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見逃してはいけない 耳・鼻・のどの危険なサイン

見逃してはいけない 耳・鼻・のどの危険なサイン published on

耳鼻咽喉科医が診察の際に座右に置くべき1冊

JOHNS Vol.33 No.1(2017年1月号) 書評より

書評者:武田憲昭(徳島大学医学部耳鼻咽喉科学教室)

耳鼻咽喉科の多忙な外来診察において,うっかり注意を向けなかった症状や所見が,後になって重大な疾患の初期であったことに気づいてヒヤリとした経験は,臨床医であれば必ず記憶にあると思われる。その時にお勧めしたいのが,新潟大学耳鼻咽喉科教授の堀井 新先生と浦野耳鼻咽喉科医院(新潟市)院長の浦野正美先生の編集による本書である。耳鼻咽喉科外来診察で見逃してはいけない危険な疾患の鑑別をテーマに,耳鼻咽喉科の外来診察で経験する耳・鼻・口腔・のど・顔面頸部に関する35の主訴を網羅し,主訴ごとに共通した構成で解説が行われている。
まず,主訴から想定して説明すべき5大疾患には,頻度の高い疾患に加えて,頻度は低いものの外来診療で決して見逃してはいけない危険な疾患が挙げられている。次に見逃してはいけない危険な疾患の鑑別診断のポイントと,それに対応する診断の進め方を示すフローチャートがあり,危険なサインである重大疾患の徴候が挙げられている。
場面による注意点と検査と診断の注意点には,危険なサインを見逃さないためのポイントが列挙されていてわかりやすい。フローチャートによる系統だった診断の進め方に加えて,診断基準や疫学も記載されていて,日常診療においても十分に役立つ内容である。また,見逃してはいけない疾患の実際の症例も,写真を多用して具体的に紹介されていて,興味深く読むことができる。さらに,主訴の発症メカニズムも図を多用して説明されていて,理解が深まる。患者の年齢や性別だけでなく,気質による対応も記載されていて,非常に具体的である。最後に患者説明のためのイラスト集が付けられている。
この本の構想は,浦野先生が医院のホームページに作られた主訴から推定できる疾患の患者さん用の説明サイトがもとになっているとお聞きした。この構想を堀井先生が発展させて新潟大学耳鼻咽喉科の先生が中心となって執筆していることは本書の特徴である。真摯に患者に向き合う浦野先生と,堀井先生をはじめとする新潟大学耳鼻咽喉科の知恵が詰まった1冊になっている。
優れた医師の定義はさまざまだが,患者の訴えからできるだけ多くの鑑別疾患を考えることができる医師は優れた医師である。本書は熟読することで鑑別診断の引き出しを増やすことができる好著であり,外来でのヒヤリハットを避けるためにも,われわれ耳鼻咽喉科医が診察の際に座右に置くべき1冊として推薦したい。

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科イノベーション-最新の治療・診断・疾患概念

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科イノベーション-最新の治療・診断・疾患概念 published on

どの単元もコンパクトにまとめられ、どの単元から読み始めても理解しやすい

ENTONI No.197(2016年9月号) Book Reviewより

書評者:佐藤公則(佐藤クリニック耳鼻咽喉科・頭頸部外科・睡眠呼吸障害センター)

