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アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 小脳と運動失調

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 小脳と運動失調 published on

わが国が誇る小脳研究の金字塔

BRAIN and NERVE Vol.65 No.6(2013年6月号) 書評より

評者:金澤一郎(国際医療福祉大学大学院長)

「小脳はなにをしているのか」という問いに,現在のわが国の英知を結集して挑戦したのが本書である。専門編者である西澤正豊先生が序で書かれたように,わが国には伊藤正男先生という小脳の基礎研究の巨人と,脊髄小脳変性症(SCD)の運動失調に対する治療薬のTRHを世に出された祖父江逸郎先生という小脳疾患研究の巨人がおられる。このことが日本での小脳機能あるいは小脳疾患への関心を高めてきた。その表れが厚生労働省の「運動失調症調査研究班」であり,昭和50年に始まった後,現在までに挙げた功績は数限りない。特に疫学的研究と脊髄小脳変性症各病型の病因遺伝子に関する業績は世界に誇るべきものである。
そうした業績の中で,忘れられている疫学調査の結果が一つある。多系統萎縮症(MSA)には,自律神経症状で始まり,ほぼ2年以内に小脳症状や錐体外路症状が加わるという概念で集積した「SDS」があり,その頻度が日本では全SCDの7%弱に及ぶ。しかもその80%以上が男性であるという事実は見過ごせない(平成元年の平山班の統計)。SDSをないがしろにするのは勝手だが,ここに新発見のヒントがあるに違いないと私は思う。いつか挑戦して欲しいと思っている。
本書は,非常に緻密に物を考える西澤先生の編集になるだけあって,ほぼ完璧な構成になっていて,「わが国が誇る小脳研究の金字塔」と言って良い。小脳の機能局在,症候学,検査法,臨床と分子生物学を合わせた病態,治療,それに非常に役に立つ7例のcase studyが続く。それだけではない。ほとんど全ページがカラー印刷である他,ポイント,コラム,メモ,キーワード,などきめ細かい配慮によって理解を助ける仕掛けも豊富である。また,各ページの外側には4cm以上の余白があって,自分でメモができるようになっている。これほど配慮の行き届いた本を私は知らない。だから,索引を入れて本文336ページの本書が12,000円というのはやや高いという印象があるかも知れないが,その内容を見れば納得する。本書を,是非とも蔵書に加えられることをお薦めする。

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 最新アプローチ 多発性硬化症と視神経脊髄炎

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微に入り細に入り読者に理解してもらおうとする努力,編集に感服させられる

BRAIN and NERVE Vol.65 No.3(2013年3月号) 書評より

評者:田代邦雄(北海道大学名誉教授/北祐会神経内科病院顧問)

多発性硬化症(multiple sclerosis : MS)は1868年のCharcotによる臨床症候の記載に遡るほど歴史的であるばかりでなく,現在に至るまで神経学領域では最も重要な疾患の一つとされている。その神経症候,病態の理解,そして診断と治療への道筋はもとより,特に近年のこの疾患概念に関する注目度・関心は非常に高く,神経内科を中心に,その関連する基礎ならびに臨床の各専門領域において日進月歩の進展が見られるのである。
このたび,『最新アプローチ 多発性硬化症と視神経脊髄炎』と題する最先端の書が出版されたことの意義は大であり,これらの疾患の重要性かつ論点を提言したことになる。すなわち本書では,この両疾患を並列に取り上げ,それらの病態と診断,治療とケアも含め,各項目に最適なエキスパートを配置して論旨を展開している。
その構成は各項目のトップに「Point」として先ずエッセンスを呈示,さらに豊富でカラフルな図表,必要に応じて重要な事項をColumnとして薄紫のバックを用いて本文の一部にとりあげ,また欄外にはKeywordsの簡潔・明快な解説,さらにMemoとして疑問やその説明を追加するなど,微に入り細に入り読者に理解してもらおうとする努力,編集にも感服させられるのである。
日本における多発性硬化症の臨床像・疾患概念の変遷,診断基準の問題,臨床疫学,神経病理,補助診断法,鑑別診断,病因病態の理解,また治療とケアの諸問題は多岐にわたるが各分担執筆者が見事にまとめているとともに,本書のタイトルにも取り上げられている疾患としての「多発性硬化症」と「視神経脊髄炎」との相互関係はいかなるものであるか! という現在神経学領域で最もホットな話題について,まさに論壇で熱くなるような活発な論議が展開されている。
多発性硬化症そして視神経脊髄炎についてのディベートは,これらの疾患を専門にする神経学関係者は(筆者個人も含めて)各々の見解・結論を既に持っているであろうが,本書の役割は,冒頭にも述べたごとく,この重要課題である多発性硬化症/視神経脊髄炎について日本の神経学が“フランク”そして“オープン”に意見交換することが重要かつ必須であり,本書がそのための試金石になってくれることを信ずるとともに,今回,このテーマをとりあげまとめられた編集担当者,各執筆者の努力に対し心からの敬意を表し,書評のまとめとさせていただくこととする。

