総合診療医たちのニーズに応える
総合診療 Vol.26 No.11(2016年11月号) GM Library 私の読んだ本より
書評者:齊藤裕之(山口大学医学部附属病院総合診療部)
この一冊を読み終えてまず感じたことは,「高い旅費と時間を費やして全国の名門と言われる総合診療の研修プログラムをわざわざ見学する手間が省けてよかった(ホッ)」という安堵感と,総合診療の教え方がますます明確になり,これで自施設の教育環境もさらに向上できるといった高揚感であった.
実は,全国300以上ある総合診療の研修プログラムも勝ち組と負け組のコントラストが目立つようになってきた.それもそのはず2007年から始まった日本プライマリ・ケア連合学会の認定プログラムは10年目を迎え,新しい専門医制度の導入が検討されることで,総合診療研修プログラムは内科や外科など歴史ある研修プログラムと同列で比較される時代になったのである.しかし,実際に専攻医を受け入れている総合診療研修プログラムは200余り.専攻医をしっかり教育して専門医まで取得させることができる研修プログラムは,さらに絞られるのが現状だ.
専門医を取得させることができる良質な総合診療プログラムの特徴は2つある.1つ目はプログラム統括責任者や指導医の「家庭医療/総合診療のプログラム理念」が明確であること.2つ目はプログラム内の数多くの指導医たちが総合診療を教えきれる「教育力」を備えていることである.
では,総合診療の指導医に求められる教育力とは何であろう? それは,何気ない日常診療にみえる総合診療医たちの活動を「概念化」して伝えられる力と,それが総合診療のコア能力のどこに位置づけられるかを「俯瞰」する力と言い換えることができる.
本書はさまざまな総合診療医たちのニーズに応えることができる.専攻医から「総合診療医って何ですか?」という質問に答えられない指導医は「第1章 総合診療専門研修がめざすもの」から読めばいい.「総合診療ってどのように研修するのですか?」という質問に答えられない指導医は「第2章研修をどのように学んでいくか」を読めばいい.
「現在の研修プログラムを今後どうやって改善していくのですか?」という質問に答えられなければ「第3章 さまざまなプログラムでの学び方の実例」を読めばいい.
総合診療専門医をコンスタントに輩出してきた研修プログラムは,本書に書かれている項目を丁寧に実践し続けた歴史の延長線上にある.現在,全国の総合診療研修プログラムが総力を挙げて日本の総合診療のあり方を創ろうとしている.元気のよい新設プログラムも増えている.まずは本書を研修プログラムの手引書として使ってみて,結果として各施設の家庭医療/総合診療のプログラムの理念が強固となり,総合診療医たちの診療を通じて地域住民の健康が支えられていくことを期待している.