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脳卒中データバンク2021

脳卒中データバンク2021 published on
内科 Vol.128 No.5(2021年11月号)「Book Review」より

わが国の脳卒中医療の現状を映す鏡

評者:戸田達史(東京大学大学院医学系研究科神経内科学教授)

国内多施設での登録事業「日本脳卒中データバンク」が活動を始めてから20年余が過ぎました.本事業を創始された小林祥泰先生(島根大学名誉教授)を中心に数年ごとに解析結果をまとめて出版されるのを,これまで楽しみに読んできました.数年前に国立循環器病研究センターに管理運営が移管されたと聞き及んでいましたが,移管後初めてのまとめとなる最新版「脳卒中データバンク2021」が,今春刊行されました.「脳卒中・循環器病対策基本法」も法制化され,一般市民の方々の脳卒中への関心も高まる中で,時宜を得た企画といえます.
脳卒中は戦後の一時期,国民の最大の死因であり続け,現在でも約300万人の有病者をかかえる国民病です.一命を取り留めても高度の後遺症を遺す患者も多く,国民の健康寿命の延伸に大きな障碍となります.発症後早期に脳組織を不可逆的に損傷させるため,長年にわたって有効な治療法を欠き,治らぬ病気とみなされた時期が続きました.しかし今世紀に入ってt-PA静注療法(静注血栓溶解療法)や経皮的な機械的血栓回収療法の開発,脳画像診断の進歩などに伴い,飛躍的に治療成績を高めるようになりました.そのような脳卒中診療の転換期であるこの約20年のデータをふんだんに掲載した本書は,まさに「わが国の脳卒中医療の現状を映す鏡」といえましょう.
本書では,2018年末までに登録された急性期脳卒中(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血),一過性脳虚血発作の患者20万例弱の臨床情報を,多くの分担執筆者が独自の切り口で解析しています.たとえば脳卒中は何歳くらいで多く発症するのか,どのくらい重症で,どのくらいの割合で後遺症を遺し,また自宅復帰できるのか,そのようなごく単純な疑問にも,十分な症例数で回答を示しています.興味深いテーマごとに解析された結果は,多数のグラフや表で示されており,視覚的にもわかりやすいものになっています.
わが国には,脳卒中や認知症,頭痛,てんかんなど,非常に多くの患者を有する神経疾患がありますが,その正確な発症者数や臨床転帰を把握するのはなかなか困難です.脳卒中においては,前述した対策基本法に基づく全国患者登録が早晩始まるそうですが,全国の患者を悉皆性高く収集するにはまだ相当の時間を要するでしょう.そのような中で脳卒中医家はもとより,一般開業医の先生方やふだん神経疾患を診る機会の少ない医師,脳卒中のリハビリに携わる医療スタッフの方々などにも,本書をお手元に置き,あるいは電子版を端末に載せ,脳卒中に関して湧き上がる疑問を解く参考書として,ぜひ役立てていただきたく思います.


medicina Vol.58 No.9(2021年8月号)「書評」より

評者:宮本 享(京都大学医学部附属病院長)

