Skip to content

皮膚科臨床アセット 14 肉芽腫性皮膚疾患

皮膚科臨床アセット 14 肉芽腫性皮膚疾患 published on

今後の診療,教育を楽しみにさせる良著

臨床皮膚科 Vol.67 No.10(2013年9月号) 書評より

書評者:鶴田大輔(大阪市立大学大学院医学研究科教授・皮膚病態学)

皮膚科臨床アセットシリーズは,私のお気に入りのシリーズである.総編集の古江増隆氏の序文にもあるが,「専門書でありながら肩の凝らない読み物」というポリシーが私の琴線に触れるのである.これまで発刊された書籍はすべて目を通しており,一部は私も分担執筆させていただいた.今回新たに,「肉芽腫性皮膚疾患」についての書籍が関西医科大学教授の岡本祐之氏の編集により刊行された.
私は以前,皮膚疾患の病態生理に関する教科書を執筆したことがある.担当は水疱症と膿疱症であった.水疱症の病態生理は本邦の皮膚科医も含めた先人の多大な努力によりかなり解明されてきたことは言うまでもなく,比較的容易に書くことができた.問題は膿疱症であった.当時,不勉強のせいではあろうが,全くお手上げの状態であった.幸運にも(不運にも??)肉芽腫症についての病態生理の項目の執筆の機会は現在までない.私の講義担当はしかしながら,「水疱症・膿疱症・肉芽腫症」である.どうしてもこれらのなかでは比較的良くわかっている水疱症のパートに,多くの時間を割いてきた.肉芽腫症についてはサルコイドと環状肉芽腫を紹介するだけであった.今回,本邦におけるサルコイドーシス学の権威である岡本祐之氏が編集された,過去に類を見ない書籍を目の当たりにした.目からうろこが落ちるとはまさにこのことで,時間がすぎるのを忘れて,わずか数日で読破してしまった.私は肉芽腫の講義を担当しておりながら,全くもって不勉強であることを痛感した.肉芽腫の病態解明がかなり進んでいることがわかった.
本書籍の大きな特徴は全345頁の約半分をサルコイドーシスに割いていることである.サルコイドーシスの疫学に始まり,診療・病因・分類・肉眼診断・他臓器病変・類縁疾患・治療と,網羅的にすべてのサルコイドーシスの領域をカバーする.常識的な部分を完全に記載するだけではなく,最新かつ最先端の学問的知見も確実にカバーできていると考える.また,その他の稀であるが重要な肉芽腫性疾患である,環状肉芽腫・annular elastolytic giant cell granuloma・リポイド類壊死症・肉芽腫性口唇炎・その他の肉芽腫についても,サルコイドーシスの執筆部分と同様に十分網羅的ではあるが,より簡潔に記載がなされている.以上から,文字どおり「これ一冊で」皮膚科専門医として恥ずかしくない知識が数日で得られることが確実であると考えられる.
執筆は,考えられる最高のメンバーであろう,多数の本邦の皮膚科医によりなされている.多数の著者で書かれた書物にありがちな記載の統一性の欠如は本書籍では全く見当たらず,おそらくチームワークのなせる技,プラス総編集の古江増隆氏,岡本祐之氏の綿密かつ繊細な細心の注意によるところであろう.
本書のなかで特に私が感銘を受けたのはサルコイドーシスの病因論である.アクネ菌(Propionibacterium acnes)のサルコイドーシス病変形成における役割について非常に詳細に書かれている.また,サルコイドーシスの各病型で特徴的な他臓器疾患の合併なども,今回初めて本書で学ぶことができた.そして治療についての項目では経験的なものだけではなく,病態生理に立脚した最新の治療についても触れられている.
私にとっては本書を通読することは発見の連続で楽しい体験であった.今後は,もっと肉芽腫についての講義を面白くできるかもしれない.また,該当患者への説明も,よりクリアカットにでき,しかも新しい治療法の提案もできるかもしれない.今後の診療,教育を楽しみにさせる良著であると確信し,自信を持って諸先生方,医学生に強く推薦する次第である.