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 てんかんテキスト New Version

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てんかんも分子生物学の言葉で説明される時代が到来したと実感

BRAIN and NERVE Vol.64 No.10(2012年10月号) 書評より

評者:葛原茂樹(鈴鹿医療科学大学教授)

てんかんは,わが国において患者数が約100万人と推定されている頻度の高い疾患であるにもかかわらず,医学分野では比較的地味な存在であった。ところが,近年,自動車運転中のてんかん発作による交通事故発生を契機に,にわかに大きな社会的関心を集めるようになった。事故の大部分は怠薬による発作であり,きちんと服薬すれば発作の大部分はコントロール可能という成績が示されているので,最新最適のてんかん診療を学び実践することは,患者と社会に対する医師の社会的責任でもある。このような要請に正面から応えることができる指南書として,このたび中山書店から『てんかんテキスト New Version』が刊行された。
本書読了後の第一印象は,てんかんも分子生物学の言葉で説明される時代が到来した,という実感である。従来のてんかん学は,臨床病型に基づく分類と脳波検査を軸とした現象論的記述が主であったのに対して,本書ではニューロンの異常興奮病態と治療薬の作用機序の分子生物学的基盤が詳述されている。総論で,古典的てんかん概念の紹介に続いて,一挙にイオンチャンネルと受容体の分子病態学と分子遺伝学が展開し,焦点性てんかん病巣の病理学の記述が,カラーの顕微鏡写真付きで現れるのも新鮮である。
臨床診断では,高齢期発症てんかんの増加と非痙攣性発作が多いという指摘が注目される。検査は,古典的脳波所見に加えて,外科的治療を念頭に,てんかん原性域(epileptogenic zone)同定に必要な諸検査(硬膜下電極,脳磁図,PETとSPECT,最新のMRI,近赤外線スペクトロスコピィなど)の検査目的・所見・長所・限界が解説され,臨床的初発症状域,脳波上の発作起始域,形態画像の構造異常病変との関係の解説も明快である。治療についてはガイドラインをベースに,古典的薬物と新規薬の作用機序から臨床適用までが解説され,社会生活で問題になる妊娠や運転,生活支援についても具体的に紹介されている。
各項は10頁以内にまとめられ,明快なカラーの図表がふんだんに配置されているので,テンポよく読み進むことができる。ベテランにも初心者にも,是非一読を勧めたい1冊である。

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 識る 診る 治す 頭痛のすべて

アクチュアル 脳・神経疾患の臨床 識る 診る 治す 頭痛のすべて published on

最も求めていた内容が余すことなく網羅されている

BRAIN and NERVE Vol.64 No.3(2012年3月号) 書評より

評者:岩田誠(東京女子医科大学名誉教授)

