産科と婦人科 Vol. 87 No.10(2020年10月号)「書評」より
評者:小西郁生(京都大学名誉教授/国立病院機構京都医療センター名誉院長)
婦人科がん患者の治療方針決定に必読の書が登場!
このほど中山書店から,Science and Practice産科婦人科臨床シリーズ5巻『悪性腫瘍』が発刊された.この度,本書を最初から最後まで通読させていただき,今,深い感動を覚えているところである.
このシリーズにはScience and Practiceというサブタイトルどおり,現時点でのScienceの到達点が明快に記載され,自らの知識を最新化することができる.そしてPractice,この治療法がなぜ推奨されるに至ったか,あるいは実際の手術法も詳細に書かれていて,理解しやすい.そして,基礎的・臨床的研究が実際の診療に反映されていく様子がわかり,研究のモチベーションも高めてくれるのである.そして何よりも,個々の婦人科がん患者さんの治療方針を検討する上で非常に役に立つ.主治医を担当する若手医師には患者さんの予後とQOL向上のため,また良好な医師-患者関係を築くために,カンファレンス前に本書の当該項を必ず読んでおいて欲しい.
それだけではない! 本書は教科書ではなく,読み物として大変面白い.それぞれの項にストーリイがあって,読者がどんどん乗ってくるのである.各々の著者が,患者さんのことや研究のことを思い,気合いを入れて物語っている姿が目に浮かぶ.通読していて,1970~1976年に中山書店からシリーズで発刊された『現代産科婦人科学大系』が眼前に現れた.今でもこの古い書物を読み返すことは多く,とりわけ,わが国において広汎子宮全摘術が開発された経緯が詳細に記載されている大系8E『子宮頸癌』は素晴らしい.今回の5巻『悪性腫瘍』は中山書店の伝統が受け継がれているのではないかと思う.