためのスタンダードな手術書

Orthopaedics Vol.25 No.9(2012年8月号) BookReviewより

評者:牧 裕(一般財団法人新潟手の外科研究所理事長)

中山書店より,三浪明男先生編集の手外科手術手技に関する,綺麗なイラストレーションや写真と手術手技の動画DVDの付いた豪華なテキストが出版された.
手外科領域の手術の種類は多岐にわたり,一つの疾患に対して,いくつもの手術方法があることも稀ではない.本書では外傷,変性疾患,関節リウマチ,先天異常など幅広く,遭遇する頻度の高い手外科領域の疾患を中心に,局所解剖を基にしたアプローチ方法,手術手技の基本的なものが,それぞれの手術に熟達した著者により記述されている.
各手術のコツも書かれており,ある程度手術を経験してきた人にとってはなるほどと思え,手術の幅を拡げることに役立つだろう.しかし手術経験の乏しい人にとっては,この本を読んで,DVDを見たからといって簡単にその手術ができるわけではないだろう.DVDは簡潔に編集されており,その手術に慣れた著者らは,いとも簡単そうに手技をこなしているが,初心者にこの通りやれといっても無理がある.初心者や手術経験に乏しい人は,ベテランの先生方の手術をじっくり見学し,また指導医として助手に入ってもらい,経験を積むことが最も重要であり,その際,手術手順を予め頭の中で整理するための参考書として,この本は大いに役立つであろう.またコメディカルの方々にとってもDVDは手技の確認,道具の使い方の確認に役立つと思われる.ただ術者によって手技や使用する道具に多少の違いがあることを理解しておくべきである.
三浪先生によって編集されたこの本が多くの方々に利用されることを望む次第である.

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための体液・代謝・体温管理

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための体液・代謝・体温管理 published on

本書を読めば周術期輸液・輸血管理のエキスパートになることは間違いない

麻酔 Vol.64 No.3(2015年3月号) 書評より

書評者:山蔭道明(札幌医科大学教授)

私が麻酔科医として臨床研修を始めてからすでに25年が経過した。研修を開始したころの会話を紹介したい。

麻酔科医「明日手術ですので,夜9時を過ぎたら,飲んでも食べてもいけませんよ」
患者「先生,外科の先生から今朝から何も食べるなって言われて,もう下剤もたっぷり飲まされたよ(>___<)」
指導医「HES製剤は多く投与すると腎機能にも止血機能にもよくないから,アルブミンを投与しよう」

外科医「腸管が腫れて閉腹できないんだけど(`_´)」
麻酔科医「……(外科医がぐちゃぐちゃ腸をいじるからthird spaceが増えちゃったせいだよ)(-_-#)」

こんなことが日常行われていたように思う。
最近では,(1)周術期輸液管理法も含めた術後回復力強化プログラム(Enhanced Recovery After Surgery : ERAS(R) )に始まり,(2)目標指向型の輸液管理(GDFT)の概念の普及,(3)それを助けるモニター機器の発達,(4)種々の晶質液の開発,(5)改良版HES製剤の発売,(6)third spaceに対する新たな考え方,そして(7)血管透過性に重要なグリコカリックスの概念など,多くのエビデンスが蓄積され,周術期における輸液のあり方も変わってきたように思う。レミフェンタニルの臨床使用,さらには各種神経ブロックの臨床応用によって,ストレスを十分に抑え込んだ麻酔管理が可能となってきた。そうなると,われわれ麻酔科医もそのエビデンスに則った周術期輸液管理を施行し,患者の予後改善に寄与しなければならない。しかし,それを実践するには実に多くの論文や著書に触れなければならない。
そこで,満を持して発刊された本書を紹介したい。本書は,難しい概念である体液バランスの話を分かりやすく説明するところから始まり,ERAS (R)の概念とその実践,GDFTの概念と実際の方法を具体的に紹介している。本書の目的からすればこれで十分であると思うが,本書ではさらに具体的な輸液製剤の使用法について血液製剤も合めて紹介している。また私も“同種血輸血”完全否定者ではないが,どうせなら輸血しないで手術を終えたいと思う。今回の専門編集者である廣田先生も私と同じ考えで,同種血輸血を回避させる方法として自己血輸血の利点と,その具体的方法に十分なページを割いている。さらに輸液も関与する低体温によるシバリングに対しても多くのページを割いており,本書を読めば周術期輸液・輸血管理のエキスパートになることは間違いない。
最後に,もっとも本書の特徴といってもいい点として,手技や製剤の写真や模式図を多く掲載しており,理解しやすく読みやすい紙面となっている。特に図表などには見やすく分かりやすいように手が加えられており,出版社の意気込みが感じられる。このシリーズはこれで4 冊目となる。早々,研修医用にもう一冊購入した。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期の疼痛管理

