この領域に造詣の深い気鋭の皮膚科医の叡智が結集された力作
Derma No.198(2012年11月号) BookReviewより
評者:衛藤光(聖路加国際病院皮膚科部長)
皮膚の血管炎と血行障害は混沌とした領域である.1994年のChapel Hill 分類により,全身性血管炎に関してはある程度整理された感があるが,皮膚の血管炎に関しては「皮膚白血球破砕性血管炎」として包括され,その詳細は皮膚科医自身の手にゆだねられている.この分野の研究の歴史は古く,ドイツ学派を主流とする欧州の皮膚科学と米国の新しい皮膚科学の二大潮流があり,用語の解釈から疾患概念まで大きく異なる.さらに欧州においてもドイツとフランスでは,分類や考え方が異なる.現代の日本の皮膚科学はこれらの潮流の合流点にあり,両者の考えを理解したうえで新たな解釈と考え方を発信していく最適な立ち位置にある.
シリーズ第5巻の『皮膚の血管炎・血行障害』は,日本皮膚科学会の血管炎の診療ガイドラインを作成したメンバーを中心に,この領域に造詣の深い気鋭の皮膚科医の叡智が結集された力作である.血管炎を正しく理解するためには臨床像と病理像を緊密に対応させて考える必要があるが,優れた臨床医かつ皮膚病理学者が多い本邦皮膚科学の特徴が,随所に発揮されている.本書はこの一見難しい領域を明快に理解するための,至宝の一冊といえよう.
内容でとくに注目されるのは,血管炎・血行障害を理解するのに不可欠な「livedo(網状皮斑)」などのキーワードに多くのページがさかれている点である.また,欧米では既に歴史的概念となりつつある「皮膚アレルギー性血管炎(Ruiter)」についてもしっかりと記載があり,臨床上重要なHenoch-Schönlein紫斑病との鑑別に一章をさいている点は臨床家にとって有り難い.日進月歩の「抗リン脂質抗体症候群」の最新の知識に至るまで網羅されている点も実地臨床に有用である.
本書は外来や病棟に常備してマニュアルブックとして使うことも可能だが,できれば通読することをお薦めする.なぜなら,それにより皮膚血管炎と血行障害の全貌が見えてくるからである.本書は専門医を目指す初心者はもとより,皮膚科専門医や教育職につく者にも役立つ内容が満載されている.血管に興味のある皮膚科臨床医すべてにお薦めしたい一冊である.