日常診療の中で,頭痛は誰にでも生ずる最もありふれた自覚症状の1つであるから,どのような診療科の医師であっても,自分が診ている患者が頭痛を訴える機会に出会うことがあるはずである。そのようなときに,自分は頭痛のことはよくわからないからといって,ろくに話を聞くこともせず頭痛専門医に紹介するというのも悪いことではないが,患者側からみれば,頭痛ごときでわざわざ専門医を受診するなんて,と受け取る人は少なくないだろう。一方では,頭痛を訴えて受診すると,すぐに頭のCTスキャンやMRI,MRAを撮り,何も異常はありませんといわれ,適切な解決策をみつけてくれる医者にめぐり合うまで,痛む頭を抱えて次々と医者廻りをする患者も少なくない。日常診療の場で今もなお繰り返されているこのような浪費的医療の根源にあるのは,一般の医師たちの,頭痛診療の重要性に対する認識不足と,頭痛診療に対する勉強不足であるが,そのような事態をきたしたそもそもの原因は,頭痛のメカニズムに対する科学的な教育と,頭痛の診断と治療に関する実践教育が不十分であったことである。

評者は,今から30年以上前,母校の学生に神経内科学の講義を行うことになったとき,それまで1度もなされたことがなかった頭痛の系統講義を始めた。当時は,頭痛の科学的メカニズムはほとんどわかっておらず,病態を十分に説明できないことに,自分ながらもどかしさを感じていた。ここに紹介する『識る 診る 治す 頭痛のすべて』には,その当時の私が,最も求めていた内容が,余すことなく網羅されている。もし,30年前にこのような書物が存在していたなら,評者は躊躇することなく,ここに書かれていることのすべてを,学生たちに伝えようと試みたであろう。そのような教育を受けた学生たちは,卒業後どのような診療科の医師になったとしても,自分の患者が語る頭痛の訴えに耳を貸し,自らの適切な意見を述べたうえで,頭痛診療の専門医に紹介するだろうし,無駄な画像検査の回数は激減するであろう。頭痛診療の専門家だけではなく,あらゆる分野の臨床に携わっている,あるいはこれから携わろうとする,すべての医師・医学生に読んでいただきたい本である。

DSM-5を読み解く 神経発達症群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連

DSM-5を読み解く 神経発達症群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連 published on

DSM-5に慣れる必須の1冊

精神医学 Vol.57 No.3(2015年3月号) 書評より

書評者:長尾圭造(長尾こころのクリニック院長)

分類学には論理的な科学性はない。したがって分類はいかに役に立つかというもっともらしさ,つまり蓋然性や妥当性が問われるので,その時の事情や背景を基に恣意的にならざるを得ない。4回目の改訂となった今回のDSMは,特に子どもの分野では,近年の疫学,分子遺伝学,脳画像,家族・双生児研究,認知精神科学,環境・文化の影響による発達精神病理の進歩の影響を受け,大幅な見直しがなされた。その結果,診断名が増え,アセスメントと尺度や面接法も示された。
DSM-5の分類には診断名,診断的特徴,有病率,年齢による経過(症状の発展と経過),危険要因と予後要因,文化・性別に関する診断的事項,機能的結果(予後など),鑑別診断,併存症などが記されている。このそれぞれには,臨床経験と研究を基に議論を重ねた結果が書かれているため,そのコトバは重い。このため,これが作られてきた背景,その診断の意図,利用法,使い方などは,ベテランによる解説が何より望ましい。DSM-5に習熟するためにはガイドラインが必要となる。
本書の構成は,「DSM-5時代の精神科診断」では,これまでの歴史・開発の背景・経緯・全体の改定点・ディメンション的診断モデルのゆくえが描かれている。「児童精神医学の診断概念とDSM-5」では,DSM-5における構成上の再編とその背景が述べられている。「児童精神医学の診断概念の歴史的変遷」では,DSM体系の概要と幼児期から青年期に発症する障害の下位分類と単位障害の変遷が,「DSM-5とICD-11の相違点」では,meta-structureの違い,神経発達障害群,食行動障害および摂食障害群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群について解説されている。その後の章では,各診断名である神経発達症群/神経発達障害群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連といった,児童青年期に大事な疾患が取り上げられ,解説されている。
診断には,表出される症状,その表出症状を構成する背景症状,その背景症状を構成している病理,それが生じてきた環境と生物学的背景と順に考えを進めて,たどり着くことにより,初めて症状の理解と診断ができる。特に子どもの場合,症状形成の因果関係には,成人以上に,環境の影響が絡むし,症状の動揺性も強い。したがって,一人ひとりの患者を丁寧に診るには,DSM-5で取り上げられたそれぞれの視点から,考えを巡らせることにより,臨床の厚みが格段に増す。
今後の課題も多い。メンタルヘルスへの関心・アプローチから,カテゴリー診断の限界が見えたため,次元診断という捉え方をさらに進める必要があろうし,診断閾値以下のメンタルへルス状態へのアプローチ,遺伝子とそのエピジジェネティクスの出方やエンドフェノタイプと症状発現などを疾患との関連でとらえることも必要となる。DSM-6には,そのような視点からも変更がなされることも予想される。しかし,それまでのおそらく20年前後は,DSM-5が使われると考えると,誰もが,いずれは,できれば早く習熟しなければならない。そのための解説手引書としては,これまでの児童青年精神医学の来歴が示されているし,実際の診断項目の解説も分かりやすい。本書はDSM-5に慣れる必須の1冊となっている。研究者にとっては,DSM-6を,どのように計画すればいいのかを考える1冊でもある。