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期の疼痛管理 published on

多色刷りで図や表が表現されており,非常に分かりやすく,見やすい

麻酔 Vol.63 No.6(2014年6月号) 書評

書評者:花岡一雄(JR東京総合病院名誉院長)

本書は《新戦略に基づく麻酔・周術期医学》シリーズの3冊目として刊行された最新刊である。木シリーズの監修は森田潔岡山大学学長,また,本書の専門編集者は川真田樹人信州大学教授であり,総執筆者60名,総ページ数320ページという熱意にあふれる本書が誕生したのは,2014年2月10日である。
本書を手に取ってまず目に付くのは,多色刷りで図や表が表現されており,非常に分かりやすく,見やすいことである。本書の構成は8章からなっている。
導入部分である第1章の周術期疼痛管理の現在の動向から始まり,第2章の手術に関連する痛みについては手術侵襲による痛み,創傷治癒過程における痛み,いわゆる術後痛,そして遷延性術後痛に分類して説明してある。第3章では,周術期の痛みを評価するために,術前からの評価,術中の評価,術後の評価に分けて解説してある。第4章では,周術期疼痛の有害作用として,循環系への作用,呼吸との相互作用,内分泌・代謝への作用,交感・副交感神経機能への作用,消化器系・泌尿器系への作用,中枢神経系への作用,免疫系への作用など,考えられるかぎりの有害作用について言及してある。
ここまで,周術期疼痛についての基礎的知識を整理したうえで,第5章では,いよいよ周術期疼痛管理の実際について各手術別で解説してある。心臓外科手術,呼吸器外科手術,上腹部手術,下腹部手術,整形外科手術などの主たる手術における周術期疼痛管理の実際と,特殊な領域としての小児,産科,高齢者を取り上げ,それぞれの特殊性について分かりやすく解説してある。第6章では,さらに具体的に周術期疼痛治療法に触れて,薬物としてオピオイド,消炎鎮痛薬,COX-2阻害薬,アセトアミノフェン,ケタミン,トラマドール,α2アゴニスト,カルシウムチャネルα2δサブユニット遮断薬について説明を加えたうえで治療法として,患者自己調節鎮痛(PCA)とIV-PCA,硬膜外鎮痛と硬膜外PCA,脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔と脊髄くも膜下鎮痛単独法,末梢神経ブロックなど実際的鎮痛方法を解説してある。加えて,今後,臨床応用が期待される薬物として,nerve growth factor(NGF),transient receptorpotential vanilloid 1(TRPV1),tumor necrotic factor-α(TNF-α),interleukin-6(IL-6),カンナビノイド,ATPなどについて実に理解しやすく解説してある。
第7章では病室以外でのICU,ER,検査室での疼痛対策を取り上げ,最終の第8章では周術期管理として取り組む疼痛対策をAcute Pain Serviceとしての取り組み,周術期管理チームとしての取り組み,遷延性術後痛に対するペインクリニック外来での取り組みを挙げて説明してある。
TopicsやColumn欄が随所に掲出されており,山楸のようなピリッとした気分が味わえるとともに,周術期における疼痛管理の重要性も認識され,本書の特色が強調されている。
麻酔科医のみならず,手術に携わるすべての医師・研修医に自信をもって勧めることができる教科書である。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための循環管理の実際

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための循環管理の実際 published on

激変する時代のなかで多忙な麻酔科医に,適切な最新情報と知識を理解しやすくして伝えている

麻酔 Vol.62 No.9(2013年9月号) 書評より

書評者:並木昭義(小樽市病院局長)

