作業療法ジャーナル Vol.54 No.6(2020年6月号)「書評」より

評者:仙石泰仁(札幌医科大学,作業療法士)

15レクチャーシリーズは教育現場において,病態から臨床で必要な評価・治療に関する基礎的な知識を提供することを目的にシリーズ化されている.本シリーズの特徴は,養成校での講義を紙面上で再現するように,一般的なカリキュラムで行われる15のレクチャーで学習が完了するように構成がなされている点である.1レクチャーごとに,「学習主題」,「学習目標」,「学習項目」を明記したシラバスが掲載されており,学習者が何を学ぶべきなのかがわかりやすく工夫されている.巻末には模擬試験が掲載され,国試対策の一助にもなる.これまでは理学療法を中心に発刊されていたが,作業療法に特化したテキストとして初めて上梓されたのが本書である.
「作業療法テキストとして最初に出されるのが『内部障害』なのはなぜ?」という疑問が生じたが,序文で責任編集の野田和惠氏の編集意義を読むと納得できる.現在,高齢化が進むなかでOTも地域包括ケアシステムに対応した役割が期待されている.養成教育においても指定規則が2019年(令和元年)に改定され,「画像評価」,「栄養」,「多職種連携」,「予防」等,地域で作業療法支援を行う際の基礎的な知識が学ぶべき事項として明記されている.また,日本作業療法士協会が2019年に策定した養成教育モデル・コア・カリキュラムでは,内部障害に関する病態の理解,作業療法評価,生活支援について教授することを求めている.実際に臨床現場で在宅支援を行う際には,脳血管疾患であっても,基礎疾患である糖尿病や高血圧に対する知識と生活支援を行う際の配慮点等について知っていることは必須である.このような時代の潮流で,内部障害学をOTが学ぶ必然性が高まってきていると考えられる.しかしながら,これまでカリキュラムの中で内部障害学を取り入れている養成校は少ないのが現状であり,教えることができる教員も限られている.このような状況の中で本書が発刊されることは大変意義深い.
内容は「内部障害」の中でも,呼吸・循環・代謝が取り上げられている.病態に関しては,解剖学,生理学,運動生理学,病理学,内科学等でも扱われている内容も多いが,疾患との関連で知識を統合しやすいように,具体的な症状を示しながら解説されているので学生には理解しやすい.病態評価に関しては,必須評価となる項目を網羅したうえで,それらの評価を作業療法でどのように利用するのかという視点で説明されており,臨床で実際に治療に携わるセラピストにも参考となる.また,人工呼吸療法(Lecture 6)や吸引(Lecture 7)では多くの写真を用いて説明されているため,機材のない養成校でもイメージがつきやすい.Lecture 14と15では,実際に治療にあたっている臨床家が作業療法の実際(症例)を紹介しており,臨場感をもって現場の治療内容・経過を知ることができる.さらに,本書では各Lectureの最後に「Step up」として最新の知見を紹介しており,学習者がさらに知識を深めるきっかけを提供している.
養成校の教員にとっては学習者に効率的に学修できるシラバスを構築することに苦心するが,本書はその一つの解答を提示している.これまでに出版されたテキストのさまざまな工夫を取り入れ,学習者の知識水準に対応できるようになっており,養成校の学生が学修するための良質なテキストであり,お薦めしたい一冊である.