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科 最新薬物療法マニュアル-選び方・使い方

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科 最新薬物療法マニュアル-選び方・使い方 published on

枠外解説を読んでいるだけでかなりの知識を得ることができる

JOHNS Vol.31 No.4(2015年4月号) 書評より

書評者:飯野ゆき子(自治医科大学附属さいたま医療センター耳鼻咽喉科)

ある講演会で市村恵一先生のご講演を拝聴する機会があった。ご講演のタイトルは「薬を上手く使うコツ」である。日常臨床に則したお話で,感冒薬から抗菌薬,副腎皮質ステロイド,さらには漢方薬まで幅広い視点からお話をいただいた。聴衆一同感銘を受けたのは言うまでもない。このご講演のように,わかりやすくまた楽しく知識が得られる薬剤に関する本があればいいなあと感じた次第である。この想いがこの度実現した。 ENT臨床フロンティアシリーズ「耳鼻咽喉科最新薬物療法マニュアル―選び方・使い方」である。市村恵一先生が専門編集を担当されている。まさに先生のご講演を拝聴して感じた想いをそのまま著書としてまとめていただいた感がある。
内容に少し触れてみたい。28章から成り立っている。最初の2章は薬物療法の基本的知識に関してである。第1章は「各症状に対する薬物の適応と選び方」,第2章は「薬物の有害事象とその対策」。第1章ではP-drug(personal drug)という概念についても言及されている。P-drugはあまり馴染みのない言葉であるが,日本語では“医師個人の薬籠の中の薬”ということになる。多くの医師が臨床の場で薬剤を選択していく過程は以下のように認識されている。まず先輩医師に習って処方し,薬の名前や薬理作用を徐々に覚え,自分なりの処方にアレンジしてゆき,自分の経験をフィードバックして更にいろいろな薬剤の組み合わせを工夫する,という過程である。しかしこれは独断的になりがちでエビデンスに乏しいと指摘されている。1995年,WHOによりP-drugの概念が医薬品の適正使用の出版物のなかで述べられた。P-drugは「私の薬籠」に留まることではなく,薬剤に関するすべての情報を完全に把握し,患者個々の病態に応じた適切な薬物を選択するための過程を含んでいる。P-drugに沿った診療の流れに関しては本書の中で詳細に解説されている。
第3章からは抗菌薬から健胃薬まで22種類の内服あるいは全身投与薬剤に関する解説,25章からは点耳薬,点鼻薬,口腔用薬,軟膏・クリームといった耳鼻咽喉科で頻用されている外用薬についての解説である。一般的な薬理作用,有害事象,注意すべき事項,適応等,これらは『今日の治療薬』やこれまでの薬物療法に関する種々の書物に記載されていることとさほど大差はない。しかし本書の素晴らしい点は“Advise”“Tips”“Topics”“Column”といった別枠がもうけられており,まさに臨床の場で最も知りたい薬物療法に関する知識,あるいは疑問点に対する解答がちりばめられていることである。たとえば頸部膿瘍等の嫌気性感染症に対する抗菌薬治療。これまではクリンダマイシンを用いることが多かった。近年ではクリンダマイシンの嫌気性菌に対する耐性化が指摘され,この神話が崩壊している。この点に関しても詳細に解説されている。このように枠外解説を読んでいるだけでかなりの知識を得ることができる。
困った時に頼りになる1冊であることは間違いないが,パラパラめくって読んでいても非常に楽しく,また勉強になる1冊である。市村恵一先生が“序”で書かれている「読者に,本書を座右のレファランス書として脇机に君臨させるのみならず,ある程度通読してもらいたいと思う」という願いが込められたすばらしい書と考える。是非ご一読願いたい。