実地臨床の日常診療で遭遇する実践的なテーマを中心にとり上げ、診療実践のスキルと高度な専門知識をわかりやすく解説した実践的な《ENT臨床フロンティア》シリーズ10冊が創刊されて4年あまりが経過した。多くの耳鼻咽喉科医に愛読され好評を博しているシリーズであるが、その続編として『耳鼻咽喉科イノベーション』が刊行された。
本書を手にしてまず思ったことはそのタイトルである。イノベーションとは経済学者J. Schumpeterにより、経済成長の原動力となる革新を指す広義な概念として用いられ、日本でもその概念で語られることが多い。しかし本来の英語としては、色々な分野における新しいアイデア、新手法、発明を意味する。本書を手にし、耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の新しいアイデア、新手法が豊富に解説されていることに心を躍らせながら、本書を紐解いた。
近年、ガイドライン、標準的治療にとらわれすぎているのではないかと思うことが多々ある。特に疾病に罹患した患者を最初に診察する開業医に、標準的治療が要求されているとも言われる。プライマリケアにおける外来診療は、患者に医療を施す第一歩である。診断能力の向上は、臨床医にとって日々研鑽し獲得すべきものであり、そのためにはガイドライン、標準的治療も有用である。しかし実際の臨床では、診断がついてもその病態は一様ではない。また複数の疾患、複数の病態が関与している場合もある。また診断に基づいた治療というよりも、病態に応じた治療が求められる場合もある。診断能力を日々向上させる努力は必要だが、一方で疾病を病態としてとらえ、疾病の病態をよく診る診療を行うことも大切である。その上で人としての患者を診る全人的医療を行うことが臨床医の使命である。
病態に応じた治療を行うためには幅広い医学的知識と経験が必要になる。一人で診療を行うことが多い診療所の診療では独善的になる傾向があり、最先端医療の知識を得ることが容易ではなくなる。開業医に最先端医療の知識は必要ないという意見もあるが、私はそうは思わない。最先端医療を含めた幅広い医学的知識がなければ、病態に応じた治療選択肢を患者に提示できないばかりか、全人的な医療は行えない。専門医自身が自覚して研鑽に努めなければ、患者に最良の医療を提供できないばかりか、患者の信頼と他科からの信頼を得られない。
そうは言っても実地臨床の現場では、最先端医療の知識を手際よく習得することは容易ではない。そのような中で耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域において研究・開発・実用化されているイノベーションの数々、改訂ガイドラインや最新の検査・治療法をはじめ、機器の改良・開発、新しい疾患概念などに焦点を当ててわかりやすく解説されている本書は、どの単元もコンパクトにまとめられ、どの単元から読み始めても理解しやすい。日々の診療でさらにステップアップを目指している開業医にとって、本書は良き指南書であることを確信する。

麻酔ポケットマニュアル

麻酔ポケットマニュアル published on

マニュアルの上を目指したマニュアル/豊富な図表,有用な付録/示唆に富むコラム

麻酔 Vol.65 No.9(2016年9月号) 書評より

書評者:上村裕一(鹿児島大学教授)

◆マニュアルの上を目指したマニュアル
本書は,初期研修で初めて麻酔の臨床に接する若い医師が常時携帯して活用することを目的に作成された「マニュアル」であるが,麻酔を行う際に手技や薬物の投与のために参考にする手技の手順や薬物の名前と投与量を単に解説しただけの“マニュアル本”ではない。手技や薬物投与の根拠となる理由や薬物の作用機序などにも深く言及し,研修医が抱くであろう疑問も解決してくれる指南書である。そのために,本書は編者の豊富な人脈の中から選ばれた多くのスペシャリストの執筆で作成されている。その中の数名が自身のこれまでの麻酔科医としての豊富な経験に基づき,それぞれ個性あふれる内容で若い医師へのメッセージを述べているが,麻酔科医の仕事と役割を理解することができ,麻酔科医を目指す研修医への貴重な助言となっている。
◆豊富な図表,有用な付録
しかし,実際に使用する際には求める情報が迅速に得られるように,図表を多く用い視認性が向上するようにコントラストを強調した2色刷りになっている。
また,薬剤に関しては,最初に1章を設けて“薬理と効果”を説明し,実際に使用する時のために最後の章で“使い方”として,作用機序,適応・用法・用量,禁忌が簡潔にまとめられている。さらに付録として,よく用いられるスコアやスケールがまとめられているが,そこに“略語一覧”も付けられている。初期研修医はいろいろな科をローテートするが,領域ごとに多用される略語は異なっており,カンファレンスや指導を受けているときに略語が理解できず,かといって途中で略語の意味を問うこともできず戸惑う初期研修医が多い。“略語一覧”はそのような際に初期研修医が戸惑わないようにとの,編者の心優しい配慮である。
◆示唆に富むコラム
本書では各所にいろいろなコラムが設けられている。内容は用語の説明や麻酔手技のこつ,機器の説明など多様で,臨床的に示唆に富むものが多い。また,担当者の経験談に基づくものや,少しオタクな薀蓄など個性に富むものが多く,コラムだけを拾い読みしても麻酔関連のお話ネタとして楽しめる。本書はいつも携帯して使用されることを前提に書かれたマニュアルであるが,麻酔が終わって時間ができたときに,このコラムを読めば麻酔科への関心も深まると思われる。

