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DSM-5を読み解く 神経発達症群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連

DSM-5を読み解く 神経発達症群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連 published on

DSM-5に慣れる必須の1冊

精神医学 Vol.57 No.3(2015年3月号) 書評より

書評者:長尾圭造(長尾こころのクリニック院長)

分類学には論理的な科学性はない。したがって分類はいかに役に立つかというもっともらしさ,つまり蓋然性や妥当性が問われるので,その時の事情や背景を基に恣意的にならざるを得ない。4回目の改訂となった今回のDSMは,特に子どもの分野では,近年の疫学,分子遺伝学,脳画像,家族・双生児研究,認知精神科学,環境・文化の影響による発達精神病理の進歩の影響を受け,大幅な見直しがなされた。その結果,診断名が増え,アセスメントと尺度や面接法も示された。
DSM-5の分類には診断名,診断的特徴,有病率,年齢による経過(症状の発展と経過),危険要因と予後要因,文化・性別に関する診断的事項,機能的結果(予後など),鑑別診断,併存症などが記されている。このそれぞれには,臨床経験と研究を基に議論を重ねた結果が書かれているため,そのコトバは重い。このため,これが作られてきた背景,その診断の意図,利用法,使い方などは,ベテランによる解説が何より望ましい。DSM-5に習熟するためにはガイドラインが必要となる。
本書の構成は,「DSM-5時代の精神科診断」では,これまでの歴史・開発の背景・経緯・全体の改定点・ディメンション的診断モデルのゆくえが描かれている。「児童精神医学の診断概念とDSM-5」では,DSM-5における構成上の再編とその背景が述べられている。「児童精神医学の診断概念の歴史的変遷」では,DSM体系の概要と幼児期から青年期に発症する障害の下位分類と単位障害の変遷が,「DSM-5とICD-11の相違点」では,meta-structureの違い,神経発達障害群,食行動障害および摂食障害群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群について解説されている。その後の章では,各診断名である神経発達症群/神経発達障害群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連といった,児童青年期に大事な疾患が取り上げられ,解説されている。
診断には,表出される症状,その表出症状を構成する背景症状,その背景症状を構成している病理,それが生じてきた環境と生物学的背景と順に考えを進めて,たどり着くことにより,初めて症状の理解と診断ができる。特に子どもの場合,症状形成の因果関係には,成人以上に,環境の影響が絡むし,症状の動揺性も強い。したがって,一人ひとりの患者を丁寧に診るには,DSM-5で取り上げられたそれぞれの視点から,考えを巡らせることにより,臨床の厚みが格段に増す。
今後の課題も多い。メンタルヘルスへの関心・アプローチから,カテゴリー診断の限界が見えたため,次元診断という捉え方をさらに進める必要があろうし,診断閾値以下のメンタルへルス状態へのアプローチ,遺伝子とそのエピジジェネティクスの出方やエンドフェノタイプと症状発現などを疾患との関連でとらえることも必要となる。DSM-6には,そのような視点からも変更がなされることも予想される。しかし,それまでのおそらく20年前後は,DSM-5が使われると考えると,誰もが,いずれは,できれば早く習熟しなければならない。そのための解説手引書としては,これまでの児童青年精神医学の来歴が示されているし,実際の診断項目の解説も分かりやすい。本書はDSM-5に慣れる必須の1冊となっている。研究者にとっては,DSM-6を,どのように計画すればいいのかを考える1冊でもある。

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科 最新薬物療法マニュアル-選び方・使い方

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科 最新薬物療法マニュアル-選び方・使い方 published on

枠外解説を読んでいるだけでかなりの知識を得ることができる

JOHNS Vol.31 No.4(2015年4月号) 書評より

書評者:飯野ゆき子(自治医科大学附属さいたま医療センター耳鼻咽喉科)

ある講演会で市村恵一先生のご講演を拝聴する機会があった。ご講演のタイトルは「薬を上手く使うコツ」である。日常臨床に則したお話で,感冒薬から抗菌薬,副腎皮質ステロイド,さらには漢方薬まで幅広い視点からお話をいただいた。聴衆一同感銘を受けたのは言うまでもない。このご講演のように,わかりやすくまた楽しく知識が得られる薬剤に関する本があればいいなあと感じた次第である。この想いがこの度実現した。 ENT臨床フロンティアシリーズ「耳鼻咽喉科最新薬物療法マニュアル―選び方・使い方」である。市村恵一先生が専門編集を担当されている。まさに先生のご講演を拝聴して感じた想いをそのまま著書としてまとめていただいた感がある。
内容に少し触れてみたい。28章から成り立っている。最初の2章は薬物療法の基本的知識に関してである。第1章は「各症状に対する薬物の適応と選び方」,第2章は「薬物の有害事象とその対策」。第1章ではP-drug(personal drug)という概念についても言及されている。P-drugはあまり馴染みのない言葉であるが,日本語では“医師個人の薬籠の中の薬”ということになる。多くの医師が臨床の場で薬剤を選択していく過程は以下のように認識されている。まず先輩医師に習って処方し,薬の名前や薬理作用を徐々に覚え,自分なりの処方にアレンジしてゆき,自分の経験をフィードバックして更にいろいろな薬剤の組み合わせを工夫する,という過程である。しかしこれは独断的になりがちでエビデンスに乏しいと指摘されている。1995年,WHOによりP-drugの概念が医薬品の適正使用の出版物のなかで述べられた。P-drugは「私の薬籠」に留まることではなく,薬剤に関するすべての情報を完全に把握し,患者個々の病態に応じた適切な薬物を選択するための過程を含んでいる。P-drugに沿った診療の流れに関しては本書の中で詳細に解説されている。
第3章からは抗菌薬から健胃薬まで22種類の内服あるいは全身投与薬剤に関する解説,25章からは点耳薬,点鼻薬,口腔用薬,軟膏・クリームといった耳鼻咽喉科で頻用されている外用薬についての解説である。一般的な薬理作用,有害事象,注意すべき事項,適応等,これらは『今日の治療薬』やこれまでの薬物療法に関する種々の書物に記載されていることとさほど大差はない。しかし本書の素晴らしい点は“Advise”“Tips”“Topics”“Column”といった別枠がもうけられており,まさに臨床の場で最も知りたい薬物療法に関する知識,あるいは疑問点に対する解答がちりばめられていることである。たとえば頸部膿瘍等の嫌気性感染症に対する抗菌薬治療。これまではクリンダマイシンを用いることが多かった。近年ではクリンダマイシンの嫌気性菌に対する耐性化が指摘され,この神話が崩壊している。この点に関しても詳細に解説されている。このように枠外解説を読んでいるだけでかなりの知識を得ることができる。
困った時に頼りになる1冊であることは間違いないが,パラパラめくって読んでいても非常に楽しく,また勉強になる1冊である。市村恵一先生が“序”で書かれている「読者に,本書を座右のレファランス書として脇机に君臨させるのみならず,ある程度通読してもらいたいと思う」という願いが込められたすばらしい書と考える。是非ご一読願いたい。