レファレンス書としてばかりでなく「読み物」としての魅力に満ちている

ENTONI No.175(2015年1月号) Book Reviewより

書評者:丹生健一(神戸大学耳鼻咽喉科頭頸部外科)

この度《ENT臨床フロンティア》シリーズとして中山書店から『耳鼻咽喉科 最新薬物療法マニュアル』が発売された。編集は多くの雑誌や書籍の企画をされてきた自治医科大学名誉教授 市村恵一先生である。
耳鼻咽喉科疾患に対して処方される薬剤は、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、消炎鎮痛剤、粘液溶解薬、抗ヒスタミン薬、副腎皮質ステロイド薬、粘液溶解薬、抗ヒスタミン薬、抗止血薬などの内服薬、点耳薬、点鼻薬、軟膏・クリームなどの外用薬等と多岐にわたる。本書では、それぞれの薬剤について、適応や使い方・選び方、注意すべき副作用など、最新の情報にもとづいて第一線の医師により解説されている。漢方薬も大きく取り上げられ、主な疾患に対する処方例が具体例に示されているのが有り難い。従来処方薬であったものが次々とOTC薬品として薬局やドラッグストアで販売されるようになってきた時代に応え、関連する一般市販薬や他科の薬剤についても説明が加えられている。
クラシックな切り口に加え、使い方のコツが「Tips」に、日々の臨床で出会う疑問や迷いへのエキスパートからの回答が「Advice」に掲載され、「Topics」に最新の話題も紹介されているのも本書の大きな特徴である。いずれの項も各執筆者の熱意が感じられる素晴らしい出来で、レファレンス書としてばかりでなく「読み物」としての魅力に満ちている。編集者の狙いが見事に成功し、類書と一線を画する耳鼻咽喉科医師必携の薬物療法ガイドとなった。座右の書として診察室に備えるだけでなく、教科書として通読することをお勧めする。
いうまでもなく、薬物療法は局所処置や手術とならび、耳鼻咽喉科診療の大きな柱である。特に外来では、薬物療法は耳鼻咽喉科診療の根幹をなしている。個々の患者の病態を総合的に把握し、最適な薬物療法が選択されることが求められる。読者の皆さんは、先達の教えや様々な経験に基づいて自分なりの薬の使い方―スタイル―を築き上げておられると思うが、ぜひ、日常診療に本書を活用することにより、自らのスタイルを見つめ直す機会を持っていただきたい。

ENT臨床フロンティア 子どもを診る,高齢者を診る 耳鼻咽喉科外来臨床マニュアル

ENT臨床フロンティア 子どもを診る,高齢者を診る 耳鼻咽喉科外来臨床マニュアル published on

実践的かつ教育的な外来診療マニュアルとなっており、是非診察室に備えていただきたい一冊

ENTONI No.173(2014年11月号) Book Review

書評者:小川郁(慶應義塾大学耳鼻咽喉科)

