ENTONI No.300(2024年8月号)「Book Review」より
評者:村上信五(名古屋市立大学名誉教授)
この度,中山書店から新シリーズ《プラクティス耳鼻咽喉科の臨床》の第1巻として『耳鼻咽喉科 日常検査リファレンスブック』が発刊されました.リファレンスブックとは「参考図書」のことで,資料や事柄等,何かを調べるための本,つまり,その一部を読むだけで利用者の目的が達成できるように編集された書です.耳鼻咽喉科頭頸部外科領域において検査に特化した書籍の発刊は近年になく,本書は耳鼻咽喉科医のみならず臨床検査技師や言語聴覚士にとっても理解しやすい,最も頼れる一冊と言えます.
本書の特徴は,聴覚やめまい,平衡,顔面神経麻痺,音声言語,嚥下障害などにおける生理検査だけでなく,耳鼻咽喉科頭頸部外科疾患の画像診断や頭頸部腫瘍関連検査,感染症関連検査など,すべての検査を網羅していることです.そして第11章では「症候から考える検査バッテリー」として,めまいや難聴,顔面痛・頭痛,嚥下障害,頸部腫脹,呼吸困難など日常診療で頻回に遭遇する症候を取り上げ,診断のポイントとプロセス,必要な検査と鑑別をフローチャート形式で分かりやすく解説しています.最後のAppendix(付録)には,検査の正常値(基準値)と正常画像が掲載されており,各疾患における検査の値異常や重症度が一目瞭然に理解できるようになっています.検査を基本から学びたい方は各章をじっくり精読し,ある程度理解している方は迷った時に,そして,外来診療においては傍らに置いてAppendixを参照いただくのが本書の上手な活用と考えます.
平成16年に新医師研修制度が発足し,研修医の多くが大学病院や医育機関を離れ,市中の研 修指定病院で初期研修を行い,病院に留まるケースが多くなっています.そして,耳鼻咽喉科専攻医が諸検査を臨床検査技師や言語聴覚士に丸投げし,自ら実施する機会が少なくなっています.その結果,検査ができない医師や技師の検査の誤りを指摘できない医師が増えています.検査は治療の選択や予後の判断に重要で,正しく実施され,解釈されなければ患者に多大な不利益をもたらし信用をなくします.患者に正しい医療を行い,看護師や検査技師に信頼され尊敬されるためにも検査の正しい理解と実施は必須です.
『耳鼻咽喉科 日常検査リファレンスブック』は,一冊で医師,臨床検査技師,言語聴覚士が共に学べる最適の検査書として推奨できます.