レファレンス書としてばかりでなく「読み物」としての魅力に満ちている

ENTONI No.175(2015年1月号) Book Reviewより

書評者:丹生健一(神戸大学耳鼻咽喉科頭頸部外科)

この度《ENT臨床フロンティア》シリーズとして中山書店から『耳鼻咽喉科 最新薬物療法マニュアル』が発売された。編集は多くの雑誌や書籍の企画をされてきた自治医科大学名誉教授 市村恵一先生である。
耳鼻咽喉科疾患に対して処方される薬剤は、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、消炎鎮痛剤、粘液溶解薬、抗ヒスタミン薬、副腎皮質ステロイド薬、粘液溶解薬、抗ヒスタミン薬、抗止血薬などの内服薬、点耳薬、点鼻薬、軟膏・クリームなどの外用薬等と多岐にわたる。本書では、それぞれの薬剤について、適応や使い方・選び方、注意すべき副作用など、最新の情報にもとづいて第一線の医師により解説されている。漢方薬も大きく取り上げられ、主な疾患に対する処方例が具体例に示されているのが有り難い。従来処方薬であったものが次々とOTC薬品として薬局やドラッグストアで販売されるようになってきた時代に応え、関連する一般市販薬や他科の薬剤についても説明が加えられている。
クラシックな切り口に加え、使い方のコツが「Tips」に、日々の臨床で出会う疑問や迷いへのエキスパートからの回答が「Advice」に掲載され、「Topics」に最新の話題も紹介されているのも本書の大きな特徴である。いずれの項も各執筆者の熱意が感じられる素晴らしい出来で、レファレンス書としてばかりでなく「読み物」としての魅力に満ちている。編集者の狙いが見事に成功し、類書と一線を画する耳鼻咽喉科医師必携の薬物療法ガイドとなった。座右の書として診察室に備えるだけでなく、教科書として通読することをお勧めする。
いうまでもなく、薬物療法は局所処置や手術とならび、耳鼻咽喉科診療の大きな柱である。特に外来では、薬物療法は耳鼻咽喉科診療の根幹をなしている。個々の患者の病態を総合的に把握し、最適な薬物療法が選択されることが求められる。読者の皆さんは、先達の教えや様々な経験に基づいて自分なりの薬の使い方―スタイル―を築き上げておられると思うが、ぜひ、日常診療に本書を活用することにより、自らのスタイルを見つめ直す機会を持っていただきたい。

ENT臨床フロンティア 子どもを診る,高齢者を診る 耳鼻咽喉科外来臨床マニュアル

ENT臨床フロンティア 子どもを診る,高齢者を診る 耳鼻咽喉科外来臨床マニュアル published on

実践的かつ教育的な外来診療マニュアルとなっており、是非診察室に備えていただきたい一冊

ENTONI No.173(2014年11月号) Book Review

書評者:小川郁(慶應義塾大学耳鼻咽喉科)

