スポーツ整形外科診療に携わる方々の手元に常に置いておきたい実践書

臨床スポーツ医学 Vol.38 No.12(2021年12月号)「書評」より

評者:小川宗宏(奈良県立医科大学スポーツ医学講座)

本書「下肢のスポーツ外傷・障害」は,松本秀男氏が総編集者を務める〈講座 スポーツ整形外科学〉シリーズの1冊として発刊されたものである.松本氏の“シリーズ刊行にあたって”にも述べられているように,スポーツ整形外科は,スポーツ活動での高いパフォーマンスの維持,スポーツ復帰や継続を常に見据えた予防・治療が求められ,運動器の外傷や障害の予防・治療方針決定において,一般の整形外科とは異なる特徴を持ち,アスリートの特殊性,競技種目の特徴,整形外科以外の幅広い知識も要求される.本シリーズでは,スポーツ外傷・障害の予防のためのトレーニングなどを含めて紹介し,さらに治療については単に日常生活に復帰するばかりではなく,スポーツ復帰を念頭に置いて解説するように企画されており,本書もスポーツ整形外科に特徴的な実践書として,各スポーツ外傷・障害の予防と治療の実際を視覚的にもわかりやすく解説している.
本書編者の近藤英司氏も述べているように,下肢はスポーツ外傷・障害が最も発生しやすい部位である.アスリートはもとより子供から高齢者まで広くスポーツが行われるようになり,スポーツ外傷・障害も多様化し,それぞれが求めるレベルへの復帰を支援するためにスポーツ医学領域の最先端医療技術に基づいて適切な治療を行わなくてはならない.本書の特徴は,実際のスポーツ現場における診断の進め方,競技特性を考慮した予防的アプローチ,スポーツ復帰を目指した治療の進め方,競技復帰に向けてのポイントなどに重点を置いて解説されていることであり,スポーツ医学を専門としている整形外科の先生方のみならず,スポーツ整形外科を志す学生,専攻医,スポーツ現場で活躍されているメディカルスタッフにとっての必読書としてお薦めの一冊である.
本書はスポーツ整形外科の臨床特有のアプローチにフォーカスし,写真・イラストを多用したビジュアルな構成になっており,スポーツ外傷・障害の予防と治療・競技復帰に向けたスポーツ整形外科診療に携わる方々の手元に常に置いておきたい実践書であると思われる.