初学者でも抵抗なく漢方薬を使える配慮が随所に散りばめられている

総合診療 Vol.26 No.8(2016年8月号) GM Library 私の読んだ本より

書評者:前野哲博(筑波大学附属病院総合診療科)

このたび,『高齢者プライマリケア漢方薬ガイド』が上梓された.著者の加藤士郎先生は,大変お忙しい診療の傍ら,毎週,当大学の医学生に懇切丁寧にご指導いただいている.また,頻繁に漢方セミナーを開かれ,漢方に興味をもつ医療者への指導にも熱心に取り組まれている.本書は,先生の温かいお人柄そのままに,初学者でも抵抗なく漢方薬を使える配慮が随所に散りばめられている.
漢方にあまり詳しくない医師でも,能書や解説本を読めば,候補となる薬剤をリストアップするのは,ある程度可能である.問題は,実際に処方する薬を1つに絞り込むところであり,どうしてAやBではなくCを選択するのか,という理由づけが難しい.もちろん,それぞれの使用目標となる証は書いてあるのだが,いわゆる「病名漢方」のレベルにとどまっている初学者には理解が難しい.また,薬理学的機序で分類できる西洋薬と異なり,漢方薬は1つひとつの薬剤のイメージを把握するのが難しいことも大きなハードルになっている.
本書は,初学者のこのような状況を熟知したうえで,迷わずに処方薬を決定できるような工夫が凝らされている.高齢者のプライマリ・ケアにおいて遭遇することの多い29の疾患・病態それぞれについて,まずファーストラインとなる薬剤が3つ示される.そして,その3つを使い分けるポイントが明快に示されている.特筆すべきは,その3つの薬剤について,イラストで適応となる患者のイメージと使いこなしのポイントが明示されていることである.さらに,典型例の症例提示,それぞれの構成生薬や使用目標のまとめが示されているので,各薬剤の位置づけを感覚的に理解でき,よりスムーズな薬剤選択につなげることができる.
それに加えて,体力と急性期~回復期のステージ別に薬剤の位置づけが一覧表で示され,処方期間や減量・中止の進め方も記載されている.まさに至れり尽くせりで,この一冊があれば,あまり経験のない医師でも,かなり安心して漢方治療を始めることができるだろう.
また,本書の副題は「チーム医療で必ず役立つ56処方」である.本書は,医師以外の看護師・薬剤師はもちろん,介護職や事務職,一般の方にも役立ててもらうことを意図して執筆されており,イラストを多用し,平易で簡潔な文章で記載されている.もちろん,難しい証の話は一切出てこない.まさに,漢方に気軽に取り組んでみたいすべての方に,お勧めの一冊である.


これから漢方を手がけたいと思っている医療従事者必携

Medical Tribune 2016年4月28日 本の広場より

漢方薬は,疾患を臓器ごとに診断する近代西洋医学と異なり,患者の容体や症状を診ながら処方する。本書は,そうした漢方薬の処方を患者の訴えが多い29疾患に絞り込み,実地診療での活用を図っている。各疾患の処方に広く有効性が認められているファーストラインの3処方の選択を中心に,その適応症状や処方のポイントを平易な文章とイラストで分かりやすく解説。各症例は主訴から始め,現病歴,現症,治療など各項目にわたり具体例を示している。これから漢方を手がけたいと思っている医療従事者必携のガイドブックである。


ビジュアルで理解できるポケット版

メディカル朝日 2013年8月号 BOOKS PICKUPより

高齢者で漢方薬を用いることが多い29疾患について、症状、体質、体力などの要素を組み合わせた随証投与という方法を用い、まず挙げられる三つのファーストライン・3処方の典型的な選択を紹介する。3処方の違いは一目で分かるイラストで、それぞれの構成生薬、症状と使用目標、使用時期と期間を表で、症例も示した。医師、コメディカル、患者にも読みやすい解説

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