《ENT臨床フロンティア》は耳鼻咽喉科の日常臨床に直結するテーマに絞ったシリーズで、臨床現場のニーズを反映した実践的かつ教育的な外来診療マニュアルとして好評を得ている。今回、山岨達也教授の企画、編集による『子どもを診る 高齢者を診る』がシリーズの第9弾として発刊された。子どもと高齢者を対象とした耳鼻咽喉科の外来診療マニュアルは私の知る限りでは初めての企画である。
少子高齢化が進む近年の耳鼻咽喉科の日常臨床では、患者の年齢構成のみならず疾患体系や治療戦略が急速に変化している。例えば少子化が進む小児医療の現場では、急性中耳炎や滲出性中耳炎、アレルギー性鼻炎の診療ガイドラインに基づく診療が求められるようになっており、また、小児難聴の早期診断や早期対応も耳鼻咽喉科医の重要な役割となっていることから、そのための最新の知識が必要になっている。一方、世界に先駆けて超高齢社会を迎え、高齢者、特に75歳以上の高齢者を診る機会がますます増加していることから、健康年齢の高齢化から手術適応を含めた治療戦略についての新たな知識が求められている。このような背景から本企画では小児と高齢者に特有な耳鼻咽喉科疾患の診療として、それぞれの「診療の進め方」、「診療のコツと注意点」、「治療上の注意点」を総論として提示し、各年齢における日常臨床で重要な耳鼻咽喉科疾患を各論としてまとめている。
特に山岨達也教授が重点的に取り上げたのは小児難聴の診療である。一側聾に次いで先天性高度難聴を遺伝性難聴と胎生期感染症、内耳奇形に分けてそれぞれの診断法について分かりやすく解説している。また、重複障害の影響についても一項目として取り上げている。治療に関しては補聴器装用のコツ、人工内耳の適応評価と成績について解説しており、人工内耳の登場によって劇的に変化した小児難聴診療における耳鼻咽喉科医の責任に応えるための充実した内容になっている。
もちろんその他の項目も力の入った読み応えのある内容である。特にすべての項目で診断から治療に至る考え方についてフローチャートでまとめており、診療の流れにより反映しやすい工夫となっている。また、最後には診療に役立つ資料集として、高齢者に対してとくに慎重な投与を要する薬物のリスト、高齢者に多い合併症と使用を控えるべき薬剤、そして学校健診のための市立幼稚園用、小学校用、中学校・中等教育学校・高等学校用の耳鼻咽喉科保健調査票を掲載しており、それぞれ大変役に立つ資料になっている。
日頃から日常臨床の合間に活用できる、まさに実践的かつ教育的な外来診療マニュアルとなっており、是非診察室に備えていただきたい一冊である。

ENT臨床フロンティア  のどの異常とプライマリケア

ENT臨床フロンティア  のどの異常とプライマリケア published on

随所に見られる治療側と患者側にたいする心くばり 日常診療の常備書として推薦したい一冊

ENTONI No.160(2013年11月号) Book Reviewより

書評者:小宗静男(九州大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科分野)

われわれ耳鼻咽喉科医にとって『のどの異常』を訴えてくる患者を診ることは日常茶飯事のことである.特に高齢者社会に突入しこれからさらに増加することは間違いない.しかしこのような訴えを持つ患者の裏に潜む疾患と病態を的確に捉えることできる知識と治療経験を多くの耳鼻咽喉科医が身につけているかというと,はなはだ心許ないのではないだろうか.私は耳科学が専門であるが立場上専門領域以外の知識は年ごとに遅れていくのを痛切に感じている.このたび本書を読む機会があり,またこの分野の知識不足も手伝って一気に通読させていただいた.読後の感想を一言で言うと,咽頭・喉頭疾患についての診断から治療までの概念がリフレッシュされ最新の知識とともにコンパクトに頭の中に整理整頓された感じがする.まさに実地医家をターゲットとしたプライマリケア書といえる.
本書は咽頭・喉頭疾患を網羅的にのべるのではなく診療に際して重要な事項を中心に実践的に解説することを目的としてある.総論としては3項目に分けてのべてあるが,まず「のどの異常」の三主徴,すなわち「咽頭痛」「嗄声」「嚥下障害」を訴える患者に対しての診療の流れについてフローチャートを用いて解説してあり大変わかりやすい.次に診断に必要な主な検査についてその意義,手技上の注意点なども含めて実地ですぐに役立つようのべてある.治療の実際では一般診療所でも行える手術を取り上げている.各論はこれも3項目になっており,咽・喉頭疾患,声帯麻痺,嚥下障害について最新の治療法を含め詳しく解説してあり,知識のリフレッシュができた.本書で特徴的なのは各ページのサイドメモである.見逃しそうであるがじつは大切な事項をワンポイントでのべてあり,貴重な知識として生かされる.また付録としての患者説明用の各疾患別の書類とわかりやすいイラストの資料集も実地医家にとって,とてもありがたいものである.このように,本書はその内容はいうまでもなく,編集者の治療側と患者側にたいする心くばりが随所に見られ,すばらしい本に仕上がっている.日常診療の常備書としてぜひ推薦したい一冊である.

ENT臨床フロンティア がんを見逃さない-頭頸部癌診療の最前線

ENT臨床フロンティア がんを見逃さない-頭頸部癌診療の最前線 published on

さらなる診断学の進歩が治療に反映される時代がきていることを強く感じさせる良書

耳鼻咽喉科・頭頸部外科 Vol.85 No.9(2013年8月号) 書評より

書評者:海老原敏(練馬光が丘病院,国立がんセンター東病院名誉院長)

