理学療法ジャーナル 52巻4号(2018年4月号)「書評」より
評者:瀧野勝昭(元社会医学技術学院学院長)
現在,理学療法士の養成校は263校あり,2017(平成29)年度各校の募集定員数の総計は約14,000名である.入学した学生の中には初めて学ぶ医学・医療は,難解な用語や記憶する教科が多いと感じている人も見受ける.「理学療法概論」は,理学療法のすべてを包括した内容が求められるが,入学して間もない学生に教授するため,必要な内容を満たし,かつ簡潔明瞭な記述が望ましい.「理学療法概論」の質の良い授業は,これから学ぶ基礎教科や専門教科などの理解を助けるのはもちろんのこと,学習へのモチベーションを高め,学習効果を得ることにつながる.
本書は,冒頭に教育方法の要件である「到達目標」を記載し,次に「学習主題」,「学習目標」,「学習項目」を明示したうえで,系統的に編集された15のlecture(講義)からなる.その内容は,理学療法の概要・背景・構成,必要な知識と実習,主対象(中枢神経系,運動器系,内部障害系,がん,介護予防),病期・職域別(急性期,回復期,生活期,在宅,行政,研究),そして最後に学習到達度をみる「試験・課題」で構成されている.
学習しやすい構成立てとなっており,難解な用語はサイドノートにて詳しく解説するなど,学生が理解しやすいよう随所に工夫がなされている.その他,サイドノートには「ここがポイント」,「試してみよう」,「覚えよう」,「調べてみよう」などがあり,よりいっそうの学習効果と効率化を図っている.写真と図表も多数用いられ,学生の理解を助けるものとなっている.
各講義にある「Step up」では,15領域のexpertが生の声で「仕事の内容」,「今の仕事を目指した理由」,「学生へのメッセージ」を執筆している.一部を紹介すると,国際協力機構(JICA)専門員は「途上国には多数の人が貧困と紛争に苦しんでいる.理学療法士として,あなたは何ができるでしょうか」と学生に問いかけている.さらに行政,スポーツ,一般企業など幅広い分野で活躍する理学療法士による執筆は,新鮮であり,力強く感じることだろう.
総体的にみて概論の必要条件である理学療法の歴史的変遷,語源,目指す理学療法士像,教育の現在,プロフェッショナリズム,現在の職域などを網羅した内容である.以上のことからも本書は,これまでにない最新のすぐれた「理学療法概論」の教科書であると評価できる.大学,専門学校などでぜひとも活用していただきたい.
また,理学療法士はもちろんのこと,看護師,作業療法士,言語聴覚士,義肢装具士などにとっても,理学療法の基本的な知識を補う参考書として,手元に置いておきたい専門書でもある.
今後は社会状況の変遷に伴い,その時代に見合った理論・技術などを取り込み,常に最新の「理学療法概論」として編集を重ねていただきたい.