《ENT臨床フロンティア》は耳鼻咽喉科の日常臨床に直結するテーマに絞ったシリーズで、臨床現場のニーズを反映した実践的かつ教育的な外来診療マニュアルとして好評を得ている。今回、山岨達也教授の企画、編集による『子どもを診る 高齢者を診る』がシリーズの第9弾として発刊された。子どもと高齢者を対象とした耳鼻咽喉科の外来診療マニュアルは私の知る限りでは初めての企画である。
少子高齢化が進む近年の耳鼻咽喉科の日常臨床では、患者の年齢構成のみならず疾患体系や治療戦略が急速に変化している。例えば少子化が進む小児医療の現場では、急性中耳炎や滲出性中耳炎、アレルギー性鼻炎の診療ガイドラインに基づく診療が求められるようになっており、また、小児難聴の早期診断や早期対応も耳鼻咽喉科医の重要な役割となっていることから、そのための最新の知識が必要になっている。一方、世界に先駆けて超高齢社会を迎え、高齢者、特に75歳以上の高齢者を診る機会がますます増加していることから、健康年齢の高齢化から手術適応を含めた治療戦略についての新たな知識が求められている。このような背景から本企画では小児と高齢者に特有な耳鼻咽喉科疾患の診療として、それぞれの「診療の進め方」、「診療のコツと注意点」、「治療上の注意点」を総論として提示し、各年齢における日常臨床で重要な耳鼻咽喉科疾患を各論としてまとめている。
特に山岨達也教授が重点的に取り上げたのは小児難聴の診療である。一側聾に次いで先天性高度難聴を遺伝性難聴と胎生期感染症、内耳奇形に分けてそれぞれの診断法について分かりやすく解説している。また、重複障害の影響についても一項目として取り上げている。治療に関しては補聴器装用のコツ、人工内耳の適応評価と成績について解説しており、人工内耳の登場によって劇的に変化した小児難聴診療における耳鼻咽喉科医の責任に応えるための充実した内容になっている。
もちろんその他の項目も力の入った読み応えのある内容である。特にすべての項目で診断から治療に至る考え方についてフローチャートでまとめており、診療の流れにより反映しやすい工夫となっている。また、最後には診療に役立つ資料集として、高齢者に対してとくに慎重な投与を要する薬物のリスト、高齢者に多い合併症と使用を控えるべき薬剤、そして学校健診のための市立幼稚園用、小学校用、中学校・中等教育学校・高等学校用の耳鼻咽喉科保健調査票を掲載しており、それぞれ大変役に立つ資料になっている。
日頃から日常臨床の合間に活用できる、まさに実践的かつ教育的な外来診療マニュアルとなっており、是非診察室に備えていただきたい一冊である。

ENT臨床フロンティア  のどの異常とプライマリケア

ENT臨床フロンティア  のどの異常とプライマリケア published on

随所に見られる治療側と患者側にたいする心くばり 日常診療の常備書として推薦したい一冊

ENTONI No.160(2013年11月号) Book Reviewより

書評者:小宗静男(九州大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科分野)

われわれ耳鼻咽喉科医にとって『のどの異常』を訴えてくる患者を診ることは日常茶飯事のことである.特に高齢者社会に突入しこれからさらに増加することは間違いない.しかしこのような訴えを持つ患者の裏に潜む疾患と病態を的確に捉えることできる知識と治療経験を多くの耳鼻咽喉科医が身につけているかというと,はなはだ心許ないのではないだろうか.私は耳科学が専門であるが立場上専門領域以外の知識は年ごとに遅れていくのを痛切に感じている.このたび本書を読む機会があり,またこの分野の知識不足も手伝って一気に通読させていただいた.読後の感想を一言で言うと,咽頭・喉頭疾患についての診断から治療までの概念がリフレッシュされ最新の知識とともにコンパクトに頭の中に整理整頓された感じがする.まさに実地医家をターゲットとしたプライマリケア書といえる.
本書は咽頭・喉頭疾患を網羅的にのべるのではなく診療に際して重要な事項を中心に実践的に解説することを目的としてある.総論としては3項目に分けてのべてあるが,まず「のどの異常」の三主徴,すなわち「咽頭痛」「嗄声」「嚥下障害」を訴える患者に対しての診療の流れについてフローチャートを用いて解説してあり大変わかりやすい.次に診断に必要な主な検査についてその意義,手技上の注意点なども含めて実地ですぐに役立つようのべてある.治療の実際では一般診療所でも行える手術を取り上げている.各論はこれも3項目になっており,咽・喉頭疾患,声帯麻痺,嚥下障害について最新の治療法を含め詳しく解説してあり,知識のリフレッシュができた.本書で特徴的なのは各ページのサイドメモである.見逃しそうであるがじつは大切な事項をワンポイントでのべてあり,貴重な知識として生かされる.また付録としての患者説明用の各疾患別の書類とわかりやすいイラストの資料集も実地医家にとって,とてもありがたいものである.このように,本書はその内容はいうまでもなく,編集者の治療側と患者側にたいする心くばりが随所に見られ,すばらしい本に仕上がっている.日常診療の常備書としてぜひ推薦したい一冊である.