『がんを見逃さない―頭頸部癌診療の最前線』は,《ENT臨床フロンティア》シリーズの5冊目となるものである。シリーズ刊行にあたって,編集委員が目的とした「実戦重視」耳鼻咽喉科診療の第一線ですぐに役立つという趣旨に沿って,頭頸部癌診療の現状について提示され,必要なことも網羅されている。
第2章の「頭頸部のさまざまな症状」では,日常診療でどのような場合に癌を疑い,その場合どのように対処すればよいかが,症状別に書かれている。それぞれ貴重な体験に基づいて書かれており,本書にあることをすべて実行できれば日常の癌診療では十分であろうといえるほどである。「頭頸部の前癌病変」にも章を設け,8頁を費やしている,前癌病変とはよく耳にする言葉であるが,実態はないに等しく,前癌病変という定義すらはっきりしていないし,粘膜内のとどまるいわゆる表在癌についても,病理学者により癌ととるか過形成ととるか意見が分かれるところも多い。この点著者たちも苦労されたところであろう。その結果がこの短い章として表れているのだと思う。付録に診断に役立つ資料集という日常診療,特に電子化が進む診療録に取り込むのに絶好な企画があるので,これと同じように付録として,前癌病変,早期癌,表在癌について扱う方法もあったのではないかと思う。また,この項については病理医の意見が反映されるべきとも考える。
近年著しい進歩がみられる画像診断についても,簡潔にわかりやすくまとめられている。細胞診,生検についても妥当な記載がなされている。内視鏡の機器の進歩もめざましく,数mmの表在癌が容易に発見される時代となり,この点についても紹介されている。
治療に関しては,第6章に「頭頸部癌治療の最前線」として,外科療法では機能を温存する外科療法,ロボット支援手術,鏡視下手術が紹介されている。いずれも今後発展していくものであろう。超選択的動注療法さらには分子標的治療もとりあげられている。なかでも放射線治療の項は機器ならびに手技の進歩がわかりやすく纏められ,放射線治療の現状と近い将来の進歩がみえてくるように感じられる好著といえる。リニアックを用いた高精度放射線治療,粒子線治療,密封小線源治療,ホウ素中性子捕獲療法,非密封線源治療まで,外科医にとっても理解しやすいものとなっている。
担当するテーマによっては文献が不要のものがあるだろうが,すべて独自の仕事とは思われないものにまで文献が挙げられていない項目もあり,近頃の考え方なのかと首を傾げてしまった。それはさておき,この1冊に頭頸部癌の統計,疫学,診療の最前線が盛り込まれており,手元に置いておきたい1冊といえる。欲をいえば,項目別にさらに詳しくみるにはという参考にすべき文献が記載されていると読者にとっておおいに役立つのだがと思う。
永年がん診療に携わってきて,頭頸部癌の診療は他部位のがんと同じく近年進歩の度合いが急速となっているが,多くの部位のがん診療は診断の進歩が治療の進歩に繋がってきたように思える。その点からみてもさらなる診断学の進歩が治療に反映される時代がきていることを強く感じさせる良書である。

ENT臨床フロンティア めまいを見分ける・治療する

ENT臨床フロンティア めまいを見分ける・治療する published on

めまいという多くの科に関連のある疾患を対象とする医師にとって推薦の書

JOHNS Vol.29 No.3(2013年3月増大号) 書評より

評者:小松崎篤(東京医科歯科大学名誉教授)

このたび,内藤泰先生専門編集の『めまいを見分ける・治療する』を通読する機会があった。
めまいに関するこの種の著書は現在まで数多く出版されているが,その大部分は従来の教科書のごとく解剖,検査,疾患等の順に配列されているか,それに準じた記載となっている。めまいを専門にしている医師であれば,その内容を取捨選択して把握するのにさほど困難はないが,一般医にとっては必ずしも容易なことではない。その理由として20世紀後半から現在まで「めまい」の解剖,生理さらにその臨床応用としての機能検査が聴覚系とともに飛躍的に進歩してめまいの病態解明に大きく貢献しているが,それは同時に読者にとって十分理解することがより困難になっていることも意味している。一方,症状としてのめまいは一般臨床の場では頭痛や腹痛などと同様しばしば遭遇するが,病態背景が簡単な疾患から生命の予後に関する疾患まであり,臨床の現場で目の前にいる患者が自然治癒の傾向を持つ疾患なのか,重要な背景を持つ患者なのかを判断しなければならない。そこに本書のタイトルでもある「めまいを見分ける」ことの大切さがある。
本書はその「シリーズ刊行にあたって」でも書かれているごとく「臨床にすぐに役立つような実践的なものとし」を忠実に踏襲して編纂されていることが大きな特徴である。それを考えるとおのずと広い意味でのQ&Aの方式をとるのが実践的で本書にもそのような配慮がみられ,それがまた本書の特徴にもなっている。内容は,「めまいの見分け方」,「めまいの検査法」,「さまざまなめまいの鑑別と治療方針」,「めまいの治療法」の4章からなっている。
第1章「めまいの見分け方」はいわば問診に当たるところである。めまいの診断にはとくに問診が重要で,問診を詳細に聴取することによりそれのみでも疾患を大きく絞り込むことができるので,めまいの内容,持続時間,随伴症状の問診におけるポイントが的確に記載されており,そのことは第2章の検査をいかに要領よく行うかにも大きく関係してくることになる。
第2章「めまいの検査法」では眼振,眼球運動異常の病巣局在診断的意義は大きいが,一般検査の重要度も適切な記載となっている。また本章ではVEMPなど比較的新しい検査法がどのような意味を持つかも書かれている。
第3章ではわれわれ耳鼻咽喉科医が比較的遭遇しやすい疾患にについて最新の知見も含めて過不足なく記載されている。耳鼻咽喉科医としてめまいの診療に当たる場合には当然のことながら内耳疾患のみならずめまいを発症させるそれ以外の病態についても必要最小限の知識は必要であり,それらについての配慮もこの章ではなされている。
めまいは診断ができても治療がないのではないかとはよく聞かれることであるが,第4章では薬物療法のみならず,疾患によって異なる理学療法や近年発達してきている有酸素療法なども書かれている。また,頻度は必ずしも多くはないがQOLを大きく損じる末梢性めまいについては最終的に手術療法があることも患者の診療を日常行う医師にとっては重要な手助けとなっていることも事実であろう。
以上,述べてきたように本書は日常めまいの臨床の場に立っている医師にとっては疑問を解決する上で役立つ書であり,めまいという多くの科に関連のある疾患を対象とする医師にとって推薦の書ということができる。

