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子どもの心の診療シリーズ 6 子どもの人格発達の障害

子どもの心の診療シリーズ 6 子どもの人格発達の障害 published on

たいへんなケースと向かい合うための多くの重要なヒントが散らばっている

精神療法 Vol.38 No.3(2012年6月号) 書評より

評者:牧真吉(名古屋市中央療育センター)

本書は,子どもの心の診療シリーズ8冊のうちの1冊であるが,一番最後になって出されたものであり,やはり,最後にならざるをえない題材である。それというのは,国際疾病分類(ICD)ではわざわざ「成人のパーソナリティ障害」としてあるように,子どもに対してはパーソナリティ障害を診断はしないという了解事項があるからである。それでも現実には子どもでも似たような事態があるのをどのように考えるのかということで,子どもの人格発達の障害という題名に工夫がこらされていると思う。どのように書き進まれるのだろうかと大変興味が引かれるテーマである。「はじめに」のところでこの辺りの経緯が書いてあり,どのようにしてパーソナリティが発達していき,どんなことでその発達がうまくいかなくなるのだろうかという疑問を刺激され,興味をひいた。

Iの総論の中でこれまでに子どもの人格についてはどのように考えられてきたのかをまとめて,その行き着いた先としてKernbergの人格の構成要素を用いながら人格の発達を考えている。IIでは,そこであげられたパーソナリティを構成する要素について分担して書かれており,それぞれの領域で今わかっていることが詳しく書かれている。この内容は全体を組み立てて理解をしないことには収まりのつかない内容であり,その努力は読者に託されている。この本にあるように同時にいろいろな考え方,見方を身につけることができることが一番役に立つはずであるが,そうするとストンとわかった実感を持つことができない。現に分担執筆者も自分の範囲を超えてもあれもこれも書いていかざるをえない。その膨らみをいかに消化しながら読み進むことができるかを問われてしまう。それほどに内容は濃いものである。個々に取り上げてもヒントになることは多く,ジェンダーの項では,生物学的な性でさえも簡単に二分することはできず,スペクトルのように連続していることを知らされた。また母子関係のところでは,「そのような母親が,人一倍の感度を働かせて子どもに向かい合うということがいかにたいへんであるかを考えずに,育児を不適切であると判断することは,支援の手がかりを見失いかねない」さらには,心的外傷,アタッチメント,発達障害の関係,分析的な理解など得ることが多く,いろいろ考えさせられる。

IIIでは,パーソナリティ障害とその前段階としての性格傾向を取り上げ,IVでは,治療論を取り上げている。その中で,松田が,治療の要点としてあげている中に,「治療スタッフと治療者自身の疲弊を癒やすための方法と場について話題にし,あらかじめ準備しておくことが必要である」と書いているなど,たいへんなケースと向かい合うための多くの重要なヒントがこの本の中には散らばっている。そうしたことを読者が見つけ出していくおもしろさがある。まさに叢書の一冊となっている。

DSM-5を読み解く 双極性障害および関連障害群,抑うつ障害群,睡眠-覚醒障害群

DSM-5を読み解く 双極性障害および関連障害群,抑うつ障害群,睡眠-覚醒障害群 published on

sourcebookに代わるものとして十分その役目を果たしている

臨床精神医学 Vol.44 No.8(2015年8月号) 書評より

書評者:上島国利(国際医療福祉大学)

本書は「DSM-5を読み解く」シリーズの第3巻であり,I双極性障害および関連障害群,II抑うつ障害群,III睡眠一覚醒障害群の3部により構成されている。
本書の目的は,さまざまな批判をあびながら世界の精神医学界を席巻しているDSM診断体系の成り立ちを伝統的な精神医学の歴史を俯瞰しつつ解説し,それらがDSM-5の成立や今後のよりよい応用に寄与することである。 DSM-IVについては,「The DSM IV Sourcebook」に,改訂作業でどのような論文が参照され,いかなる議論がなされたか記載されているが,DSM-5については,そのような書籍は今のところ発刊されていない。この状況下にあっては,本書は,sourcebookに代わるものとして十分その役目を果たしていると思われる。
まず注目されるのは,従来DSM-III以降われわれが慣れ親しんだ感情障害,気分障害の呼称がなくなり,それらに包括されていた単極性うつ病,双極性障害が分離されて別個に章立てされたという点である。クレペリンにより体系化された躁うつ病が,レオンハルトにより単極性障害と双極性障害に分離されたが,これらはあくまで気分障害の枠内の分離であった。ところがDSM-5では,「双極性障害および関連障害群」は,「統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群」と「抑うつ障害群」の章との間に位置づけられて2つの群の間の橋渡しをする位置にあるとされた。症候論,家族歴,遺伝的観点などが考慮された結果であろうが,DSM-IIへの回帰との指摘もあり,今後この章立ての妥当性についての議論がなされるものと思われる。

I双極性障害および関連障害群
双極性障害概念の拡大に伴う過小診断から過剰診断が危惧されたのが,ここ数年の傾向であったが,DSM-5では,小児期に重篤な気分調整障害を呈する障害が「重篤気分調節症」として抑うつ障害群に加えられた。また双極性エピソードの罹病回数の短縮もなされなかったことは過剰診断抑制策の1つとして考えられる。
また臨床では診断基準どおりの症例は極めて稀であった混合性エピソードは廃止され,「混合性の特徴を件う」という特定用語を用いることになっている。特定用語の活用は病状のより精緻な特徴を明らかにするためにDSM-5の随所で用いられるべきと思われる。

