Journal of CLINICAL REHABILITATION Vol.31 No.5(2022年5月号)「書評」より
評者:山西友典(獨協医科大学排泄機能センター)
超高齢社会を迎え,寿命のみでなく,QOLの重要性が課題になってきた.その中でも,排泄,すなわち排尿・排便は最も重要な課題の一つである.この分野は,これまであまり重要視されておらず,また排尿に関しては泌尿器科,排便に関しては消化器(内科・外科)の各科で,一部の特化した医師のみが診療にあたっているという歴史があった.現在でも,専門といいながら,どこの泌尿器科でも軽視され,まともに診療してくれないと,遠方から当センターを尋ねてくる患者さんが多くみられる.
その理由として,外科医は手術が中心で,それ以外に時間を費やすことが困難なこと,また単純な分野のようで,実は専門的にも難しく,とっつきにくい感があること,そして何より行動療法などの排泄リハビリテーション(リハ)をいくら行っても診療報酬が全く得られなかったことが関連しているのであろう.また同様の理由で,看護師,理学療法士,作業療法士などのメディカルスタッフが,排泄の診療に携わるシステムがなかったことも大きい.
しかし,最近では排泄(特に排尿)を中心とした種々の基礎研究や臨床研究が行われ,排泄リハを専門とする医師が増加してきた.この背景には排泄に関する多数の医薬品,医療機器の開発,排泄に関連する新規治療法,とくに仙骨神経刺激療法やボトックスなどの手術療法が保険適用になったことなどがある.加えて2016年度や2020年度の診療報酬改定における排尿自立指導料関連の保険収載も,メディカルスタッフが共同で排泄リハを行うようになったことの要因となっている.
本書は,2009年に発刊された初版における「排泄に関するすべてのことが網羅され,辞書的な役目を果たす」という狙いを継承し,ガイドラインに沿った新たなエビデンスなどを盛り込んで改訂がなされている.第I部,第Ⅱ部の基礎編では,疫学,解剖,生理といった専門的な知見が分かりやすい図を用いて解説され,第Ⅲ部の実際の排泄リハ編では,用語の定義,原因疾患,アセスメント(種々の機能検査法),そして実際の治療・ケアについて,詳細な記載がある.さらには,おむつから医療機器まで排泄障害に用いる製品の最新の情報も網羅されている.
この分野の成書の多くが,排尿または排便機能に分かれて記載されており,まさにこの1冊で排泄のすべてが把握できる本書は稀である.そのうえ,医師,看護師,理学療法士,作業療法士等の医療職のどなたもが(専門職のみでなく専門外も含め)理解できるような記述によって,それぞれの専門や職域からの考えや対応が明らかにされている.本書は,医療者間の相互理解を深めることもできる排泄リハの総合専門書として,大いに役立つであろう.