ENT臨床フロンティア 急性難聴の鑑別とその対処

ENT臨床フロンティア 急性難聴の鑑別とその対処 published on

どのページを開いても見るのが楽しく,各項目ともに一気に読み終えることができる

ENTONI No.150(2013年2月号) Book Reviewより

評者:土井勝美(近畿大学医学部耳鼻咽喉科教授)

「ENT臨床フロンティア」シリーズ(中山書店)は,耳鼻咽喉科の日常診療に直結する10テーマについて,それぞれの領域の第一人者の先生が,現場のニーズにきめ細かく応えることができるよう,日常診療で本当に必要な知識・技術を厳選して,より実践的で臨床医にも読みやすく理解しやすい内容に専門編集を行う新企画である.『実践的耳鼻咽喉科検査法』(専門編集:小林俊光先生),『耳鼻咽喉科の外来処置・外来小手術』(同:浦野正美先生)に続いて,この度,高橋晴雄先生(長崎大学教授)が専門編集を担当された『急性難聴の鑑別とその対処』が同シリーズ第3弾として出版された.
人のQOL維持に密接に関連する「感覚器」の障害は,耳鼻咽喉科医が取り扱うさまざまな病態の中でも極めて重要な領域の一つであり,特に聴覚は,人と人,人と社会を結びつける「言語」の表出・理解に必要不可欠な感覚系である.突然の聴覚障害(急性難聴)の発症により,人は他者との正常なコミュニケーション能力を失い,QOLの面でも精神面でも大きなハンディキャップを背負わされることになる.
ここ最近,新しい聴覚検査装置の導入,遺伝子診断やプロテオーム解析の進歩,そしてより高精度の画像診断技術の開発があり,急性難聴の診断には大きな進展が見られた.新しい診断法の開発とともに,上半規管裂隙症候群や前庭水管拡大症など新しい疾患の概念が確立され,同時に,突発性難聴,メニエール病,あるいは外リンパ瘻などの旧知の疾患の中にいくつかの異なった病態が混在していることも明らかになってきた.また,診断の進歩に歩調を合わせるように,新しい治療法の開発・導入も進められてきた.
本書では,それらの最新の知見をコラムやトピックスの形で盛り込みながら,さらに,多数の写真,図表,診断のフローチャートを散りばめることで,視覚的に美しい,心和むページが本書の大部分を占めるという,極めて印象的な装本に仕上がっている.最初から最後まで,どのページを開いても見るのが楽しく,各項目ともに一気に読み終えることができる.同時に,第一線でご活躍中の執筆陣が強調する重要ポイントは,瞬時に頭の中に入る仕組みになっている.
「急性難聴の鑑別とその対処」というテーマに沿って,まずは急性難聴の定義を明確にした上で,問診や鼓膜所見などを正確に取り,一般診療施設にある最小限の検査機器を用いて検査を行い,それらの所見を総合的に判断すれば,どこまで正確に急性難聴の診断ができるかという視点から,前半の総論部分がまとめられている.病歴と随伴症状,難聴の経過を確認し,鼓膜を詳細に観察した後,聴覚検査と画像検査を進めることになるが,検査を正しく遂行するためのコツが示され,日常診療において大いに役立つ「実践重視」の内容になっている.
中枢疾患,全身疾患,および悪性腫瘍を病態とする「危険な急性難聴」,「緊急性のある急性難聴」について触れた後,後半の各論部分では,急性難聴を呈する代表的な中耳・内耳・側頭骨疾患について,その診断と治療,内科治療と外科治療の適応,予後判定や再発防止,早期診断の重要性など,各疾患を取り扱う際に最も重要となるポイントに絞った丁寧な解説が,豊富な視党情報とともに呈示されている.病診連携や最近の医療情勢の変化にも鑑み,「インフォームドコンセントの実際」,「最適のプライマリケア」,「患者への説明用書類実例集」,「患者への説明用イラスト」などの内容が充実していることも,従来の教科書では見られなかった特筆すべき点である.「治療医学」から「予防医学」への流れを受けて,いくつかの疾患ではその予防法・再発防止法にも十分なページが割かれている.
本書は,専門編集を担当された高橋晴雄先生の斬新なコンセプトにより,学術面でも,装丁・装本のデザイン面でもこれまでに類を見ない魅力的な教科書に仕上がっていることから,耳鼻咽喉科診療の最前線でご活躍の勤務医や実地医家はもちろん,耳鼻咽喉科専門医を目指す研修医にも,明日からの日常診療の場で広く活用できものと確信している.

