親しみやすく,また実際の研修の様子もイメージしやすい

総合診療 Vol.26 No.7(2016年7月号) GM Library 私の読んだ本より

書評者:前野哲博(筑波大学附属病院総合診療科)

新しい専門医制度の目玉として,総合診療専門医に注目が集まっている.その一方で,実際どんな診療をするのか,専門医をどのように養成するのか,といったイメージがつかみにくいため,混乱を招いているのも事実である.本「総合診療専門医シリーズ」は,この問題に正面から取り組んだ意欲的なシリーズで,第一線で活躍する総合診療のエキスパートが総力を結集して作り上げたものである.その第2巻(0巻があるので実質的には3冊目)では,専門研修に欠かすことのできない「ポートフォリオ」を取り上げている.
総合診療医の専門性については,手術手技のように,難度は高いものの到達目標が明確なものは少なく,「未分化で多様かつ複雑な問題への対応」のように,標準化・体系化が難しい暗黙知が求められるものが多い.その修得には「省察を繰り返して学びを深める」プロセスが不可欠であり,それが,総合診療専門研修においてポートフォリオが課されている大きな理由である.その一方で,ポートフォリオについてはあまり馴染みがなく,専攻医だけでなく指導医も,どうすればよいのか困ることが多いのが現状ではないだろうか.
本書は,ポートフォリオの記載方法のマニュアルではなく,どのようにポートフォリオに用いる症例を選び,その学びを深めていくか,を示した本である.本来,ポートフォリオは「研修終了間際に慌てて過去の症例を引っ張り出して作成する」ものではなく,「研修中に該当するケースを見つけ,研修の流れの中で学びを深めていくプロセスを記録する」ものである.したがって,良いポートフォリオを作るには,専攻医・指導医ともに,日頃の研修のなかでつねにアンテナを張っておき,各エントリー領域にフィットする事例に遭遇した時にすかさず「これはポートフォリオに使えるかも!」というスイッチを入れる,という関わりが求められる.その意味で,まず具体的なケースの例示から始まり,専攻医が指導医との対話を通して学びを深めていく様子が会話形式でまとめられている本書は,その実践的なプロセスを学ぶのに最適である.また同時に,教科書だけでは理解が難しい総合診療医の専門性についても,指導場面のダイアログと解説を通して,より実践的に理解を深めることができる.
本書はイラストも豊富で,「まんが めざせっ! 総合診療専門医」の若宮先生をはじめ,おなじみのキャラクターが登場するので,親しみやすく,また実際の研修の様子もイメージしやすい.総合診療専門医を目指す専攻医,指導に当たる指導医にとって,まさに本書の副題通り「最上のポートフォリオに向けて」お勧めの一冊である.