「脳卒中データバンク2021」には,1999年に研究開始された日本脳卒中データバンクに,日本全国の130を超える施設から登録され蓄積された約17万例の急性期脳卒中の臨床情報解析が掲載されている.
本書の第1部には,日本脳卒中データバンクの概要とデータ分析が記載されている.まず,脳卒中に対する医療政策を行うにあたって,本邦における脳卒中のデータベースがないことが大きな問題であることに20年以上前に注目し,本事業を立ち上げられた小林祥泰先生をはじめとする先達の慧眼に深甚なる敬意を表したい.標準化された診断名と評価尺度に基づいて登録された精度の高いデータに基づく分析であり,経年変化などの分析は本邦における脳卒中の変遷を示す貴重なデータと考えられる.
つづいて第2部では,疾患や病態,治療法その他のテーマごとに,日本脳卒中データバンクに登録された膨大な症例をもとに分析と解説がなされている.各項目の冒頭には,わかりやすくサマリーが箇条書きに掲載されている.
さいごに第3部では,日本脳卒中データバンクを用いた研究論文についての解説がなされており,本書は「本邦における最近20年間の脳卒中医療のとりまとめ」といってよい内容となっている.豊田一則先生を中心とした「国循脳卒中データバンク2021編集委員会」の皆様のご尽力に感謝したい.
2018年12月に「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」いわゆる脳卒中・循環器病対策基本法が成立し,循環器病対策推進基本計画が策定され,悉皆性がある脳卒中・循環器病の情報をどのように収集していくかということが,現在検討されている.多数の治療施設が全国に分散していて均てん化が求められ,急性期医療であり,地域連携で転院をしていく脳卒中の登録には,治療施設が集約化されており,データ登録に時間的余裕がある「がん登録」とは異なる課題がある.今後,循環器病対策推進基本計画に基づく登録事業を成功させるうえでも,日本脳卒中データバンクのこれまでのノウハウは大変貴重な経験であり,それをまとめた本書を,本邦における脳卒中医療従事者には是非精読していただきたい.

臨床力をアップする漢方

臨床力をアップする漢方 published on
内科 Vol.123 No.6(2019年6月号)「Book Review」より

評者:巽浩一郎(千葉大学医学部呼吸器内科教授)

西洋医学(内科)と東洋医学のW専門医である加藤士郎先生(筑波大学附属病院臨床教授)が編集した漢方の指南書である.W専門医のWには「西洋医学と東洋医学の双方に精通している」の意味と「Wide(広い視点を有する)な視点に立てる」の意味が含まれている.
ご自身が納得できるすぐれた臨床医になりたいのであれば,Wideな視点をもつことが重要である.漢方を知ることはWideな視点をもつことに繋がる.漢方を処方するためには,患者さんの病歴聴取時のスタイルが重要であり,五感を研ぎ澄ます必要がある.また漢方の考え方を知ることで別世界が拡がるので,自分自身の人生も豊かになる.そのための指南書が本書である.
医学生時代に漢方教育はほとんど受けてこなかった世代の医師が漢方を処方している(90%の医師が漢方薬を処方した経験があるという統計もある).自分の担当している患者さんから「この漢方薬を処方していただけますか?」というパターンもかなりある.漢方薬を処方した契機はいろいろあると思われるが,自分の使っている漢方薬がどのような薬効をもっているかを少し知っておいて損はない.西洋薬は医学生時代,研修医時代の学習でその薬効などはかなり身についている.しかし,漢方薬に関して学ぶ機会はほとんどなかったはずである.
本書には内科系各診療科から外科,感覚器,産科,小児科までほぼすべての診療科がカバーされそれぞれのエキスパートが寄稿しているが,読者はご自身の専門領域における各論からどれどれと読んでみるのが一般と思われる.単行本の医学書を最初の1頁目から読み始め最後まで読み通すことはほとんどない.自分に関係する箇所から読むことになる.その読み方がお勧めである.西洋医学的病名の括りから入る.そのなかで「お薦め漢方薬3つ」が次に目に入るはずである.これは「次の一手」を知るのに重要である.自分の処方した漢方薬の効果が不十分と判断した場合に,では「次の一手は何?」になる.西洋薬でも同様であるが,「次の一手」候補をたくさんもっている方がすぐれた棋士である.
それぞれの専門医が経験した症例があげられており,クリニカルポイントでは西洋医学的観点と東洋医学的観点を混合して解説してある.双方の視点を混ぜての解説が優れているし納得しやすい.東洋医学的視点のみで記載されてしまうと感覚の世界になってしまう.西洋医学的診察法で診療に従事してきた医師にとっては,普段の日常臨床での感覚プラスアルファの視点をもつことが適切な漢方処方に繋がることを教えてくれているのが本書である.


