Bella Pelle Vol.8 No.4(2023年11月号)「書籍紹介 Special Book Review」より
評者:木村有太子(順天堂大学医学部皮膚科学講座非常勤講師)
日々の診療・研究のバイブルとして手元に置きたい
美容皮膚科学は比較的新しい学問ではありますが,急速に発展している診療に実臨床として携わるわれわれは,正確な情報の中から正しい知識やスキルを身につけていかなければなりません.昨今では,インターネットを通して簡単に情報が手に入る便利な時代になりましたが,一方,過多な情報の中からエビデンスに基づいた知識や手技を選ぶ方がむしろ大変なのかもしれません.
美容皮膚科学の成書において,普遍的な知識やスキルを体系的に網羅した教科書は存在しなかったのではないでしょうか.今回この大任を,皮膚科医なら誰でも一度はお世話になったことがあるでしょう「宮地本」として知られる皮膚科の多くの教科書を執筆・編集されてきた宮地良樹先生と,レーザー治療・美容皮膚科の第一人者である宮田成章先生がまとめてくださいました.全5巻から構成されている大作です.第1巻の「美容皮膚科学のきほん」はまさに基本知識がまとめられており,そのうち第1章では,皮膚の構造や機能,第2章では,ダーモスコピーをはじめとする診断や検査,第3章は,レーザーを中心とした機器の基礎知識,第4章では,スキンケアやフィラー・ボツリヌス毒素,スレッドリフトやケミカルピーリング,漢方や再生医療の基礎まで,その分野のスペシャリストがわかりやすく解説してくださっています.どのページを読んでいても,実際に著者の先生方に直接指導していただいている感覚になります.非常に内容の濃いものであり,これから美容医療を始める先生方にも,すでに現場でご活躍なさっている先生方にも,日々の診療・研究のバイブルとして,是非お手元に置いていただきたいと思います.
末筆ではありますが,若かりしとき(今もそんなに年老いてはいないつもりですが)の指導医との会話で「成書読んでごらん」「えっ? 聖書に書いてあるのですか?」「いや,成書だよっ!!」といったやりとりを度々目にしましたが,最近はどうなのでしょうか.
Derma Vol. 338(2023年8月号)「Book Review」より
評者:古川福実(日本赤十字社高槻赤十字病院 皮膚・形成外科センター長/日本美容皮膚科学会名誉会員)
美容皮膚科学が独立した学問体系なのか,皮膚科や形成外科の日常診療に活かすべきパーツなのかは難しい問題です.私は,日本美容皮膚科学会の雑誌編集長や理事長として2003年ごろから10年余にわたって美容皮膚科に携わってきました.「学」にするためには,学術的研究論文が必要ですが,当時の学会誌は使用経験をエッセイ風にしたものが多くアカデミアからは程遠いものでした.日本美容皮膚科学会会員の皆さんに原稿をお願いして,なんとか原稿を集めて情報発信に務めました.しかし,エビデンスレベルは決して高くはありませんでした.学術論文にするには,時間と根気が必要です.しかし,新しい機器や手技の進歩は目まぐるしく,論文が発表された時点で,時代遅れになりつつあるのはいつものことでした.美容皮膚科学を目指すのではなく,美容皮膚科を一般皮膚科学の中に活かしていくのが次善と思うようになっておりました.
いずれの方向を選ぶにしても,成書が重要なことは言うまでもありません.「一灯をさげて暗夜を行く.暗夜を憂うなかれ,一灯を頼め.」とは江戸時代の儒学者佐藤一斎の言葉です.一灯がこの分野における優れた成書です.1965年,故安田利顕先生が著された「美容のヒフ科学」はまさにこの一灯です.皮膚科学の目の必要性を提唱され上梓されました.その後ほぼ60年を経て,「大系の中山書店」から最新美容皮膚科学大系の出版が開始されたことは,美容皮膚科学が学問体系として完成しつつあるように思えて嬉しい限りです.
編者の一人は,この分野に造詣が深く現在の美容皮膚科学の礎を築いておられる宮地良樹先生です.読みやすいレイアウトと大きな文字も,古希を過ぎた私には嬉しいです.もう一人の編者である宮田成章先生も,多数の成書を執筆されています.何よりも,数多くの実践を踏まえた主張には高い信頼感があります.このようなお二人によって企画された本大系は,美容皮膚科・美容皮膚科学に携わるものの一灯になることは疑いありません.