Skip to content

循環器臨床サピア 2 最新アプローチ 急性冠症候群

循環器臨床サピア 2 最新アプローチ 急性冠症候群 published on

一見して概要を理解できる誌面構成 循環器診療のコツを体得する一助に

日本医事新報 No.4522(2010年12月25日) BOOK REVIEW 書評より

評者:山口徹(国家公務員共済組合連合会 虎ノ門病院院長)

本書は、循環器臨床サピア(サピアとは智恵が交流する場所という意味らしい)のシリーズの1冊である。循環器疾患の各分野の診療について、第一線の臨床医により最新の知識が集約されたシリーズである。循環器疾患の診療は、他の領域と異なり、迅速な診断と治療が求められる。その代表的なものが「急性冠症候群」である。一昔前には不安定狭心症、急性心筋梗塞と呼ばれていたものに、突然死を加えた、急性の心筋虚血を呈する臨床症候群である。その病態は冠動脈粥腫の破綻、血栓形成、血栓による冠動脈内腔の急な狭窄、閉塞という一連のプロセスで説明され、不安定狭心症、急性心筋梗塞もその臨床表現という点で統一的な理解ができるようになった。

最近のテキストは視覚的な分かりやすさを強調したものが多いが、本書も然りである。急性の循環器疾患診療では、最初の直感や少ない情報から死につながる事態か否かの判断を迫られることがしばしばあり、時にはその判断が生死を分ける。その意味では、一見して概要を理解できる誌面構成も循環器診療のコツを体得する一助になるものかもしれない。本文全体は箇条書き的な記述で統一され、分かりやすい。それでいて各項の初めには「ポイント」があり、随所に「メモ」「キーワード」があり、「コラム」では一歩踏み込んだ「キーノートレクチャー」があり、ポイントは外さない。また日本循環器学会からは多くのガイドラインが出されているが、そのエッセンスが漏れなく提示されており、標準的な診療知識の整理に役立つ。

本書の構成は、急性冠症候群の病態に始まり、診断アプローチ、急性期治療、二次予防を中心とした慢性期治療の順でまとめられている。多くの診断手法の適切な活用、最新的な検査法の成績や最近の冠動脈インターベンション、薬物治療など、基本から最新知識まで漏れがない。循環器診療に携わる若手医師には格好のテキストである。また、プライマリーケアに携わる内科医にも読みやすく書かれており、座右に置いて日々の臨床に役立てることができる1冊である。

これから出会う物語 小児科症例集40話

これから出会う物語 小児科症例集40話 published on
月刊ナーシング Vol.30 No.8(2010.7) Book Review & Presentより

症状を適切に説明できる成人患者とは違い,小児患者と意思疎通するのはむずかしい.本書は,53人の医師たちが実際に体験したことを40話にまとめた事例集.小児患者の特徴,所見,注意点などが項目別に記され,読みやすい.小児の胃がん,結核などの珍しいケースもあり,医師は常識にとらわれず,患者を観察し判断することが必要だと痛感させられる.小児科の医師・看護師は必読.


疾患とその治療法を検討する際にインスピレーションも得ることが期待できる一書

Medical Tribune紙 2010年9月23日 p.64 本の広場・紹介コーナーより抜粋

40人の小児科医が実際に臨床で経験した症例を解説。感染症から消化器,呼吸器,循環器など,広範な領域にわたり,豊富な検査所見やデータが盛り込まれている。症例の背景から最終診断まで,順を追って丹念に記述し,各文の末尾には,診療の要点を“clinical pearl”としてコンパクトにまとめる。

さらに巻末には,「緊急度の高い疾患を念頭に置く」,「一度つけた診断でも見直す」など,小児科医に向けたしん言に対応する症例ごとに分類した索引が掲載され,各疾患別にまとめた形式とは違った切り口で読み直すこともできる。

教科書からは類推できない症例に遭遇したとき,選択した治療法が奏効しなかったときなど,判断材料を再検討し,インスピレーションを得ることが期待できる一書。


“ひとりの人間としての患者”を忘れない医療の重要性を説く

日本医事新報 No.4576(2012年1月7日) BOOK REVIEWより

評者:松井陽(国立成育医療研究センター院長)

秀逸の書である.それは,第一に,臨床の第一線病院の小児医療の現場で働く,編者を含む53人の著者たちが,多くは直接的,時には間接的に経験した症例を,老若を問わず同様の現場で働く仲間たちに,これから出会うかもしれない物語として語りかけているからである.

第二に,その内容が,稀な症例をよく発見したといった,いわゆるサクセスストーリーではなく,むしろ反省すべき点をも含めて,日常診療で気をつけるべき点を具体的に挙げて読者に伝えようとしているからである.例えば,急性心筋炎を疑う患者に聴診が重要であるとか,最悪の事態を想定して診療するように注意を促している.そして繰り返し強調されていることは,「思い込み」を排することである.説明のつかない臨床所見があるとか,初期治療への反応が想定と異なる場合こそ,前医の診断および治療で果たしてよいのか振り返ってみるべきである.

第三に,多数の著者による共同執筆でありながら,体裁の統一がとれていて非常に読みやすいことである.Introductionで現病歴,First Diagnosisで来院時所見,検査所見,初期診断,Final Diagnosisで入院後経過,最終診断,Noticeで考案,Clinical Pearlでまとめが,それぞれ簡潔に述べられている.本書1冊通読するのに一度半日かけたら,あとはClinical Pearlに時々目を通せばよい.

第四に,最後の物語だけでも反復,熟読に値すると思うからである.これには救急外来(ER)におけるクレーム症例から学ぶべきことが,他とは別の形式で書かれている.evidence-based medicine隆盛の今日ではあるが,それだけでは本物の医療は提供できない.narrative-based medicine,つまり患者や家族の話をよく聞き,“ひとりの人間としての患者”を忘れない医療の重要性を説いている.

編者には,この40話にとどまることなく,続編を世に出していただきたい.