medicina Vol.56 No.6(2019年5月号)「書評」より

評者:小林祥泰(島根大学医学部特任教授)

この本の大きな特徴は,西洋医学と東洋医学ともに実績あるW専門医が執筆していることである.東洋医学を教わっていない医師には,陰陽五行説に拘り過ぎず,科学的かつわかりやすく専門に応じた手引き書が必要である.この点でW専門医が漢方処方のコツをまず有害事象の科学的機序の解説,近年解明されてきた五苓散のアクアポリンを介した作用機序と臨床応用など,また,フレイルや誤嚥性肺炎予防に補中益気湯,半夏厚朴湯といった未病対策から説明しているのは受け入れやすい.
「漢方臨床総論」では,総合内科での有用性,高齢者のポリファーマシー対策とQOL改善,感染症での限界とともに西洋薬が効きにくい感冒後長引く咳に竹じょ温胆湯などの有用性を教えている.また,一般に漢方が使われない救急医学でも,西洋医学では障害因子を抑制,東洋医学は防御反応を促進することから,漢方薬吸収動態を考慮した含有生薬数の少ない漢方薬の短期集中投与や注腸投与など現場体験に基づいた治療法が述べられ,臨床に役立つ.
「漢方臨床各論」では,漢方の有用性が高い分野を中心に具体的に解説されている.読みやすいのは冒頭に例えば呼吸器疾患で漢方が有効な3疾患が記載され,各々についてお薦め漢方薬3つが適応の違いを付けてまず提示されていることである.例えば嚥下性肺炎では,半夏厚朴湯が第一選択だがこれは嚥下能力のみが低下している時と付記がある.次の補中益気湯はそれに加えて全身体力低下がある時といった具合である.心不全には,牛車腎気丸,木防已湯,五苓散の順に記載されているが,前二者でBNPの有意な低下の報告があるとか,五苓散がトルバプタン無効例に有効であった報告も紹介されている.文献的根拠がきちんと示されているのもこの本の特徴である.冠攣縮性狭心症に四逆散と桂枝茯苓丸が有効というのもストレス緩和と駆お血薬で納得できる.単に血管拡張薬だけよりも理にかなっている.認知症のお薦めは抑肝散,加味帰脾湯,釣藤散で,すでに臨床治験のエビデンスもある漢方薬である.全身性強皮症で西洋薬抵抗性のレイノー症状に当帰四逆加呉茱萸生姜湯が有効というのは参考になる.良性めまいの第一選択は半夏白朮天麻湯であるが筆者も同感である.女性の冷え症の機序による独自のタイプ別分類に基づく処方,さらに冷えが異常分娩を増加させ,五積散が改善するというのは驚きであった.全体を通して今までの入門書よりも具体的で使いやすいお薦めの本である.

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 published on
medicina Vol.55 No.13(2018年12月号)「書評」より

評者:菅野健太郎(自治医科大学)

