看護界が主体となって本書を出版されたことの意義は大きい
小児看護 Vol.37 No.10(2014年9月号) 書評
書評者:宮坂勝之(聖路加国際大学看護学部大学院周麻酔期看護学特任教授・聖路加国際病院周術期センター長)
本書のタイトルが,まずフィジカルアセスメントであり,次いで小児救急であることには特別な意味があります。それは編者らの長年の小児急性期総合診療看護の中で培われた強い信念に基づくものであり,序文にも本書全体にも縦横に表現されています。
小児医療は長い間小児科の医療であり,新生児科の医療でした。つまり一つの診療科内あるいは一つの病棟の内,あるいは一つの病院内で完結する医療でした。医師も看護師もその枠組みの中で最善の努力を行い,目の前の患者への集力が美とされ,専門細分化は一層進みました。しかし社会との接点,他の医療者や医療施設との共通の言語が育たず,それが先進国の中でわが国の小児救急医療が出遅れた背景でもあります。小児医療専門施設だからこそ率先して小児救急医療はやってほしい,という社会の当然の声が形になり始めたのは,編者らが所属した2002年の国立成育医療センター開設以降のことであり,編者らはそこで小児急性期総合診療看護を実践しました。
小児であれば誰でも診るはずであった小児科医も看護師も,いつしか臓器や病気の専門細分化の風潮に慣れきっていました。しかし親御さんにしてみれば,お子さんに日頃と違った問題が生じた場合,自分で診断がつけられるはずもなく,どこに連れて行ったらよいのか悩むのは当然のことです。総合診療部門はまさにその受け皿となります。全身のフィジカルアセスメントに基づいた患者評価は,総合診療の出発点であり,個々のバイタルサインの収集やその記録だけに留まらない患者評価は現代の看護師の重要な役割であり,本書はまさにそこに焦点を当てています。
突然の不整脈など心原性の「心停止」が中心の成人とは違い,小児での心停止は呼吸窮迫の段階を経た呼吸原性が中心で,「急変」の前に相当な身体変化が起きているはずです。予備力の少ない小児は十分な予兆がないとはいえ,ペッドサイドに常にいる看護師だからこそ,その変化を察知できます。加えて,これまでの小児医療では,緊急度と重症度の区別も明確ではなく,医師は患者の全身状態の評価よりは,自分の得意とする病気の診断にのめり込む傾向が強くありました。その点,患者総体(holistic)としての対応は看護師ならではの強みです。
看護界が主体となって本書を出版されたことの意義は大きく,本書を通じて小児医療に携わる多くの看護師のフィジカルアセスメント,そして患者評価能力の向上と層の厚みが得られることが,小児救急医療の発展につながるものと期待でき,本書を必携の書として推薦します。