本書は「ポケットマニュアル」として,麻酔を行う際に常に携行できるサイズになっている。実際に手技を行い薬剤を使用する際の手引きとして,さらに万一緊急事態に遭遇した際の対処の拠り所として非常に有用なマニュアルとして,そして麻酔を理解するための入門書としても推薦する。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期のモニタリング

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期のモニタリング published on

従来の書籍にはない,経験に裏打ちされた技術と判断が十分に感じ取れる

麻酔 Vol.65 No.8(2016年8月号) 書評より

書評者:鈴木利保(東海大学教授)

本書は,新戦略に基づく麻酔・周術期医学シリーズの7冊目にあたるもので,今回は『麻酔科医のための周術期のモニタリング』がテーマである。本書は「神経系モニター」「呼吸器系モニター」「循環器系モニター」「筋弛緩モニター」「パルスオキシメータ」「体温」の6章から構成されている。まず驚かされるのは,執筆者がそれぞれの領域の第一人者であることにある。本書からは彼らが臨床に情熱を注いでいることが容易に想像でき,従来の書籍にはない,経験に裏打ちされた技術と判断が十分に感じ取れる。
第1章:神経系モニターでは,BISモニター,聴性誘発電位,運動誘発電位,体性感覚誘発電位,視覚誘発電位,脳酸素飽和度モニターの6つのモニターについて,80頁も解説が加えられている。これらのモニターの歴史,原理,測定に影響を及ぼす因子,実際の臨床使用について分かりやすく解説されている。
本書の特徴は,解説が4行程度の箇条書きで簡潔にまとめられており,読みやすい工夫がなされていること,表,イラスト,写真,フローチャートを多用しており,表やイラストは2~3色のカラーを使用しているために,視覚的にも理解しやすいこと,各要所に「Column」欄を設け,最新情報を適宜収載していることが挙げられる。
第2章:呼吸器系モニターでは,カプノグラム,麻酔ガスモニター,経皮血液ガスモニター,人工呼吸器モニターを取り上げている。なかでも興味深いのは人工呼吸器モニターである。近年,周術期の患者呼吸管理が予後に影響を与えるとの報告があり,1回換気量,気道内圧の正確なモニタリングが必要になっている。本項では人工呼吸モニタリングの意味,換気量の測定,呼吸機能モニターについて明快な解説を加えている。第3章:循環器系モニターは,古典的な動脈圧モニター,中心静脈圧モニター,心拍出量モニター,非侵襲的心拍出量モニターに加えて,経食道心エコー法,携帯型エコーについて解説されている。経食道心エコー法の詳細については,紙面の関係上,成書に譲るとしてあるが,携帯型エコーの上手な使い方について述べられていることは有益であろう。第4章:筋弛緩モニターでは,その意義,測定法,刺激の原則とパターンについて解説されているが,何より理想的なモニタリング部位とセットアップ上の細かい注意点まで詳述されており,大変役に立つ。第5章:パルスオキシメータについては通常型に加えて進化型パルスオキシメータの原理,測定項目について詳しく解説を加えており,パルスオキシメータの進化が実感できる。第6章:体温は深部体温計,末梢温測定の2項目からなり,体温測定の意義と実際について詳しく解説している。また付録として,本書に掲載されているモニター機器は,メーカー情報を加えて写真入りで紹介されているのが役に立つ。
本書は,ベテラン麻酔科医のみならず,麻酔科専門医を目指す若手麻酔科医,臨床研修医,医学部学生にも一読してほしい本である。

実践!耳鼻咽喉科・頭頸部外科オフィスサージャリー

実践!耳鼻咽喉科・頭頸部外科オフィスサージャリー published on

明日から,いや今日から役に立つ

JOHNS Vol.32 No.6(2016年6月号) 書評より

書評者:大森孝一(京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科)