佐々木裕教授の総編集による『最新ガイドライン準拠 消化器疾患診断・治療指針』は,症候論からはじまり,検査法,画像診断など,エビデンスやガイドラインが必ずしも十分でない領域にもゆきとどいた紙数が割かれており,本書が単にガイドラインの解説書ではなく,簡便な教科書としても通用する体裁となっている.これは,佐々木教授が序文に述べておられるように,本書が,すでに上梓されている全4巻の「プリンシプル消化器疾患の臨床」シリーズを一冊に纏められていることによる.このシリーズは肝臓をご専門とする佐々木裕教授のほか,木下芳一教授,渡辺守教授,下瀬川徹教授という,当代の日本を代表する上部・下部消化管ならびに胆膵疾患のリーダーがそれぞれのシリーズの一巻を担当され,高い評価を受けている消化器病専門書である.ただ,消化器病学を専門としない一般医家が座右において参考にするには全4冊を揃えるとなるといささか抵抗があるかもしれない.本書はその点で一般医家むけとしてきわめて利便性が高くなっているといえよう.実際,最新のガイドラインが取り入れられているだけでなく,プリンシプルシリーズの特徴でもある美しい画像・イラストを受け継いでいるほか,多くの項目ではシリーズの該当部分を参照できるような配慮がなされている.
エビデンスに基づく医療(EBM)は,単に臨床研究によって得られたエビデンスだけではなく,医師の技量,患者の価値観,患者を取り巻く状況という4本柱に基づく医療を指すのであるが,その実践にあたってガイドラインの果たす役割は大きい.それゆえ,これらの最新のガイドラインを要領よくまとめてある本書の有用性は高い.しかし,たとえば,新規薬の参入が相次いでいる炎症性腸疾患や,悪性腫瘍の治療については,現行のガイドラインでは必ずしも十分に対応できているとはいえず,アップデートが必要となるであろう.また,新薬も相次いで発売され,一般医家が遭遇する機会の多い便秘については,単に症候論だけでなく,その診断,治療に関する項目を設けていただきたいと思う.
すでに述べたように,ガイドラインは常に更新,改定されていく宿命を持っている.本書もまた,それらの新たなガイドラインを包摂し,常に更新・改訂され続けられていくことを願ってやまない.

臨床病理検討会の進め方・活かし方ーCPCの作法

臨床病理検討会の進め方・活かし方ーCPCの作法 published on

良い医師を育てるためのCPCはいかにあるべきかを我々に提示してくれている

medicina Vol.53 No.12(2016年11月号) 書評より

書評者:山本一博(鳥取大学医学部病態情報内科教授)

病理解剖は,患者さんの生前に我々臨床医が把握しきれなかった情報を提供してくれる,つまり我々に勉強をさせてくれる大切な機会であります.しかしながら,近年は以前に比べ剖検数が減少しています.この背景には超音波,CT,MRI,核医学など画像診断法が進歩し,多くの情報を非侵襲的に得ることができるようになった医療の発展があります.以前であれば剖検をするまでわからなかった点が,今ではこれら非侵襲的画像診断法を用いることで診断できるようになっていることは少なくありません.しかしながら,これら画像診断法を用いてもわからないから仕方ない,と思いこんでいることに病理解剖は今でも大いなる示唆を与えてくれます.私の専門である心不全領域を例に挙げると,最近になって,病態に不明な点が多いとされる左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)においてTTRアミロイドの沈着が病態に寄与している可能性が剖検結果から示されています.現代の画像診断法をもってしても組織レベルの情報は十分に得ることができておらず,剖検の重要性を改めて認識した次第です.ただし,単に剖検を行えば新しい知見が得られるのではなく,臨床医,病理医が幅広い知識をもってCPCに参加し,問題意識を共有したうえでフォーカスを絞って議論することで,はじめて病態の理解をさらに深めることができるものと思います.
本書は日常診療で遭遇することの多い症候ごとに複数の症例を提示し“紙上CPC”を展開するユニークな構成となっています.症例毎に臨床経過,受け持ち医の立場からみた疑問点をあげ,剖検結果をもとに病理医がこれに対する回答を出し,かつその根拠が科学的に解説されています.つまり,理想的なCPCの運営例がここに示されています.また各症例に関連するself-assessment questionを設け,読者が能動的に勉強できる工夫もなされています.
初期研修制度,専門医制度においてCPCへの参加は必須とされているなかで,本書は良い医師を育てるためのCPCはいかにあるべきかを我々に提示してくれていると思います.