II抑うつ障害群
新たに加わった障害は,重篤気分調節症,持続性抑うつ障害(気分変調症),月経前不快気分障害でありそれぞれ歴史と導入の理由が記載されている。
DSM-IVの抑うつエピソードの診断基準から死別反応除外基準が削除され,死別後でも2週間の持続で診断可能となった。この除外基準の削除に関しては多くの批判があり,今後も論争が続くことも予想される。

III睡眠―覚醒障害群
ナルコレプシーの診断基準で髄液中オレキシン値,終夜睡眠ポリグラフ検査所見,MSLTの客観的検査データが基準の1つとなっているが,他の障害に先がけて生物学的マーカーが採用されたことは画期的なことであり,他の障害も次第に生物学的基準が明らかになっていくことと思われる。

以上DSM-5を読み解くという観点からの論点のいくつかについて紹介した。
DSM-IVまでのDSM体系分類は症状の羅列やその組み合わせから一定数以上の項目を満たす症候群を分離した操作的診断基準であり,病態に迫る生物学的知見がほとんど含まれていないという批判を受け続けてきた。そのような課題を克服するべくDSM-5は集積された臨床論文に基づいて,症候論から病因・病態論を取り入れようとする試みは常になされているが,現在の精神障害の生物学的研究はその域には達しておらず,一部を除いては成功していない。
将来的には,進歩の著しい脳機能画像,脳生理学,認知機能,遺伝要因などの生物学的知見が,症候学的知見と合わせることにより,より洗練されたDSMになりうるものと思われる。
総編集の神庭亜信教授の意図した「伝統的な精神医学が精神疾患をどのように概念化してきたか,DSMやICDの診断体系にどのような影響を与えたのか,DSM-5では何が変わり,何が変わらなかったのか,それはどうしてなのか」等々の課題に関して各筆者が現時点での到達点を記述しており比較的短い期間に読み込み,考察した結果に敬意を表したい。わが国の臨床でのDSM-5の使用経験の積み重ねが更なる発展に結びつくことを期待したい。
なおその使用に関しては,DSMの持つ功罪を吟味し,可能性やその限界については常に念頭に置く謙虚で慎重な態度が望まれる。
DSM-5の活用者が十分な精神病理学を身につけ,患者の呈する症状を懇切丁寧に分析し,適切な診断治療に結びつける素養を涵養することが何より重要といえよう。

DSM-5を読み解く 神経発達症群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連

DSM-5を読み解く 神経発達症群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連 published on

DSM-5に慣れる必須の1冊

精神医学 Vol.57 No.3(2015年3月号) 書評より

書評者:長尾圭造(長尾こころのクリニック院長)

分類学には論理的な科学性はない。したがって分類はいかに役に立つかというもっともらしさ,つまり蓋然性や妥当性が問われるので,その時の事情や背景を基に恣意的にならざるを得ない。4回目の改訂となった今回のDSMは,特に子どもの分野では,近年の疫学,分子遺伝学,脳画像,家族・双生児研究,認知精神科学,環境・文化の影響による発達精神病理の進歩の影響を受け,大幅な見直しがなされた。その結果,診断名が増え,アセスメントと尺度や面接法も示された。
DSM-5の分類には診断名,診断的特徴,有病率,年齢による経過(症状の発展と経過),危険要因と予後要因,文化・性別に関する診断的事項,機能的結果(予後など),鑑別診断,併存症などが記されている。このそれぞれには,臨床経験と研究を基に議論を重ねた結果が書かれているため,そのコトバは重い。このため,これが作られてきた背景,その診断の意図,利用法,使い方などは,ベテランによる解説が何より望ましい。DSM-5に習熟するためにはガイドラインが必要となる。
本書の構成は,「DSM-5時代の精神科診断」では,これまでの歴史・開発の背景・経緯・全体の改定点・ディメンション的診断モデルのゆくえが描かれている。「児童精神医学の診断概念とDSM-5」では,DSM-5における構成上の再編とその背景が述べられている。「児童精神医学の診断概念の歴史的変遷」では,DSM体系の概要と幼児期から青年期に発症する障害の下位分類と単位障害の変遷が,「DSM-5とICD-11の相違点」では,meta-structureの違い,神経発達障害群,食行動障害および摂食障害群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群について解説されている。その後の章では,各診断名である神経発達症群/神経発達障害群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連といった,児童青年期に大事な疾患が取り上げられ,解説されている。
診断には,表出される症状,その表出症状を構成する背景症状,その背景症状を構成している病理,それが生じてきた環境と生物学的背景と順に考えを進めて,たどり着くことにより,初めて症状の理解と診断ができる。特に子どもの場合,症状形成の因果関係には,成人以上に,環境の影響が絡むし,症状の動揺性も強い。したがって,一人ひとりの患者を丁寧に診るには,DSM-5で取り上げられたそれぞれの視点から,考えを巡らせることにより,臨床の厚みが格段に増す。
今後の課題も多い。メンタルヘルスへの関心・アプローチから,カテゴリー診断の限界が見えたため,次元診断という捉え方をさらに進める必要があろうし,診断閾値以下のメンタルへルス状態へのアプローチ,遺伝子とそのエピジジェネティクスの出方やエンドフェノタイプと症状発現などを疾患との関連でとらえることも必要となる。DSM-6には,そのような視点からも変更がなされることも予想される。しかし,それまでのおそらく20年前後は,DSM-5が使われると考えると,誰もが,いずれは,できれば早く習熟しなければならない。そのための解説手引書としては,これまでの児童青年精神医学の来歴が示されているし,実際の診断項目の解説も分かりやすい。本書はDSM-5に慣れる必須の1冊となっている。研究者にとっては,DSM-6を,どのように計画すればいいのかを考える1冊でもある。