耳鼻咽喉科・頭頸部外科の取り扱う領域は,耳,鼻副鼻腔,口腔,咽頭,喉頭,気管,食道,頭頸部と幅広く,それぞれ病態や治療手技は異なっている。耳鼻咽喉科医はこれらの領域に幅広くかつ高いレベルで対応する必要があるが,そう簡単ではない。本書は,佐藤公則先生が久留米大学病院で手術されていたころの経験を原点として,大分市で有床診療所として開業されてきた約23年間の手術治療のうち,主に局所麻酔で実施できるオフィスサージャリーについてまとめたものである。日常臨床で蓄積された智恵と技術がぎっしりつまっている。市中病院で行うような手術や処置を診療所で実現しておられ,カバーする疾患の多さに驚く。各項目では手術のポイントを最初にあげて,術中写真や手術シェーマをふんだんに使って理解を助けている。医療機器や記録装置などについて具体的に記述されているので,新たに始める読者にわかりやすい。内視鏡写真,CTだけでなく病理写真が豊富に載っていて,学術的な深みを感じる。
佐藤先生は術者にとって何百例,何千例の手術の中の1例であっても,患者にとっては一生に一度の手術であり,オフィスサージャリーに固執することなく,患者,医師,医療機関に適した手術の適応と限界を設定するべきであると書かれている。患者一人ひとりを考えて真剣に治療方針を決定されている臨床態度が伺える。また,佐藤先生は喉頭科学の基礎研究を継続しておられ,その成果が毎年のように海外一流医学誌に掲載されている。基礎研究への情熱と同時に,本書のような実践的な著書を出されることに舌を巻くと同時にただただ尊敬の念を感じている。耳鼻咽喉科疾患を幅広くカバーして質の高い医療を提供するスーパー開業医はもう出てこないかもしれないが,臨床や研究に対する態度を少しでも若い医師に見習って欲しい。
本書は,市中病院で手術治療を行っておられる医師に有用であることは間違いないが,診療所でもできる内容を満載している。将来の耳鼻咽喉科開業医像の1つを示しており,一部でも参考にしてオフィスサージャリーを実践していただければ,より専門力の高い開業医として評価されると思われる。日常臨床で標準的な手術手技を確認する際や難しい病態で手術に工夫が必要な際に,それぞれの項目を見ていただきたい。きっと明日から,いや今日から役に立つと確信している。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための区域麻酔スタンダード

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための区域麻酔スタンダード published on

すべての周術期臨床現場にあってしかるべき書

麻酔 Vol.65 No.5(2016年5月号) 書評より

書評者:小川節郎(日本大学教授 )

本書「麻酔科医のための区域麻酔スタンダード」は,監修者の森田 潔氏らが刊行している《新戦略に基づく麻酔・周術期医学》シリーズの第7冊日として発刊されたものである。森田氏による“シリーズ刊行にあたって”によると,本シリーズは周術期管理に焦点を絞り,麻酔科医の知識と技術の向上を目的とし,単なるマニュアル本ではなく,基礎的な生理学,薬理学などの知識を基にした内容にしたとあり,本書もまさにその理念に則ったものとなっている。
本書編者の横山正尚氏も述べているように,最近の麻酔科領域でもっとも注目を浴びている分野は“区域麻酔”といっても過言でないであろう。特に超音波ガイド下神経ブロックの導入により,周術期の麻酔管理に大きな変化がもたらされている。ではなぜ今,“区域麻酔”なのであろうか。本書の第1章“区域麻酔総論”の中からその理由を抜粋すると,①超音波装置等の医療機器の技術革新により,区域麻酔の技術も急速に進歩したこと,②使用する薬剤の進歩により,区域麻酔の応用範囲が広がっていること,③近年においては周術期の課題が死亡率の減少から回復の質の向上にシフトしており,この観点からみて,区域麻酔は他の麻酔・鎮痛法と比べて有効性が高いとするデータが出てきていること,④高齢者の周術期管理においても,区域麻酔がさまざまな点で有利であること,⑤医療費の軽減に寄与する可能性が高いこと,などが挙げられている。
本書では,現在行われている“区域麻酔”のすべてについて非常に要領よく,かつ,分かりやすく記述されている。主な内容を挙げると,第1章の“区域麻酔総論”は,なぜ今,区域麻酔なのか,区域麻酔の歴史,痛みの伝導機構と区域麻酔,区域麻酔の種類の4項目からなり,第2章の“区域麻酔で使用する薬剤”では局所麻酔薬の基礎的・臨床的知識を勉強でき,さらにオピオイドの使用法についても記述されている。第3章の“末梢神経ブロックに使用する機器の知識”では,超音波装置と神経刺激装置の基礎知識と使用法,テクニックなどが取り上げられている。以下,第4章は“周術期末梢神経ブロックの実際”,第5章は“超音波ガイド下末梢神経ブロック各論”と続き,第6章“硬膜外ブロックUp-To-Date”と第7章“脊髄くも膜下ブロックUp-To-Date”では,これまで行われてきたこれらの麻酔法に関する新しい知識が示されており,非常に興味深い。
本書の特長は,また非常に実践的な内容であることである。分かりやすい多くの図表,超音波画像,手技の実際を示す写真により,臨床の現場ですぐに役立つ知識が得られよう。また,各項目には内容の基となった最新の文献がまとめられているので,さらに詳しく知りたい場合に非常に有用である。
以上のように,本書は,いわば“区域麻酔のすべて”というべき内容から構成されていることから,すべての周術期臨床現場にあってしかるべき書であると思われた。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための気道・呼吸管理