はじめての学会発表 症例報告

はじめての学会発表 症例報告 published on

ああ,この本があったら,もっとクールな発表ができただろうな……

medicina Vol.53 No.9(2016年8月号) 書評より

書評者:山中克郎(諏訪中央病院総合内科)

私は國松淳和先生の活躍を非常に期待している.ユニークな課題へ果敢にチャレンジする精神,そして問題解決における着眼点が素晴らしい.不定愁訴や不明熱という皆が苦手な領域にもグイグイと切り込んで,理論的にわかりやすく解説していく.この本では「学会発表」「症例報告」がテーマである.
國松先生(Dr. K)の熱い指導を受けて,かわいい初期研修医が初めて学会報告を準備する様子が描かれている.「先生,学会で症例発表してみない?」と指導医から突然言われたら,研修医は緊張するだろうな……
まず症例の選び方,次に発表する学会をどう決めるかである.そして,抄録作成が始まる.漫画が効果的に使用されているので,若手医師は大事な流れをつかみやすいだろう.初期研修医による抄録の実例が提示されている.
作成された抄録に対する國松先生による赤ペン添削の実録まで記載されているのが嬉しい.「そうか,こんな点に着目してアドバイスすればいいのか」と若手医師から修正を頼まれる指導医にとっても大変参考になるに違いない.スライドで用いる視覚的効果の高い図表づくりでは.「セクシーかどうか」がポイントだという.なるほど,こんなスライドなら臨床経過は一目瞭然だ.聴衆を一気に魅了するに違いない.ポスター発表の準備では口演とは異なり「盛り込む」作業の重要性が強調されている.
最後は発表した内容を英語論文にすることである.ここまでできれば素晴らしい.この症例報告により,世界の誰かの命を将来救うことができるかもしれない.巻末には國松先生に指導を受けた先輩達からの温かいアドバイスがついている.
私の初めての学会発表は米国での基礎医学の学会においてだった.スーツで身を包み緊張でガチガチになりながら,たどたどしい英語で発表した.私の次に壇上に現れたのは,スポーツウェアを着た若者である.公園をジョギングし帰ってきたばかりという格好である.流れるように発表を終えフロアから多くの質問を受ける.隣でボスが「あの研究は最近Natureにアクセプトされたものだ」とつぶやくのを聞き,「学会発表は外見ではない,中身こそ大切」と思い知らされた.ああ,この本があったら,もっとクールな発表ができただろうな……


具体的ノウハウがスラスラと分かる

メディカル朝日 2016年8月号 BOOKS PICKUPより

多くの研修医を指導してきた著者が、経験をもとに学会発表・症例報告のノウハウをやさしくひもとく。指導医、初期研修医、後期研修医の3人が登場するマンガで、学会発表を勧められる場面から実際の発表後までの流れを解説した。それぞれの段階で基本的かつ重要な事項の解説と知っておきたい知識、エッセンスがまとめてあり分かりやすい。指導医にも大いに役立つ。

朝日新聞出版より転載承諾済み(承諾番号24-2029)
朝日新聞出版に無断で転載することを禁止します

動画でわかる 実践的心エコー入門

動画でわかる 実践的心エコー入門 published on

おそらく世界で初めてのスタイル

medicina Vol.53 No.1(2016年1月号 書評より

書評者:吉川純一(西宮渡辺病院循環器センター 最高顧問)

小室一成先生が監修され,小室先生に信頼を受けている3人の優秀な医師が,この新しい本を執筆している.
この本の最大の特徴は,画像を印刷された紙の上でだけ見るのではなく,またCDやDVDで見るのではなく,パソコンおよびモバイル端末の指定のブラウザで画像(動画)を観察できる.今までのようにCDやDVDを持ち歩かないでも心エコー画像が観察される.
掲載されているすべての画像を見てみた.
いずれの画像も美しい.
私は,この類のテキストを今まで見たことはなく,おそらく世界で初めてのスタイルの著作であろう.
この本の名前は「動画でわかる実践的心エコー入門」であり,心エコーの鉄則をも意味している.
昔から,心エコー画像を見れば,MSやなとかASDやなとか,左房粘液腫だろうなと判断できるのが,心エコーの神髄であろう.その意味では心エコーの歴史は今でも当然不変である.
本書でも頑張っておられるが,次の著作では大幅に症例数を増やされることをぜひおすすめしておきたい.このテキスト名を活かすにふさわしい方法であろう.
聡明な循環器内科教授の指導の下,力もエネルギーも持ち合わせた人々が,世界で初めての形式の本を生み出された.症例数が増えれば「画像」→「診断」,「画像」→「診断」と続く夢のような本ができるであろう.

