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小児診療 Knowledge & Skill 1 小児白血病の最新診療

小児診療 Knowledge & Skill 1 小児白血病の最新診療 published on
評者:真部 淳(北海道大学大学院医学研究院小児科学教室教授/JCCG理事長2023~2025年)

 日本では1年間に約2,000人が小児がんに罹患しますが、その半数は白血病やリンパ腫などの血液腫瘍です。その中で、急性リンパ性白血病(ALL)は1960年代にはほとんど長期生存は望めませんでしたが、2010年代には90%近くの患者が治癒するようになりました。それは世界中で行われた臨床試験の積み重ねにより達成されたものです。ところで、1970年代にALLの中枢神経再発を予防するために導入された全脳照射は、治癒率の上昇に大きく寄与する一方、認知機能の低下や、稀ながら二次がんとして脳腫瘍の発生を招来するなど、晩期合併症の問題を認識させました。現在、臨床試験の目的には治癒率の改善のみならず、合併症の軽減も入っています。

 国内では2014年に日本小児がん研究グループ(JCCG)が結成されました。その結果、病理や画像の中央診断が可能となり、データセンターができて治療の結果や長期フォローアップのデータが蓄積され、事務局体制が強化されることにより、厚労省やAMEDなどの競争的研究費を獲得しやすくなりました。実際に2013年以降、血液腫瘍疾患については、22,891人の患者が登録され、31の特定臨床研究が行われ、固形腫瘍についても10,772人の患者が登録され、12の特定臨床研究が行われました。JCCGではALL委員会やAML委員会などの疾患委員会のみならず、長期フォローアップ委員会、支持療法委員会、遺伝性腫瘍委員会などの領域横断的な委員会も活動しています。

 前置きが長くなりました。本書は小児白血病診療に関するあらゆる問題点に直接応える内容となっています。各疾患(ALL、AML、MDS、JMML、CML)の診断と治療についての詳細な解説、アスパラギナーゼやメトトレキサートなど重要な薬剤の解説、移植治療と免疫療法、支持療法、長期フォローアップ、ゲノム医療、AI、国際協力まで、微に入り細に入って記載されています。執筆陣には現在、JCCGの各委員会で中心的に活躍している旬のメンバーが選ばれており、万全です。現代はPubMedをはじめとする媒体から様々な情報が瞬時に入ってきます。それは便利な反面、正しい情報の把握が困難です。本書は小児白血病の診療に関わるすべての人に現時点での正しい情報を提供するでしょう。読者の皆さんは、これまでの歴史と現在の問題点を理解し、今後得られる新たな知見を正確に評価する必要があります。私は数年前に『小児白血病の世界』という小著を出版しました。それはコロナのおかげでまとまった時間ができたこともあって、一人で小児白血病の研究と臨床の歴史を紐解いたものでした。エッセイ的なことも加え、書いていて楽しかったのですが、対象にした領域の広さと深さに圧倒されたことも確かでした。今回、あまり時を経ずに『小児白血病の最新診療』を手にして感じたのは、活きの良いたくさんの著者を得た大著の迫力でした。私は、本書に接した読者の皆さんが、将来は小児白血病診療のさらなる進歩に関わっていくことを期待しています。