皮膚科臨床アセット 10 ここまでわかった 乾癬の病態と治療

皮膚科臨床アセット 10 ここまでわかった 乾癬の病態と治療 published on

「ない項目」を探すのが難しい:現代化学が到達した乾癬に関する知識をすべて網羅

臨床皮膚科 Vol.66 No.11(2012年10月号) 書評より

評者:塩原哲夫(杏林大学教授・皮膚科学)

今,乾癬の治療が熱い.学会でも乾癬と生物学的製剤のセミナーは,いつも満員の盛況である.現在のところ,各種生物学的製剤を自由に使えるのは,大学と総合病院など一部の施設だけであることを考えると,この状況は驚くべきことである.同じ慢性炎症性疾患でありながら,いつも話題に事欠かないアトピー性皮膚炎と違って,乾癬がこのような一般的なブームの対象となったことはなかったのではあるまいか.しかし基礎研究の対象としての乾癬は古くから多くの研究者を惹きつけており,その積み重ねはアトピー性皮膚炎を大きく上回る.
そんな状況が,ここへ来て大きく変わった.それは何と言っても,Kruegerらのグループにより明らかにされたTIP DC,Th17細胞説が,単なる研究室レベルの仮説ではなく,それらの細胞の働きを抑制することが実際の治療法として極めて有用であることが明らかになったからに他ならない.アトピー性皮膚炎において,いくらセラミドやフィラグリンの異常が注目されても,それが直ちに劇的な効果を生み出す薬剤の開発にはつながらなかったことと比べて見ると良い.乾癬においては,まさに仮説が仮説でなくなったのである.
このように病態の解明と治療が見事に結びついた乾癬に,今注目が集まるのは極めて当然であろう.これほどわかりやすい病気と化した乾癬であるにもかかわらず,不思議なことに乾癬の病態と治療を一冊にまとめた本は皆無であった.確かに生物学的製剤は乾癬の治療に革命をもたらしたが,いまだに多くの皮膚科医が用いているのは旧来の外用,内服療法であり,紫外線療法である.つまり,乾癬のすべてを一冊でまとめるのなら,この伝統的な治療法と,新しい生物学的製剤による治療をうまくバランスさせなければならない.これがどちらに片寄っても,本書の価値は半減してしまう.つまり大学などで生物学的製剤を駆使している医師から,伝統的な治療のみを行っている実地医家までを満足させるような本をまとめることの困難さゆえに,そのような本がなかったのである.しかし,本書を見て,このような難問が見事に,しかもあっさりと解決されている事実に驚嘆させられた.そこに,『Visual Dermatology』などでの企画力に定評のある大槻教授の手綱さばきの素晴らしさを改めて見る思いがした.ない項目を探すのが難しいくらい,本書には現代皮膚科学が到達した乾癬に関する知識のすべてが網羅されている.
普通本書のようにすべてを網羅しようとすると著者は多くなり,項目毎のバラつきが目立ち,統一性を失うとともにハンディさをも失うことになる.編集者は完璧なものを作ろうとする意図と,手軽さを失いたくないという2つの考えの間で揺れ動くのである.本書がすべてを網羅しつつ,手軽さを失っていないのは,本シリーズ独自の箇条書きという記述法のお陰かもしれない.書く立場に立つと,本書のような記述法は,説明的な文章をよく使う筆者のような書き手は苦手なのだが,読者として見た場合には著者ごとの記述のバラつきがなくなり,通して見るときわめて読みやすいことに改めて気付かされるのである.
“乾癬の今”を一冊で知ることができ,しかもハンディにまとめられた本書を見て,値段をはるかに上回る価値があると考えるのは筆者だけではあるまい.生物学的製剤を使えない実地医家の方々には,これからの乾癬治療を学ぶのに最適の書であり,大学で生物学的製剤を使いこなしている方々には,いつも座右において知識を確認するための書として強く薦めたい.