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科の外来処置・外来小手術

ENT臨床フロンティア 耳鼻咽喉科の外来処置・外来小手術 published on

十分な知識と技術を持った耳鼻咽喉科医の視点で実践的な処置と手術の手技・ポイント,コツが編集,掲載された書

ENTONI No.146(2012年10月) BookReviewより

評者:村上信五(名古屋市立大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科学)

耳鼻咽喉科領域の日常診療をサポートする書物は数多く出版されているが,実践的で本当に役立つのはどのような書であろうか.それは,写真やイラストが鮮明で簡潔・明瞭に解説されている書である.そのような書は,本文を精読することなく写真やイラスト,フローチャートとその解説文を読むだけで処置や手術のポイント,コツが理解でき,実践を鼓舞させるのである.この度,中山書店から《ENT臨床フロンティア》シリーズの一環として『耳鼻咽喉科の外来処置・外来小手術』が新刊されたが,本書はまさにそのすべてを備えた書である.
本書の編集者は,大学と基幹病院に長年勤務し,多くの処置や手術を経験し,開業したのちも医院外来や連携病院で手術を継続されている浦野正美先生である.そして,分筆者も大学病院や市中基幹病院,あるいは診療所で精力的に活躍されている各領域のエキスパートであるが,忙しい日常診療において,かくも鮮明で適切な局所写真を収集していることに敬服させられる.まさに,十分な知識と技術を持った耳鼻咽喉科医の視点で実践的な処置と手術の手技・ポイント,コツが編集,掲載された書と言える.
耳鼻咽喉科診療において処置,検査,手術は最も重要な部分である.特に本書で採り上げている処置や手術は,直接治療の成否に関わることから,患者の信頼を得たり,円滑なコミュニケーションを行う上でも重要である.また,処置や手術を施行する際には器具や医療材料の選択も重要である。本書では各執筆者自身が愛用している器具や医療材料が紹介されており,大変興味深くまた参考になる.そして,処置や外来手術は大半が無麻酔あるいは局所麻酔で施行されるが,最近,痛みに対して敏感な患者が欧米並に増えており,処置や手術をペインレスに実施することも重要な課題で腕の見せ所でもある.それに関しても,本書には噴霧や浸潤による粘膜,局所麻酔の手技やコツが写真とイラストで詳細に記載されており大変参考になる.また,処置や手術においては合併症や副損傷の予防や対応も重要であるが,それらに関しても要所要所で注意事項と対処法が記載され,安心して処置や手術が施行できる.

日常診療で処置や手術を実践するにあたっては,それらの必要性と効果,有害事象を説明して患者・家族からインフォームドコンセントを得るとこは重要であり,特に手術においては小手術といえども必須事項になっている.本書の最終項にはそれぞれの分野のエキスパートが処置や手術における患者への説明文書を紹介するとともに,疾患の病態や解剖を説明するための分かり易いシェーマが掲載されており,大変有用である.編集者の実践的できめ細かな配慮が伺える.
本書のもうひとつの特徴は,本文中にAdvice,Column,Topicsの欄を挿入していることである.Adviceにはちょっとした知識やコツを,Columnには知っておくべき一般知識が丁寧に解説され,また,Topicsには最先端の情報が掲載されており,診察の合間やCoffee breakの際に読むと楽しい.
本書を総評すると,実践的で分かり易く,しかも楽しんで学べる書で,外来診療の傍らに置くにふさわしい一冊と言える.


テーマの選択がユニークで極めてビジュアルな成書

JOHNS Vol.28 No.9(2012年9月増大号) 書評より

評者:峯田周幸(浜松医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室)

ENT耳鼻咽喉科臨床フロンティア『耳鼻咽喉科の外来処置・外来小手術』のページを開いて,まず思うところは,テーマの選択がユニークであることです。「耳介血腫の取り扱い方」がはじめの項目です。今までの成書にはない選択であり,エッと思ったら耳垢栓塞,鼓室処置,耳管処置など次から次へと意外感をもつ構成になっております。鼻に移っても,鼻処置・副鼻腔自然口開大処置のコツと興味津々の内容が続きます。予想がつかないラインアップの連続になっています。
実際に開いてみると,ふんだんに取り入れられている写真と絵の多さに驚きます。解剖の絵から実際に処置や手術をされているところまで,あますところなく挿入されていて,極めてビジュアルな成書になっています。ここまで視覚にこだわってくると,次のテーマではどうか一気にページをめくってしまいます。文章も極めて平易に記載され,かつポイントごとにまとめているので大変理解しやすく,短時間で読みすすめてしまいます。
章末にあげられている文献のリストは最新のものを中心に,適切な量と内容で,より深い理解を得るのに手助けになることも嬉しくなります。項目も多数あり,器具の滅菌から保管方法まであります。今まで気がつかなかった領域までカバーされていて,読者にとっては嬉しい限りです。
また,本文とは別に,最新の話題を深く述べたColumnやTopics,臨床のコツを伝えるAdviceも有益で,すぐに役立つものになっています。
当然ながらこの成書は外来小手術に多数の項目が費やされています。私どもの勤務医にしてみると,安易に全身麻酔にして手術場でおこなっています。しかし麻酔医がいない場合,あるいは全身麻酔をかけるにはリスクが大きい場合には,局所麻酔は有効な手段です。本書では局所麻酔の仕方を懇切丁寧に説明されていて,明日からの外来にすぐに役立つようになっております。
また,手術器具,手術の方法,さらに術後の処置にいたるまで,記載されています。実地医療に役立つというだけでなく,若手医師や専門医にとっても多くの知識としてあるいは技術習得として知っておかなければならないものであります。この時代だからこそ,原点に返って耳鼻咽喉科診療の基本を書き留めておくことが大切なのだと思い知らされました。
巻末の説明実例集や絵はそのまま臨床に使えるものです。耳介血腫から気管切開まで16項目の実例集があり,多くの外来診療をカバーするものとなっています。この本をきっかけに他のシリーズの本も手にとって見たくなる先生方も大勢いると思われます。まずは自分の気に入ったところから読み始めるのがいいでしょう。必ず次のテーマに読み進めてみたくなります。他の成書にない魅力がこの本にはあります。編集者や筆者の方々の意志が強く伝わってきます。研修医,専門医,開業医のいずれの先生方に読んでもらっても意義のある一冊となっています。