ENT臨床フロンティア がんを見逃さない-頭頸部癌診療の最前線

ENT臨床フロンティア がんを見逃さない-頭頸部癌診療の最前線 published on

さらなる診断学の進歩が治療に反映される時代がきていることを強く感じさせる良書

耳鼻咽喉科・頭頸部外科 Vol.85 No.9(2013年8月号) 書評より

書評者:海老原敏(練馬光が丘病院,国立がんセンター東病院名誉院長)

『がんを見逃さない―頭頸部癌診療の最前線』は,《ENT臨床フロンティア》シリーズの5冊目となるものである。シリーズ刊行にあたって,編集委員が目的とした「実戦重視」耳鼻咽喉科診療の第一線ですぐに役立つという趣旨に沿って,頭頸部癌診療の現状について提示され,必要なことも網羅されている。
第2章の「頭頸部のさまざまな症状」では,日常診療でどのような場合に癌を疑い,その場合どのように対処すればよいかが,症状別に書かれている。それぞれ貴重な体験に基づいて書かれており,本書にあることをすべて実行できれば日常の癌診療では十分であろうといえるほどである。「頭頸部の前癌病変」にも章を設け,8頁を費やしている,前癌病変とはよく耳にする言葉であるが,実態はないに等しく,前癌病変という定義すらはっきりしていないし,粘膜内のとどまるいわゆる表在癌についても,病理学者により癌ととるか過形成ととるか意見が分かれるところも多い。この点著者たちも苦労されたところであろう。その結果がこの短い章として表れているのだと思う。付録に診断に役立つ資料集という日常診療,特に電子化が進む診療録に取り込むのに絶好な企画があるので,これと同じように付録として,前癌病変,早期癌,表在癌について扱う方法もあったのではないかと思う。また,この項については病理医の意見が反映されるべきとも考える。
近年著しい進歩がみられる画像診断についても,簡潔にわかりやすくまとめられている。細胞診,生検についても妥当な記載がなされている。内視鏡の機器の進歩もめざましく,数mmの表在癌が容易に発見される時代となり,この点についても紹介されている。
治療に関しては,第6章に「頭頸部癌治療の最前線」として,外科療法では機能を温存する外科療法,ロボット支援手術,鏡視下手術が紹介されている。いずれも今後発展していくものであろう。超選択的動注療法さらには分子標的治療もとりあげられている。なかでも放射線治療の項は機器ならびに手技の進歩がわかりやすく纏められ,放射線治療の現状と近い将来の進歩がみえてくるように感じられる好著といえる。リニアックを用いた高精度放射線治療,粒子線治療,密封小線源治療,ホウ素中性子捕獲療法,非密封線源治療まで,外科医にとっても理解しやすいものとなっている。
担当するテーマによっては文献が不要のものがあるだろうが,すべて独自の仕事とは思われないものにまで文献が挙げられていない項目もあり,近頃の考え方なのかと首を傾げてしまった。それはさておき,この1冊に頭頸部癌の統計,疫学,診療の最前線が盛り込まれており,手元に置いておきたい1冊といえる。欲をいえば,項目別にさらに詳しくみるにはという参考にすべき文献が記載されていると読者にとっておおいに役立つのだがと思う。
永年がん診療に携わってきて,頭頸部癌の診療は他部位のがんと同じく近年進歩の度合いが急速となっているが,多くの部位のがん診療は診断の進歩が治療の進歩に繋がってきたように思える。その点からみてもさらなる診断学の進歩が治療に反映される時代がきていることを強く感じさせる良書である。