レジデントのための呼吸器内科ポケットブック

レジデントのための呼吸器内科ポケットブック published on

著者らが積み上げてきた「1分間指導法」の集大成

medicina Vol.49 No.7(2012年7月号) 書評より

川名明彦(防衛医科大学校内科学 教授)

レジデントが学ぶべき専門知識や技術は膨大である.彼らが成書を読み,最新の文献をチェックして知識を得ることはもちろん重要である.しかし病棟や救急外来で,患者さんの病状を評価し,素早くアクションを起こさなければならない場面では,優れた先輩医師や指導医のちょっとしたアドバイスがより貴重な指針となることも多い.また,このように差し迫った場で学んだことは一生忘れないものである.ただ残念なことに,当直や救急の現場で,いつも優れた指導医がいてくれるわけではない.さらにレジデントともなれば,一人で判断し,行動しなければならない場面も多い.そのような臨床の現場で,レジデントに対して迅速かつ適切なアドバイスをくれる,優秀な先輩医師のような役割を果たすのが本書である.
本書は,「指導医が研修医に,『1分間指導法』を実践している場面をイメージして作成」されたという.本書を編集した吉澤,杉山両医師は「教え上手」で有名である.私は,彼らがX線写真などの前で研修医にちょっとしたミニレクチャーを始めると,周りに何人もの研修医が集まって来て,そのレクチャーに聞き入っている様子を幾度も目にしたことがある.著者らがこれまで積み上げてきた,この「1分間指導法」の集大成が本書であると言えよう.
本書は「教科書の縮刷版のような『読む本』ではなく,必要な情報にすぐアクセスできる『実践的なテキスト』にすることをめざした」とある.私は書評を書くため本書を通読してみたが,比較的短時間で読了できる上,「読む本」としても充実していると感じた.本書を通読することで,現代の呼吸器診療のスタンダードを短時間に復習することもできる.その意味で,レジデントばかりではなく,呼吸器臨床のエッセンスを再確認したいシニアドクターにも有用である.
多くの分担執筆者の合作ということもあり,項目ごとの趣が若干異なっているが,それはむしろ先輩医師たる各執筆者の個性ということもできよう.また,本書はあくまでもポケットマニュアルであり,ぜひ本書で学んだことをさらに成書や学術論文をひもといて膨らませていただきたい.編集者が「この本に書かれた知識をもとに,英知につながる知恵の糸口をつかむことを期待している」と述べているのは,そのことであろう.

当直と救急の現場で使える 腹部救急超音波診断

当直と救急の現場で使える 腹部救急超音波診断 published on

見えない時,描出できない時のもう一歩突っ込んだアドバイスが記載されているのは秀逸

medicina Vol.52 No.5(2015年4月号) 書評より

書評者:林 寛之(福井大学医学部附属病院総合診療部)

