通読すべき価値のある手術書─術式はどこかで繋がっている
Orthopaedics Vol.31 No.8(2018年8月号) BookReviewより
評者:米延策雄(大阪行岡医療大学)
どのような手術書を読んだのか? それを聞くことで,その外科医の技量が分かる,と考えていた.しかし昨今,大部の手術書は持っていないと答える若い脊椎外科医がいる.どのような方法で知識を得ているのか? 月刊誌の特集や単独術式についてのMookが多いという.日本の医学書出版業界のパワーに感心するとともに一抹の寂しさ,不安を感じる.より抜きの知識で手術ができるのか? 危機に対応できるのか? 技量の発展性はあるのか?
外科医に社会が求めているのは,「神の手」だろうか? 否,患者の状態に応じた手術が,標準的にできる外科医だろう.そのような外科医たるには教科書的な手術書を何度も通読して欲しい.いろいろな術式はどこかで繋がっている.
その意味で本書は通読すべき要素を備えている.まず,注目すべきは各項目の体裁である.ほとんどの項目で,(1)術前準備に始まり,(2)体位,(3)皮切,(4)展開などと術式の各ステップが明示的であり,分かりやすい.本書の特長は,シリーズ名に冠せられている“イラストレイテッド”が表しているとおり,イラストが多用されていることである.実用的である.外科解剖や手術操作が上手くイラストで表現されている.さらに,頻用される手術については動画がDVDで付き,イラストを補っている.助手として外科解剖や手術操作を体験し,本書のイラストと説明で体験した手術を振り返る.恐らく一段と深いレベルでの理解となり,自信をもって次の手術に臨むことができるのではないか? また,深い理解や潜む危機への,より良い対応のために,留意すべきポイント,上手に進めるためのコツ,そして知って避けるべきピットフォールのメモが手術のステップごとにある.経験豊富な著者の知恵を得る仕組みである.
目次を見る.4つの章として,「I 進入法」,「II 頭蓋頚椎移行部・上位頚椎除圧再建手術」,「III 中下位頚椎除圧再建手術」,「IV 胸椎除圧再建手術」がある.「I 進入法」では,頚椎の2つの基本的アプローチ,頚椎前方法,後頭骨頚椎後方法に加えて,行うことは稀だが,知識として知っておきたい胸骨縦割法とcostotransversectomyの項目がある.「II 頭蓋頚椎移行部・上位頚椎除圧再建手術」では,古典的な環軸椎固定術であるBrooks法からインストゥルメンテーション手術まで網羅されている.高齢者の転倒による上位頚椎骨折が増えている現在,前方スクリュー固定による歯突起骨折骨接合術は知っておきたい術式である.「III 中下位頚椎除圧再建手術」は除圧と頚椎再建とに分けられ,脊髄除圧では椎弓形成術の定型である片開き式と棘突起縦割式,さらには選択的椎弓切除術と椎間孔拡大術がある.頚椎再建では前方,後方それぞれ各種のインストゥルメンテーション手術の項目があり,現行の術式が網羅されている.「IV 胸椎除圧再建手術」でも,現在一般的に行われている術式が幅広く項目立てされている.除圧や病巣切除としては従来の開胸,さらに内視鏡による胸椎前方法,後方進入前方除圧法,そして脊椎全切除術,一方では脊柱変形に対する術式もhybrid法と椎弓根スクリュー法の2つの術式がある.
繰り返す.日本語の網羅的脊椎手術書は少ない.本書は通読すべき価値のある手術書である.