Skip to content

エビデンスに基づくアトピー性皮膚炎治療

エビデンスに基づくアトピー性皮膚炎治療 published on
Visual Dermatology Vol.18 No.11(2019年11月号)「Book Review」より

評者:鶴田大輔(大阪市立大学大学院医学研究科皮膚病態学教授)

京都大学の師弟コンビによるワクワク感満載の書籍が刊行された!
椛島健治先生というずば抜けた研究者が日本にいることはわれわれの誇りである.現在,椛島先生は世界最先端の研究グループを組織されているが,本書もその方々が中心となり執筆され,一部をその他の施設におられる先生方が分担執筆されている.さらに,宮地良樹先生という稀有なオーガナイザーが一緒に編集されたこともあり,本書はたいへん贅沢な本となったと思う.
ひと目見て,臨床写真がきわめて少ないことに驚いた.代わりに,病態を説明する実に美しいイラストが多数ある.表紙も体裁もとにかく美しい.
アトピー性皮膚炎の病因についてはアレルギ一説,バリア説の戦いの歴史といえるが,椛島先生は以前から「三位一体病態論」を唱えておられ,美しいイラストとともにその説明がなされている.とてもわかりやすい.
治療とバイオマーカーの項目ではガイドライン,最新の薬剤のみならず歴史的な経緯についても簡潔にまとめておられ,興味深い.また,アトピー性皮膚炎でのバリア異常と病態との関連,治療の項目では,脂質バリアだけではなく近年話題の「扁平ケルビン14面体モデル」「機能的角層分類」「Flaky tailマウスでのmattedの異常による皮膚炎」「JTC801の効果」にまで話題が及んでいる.
学会などでこれらの話題を完全には理解できていない方(私も含む)や皮膚科研究を志すものには必見であると考える.
次にアトピー性皮膚炎の免疫・アレルギー的側面では,Th2サイトカイン,話題の自然リンパ球の役割,アトピー関連サイトカインの制御による最新アトピー治療について記載されている.さらに,かゆみ関連では,伝達経路,関連サイトカイン,モデルマウスに至るまで微に入り細に入り記載されている.最近のトピックスとしては,皮膚常在菌をターゲットとした治療,抗菌ペプチドを利用した治療,衛生仮説,外因性・内因性アトピー性皮膚炎が選ばれている.その上で最後を飾る章として宮地先生自らが「三位一体論に基づくアトピー性皮膚炎ベスト治療」を書かれている.まさにこれこそが,現在考えられている病因論に基づくアトピー性皮膚炎治療のベストアプローチと言えよう.
このような本が日本語で読めるとは,日本人臨床医,研究者はたいへん恵まれている.英訳する計画があるかもしれないが,できれば日本人のためのみの宝物にしておいていただければと思う.

皮膚科臨床アセット 14 肉芽腫性皮膚疾患

皮膚科臨床アセット 14 肉芽腫性皮膚疾患 published on

今後の診療,教育を楽しみにさせる良著

臨床皮膚科 Vol.67 No.10(2013年9月号) 書評より

書評者:鶴田大輔(大阪市立大学大学院医学研究科教授・皮膚病態学)

皮膚科臨床アセットシリーズは,私のお気に入りのシリーズである.総編集の古江増隆氏の序文にもあるが,「専門書でありながら肩の凝らない読み物」というポリシーが私の琴線に触れるのである.これまで発刊された書籍はすべて目を通しており,一部は私も分担執筆させていただいた.今回新たに,「肉芽腫性皮膚疾患」についての書籍が関西医科大学教授の岡本祐之氏の編集により刊行された.
私は以前,皮膚疾患の病態生理に関する教科書を執筆したことがある.担当は水疱症と膿疱症であった.水疱症の病態生理は本邦の皮膚科医も含めた先人の多大な努力によりかなり解明されてきたことは言うまでもなく,比較的容易に書くことができた.問題は膿疱症であった.当時,不勉強のせいではあろうが,全くお手上げの状態であった.幸運にも(不運にも??)肉芽腫症についての病態生理の項目の執筆の機会は現在までない.私の講義担当はしかしながら,「水疱症・膿疱症・肉芽腫症」である.どうしてもこれらのなかでは比較的良くわかっている水疱症のパートに,多くの時間を割いてきた.肉芽腫症についてはサルコイドと環状肉芽腫を紹介するだけであった.今回,本邦におけるサルコイドーシス学の権威である岡本祐之氏が編集された,過去に類を見ない書籍を目の当たりにした.目からうろこが落ちるとはまさにこのことで,時間がすぎるのを忘れて,わずか数日で読破してしまった.私は肉芽腫の講義を担当しておりながら,全くもって不勉強であることを痛感した.肉芽腫の病態解明がかなり進んでいることがわかった.
本書籍の大きな特徴は全345頁の約半分をサルコイドーシスに割いていることである.サルコイドーシスの疫学に始まり,診療・病因・分類・肉眼診断・他臓器病変・類縁疾患・治療と,網羅的にすべてのサルコイドーシスの領域をカバーする.常識的な部分を完全に記載するだけではなく,最新かつ最先端の学問的知見も確実にカバーできていると考える.また,その他の稀であるが重要な肉芽腫性疾患である,環状肉芽腫・annular elastolytic giant cell granuloma・リポイド類壊死症・肉芽腫性口唇炎・その他の肉芽腫についても,サルコイドーシスの執筆部分と同様に十分網羅的ではあるが,より簡潔に記載がなされている.以上から,文字どおり「これ一冊で」皮膚科専門医として恥ずかしくない知識が数日で得られることが確実であると考えられる.
執筆は,考えられる最高のメンバーであろう,多数の本邦の皮膚科医によりなされている.多数の著者で書かれた書物にありがちな記載の統一性の欠如は本書籍では全く見当たらず,おそらくチームワークのなせる技,プラス総編集の古江増隆氏,岡本祐之氏の綿密かつ繊細な細心の注意によるところであろう.
本書のなかで特に私が感銘を受けたのはサルコイドーシスの病因論である.アクネ菌(Propionibacterium acnes)のサルコイドーシス病変形成における役割について非常に詳細に書かれている.また,サルコイドーシスの各病型で特徴的な他臓器疾患の合併なども,今回初めて本書で学ぶことができた.そして治療についての項目では経験的なものだけではなく,病態生理に立脚した最新の治療についても触れられている.
私にとっては本書を通読することは発見の連続で楽しい体験であった.今後は,もっと肉芽腫についての講義を面白くできるかもしれない.また,該当患者への説明も,よりクリアカットにでき,しかも新しい治療法の提案もできるかもしれない.今後の診療,教育を楽しみにさせる良著であると確信し,自信を持って諸先生方,医学生に強く推薦する次第である.