超音波はいまや聴診器より気軽に,正確に使えないといけない必須の武器と言える.将来医者一人に一台持ち歩く時代になるんじゃないかしら?
超音波がうまくなりたいと切実に願う初学者も多いだろう.小児の虫垂炎だって超音波だけで診断すればいいのに,CTばかりとっているようではダメチンだ.
超音波の本って世の中たくさんあるが,本書の特筆すべき点は,まず正常像の描出の仕方がきちんと書いてあることだ.病気がわかりやすく目の前にやってくるはずもなく,まずは正常の臓器がどう見えるのか,どうしたら描出できるのかを知らないとまったく役に立たない.初学者はまず正常の超音波検査をたくさんやって,瞬時に目的臓器を描出できるようにならないと,病変をうまく描出できるはずもない.描出のポイント,観察点がきちんと最初にまとまっているので,初学者はまずここを覚えてかかるといい.
プローブの操作法が細かく記載されているのは,読者に実際に使ってもらうためのコツであり,なかなかかゆいところに手が届いている.「ここでこうやったら見えるよ」的な安直な書き方ではなく,見えない時,描出できない時のもう一歩突っ込んだアドバイスが記載されているのは秀逸であり,当直や救急の現場で使うには実にうれしい.検査手順がわからずにやみくもに超音波を使っているあなた.まずは本書を通読しましょう.
各論も充実している.単なる検査本ではなく臨床上知っておくべき知識が最初に「検査前に理解しておくポイント」としてまとまっている.続いて検査の進め方が実践的に記載してある.超音波画像の解説も,白黒反転した画像も併載してあり,解剖学的な位置関係がわかりやすくなっている.
巻末の「サインとアーチファクト」ってなんとなくいい感じ♪超音波をするうえでは知っておくと便利な知識がうまくまとまっている.ちょっとしたウンチクを知っているとうれしいものだ.
しいてリクエストするとしたら,お腹を出しているモデルがもっと……(○△□※怖くて書けない(-_-)/~~~ピシー!ピシー!)

時間内科学

時間内科学 published on

時間生物学研究の歴史とともに時間医学発展の経過と現状が記述されたユニークで魅力的な解説書

medicina Vol.50 No.8(2013年8月号) 書評より

評者:尾前照雄(国立循環器病研究センター名誉総長)

本書は「時間内科学」という大胆なタイトルで,時間生物学研究の歴史とともに時間医学発展の経過と現状が記述されたユニークで魅力的な解説書である.長年この分野の研究に情熱を注がれた著者自身の研究成果と見解がこの1冊に集約され,今後の発展についての夢が語られている.内科学の基礎である健康の保持と疾病の予防,診断と治療,リハビリテーションのすべての面で生体リズムに視点をおいた見解の発展が今後大いに期待されている.
Circadianという言葉は通常の辞書には記載がないが,“circa”は「約」,“dian”は「24時間」を意味している.この表現を最初に用いたのは1959年,米国ミネソタ大学のFranz Halberg教授である.彼は時間生物学(生体リズム研究)とともに「時間医学」という新しい医学概念の提唱者である.著者は長年同教授とも親密な関係を保ち共同研究を行い,本書の冒頭に彼の推薦の言葉が述べられている.
地球上の多くの生物は地球の自転周期にほぼ等しい約24時間周期のリズムを刻む体内時計をもっている.このしくみにより睡眠,覚醒のみならず,体温,血圧,心拍,神経活動,内分泌・代謝機能,免疫機能などの生活機能の概日(サーカディアン)リズムがコントロールされている.体内時計を制御している時計遺伝子が次々に発見され,時計関連遺伝子のリズミックな発現によって個体あるいは組織における種々の概日リズムが制御されると考えられている.その異常が睡眠障害だけでなく,血圧や心拍,糖尿病,肥満や高脂血症,がんなどの疾病発症と関連している可能性がある.中枢だけでなく末梢臓器を含め全身の細胞に概日時計システムが備わっていると考えられている.
本書の記述は時間医学研究の進歩にはじまり,24時間血圧記録が可能となってからの血圧日内変動をとり入れた高血圧の時間診断と適切な時間治療,糖尿病の時間治療,時間薬理という考え方と時間治療,抑うつ症,がん,急死などの時間治療,時間内科学におけるメラトニン治療への期待などが主項目に取り上げられている.最後に体内時刻とこれからの時間治療,生命とは何か?に関しての著者の見解と将来への期待が述べられている.
各項目ごとに内外研究者の多くの文献が紹介されていることも読者の理解に役立つことが多いだろう.