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ニュースタンダード整形外科の臨床 3 整形外科の薬物療法・保存療法

ニュースタンダード整形外科の臨床 3 整形外科の薬物療法・保存療法 published on
Orthopaedics Vol.38 No.10(2025年10月号)「Book Review」より

評者:清水克時(医療法人 社団登豊会 近石病院 院長/岐阜大学整形外科名誉教授)

私は,この本の編集者,井尻慎一郎先生と同じ京都大学整形外科の出身です.医学部を卒業し,大学病院で半年間研修を受けた後,医局の研修プログラムで島根県の玉造厚生年金病院に3年間勤務しました.玉造病院では,たくさんの手術を経験しましたが,それに加えて,整形外科的保存治療の妙味を体験しました.病床には余裕があり,保存治療のための入院も可能で,先輩の医師や,PT,OT,看護師からたくさんのことを教えていただきました.病院の中に義肢科があり,義肢装具士が働いている工房によく出入りしました.私が卒業した1973年頃は,骨折や運動器変性疾患に対するインプラントが進歩し,手術的整形外科が飛躍的に発展する時代でした.大学病院のカンファレンスや学会では,手術を中心に議論が交わされ,私もそれにあこがれて入局したのですが,玉造病院の3年間で学んだことは,整形外科には保存治療も重要で,むしろこちらが本流だという事実でした.卒業直後の早い時期にこのことを学べたのは大変よかったと思います.

整形外科が手術分野として発展することができたのは,無菌的手術,麻酔, Ⅹ線診断の進歩に後押しされたからですが,それはほんの100年間くらいのことです.一方,保存的治療には,整形外科(ORTHOPAEDICS)という名称ができてからでも300年近くの長い伝統があります.《ニュースタンダード整形外科の臨床》 第3巻『整形外科の薬物療法・保存療法』のページをひらくと第1章,普天間朝拓先生の「外用消炎鎮痛薬」の記載で「貼付剤に切れ込みを入れて密着をはかる方法」が私の目に飛び込んできました.湿布薬を有効に使うための優れた方法で,湿布を医療保険でカバーすべきか? という昨今の医療経済論議に対する現場からの回答のようにも思いました.普天間先生と患者さんの会話が聞こえてくるような写真です.このほかにも,臨床現場で役に立つ知識をできるだけ具体的に解説するという編集者の意図は,すべての執筆者によく伝わっていて,実際の臨床に即した知識が満載されています.

第1,2,3巻を通読してみて,全11巻におよぶシリーズのなかで,この3冊はまさにジェネラリストのための基本的教科書だと思いました.とくに第3巻は秀逸です.私が臨床医として働き始めてから半世紀が過ぎました.最近は,ふたたび一般整形外科の診療が増えてきたので,診療のあいまにこの本を読んで重宝しています.本書をすべての世代の整形外科医におすすめします.