体系化された教科書よりも実践的で、多忙な臨床医でも読みやすい

全医協連ニュース(JMC NEWS) No.125 蒼翠号(2012年7月号) 書籍紹介より

浦野正美(浦野耳鼻咽喉科医院理事長)

このたび、中山書店から《ENT臨床フロンティア》シリーズが刊行されました。この企画は耳鼻咽喉科の日常診療に直結するテーマに絞った、全10巻のユニークなシリーズです。従来の体系化された教科書よりも実践的で、多忙な臨床医でも読みやすく、日常診療の中で本当に必要と考えられる項目のみが、わかりやすく解説されています。今回、『耳鼻咽喉科の外来処置・外来小手術』、『実戦的耳鼻咽喉科検査法』の2冊が同時に出ています。
『耳鼻咽喉科の外来処置・外来小手術』では、耳鼻咽喉科の一般的な診療所で行われる外来処置・小手術にテーマを絞り、第一線ですぐに役立つよう実践的・実用的に解説してあります。各手技の要諦を簡潔に示し、かつ写真やイラストレーションを豊富に用い、視覚的に理解しやすい構成となっています。巻末にはインフォームドコンセントに際して利用できる説明文例やイラスト集も収載されています。ベテラン専門医の座右の書となるとともに、これから耳鼻咽喉科専門医をめざす研修医にも大いに役立つ技術指南書になるものと思います。
また『実戦的耳鼻咽喉科検査法』では、超多忙な耳鼻咽喉科医が時間をかけずに正しく診断して、最適な治療方針を決定するための検査法を厳選して解説してあります。大がかりな装備を必要とせず、被検者の負担も少ない検査法を実戦的に使いこなすための1冊です。
この《ENT臨床フロンティア》シリーズは、ほぼ2~3か月に1冊のペースで刊行される予定です。全10冊をまとめて予約すると予価の10%引きになる特典もありますので、ぜひ、ご一読ください。

ENT臨床フロンティア 実戦的耳鼻咽喉科検査法

ENT臨床フロンティア 実戦的耳鼻咽喉科検査法 published on

まさに実戦的な仕様になった書籍

耳鼻咽喉科・頭頸部外科 Vol.84 No.10(2012年9月号) 書評より

評者:高橋姿(新潟大学医学部耳鼻咽喉科教室教授)

本書『実戦的耳鼻咽喉科検査法』は,タイトルが示す通りの,まさに実戦的な仕様になった書籍である。一口に耳鼻咽喉科検査法と言っても,耳鼻咽喉科・頭頸部外科で扱う臓器・組織は多彩であり,聴覚・平衡・嗅覚の感覚器から鼻腔・咽頭の呼吸器,口腔・咽頭・喉頭・気管へ続く消化器がある。さらには顔面神経,三叉神経,舌咽・舌下神経などの脳神経,唾液腺や甲状腺ならびに頸部の疾患も対象となる。それらのすべての領域の検査法を網羅した成書は多数あるが,非常に厚くて重いものや,分冊となって取り扱いも不便であり,多忙な日常診療にあっては実用的な書物とは言い難い。
専門編集者の小林俊光教授は,「序」において,「超多忙な耳鼻咽喉科開業医や第一線の勤務医の先生方に役立つ」ために,「①手間暇がかからず,②大がかりな装備を必要とせず,③被験者の負担も少ない検査法に重点を」置いたと記している。その結果,数多の検査法の中から絞り込まれた項目が,従来とは異なる序列に記載されることになったと思われる。検査法の選択には,単に臨床現場での使用頻度だけでなく,鑑別診断における重要性も加味されている。
気づいた点を列挙する。まず,第1章がCT,MRIの画像診断から始まり,複雑といわれる耳鼻咽喉科領域の正常解剖を解説している。次いでX線検査,さらに内視鏡診断に続く。また,内視鏡診断では「良性疾患,とくに小児における利用法」として,検査時に協力が得られづらい,正確な所見を取るのが困難な小児の内視鏡検査法を単独に取り上げている。
耳管機能検査の良否は,鼓室形成術の成否を左右するほど重要である。しかし,従来はそれほど大きく扱われることはなかった。本書では,鼓膜形成術の術前検査としての耳管機能検査を詳しく解説し,耳科手術への適応の考え方を具体的に述べている。
第5章の聴覚機能では,古典的な音叉による検査法も取り上げ,その意義を改めて解説している。また,従来は開業医があまり行っていないOAE,ABR,ASSR,アブミ骨筋反射検査の他覚的聴力検査を取り上げ,その実施を促している。耳鳴検査法では検査法のみならず,TRTなどの治療法まで言及している。また,検査法の説明だけでなく,検査法の組み合わせによる感音難聴の鑑別診断法も興味深い。
第10章の「呼吸機能をみる」では,耳鼻咽喉科固有の鼻腔通気度,睡眠時呼吸障害に加えて,主に内科医が扱う呼吸機能検査も取り上げ,上気道から下気道まで気道全体の呼吸機能の理解を促している。
それぞれの項目ごとに,単に検査法の記載に留まらず,検査の結果得られる異常所見の読み方,鑑別疾患,さらには治療法にまで言及していてきめ細かい。どの項目でもイラストや写真が多用されていてわかりやすい。さらに,欄外にその項のまとめや豆知識といった一言メモがあり,読む者の理解を助ける工夫が随所にある。まさに実戦的である。
さらに,本書においてはいろいろなところにコラムやアドバイスの記事が書かれていて,それが非常に有用である。コラムでは,新しい疾患概念(auditory neuropathy)や検査(ASSRを理解する),検査機器紹介(知っておきたいオプションのめまい検査法),診療のコツ(機能性難聴の検査と心因性難聴診断のコツ)などが,わかりやすい読み物として掲載されている。これらのアドバイスやコラムを,診療時間外に,時間に余裕ができた時に拾い読みすることで,耳鼻咽喉科検査法の最新情報を知ることができる。日常臨床における知識が広がることは必至である。
最後に,付録として「患者への説明用イラスト集」があり,患者さんに理解しやすい図が多数掲載されている。検査結果の説明の際に,ここにあるイラストをコピーし,説明内容を追記しながら説明に用いれば,患者さんへのインフォームドコンセントの助けになり,良質な医療の実践にもつながる。
多くの耳鼻咽喉科専門医に本書の活用をお奨めしたい。


