内科 Vol.122 No.5(2018年11月号)「Book Review」より
評者:新保卓郎(太田西ノ内病院)
時の歩みはあまりに早く,還暦過ぎの我が身には,医療の進歩に遅れない,これは至難の業である.内科系の各領域をみても疾患概念はいつの間にか大きく変わり,常識と思っていたものが過去の遺物と指摘され蓋然とする.私の勤務地の福島県は医師不足で,自分でいまだに総合内科の外来診療と病棟患者担当をしている.いかにして短時間で効率的にボトムラインの知識を押さえておくかに自然と気を配るようになる.このような目的にかなうのが,どうも若手向けの解説書かと思っている.
今般,「レジデントのための糖尿病・代謝・内分泌内科ポケットブック 第2版」が上梓された.自分は第1版から愛用している.内科医にとっては,糖尿病や内分泌代謝疾患で頭を悩ますことは非常に多い.きわめて内科らしい領域である.本書は糖尿病の専門医ではない自分にとって,手に取りやすく読みやすい書である.実践的,具体的な記載がなされている.どこに何が記載されているか把握しやすいので,眼の前に患者さんが来て慌てて確認するときにも便利である.生理学的な記載もあり,基礎知識に関して復習もできる.Columnという形で,知っておくべき話題にも触れられている.
糖尿病の診療では薬物療法が大いに発展した.以前より治療で使える武器は増えたが,使いこなすために必要な知識は増大した.このような薬物療法について簡潔に要点がまとめられている.診療の現場では,高齢患者の増えているなかで応用問題をいかに解決するかに迫られている.糖尿病応用編として糖尿病の慢性合併症や,特殊な対応が必要な場合についてもまとめられていてありがたい.
初版後短時日で第2版が出版となったのも,監修の野田光彦先生や編著をされた気鋭の先生方が初版の手応えを感じられたこと,そして最新の知識を読者に提供されたいという気概の表れなのだろう.
新専門医制度になって,これから内科専門医をめざすレジデント世代は,従来以上に総合的な視点が必要とされる.内科専門研修の目標は,さまざまな役割を果たすことができる「可塑性」のある幅広い能力をもった内科医の育成であるとされる.流行の言葉で言えば「ポリバレント」な内科医であろう.従来のサブスペシャルティー優先の内科専門研修とは異なってきている.専門研修の一定の期間,糖尿病代謝内分泌疾患についても十分な症例経験を積む必要がある.研修医の時期とは異なり,自らの判断と責任で診療に望むことが求められる.本書はこのようなレジデント世代にとっても,強力な支えになるだろう.
病棟では多数の高齢患者さんが入院している.糖尿病をもつことは多いし,電解質異常や内分泌疾患が疑われることも多い.病院内に専門医はいるので助けてはもらえるが,最低限の知識がないと討論もできない.このような書に導かれ,同僚と意見を交わし,多彩な患者さんを診療する経験を積む.自分の技量を発揮して患者さんの役に立てるのは幸せである.
好評のポケットブックが版を重ね「珠玉の1冊」としてより充実の内容にアップデート
プラクティス Vol.35 No.5(2018年9・10月号) PUBLICATIONより
評者:駒津光久(信州大学医学部糖尿病・内分泌代謝内科学)
国立国際医療研究センター(当時)の野田光彦博士監修による「レジデントのための糖尿病・代謝・内分泌内科ポケットブック」が上梓されたのは, 2014年5月であった.その充実した内容と使いやすさから研修医の人気を博し,このたび「第2版」が刊行された.初版と同様に,コンパクトなサイズに十分な情報を凝縮し,無駄な記載を省き,臨床的に必要なノウハウを具体的かつ明快に解説している.本書は, 「第I部 救急対応と電解質異常」「第Ⅱ部 糖尿病」「第Ⅲ部 高血圧・代謝疾患」「第Ⅳ部 内分泌疾患」の4部構成になっている.また,「Column」として当該分野のトピックスに解説が加えられているが,この数も初版の33個から41個に増え,さらに充実したものになっている.
糖尿病代謝・内分泌領域の知見は日進月歩であり,本書のような実用書の場合,いかにその内容がうまくアップデートされるかが重要であるが,その点でも本書は秀逸である.たとえば,新しい血糖降下薬であるSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬に関しても,直近のエビデンスや知見をしっかり押さえて,わかりやすく記載されている.また,1型糖尿病の最新治療であるSAPについてもしっかりと記載されている.内分泌領域でも,その記載は随所にアップデートされている.先端巨大症の新しいホルモン治療薬や,神経内分泌腫瘍の分類や治療など,最新の考えかたをしっかりと伝えている.レジデントのみでなく,指導医にとってもその知識の整理と刷新のために本書は役立つと確信するゆえんである.
本書の特徴である随所にわかりやすいフローチャートを配している点も初版からしっかり継承されている.文章だけではなくこのような秀逸なチャートや,最新の診断基準の掲載など,レジデントの困りそうなところすべてに手が届いている.全体を通して,記載の姿勢や記述分量,文体などに統一感がある.これは,執筆者である田中隆久,辻本哲郎,小菅由果,財部大輔の4先生が監修者の野田光彦博士の直弟子で,その薫陶を受けており,意思疎通が十分にできたことによるのだろう.
内分泌代謝内科学は,負荷試験の方法や具体的な判定基準など,多くの数字が付きまとう.レジデントのあいだは,本書を傍らにおけば,そのような問題は解決する.基本的には,必要な項目を拾い読みすることになるが,時間の許すときに,41項目の「Column」を熟読することも勧めたい.専門医が読み直しても頭の整理に役立つほど良質な内容である.また巻末には通常の索引に加えて,略語の解説や内分泌負荷試験および糖尿病注射薬の一覧が添えられており,きわめて実用的である.
本書は「初期研修医」が内分泌代謝内科をローテートする際に是非とも携行していただきたい1冊である.研修医が日々遭遇する臨床現場で,その分野での専門知識を迅速かつ適切に習得することは容易ではないが,本書はその手助けとしてふさわしいポケットブックであり,まさに「お薦めできる珠玉の1冊」である.