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための気道・呼吸管理 published on

日常業務を淡々とこなしている麻酔科医に潤いを与え,意欲と勇気と自信を与えることに間違いない

LiSA Vol.20 No.12(2013年12月号) Medical Booksより

書評者:川前金幸(山形大学医学部 麻酔科学講座)

気道管理,呼吸管理は,麻酔科医に必須である。臨床でも,常に細心の注意を払わなければならない。専門医になる前の修練時代には,気道確保や呼吸管理で,ヒヤリとした経験が少なからずあるだろう。また,この領域のトラブルは致命傷となるため,裁判などで世間をにぎわす題材となってしまう。このような点からも,気道管理,呼吸管理の知識と技術の向上は必須である。
本書では,最新の気道確保法が多くの器具とともに解説される。特に解剖と器具の図版は,読み手の立場に立って丁寧に構成されており,非常にわかりやすい。
気道管理については,安全な気管挿管法の解説に加えて,覚醒下抜管,覚醒前抜管,抜管と残存筋弛緩など,抜管に関するテーマも深く広く取り上げられ,それぞれの特徴が手に取るように理解できる。
呼吸管理については,最近の人工呼吸器の複雑な換気モード,複合化した換気設定などの解説に加え,周術期管理で徐々に市民権を得つつある非侵襲的陽圧換気noninvasive positive pressure ventilation(NPPV)について,さらに呼吸不全に対するきわめつけの治療ともいうべき体外式膜型人工肺extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)の解説など,人工呼吸管理の最新情報が詳述されている。
そして,特にわれわれ麻酔科医が周術期の呼吸管理に難渋する疾患や病態に関しても,わかりやすい解説が加わる。また,麻酔・集中治療で使用する薬物が呼吸に及ぼす影響について,具体例を紹介しながら記載される。理解を助けるための図表,写真などにも種々の工夫がみられ,読んでいて疲れない。これらをもってすれば,呼吸器や循環器の医師とも大いに議論する基礎知識を習得できること請け合いだ。付録も含めて,麻酔科医が手術室の麻酔を中心として,気道管理,呼吸管理などに当たる際の最強の武器になるだろう。
『新戦略に基づく麻酔・周術期医学』シリーズは,高度な専門知識と診療実践のスキルを簡潔にわかりやすく解説することをモットーに,すべての内容にわたって最新の論文,関連する診療ガイドラインの動向,エビデンスにもとづく考察,先進的な取り組みを重視し,さらには「Advice」「Topics」「Column」欄を設けるなど,至るところに創意工夫を施している。日常の麻酔管理,周術期管理に疲れてソファーで一息つきながらページをめくるときでも,心地よく頭に入ってくる。これは,日常業務を淡々とこなしている麻酔科医に潤いを与え,意欲と勇気と自信を与えることに間違いない。
麻酔科医局に1冊,研修センターの本棚に1冊,専門医試験前であれば机の上にも1冊。仕事が楽しくなるだろう。