体系化された教科書よりも実践的で、多忙な臨床医でも読みやすい

全医協連ニュース(JMC NEWS) No.125 蒼翠号(2012年7月号) 書籍紹介より

浦野正美(浦野耳鼻咽喉科医院理事長)

このたび、中山書店から《ENT臨床フロンティア》シリーズが刊行されました。この企画は耳鼻咽喉科の日常診療に直結するテーマに絞った、全10巻のユニークなシリーズです。従来の体系化された教科書よりも実践的で、多忙な臨床医でも読みやすく、日常診療の中で本当に必要と考えられる項目のみが、わかりやすく解説されています。今回、『耳鼻咽喉科の外来処置・外来小手術』、『実戦的耳鼻咽喉科検査法』の2冊が同時に出ています。
『耳鼻咽喉科の外来処置・外来小手術』では、耳鼻咽喉科の一般的な診療所で行われる外来処置・小手術にテーマを絞り、第一線ですぐに役立つよう実践的・実用的に解説してあります。各手技の要諦を簡潔に示し、かつ写真やイラストレーションを豊富に用い、視覚的に理解しやすい構成となっています。巻末にはインフォームドコンセントに際して利用できる説明文例やイラスト集も収載されています。ベテラン専門医の座右の書となるとともに、これから耳鼻咽喉科専門医をめざす研修医にも大いに役立つ技術指南書になるものと思います。
また『実戦的耳鼻咽喉科検査法』では、超多忙な耳鼻咽喉科医が時間をかけずに正しく診断して、最適な治療方針を決定するための検査法を厳選して解説してあります。大がかりな装備を必要とせず、被検者の負担も少ない検査法を実戦的に使いこなすための1冊です。
この《ENT臨床フロンティア》シリーズは、ほぼ2~3か月に1冊のペースで刊行される予定です。全10冊をまとめて予約すると予価の10%引きになる特典もありますので、ぜひ、ご一読ください。

15レクチャーシリーズ リハビリテーションテキスト  リハビリテーション統計学

15レクチャーシリーズ リハビリテーションテキスト  リハビリテーション統計学 published on

複雑な統計手法を,数字を使わずに驚くほど簡単に,そして鮮やかに説明

理学療法 Vol.32 No.4(2015年4月号) 本の紹介より

書評者:大渕修一(東京都健康長寿医療センター研究所)

統計を自在に操ることは専門職にとって大変なあこがれです.しかし,そこに立ちはだかるのが数学の壁です.半ば,諦めがちな人も多いと思います.この本があれば諦める必要はありません.
数学が苦手な人が理解できるように,数字をできるだけ使わずに書かれているところが本書の特徴です.たとえば,標準偏差と標準誤差の違いは多くの初学者の落とし穴ですが,本書では,標準偏差は“データのばらつき”,標準誤差は“平均のばらつき”と一刀両断です.説明には全く数式が出てきません.しかし統計を使い分ける観点では,これさえわかれば十分です.もし一つ一つのデータのばらつきをみたいのであれば標準偏差を使えばいいのですし,グループ同士の比較をしたいのであれば標準誤差を使えばいいことがたちどころに理解できます.一事が万事,この本は複雑な統計手法を,数字を使わずに驚くほど簡単に,そして鮮やかに説明しています.
とはいえ変数の尺度の問題をはしょってしまってはとても皆さんにお勧めできません.たとえば,リンゴが好きを1として,普通を2,嫌いを3として,グループの平均をとっても何も意味をなさないことは理解できると思います.しかし,表計算ソフトを使ってコード化して集計をするとわかっていても平均をとったり,百分率で示したりする間違いを犯してしまいます.このような誤用を防ぐために尺度の問題についてはしっかりと理解しなければなりません.
それというのも変数がどのような尺度なのかは臨床家しかわかり得ないからなのです.たとえばブルンストロームステージがどのようなものかわからなければどんなに凄腕の統計学者であってもどんな統計手法を使ったらいいのか皆目見当がつきません.統計学者がポイントにしているのは,内科学の本に書いてあるブルンストロームステージの性質ではなくて,名前のようなものなのか,順番がついているようなものなのか,足し算して意味をなすようなものなのか,割り算して意味をなすようなものなのかなのです.この点を本書は臨床家の視点に立って十分な紙幅を割いて説明しています.
このように本書は臨床家が統計手法を使い分けるために必要な事柄が,過不足なく収められています.この本で統計学者になることはできませんが,よい統計の利用者になることはできるでしょう.