ENTONI Vol. 288(2023年9月号)「Book Review」より
評者:村上信五(名古屋市立大学医学部附属東部医療センター耳鼻咽喉科 特任教授)
この度,中山書店から新シリーズ《プラクティス耳鼻咽喉科の臨床》の第3巻として『耳鼻咽喉科薬物治療ベッドサイドガイド』が発刊されました.
これまでの耳鼻咽喉科領域の薬物治療は外来診療を目的とする書物がほとんどでしたが,本書は入院治療,すなわちベッドサイドでの診療に主眼を置いているところが特徴です.とは言っても外来診療でも十分役立つ重宝な書物です.また, 目次は疾患別ではなく薬物のジャンルで括り,薬品の種類や効能発現機序,有害事象,副反応などについて,分かりやすいシェーマや表を用いて解説しています.そして,耳鼻咽喉科疾患の治療に関しては実際例を提示して,疾患の病態から診断,治療,予後について解説しています.薬物治療に関しては,最新のガイドラインに沿った処方がStep by Stepに重症度や難治度に対応して提示されており,実践的かつup to dateな薬物治療マニュアルと言えます.また,本書では頭頸部癌を代表する扁平上皮癌や唾液腺癌,甲状腺癌に対する抗がん薬に関してもシスプラチンなどの殺細胞性抗がん薬から分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬に至るまで,有効性と有害事象が詳細に解説されています.そして,新薬だけでなく漢方薬についても,選び方や使い方,有害事象がコンパクトにまとめられ,耳管開放症や耳鳴,めまい,味覚障害,舌痛症,口腔乾燥,咽喉喉頭異常感症,喉頭肉芽症など新薬が奏功しにくい疾患に対する漢方薬の具体的な処方が紹介されています.漢方薬治療が苦手な耳鼻咽喉科医にとっては有難く,漢方薬入門書であると同時に実践的漢方治療マニュアルと言えます.
また,本書のもうひとつの特徴として要所随所に「Topics」や「Advice」,「Pitfall」などのコーナーがあり,「Topics」には疾患や薬物の最新情報が,「Advice」には投与方法のコツや知りたいこと,疑問に思っていたことなどが,そして,「Pitfall」には薬剤の安全性や複数投与における相乗効果などの注意点や落とし穴が記載されています.いずれも日常診療を行うために必要不可欠な情報で,Coffee Break的な感覚で休憩時に薬物にまつわる豆知識を得ることができます.
総評として,本書は耳鼻咽喉科頭頸部外科領域のすべてを網羅するベッドサイドの薬物治療ガイドで病院や病床を有するクリニックは必須の書と考えます.また,外来診療においても十分活用でき,特に薬物の種類や効能,作用機序等が詳細かつ分かりやすく記載されているので,患者さんへの説明には最適の書と言えます.そして何より,耳鼻咽喉科専攻医は勿論,専門医にとっても薬物の基礎から適応,使い方の最新情報を得るための必携の書ではないでしょうか.