評者:尾内一信(川崎医療福祉大学 特任教授)
小児感染症の診療では、成長や免疫発達に伴う臨床像の違いを理解し、個々の子どもに最も適した治療を選択することが重要です。特に抗菌薬・抗ウイルス薬の使用は慎重を要し、適正使用の意識が不可欠です。宮入烈先生が編集された『小児診療 Knowledge & Skill』シリーズ2『どう診る? 小児感染症―抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方』は、臨床現場での実践に直結する知見をわかりやすく整理した貴重な一冊です。
抗菌薬使用の原則は、不要な投与を避け、できるだけ狭域スペクトラムの薬剤を選ぶことにあります。原因菌が推定できない初期段階では経験的治療が必要な場合もありますが、感受性が判明すれば速やかに薬剤を見直すことが望まれます。投与量や間隔は年齢・体重・腎機能を考慮し、副作用にも注意を払うべきです。
抗ウイルス薬に関しては、使用すべき場面を見極めることが重要です。インフルエンザのように有効性が確立している疾患では早期投与が有効ですが、多くのウイルス感染症では支持療法が中心となります。薬剤の乱用を避け、科学的根拠に基づいた判断が求められます。
さらに、小児科医として、治療の方針を保護者にしっかりと説明することも重要です。薬の効果や必要性、使用の限界を理解してもらうことで、不要な抗菌薬要求や誤解を防ぐことができます。また、治療方針は一律ではなく、子どもの年齢、免疫状態、既往歴、家族歴などを考慮して個別化する必要があります。治療中に症状が変化した場合には、柔軟に対応し、必要に応じて薬剤を変更することも考慮しなければなりません。
私は2009年『小児科臨床ピクシス』シリーズ11巻で『抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方』を編集しましたが、それから16年の歳月を経て最新情報が満載された本書が刊行されました。この間新型インフルエンザA(H1N1)pdm09やCOVID-19などの大流行、日本政府の薬剤耐性(AMR)対策などもあり状況は大きく変化しました。宮入烈先生が編集された本書は、最新情報が効率よくまとめられており、小児感染症治療の質を高める一助となると確信しております。是非手に取って熟読していただきたいと思います。
