評者:平田健一(神戸大学大学院医学研究科循環器内科学分野教授)
今回、「血流維持型汎用血管内視鏡(NOGA)」の解説書が出版されました。本書は、わが国における冠動脈疾患治療の黎明期から臨床の現場で活躍され、血管内視鏡の開発に貢献された児玉和久先生が監修されました。血管内視鏡は、1980年代に開発が進み始めましたが、最初は、血流を完全に遮断する必要があり、危険性がありました。しかし、様々な技術改良によって血流維持下で血管内腔を観察できる「血流維持型汎用血管内視鏡(NOGA)」が開発され、安全に多くの情報を得ることが可能となりました。現在CT,MRI,OCTや超音波などの画像診断技術は目覚ましい発展を遂げていますが、血管内視鏡は血管内腔の動脈硬化性プラークなどの血管病変を直接観察できます。「百聞は一見にしかず」という言葉の通り、優れた空間分解能に加えて、血管病変を直接観察できることは、その病態の観察だけでなく、動脈硬化の発症、進展のメカニズムを解明する上でも重要な所見を得ることができます。
本書は、「I 総論、II 画像、III 手技」からなり、それぞれ「冠動脈、大動脈、共通」の項目に対してQ&Aの形でたいへんわかりやすく記載されています。得られた画像をどのように解釈するか、実際の手技の手順や注意点から、トラブルシューティングについてまで、多くの写真や動画を駆使して具体的に記載されており、非常に有用な内容になっています。
本書のサブタイトルには「あらゆる臓器の動脈硬化の概念が変わる!」とありますが、NOGAの画像からは、単に臨床上の画像情報のみならず、動脈硬化の成因に関する研究の発展につながる所見が得られる可能性があります。過去の多くの研究成果により、動脈硬化の発症、進展のメカニズムについては、血管の慢性炎症と変性コレステロールの蓄積によるプラークの形成が重要だと考えられています。また、冠動脈病変に関してはプラークの不安定化とその破綻による血栓形成が、急性冠症候群の発症メカニズムであると考えられています。しかし、実際のヒトにおいて、動脈硬化の初期病変から不安定プラークの破綻までを直接観察することは、血管内視鏡でのみ可能なのです。
本書は、NOGAを使用する入門書であると同時に、冠動脈や大動脈などの動脈硬化の成因や病態を考察する上での新しい現象を体験でき、動脈硬化への興味と理解が深まるお勧めの一冊です。