この度,岡山大学の森田潔先生監修の《新戦略に基づく麻酔・周術期医学》シリーズが中山書店より上梓される。その第1冊目「麻酔科医のための循環管理の実際」は,高知大学の横山正尚先生が専門編集の任にあたり,この5月に刊行された。 この本の特徴は,激変する時代のなかで多忙な麻酔科医に,適切な最新情報と知識を理解しやすくして伝えていることである。そのために,次のような配慮がされている。紙面の両サイドの余白を利用してコメントや略語の説明などを加える。図表,イラストを充実させる。文中に執筆者の強調したいことをColumn,最近注目する話題をTopics,実践的な情報をAdviceとして載せる。基礎医学的知識そして,エビデンスに基づく臨床研究結果を重点的に取り入れる。執筆者達は,この分野における臨床的実力・実績を十分に有する専門家である。
私はつい最近A-Cバイパス手術を体験したこともあり,今回この書評を依頼されたとき特別な気持ちになった。本書に書かれている内容を自分で考える主体的な気持ちになって読み進めた。一読しながら重要な事項,興味ある箇所に付箋を入れたところ,その数は30枚に達した。以降に各章の内容と私の興味のあった箇所を紹介する。
本書は9章から構成される。1章は“術前の体液管理”で2項目7細目である。術前経口補水については,Columnで「点滴は不要!? みんなに優しい術前経口補水」として推奨している。体験者としては飲ませ方に工夫が必要であると思う。2章は“術前使用薬剤の管理”で3項目11細目である。
3章は“合併する心疾患のリスク評価と術前準備”で5項目13細目である。Topicsで「治療効果のクラスとエビデンスレベル」が紹介される。4章は“術中輸液・輸血の考え方”で5項目27細目である。私も治験に参加した「新しいHES製剤は輸液管理を変えるか?」の項目に興味がある。5章は“術中モニタリングのup-to-date”で4項目16細目である。「循環管理の新たな指標と可能性」の項目は重要であり,Adviceとして「収縮期血圧,拡張期血圧,平均動脈圧の臨床的な意義」が紹介される。6章は“麻酔方法と循環管理の考え方”で4項目13細目である。7章は“心血管手術の循環管理のコツ”で4項目13細目である。この項目のなかでは,私も経験のある「off-pump CABG」と「ロボット心臓手術」が注目される。私は手術を体験して,麻酔が上手であるということは,術直後の覚醒および術後経過が円滑で,患者に満足されることであると確信した。
8章は“術後循環管理の実際”で7項目30細目である。このなかでもっとも注目される項目は「心臓リハビリテーション」であり,そのプログラムの確立が求められる。9章は“術後痛と循環”で2項目5細目である。
この本は,単なるマニュアル本とは異なり,質の高い,実践的参考書である。レベルの高い内容であると思う。それを多くの読者が理解しやすいようにすべく,最大限努力していることは評価できる。本書「麻酔科医のための循環管理の実際」およびシリーズの続刊が多くの読者に喜ばれ,有効に活用されることを期待する。

耳鼻咽喉科 早わかり 漢方薬処方ガイド

耳鼻咽喉科 早わかり 漢方薬処方ガイド published on

臨場感あふれる漢方医学の入門書であり専門書の内容を持つ医学書

ENTONI No.181(2015年6月号) Book Reviewより

書評者:峯田周幸(浜松医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科)

現在では漢方医学の授業がすべての大学でおこなわれており,漢方医学に違和感をもつ医師はほとんどいないと思われる.また今までに処方をしたことがないという医師もいないであろう.漢方薬が特集される雑誌はいくらでもあるし,勉強しようと思えば教科書はいくらでもある.しかし決め手となる成書といわれるものはない.漢方薬の処方にあたって,身体所見の把握とそれに基づく実際の処方内容(西洋医学との関連において)を簡潔に述べているものは極めて少ない.耳鼻咽喉科に限れば皆無であろう.
どうも治りが悪く,他に方法がないし,副作用もなさそうだから漢方薬でも出して終わろうか,そんなことを考えている先生はいませんか? 漢方薬も奥深くエビデンスのある薬であるとは思っていても,何をいつ処方すればいいのか,患者になんて言えばいいのか,そんなことで悩んでいる先生はいませんか? そうした先生方に本書は必携の教科書である.
第1章は「耳鼻咽喉科で漢方薬を使用するにあたって」で,簡潔に漢方の基本と使用するに当たって患者を前にした対応まで述べられている.付録に資料集もあり,漢方薬使用にあたって虚一実,陰一陽のとらえ方が述べられ,漢方薬の基礎を学ぶことができる.是非この章を読まれてから次の各疾患の実例を見ていただきたい.同じ症状であっても患者の状態により,異なる処方をする根拠とその漢方薬の種類を知ることができる.「効きが悪いとき何を考えるか」このようなテーマを真正面から取り扱ったものが今までにあったであろうか.
第2章では19疾患と処方に注意すべき子供・老化・合併症を持つ患者などへの実際の処方例とそのポイントが述べられている.外来診療中に必ず経験する19疾患(病態)であり,すべての耳鼻咽喉科医にとって必ず役立つ内容である.各項では,まずその項にでる漢方薬がすべて羅列されていて,疾患と漢方薬との関連がインプットされる.そしてはじめに疾患の簡単な総説があり,現在の標準的な治療法が述べられる.西洋医学を中心にした従来の治療のエッセンスが詰まっている.次に薬物療法のフローチャートが示され,漢方薬のしめる位置やどの段階で使用するのか,どういった漢方薬を使うのか述べられている.専門家が長年蓄積したデータがないと示されにくいものであるが,簡潔に示されていて,初心者にとっては至れり尽くせりなものとなっている.そして実際の処方例が提示されるが,ここでも従来とは異なって,同じ症状であっても患者の状態や訴えによって処方をどのように変更するか,極めて具体的に示されている.漢方薬には副作用はないと思いやすいが,そうではないことが次のテーマで述べられる.それは副作用症状の羅列ではなく,その予防法や対処法も記載されている.ここまで理解して初めて,自信をもって漢方薬に限らず全ての処方ができるものであろう.最後がインフォームド・コンセント(IC)になっている.特に漢方薬の処方にあたって,どのようにICを得るか,そこまで丁寧に説明されている成書を私は知らない.
本書は専門家によりわかりやすく簡潔に,しかもエビデンスをもって書かれている.患者を前にして書いているような臨場感あふれる漢方医学の入門書であり,かつ専門書の内容を持つ医学書である.一人でも多くの耳鼻咽喉科医の手許においていただき通読されれば,必ず外来診療の助けとなると,自信を持ってお勧めできる本である.付録の漢方薬資料集も一読をおすすめしたい.

