付録の「シミ・白斑のメーキャップ」も,実際の患者指導にきわめて有益であり,診察室にも常備したい
Visual Dermatology Vol.12 No.3(2013年3月号) Book Reviewより
評者:川田 暁(近畿大学医学部皮膚科教授)
「皮膚科臨床アセット」は,古江増隆先生が総編集をされ,各巻ごとにエキスパートの先生の専門編集による,皮膚科医向けのMOOKである.このシリーズのコンセプトは,「皮膚科学の最新の情報を,専門書でありながら肩の凝らない読み物として提供する」ものである.すでに10巻が発行されており,私自身も分担執筆をさせていただいた.そのうち何冊かを読んでみたが,いずれも総編集の古江増隆先生と,各巻の専門編集の先生方の明確な意図と熱意が感じられる本となっている.
さて本書「シミと白斑 最新診療ガイド」は「皮膚科臨床アセット」の11巻として発行された.市橋正光先生が専門編集を担当されている.市橋正光先生は前神戸大学皮膚科の教授で,現在再生未来クリニック神戸の院長をされている.神戸大学ではメラノサイトの生物学,悪性黒色腫,光発癌,色素性乾皮症,光生物学などの研究を中心に,現在ではそれに加えて皮膚のアンチエイジングの研究も精力的にされている.したがって本書の編集には最適の先生であるといえる.本書のテーマと,それぞれの筆者の選び方はきわめて適切であると思われた.
本書では色素異常症として,色素が沈着するもの(シミ)と,色素が脱失するもの(白斑)に分けている.シミの総論では,その病態とメラニン生成機序が解説されている.難解ではなく,きわめてわかりやすい記載である.シミの病態を正しく理解することは,診断と治療を適切に進めていくのに重要である.その後の「シミの予防と治療」と「わたしの勧めるシミ対策」の部分では最先端の予防と治療について理解することが可能となる.シミは美容皮膚科におけるメジャーな項目の1つである.美容皮膚科に興味を持っている方は是非この総論を一読して理解していただきたい.各論ではさまざまな色素異常症が紹介されている.いずれも重要な疾患であり,とくに皮膚科専門医をめざす方にとって有益である.
次いで白斑の総論では,疫学,病態,鑑別診断,遺伝が詳しくかつわかりやすく記載されている.尋常性白斑以外にもさまざまな白斑があることが理解できる.さらに,白斑の治療として9項目があげられている.白斑の治療は一般的にむずかしいとされている.本書を読むと,現在多くの治療法が検討されていることに驚く.各論では,疾患を重要な4つの疾患に絞っている.とくに「薬剤・化学物質による白斑」と「メラノーマに伴う白斑」は皮膚科専門医が認識しておくべき疾患といえる.
シミと白斑のそれぞれの最後に,「最新研究からのインサイト」として基礎と臨床研究の最近のトピックスがわかりやすく紹介されており,とても興味を惹かれた.
これらの厳選された項目を,とてもみやすいカラーの図や写真とともに一読すれば,色素異常症の最新の情報を把握し,かつ実際の診療に活かすことが可能である.さらに付録の「シミ・白斑のメーキャップ」も,実際の患者指導にきわめて有益であり,診察室にも常備したいと思われた.本書は皮膚科専門医をめざす若手医師,すでに専門医の資格を有している方,指導的な立場の方,すべての皮膚科医師にとってアセット(財産・資産)としてふさわしい書籍と思われた.