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期の薬物使用法

新戦略に基づく麻酔・周術期医学 麻酔科医のための周術期の薬物使用法 published on

私たちが日常臨床で使用する機会のある薬物のほとんどすべてが網羅

麻酔 Vol.64 No.11(2015年11月号) 書評より

書評者:稲田英一(順天堂大学教授)

周術期計画の第一歩は,術前評価と管理である。原疾患に対する術式に関する理解はもちろん,患者の持つ併存疾患の有無と重症度評価,服用歴について理解が必要である。つぎつぎと新しい薬物が開発されるなか,術前使用薬物について理解し,さらに麻酔薬との相互作用について理解しておくことは必須である。周術期管理においては,血圧や心拍数変動,心筋虚血,気管支痙攣などに対する薬物療法を習得しておく必要がある。
最近,特に問題となるのは,抗血小板薬や抗凝固薬,血栓溶解薬など血液凝固系に関連する薬物である。これらの薬物は,継続することによる出血のリスクがある一方,中止による血栓発生のリスクを持っている。輸液に関する考え方も,early-goal directed therapy(EGDT)や,restrictive fluid therapy,中分子ヒドロキシエチルデンプン(HES)の市販により大きく変わってきた。周術期管理を行う麻酔科医にとって,維持輸液や補充輸液だけでなく,高カロリー輸液やアミノ酸輸液などの栄養管理に関する知識も必要である。今後の麻酔科専門医資格取得のためには,安全,倫理に加え,感染についての知識も必要となる。そのためには,感染症対策,抗菌薬投与の基本的考え方について理解しておく必要がある。
このような麻酔科医にとって必須の薬物使用法についてまとめたのが本書である。1章は術前使用薬物,2章は麻酔薬,麻酔関連薬,3章は全身管理薬,4章は輸液,輸血,5章は抗菌薬,6章は抗ウイルス薬,抗真菌薬,7章は周術期,ICUにおける栄養という7章から構成されている。私たちが日常臨床で使用する機会のある薬物のほとんどすべてが網羅されている。各項目の最初には,重要ポイントが記載されている。本文も箇条書きとなっており,読みやすく,重要なコンセプトは赤字で欄外に記載されており,知識の整理がしやすくなっている。図表は多く,図はカラフルで,重要な概念が一目で把握できるようになっている。
よく用いている薬物であっても,その作用機序や薬物動態,適応と効果,副作用と注意点などと読み進めると,改めてその薬物の持つ意味合いが理解できる。薬物だけでなく,その薬物を使用する周術期の場面はどのような場面であるか,どのように注意して薬物を投与すべきかなど,全体像を把握できるように記載されていることもありがたい。
周術期管理に関わる麻酔科医にとって有用なだけでなく,外科医や集中治療医にとっても有用な本であると考えられる。

整形外科手術イラストレイテッド 上腕・肘・前腕の手術

整形外科手術イラストレイテッド 上腕・肘・前腕の手術 published on

上腕・肘・前腕の標準的な手術を網羅した一冊

Orthopaedics Vol.28 No.9(2015年9月号) BookReview

書評者:酒井昭典(産業医科大学整形外科学教室)