実践的泌尿器腫瘍病理診断-カンファレンス形式で学ぶ

実践的泌尿器腫瘍病理診断-カンファレンス形式で学ぶ published on

カンファレンス形式の肩の凝らない,しかしレベルの高い泌尿器科腫瘍の病理「読本」

泌尿器外科 Vol.26 No.6(2013年6月号) 書評より

紹介者:塚本泰司(札幌医科大学泌尿器科名誉教授)

カンファレンス形式の肩の凝らない,しかしレベルの高い泌尿器科腫瘍の病理「読本」が刊行されました。待望の一冊といえます。専門医を目指す若手泌尿器科医にとっては,専門医試験の「ヤマ」でもあるそれぞれの腫瘍のトピックについての「ツボ」を押さえた記載が役に立つでしょう。また,指導医クラスの泌尿器科医にとっては日常臨床での知識の再確認と若手の突っ込み質問も難なく寄り切るためのリファレンスとして,大いに利用できそうです。
泌尿器科専門医のトレーニング中に一定期間臨床病理を学ぶことは大切なことと思われますが,それをはっきりとした形で修得目標として掲げ,実践している施設は少数派です。かくいう小生自身もそのような形で臨床病理を学んだわけではありませんし,属していた施設でもシステムとして提供していたわけではありません。残念ながら,見よう見まねで学習していたというのが実情と思われます。それでも,最近は臨床病理医が以前と比較すると増加しているので,施設によっては泌尿器科腫瘍の病理所見をカンファレンス形式で泌尿器科医と病理医の間で検討される機会が多くなっていると思われます。しかし,病理医が常駐していない施設も多く存在します。
これまでも,泌尿器科病理に関する書物はありました。例えば,有名なものではAFIP(Armed Forces Institute of Pathology)のシリーズ,WHOのPathology and Genetics of Tumors of the Urinary System and Male Genital Organs, あるいはUrologic Surgical Pathology(Bostwick DG, et al. 良性疾患も含む)など。また,Campbell-Walsh’s UrologyあるいはComprehensive Textbook of Genitourinary Oncology(Scardino PT, et al)のそれぞれの悪性腫瘍の病理の項目,などです。特に,AFIPやWHOのシリーズはミクロの所見が豊富で,どこかの時点で,どこかの項目を一度は目を通すことをお勧めします。しかし,忙しい専門医研修の最中に1ページ目から読むのはちょっとしんどいか,という感じもよくわかります。その前に,手術方法など覚えることは山のようにありますよ,という声も聞こえてきそうです。
しかし,泌尿器科腫瘍のbiologyを理解するためには,これらの腫瘍の病理学的所見の妥当な解釈を身に着けておくべきであるという説明には多言を要しないと思われます。そうであるならば,今回刊行された本書はその契機となること請け合いです。本書を土台にここから本格的な研讃の道に入ることは容易です。
本書の特徴のいくつかは先述したとおりですが,組織の顕微鏡写真と放射線関連の画像が豊富なのもそれに追加されます。その割に本書の価格が1万円前後と「良心的」なのは,編集者の交渉術の賜物なのか,中山書店の「太っ腹」さなのか,はたまた「泣いた」のか,どちらかでしょう。この種の本にしては文献が豊富なのも,内容あるいは構成が良質である証拠でうれしい限りです。摘出標本のマクロの写真はいざという時に限って適切なものがないのが通例ですが,次回の改訂の際には,可能であればホルマリン標本写真ではなく摘出時のものを掲載してもらえればと思います。
いずれにしても,若手泌尿器科医あるいは指導医クラスの泌尿器科医にとって,臨床的に有用なリファレンスができたことは間違いありません。Journal of Urologyの書評の最後に時々あるように,“This book is highly recommended for residents in urology and senior urologists who are responsible for their training.”です。