ENT臨床フロンティア めまいを見分ける・治療する

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めまいという多くの科に関連のある疾患を対象とする医師にとって推薦の書

JOHNS Vol.29 No.3(2013年3月増大号) 書評より

評者:小松崎篤(東京医科歯科大学名誉教授)

このたび,内藤泰先生専門編集の『めまいを見分ける・治療する』を通読する機会があった。
めまいに関するこの種の著書は現在まで数多く出版されているが,その大部分は従来の教科書のごとく解剖,検査,疾患等の順に配列されているか,それに準じた記載となっている。めまいを専門にしている医師であれば,その内容を取捨選択して把握するのにさほど困難はないが,一般医にとっては必ずしも容易なことではない。その理由として20世紀後半から現在まで「めまい」の解剖,生理さらにその臨床応用としての機能検査が聴覚系とともに飛躍的に進歩してめまいの病態解明に大きく貢献しているが,それは同時に読者にとって十分理解することがより困難になっていることも意味している。一方,症状としてのめまいは一般臨床の場では頭痛や腹痛などと同様しばしば遭遇するが,病態背景が簡単な疾患から生命の予後に関する疾患まであり,臨床の現場で目の前にいる患者が自然治癒の傾向を持つ疾患なのか,重要な背景を持つ患者なのかを判断しなければならない。そこに本書のタイトルでもある「めまいを見分ける」ことの大切さがある。
本書はその「シリーズ刊行にあたって」でも書かれているごとく「臨床にすぐに役立つような実践的なものとし」を忠実に踏襲して編纂されていることが大きな特徴である。それを考えるとおのずと広い意味でのQ&Aの方式をとるのが実践的で本書にもそのような配慮がみられ,それがまた本書の特徴にもなっている。内容は,「めまいの見分け方」,「めまいの検査法」,「さまざまなめまいの鑑別と治療方針」,「めまいの治療法」の4章からなっている。
第1章「めまいの見分け方」はいわば問診に当たるところである。めまいの診断にはとくに問診が重要で,問診を詳細に聴取することによりそれのみでも疾患を大きく絞り込むことができるので,めまいの内容,持続時間,随伴症状の問診におけるポイントが的確に記載されており,そのことは第2章の検査をいかに要領よく行うかにも大きく関係してくることになる。
第2章「めまいの検査法」では眼振,眼球運動異常の病巣局在診断的意義は大きいが,一般検査の重要度も適切な記載となっている。また本章ではVEMPなど比較的新しい検査法がどのような意味を持つかも書かれている。
第3章ではわれわれ耳鼻咽喉科医が比較的遭遇しやすい疾患にについて最新の知見も含めて過不足なく記載されている。耳鼻咽喉科医としてめまいの診療に当たる場合には当然のことながら内耳疾患のみならずめまいを発症させるそれ以外の病態についても必要最小限の知識は必要であり,それらについての配慮もこの章ではなされている。
めまいは診断ができても治療がないのではないかとはよく聞かれることであるが,第4章では薬物療法のみならず,疾患によって異なる理学療法や近年発達してきている有酸素療法なども書かれている。また,頻度は必ずしも多くはないがQOLを大きく損じる末梢性めまいについては最終的に手術療法があることも患者の診療を日常行う医師にとっては重要な手助けとなっていることも事実であろう。
以上,述べてきたように本書は日常めまいの臨床の場に立っている医師にとっては疑問を解決する上で役立つ書であり,めまいという多くの科に関連のある疾患を対象とする医師にとって推薦の書ということができる。