本書は,2010年から刊行されている《整形外科手術イラストレイテッド》シリーズの7冊目(最新巻)として2015年7月に刊行された.本書の特長は,実際の手術手技を精緻なイラストで示しながら,そのポイント,注意点,臨床的意義について,ひとつのアプローチや手術法あたり概ね5ページ前後にまとめて記載されていることである.視覚的に手順を追って術野の展開と手技を確認しながら手術の様子や実際の動きが理解できるようになっている.さらに,付属のDVDで動画をみることができる.
また本書では,上腕・肘・前腕の主な疾患に対する標準的な手術法が網羅されている.骨折に対する整復固定術,靭帯損傷に対する縫合・再建術,変形性肘関節症に対する観血的授動術,運動機能再建術,離断性骨軟骨炎に対する鏡視下手術,TEAなどについてカラーイラストと手術写真,X線写真を多数用いて具体的に解説されている.手技の“ポイント”と“コツ”,基本的事項をまとめた“サイドメモ”が分かりやすく書かれている.
外科医は高い手術技能を有することが必要である.そのためには,安全で確かな手術手技の伝承と自ら手技を研鑽する不断の努力が必要である.しかし,若手医師は,系統的に手術手技を学ぶ機会は少なく,実際には,臨床現場で経験した個々の症例から習得することになる.習得のレベルと手技の正確度は,経験した症例内容と指導医の教え方に大きく依存することになる.手術手技の標準化が必要である.
手術を予習するうえで,手元に置くべきものは解剖学書と実践的な手術書である.本書に目を通しながら術前に手術をシミュレーションすることができる.整形外科の専門医だけでなく,初期研修医や後期研修医などの若手医師,手術室の看護スタッフの方々にも大いに役立つ手術書である.日本整形外科学会専門医試験における動画を用いた口頭試験にも有用であろう.日常臨床ですぐに役立つ,お勧めの一冊である.

整形外科手術イラストレイテッド 骨盤・股関節の手術

整形外科手術イラストレイテッド 骨盤・股関節の手術 published on

手術テクニック習得のための股関節外科専門医必携の書

Orthopaedics Vol.26 No.6(2013年5月号) BookReviewより

評者:進藤裕幸(長崎大学名誉教授)

《整形外科手術イラストレイテッド》シリーズの5冊目として『骨盤・股関節の手術』が中山書店より上梓された.本シリーズでは,イラストレーションを主な媒体として手術手技を視覚的に明示することに力を注ぐ一方で,説明文を極力少量化してポイントに絞った分かりやすい解説にとどめていることが大きな特長といえる.整形外科領域の主要な手術を網羅する全10冊で構成され,手術手技を視覚的に認知し,その体得を可能にするバイブル的な手術手技教科書のシリーズである.
本書では,股関節へのアプローチとして普遍的な進入法に加えて寛骨臼骨折に対応する腸骨鼡径進入法が詳細に掲示・解説されている.さらに各論的な手術法が21項目に及び,関節温存手術11編,人工関節関連10編が取りあげられるなかで,とくに7編は各種の再置換術に関するもので,まさに時勢に対応した内容となっている.
股関節は深部に位置するため一般に術野が狭く,オリエンテーションがつきにくく,ビデオ等では鮮明な画像情報を提供することが困難とされる.しかし本書では,解剖学的に正確に作成されたきわめて明瞭で美しいイラストが存分に採用されており,イラストを主役とする本シリーズの本領を如何なく発揮している.加えて強調すべき注目点として“吹き出し状の囲い枠内”にきわめて簡潔・明快にまとめられた“手術のポイント”,“手術のコツ”,本書で新たに採用された“ピットホール”が添えられていることも読者には嬉しい贈り物である.多数の当該手術を通じて酸いも甘いも経験を十分に積んだ著者ならではの貴重なコメントが盛り込まれている点は,誠に実践的で効果的な特長であろう.
専門編集の労を取られた内藤正俊氏をはじめ,そして何よりもこの編集形式とその編集主旨に協力を惜しまなかった各著者の真摯な責任感と意気込みが伝わってくる名著といえる.また本書の股関節に関するあらゆる術式が27項目にわたって網羅されている点も,整形外科専門医としてさらに股関節外科専門医を目指す若手医師にとっては,手術テクニック習得のための必携書として本書を推薦するものである.
さらに付録のDVDには15項目の手術ビデオが収載されており,手術への臨場感を含めた立体的なオリエンテーションと各種インストゥルメントの使用法を具体的に理解する重要な助けとなっている.冊子中のイラストはあくまでも2次元での情報であるが,これをしっかりと頭にインプットしたうえでビデオを精観することで,読者は一挙に“著者並みの熟練者になった心地を体験できるかもしれない.
股関節外科医を志す人にとって本書が座右の書となることを願う次第であります.