教育の本質をよく理解した執筆・編集陣によって完成度の高い内容にまとまっている

理学療法ジャーナル Vol.46 No.3(2012年3月号) 書評より

評者:内山靖(名古屋大学医学部保健学科)

わが国の理学療法士免許登録者は9万人を超え,理学療法士養成課程の一学年総定員数は18歳人口のおよそ1%を占めるに至っている.理学療法士の増加に伴い医学書に占める理学療法関連の書籍はここ10年で急増し,最近ではさまざまな特色を打ち出したシリーズ書も続々と発刊されている.

このような時流において,伝統ある医学書籍の出版社である中山書店から「15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト」が発刊されたことは誠に喜ばしい.本シリーズは,タイトルからも明らかなように,15コマで構成される講義形式に則った学生を読者対象に特化したものである.そのコンセプトに基づき,冒頭にはシラバスとともに流れがつかみやすい丁寧な目次が掲載され,本文には豊富な図表が取り入れられている.

今回紹介する運動器障害理学療法学は,IとIIの2冊に分けて30章で構成されている.特筆すべきは,講義と実技を連続した章として扱い,学生は病態を予め学んだうえで科学的背景に基づいた理学療法の評価と治療を一連の過程で学べるように工夫されている点である.実技の章では,実際の対象者や忠実なモデルによる写真が満載で,効率的かつ効果的な学習が展開されるように配慮されている.しかも,総分量を抑えた短文で表記されていながら,内容は基本に忠実で精選されている.ともすると,このくらいは分かっていてほしいという教員の願望から,内容が多岐にわたりかえって学習到達度を下げてしまうことがあるが,本書は教育の本質をよく理解した執筆・編集陣によって完成度の高い内容にまとまっている.まさに,学生主体のテキストであり,若手の教員への力強い教本ともいえるだろう.また,執筆は責任編集者と意思疎通がとれ認識を共有できる関係にある数人に限定されているため,全体の整合性が高く,細部にわたる統一感は学習者にとって理解を促す要素となる.

評者の役割としてあえて課題を提示するとしたら,運動器や運動器障害理学療法の枠組みや特徴について,明確に解説する総論部が見当たらないことである.15章の後にある試験のcomment欄で,運動器疾患について学んだ内容はすべての対象者に接するうえで生かすことができること,運動器疾患の理学療法は比較的理解しやすくほかの基本となる内容が数多く含まれていることが記載されているので,その具体的な内容を冒頭で記してあれば学生の学習意欲と理解が一層高まるものだろう.また,全項目を理学療法士のみで執筆することが最善かどうかは意見が分かれるところである.

いずれにしても本書は,これまでわが国で出版された学生を対象としたテキストのよい部分を存分に取り入れ,後発ゆえの利点を最大限に生かした所作である.教科書としてだけでなく,専門学校の学生はもとより大学生の自己学習書として,また,臨床学習でも大いに活用できる書籍として自信をもってお奨めしたい.