Visual Dermatology Vol. 18 No.8(2019年8月号)「Book Review」より
評者:川田 暁(近畿大学医学部皮膚科教授/前 日本美容皮膚科学会理事長)
皮膚科領域において美容皮膚科の重要性が年々高くなっている.本邦の皮膚科領域では日本美容皮膚科学会が中心となって学会活動を行っており,2019年3月の時点で会員数2,496人を擁している.
このような現況の中で『エビデンスに基づく美容皮膚科治療』という本が発行されたのはとても意義が大きい.美容皮膚科領域は,(1)患者のニーズがきわめて高い,(2)自費診療が中心である,(3)機器や治療方法が先行する,などの特徴がある.その結果,確たるエビデンスがないまま患者の希望に応じて新しい治療を始めてしまうことが起こりやすい.どの分野でも同様であるが,治療で重要なのは有効性と安全性のエビデンスを確認してから行うことである.美容皮膚科領域では,他の領域と異なり良質なエビデンスが少ないのは事実である.本書はあえて美容皮膚科領域のエビデンスをターゲットにしており,野心的な本といえる.
本邦の皮膚科の教本の中でも,宮地良樹先生編集の本は数の多さだけではなく,企画のおもしろさ,着眼点のユニークさ,分担執筆の著者選択の適切さ,などで他を寄せつけない魅力がある.宮地良樹先生が新たに企画されたものが“エビデンスに基づく”シリーズである.同シリーズの本としては,本書の他に『エビデンスに基づくスキンケアQ&A』が発行されている.
『エビデンスに基づく美容皮膚科治療』は宮地良樹先生と葛西健一郎先生が編集されている.葛西健一郎先生は美容皮膚科全般とレーザー治療について豊富な経験と見識をもっておられ,多くの著書を刊行している.
このような背景から本書を読んでみた.まず分担執筆された著者は,編者と同様に豊富な経験と見識を有したエキスパートの方々である.次に項目の中に,機能性化粧品とAGAが含まれているのが通常の本と異なり興味深い.さらにどの項目でも,文頭にそのテーマのエビデンスレベルの提示があり,かつ各項目のエビデンスレベルがメーターを用いて5段階で評価されており,理解がきわめて容易である.最後に図と写真が大きく視覚的にわかりやすい.
これらを踏まえると,本書はエキスパートの方々が,美容皮膚科領域のエビデンスをしっかりと評価し,長所と短所を分析し,わかりやすく解説している初めてのものであり,良書といえよう.現在,美容皮膚科診療を実際に行っている方々はもちろん,これから始めようとしている方々にも是非読んでいただきたい