微に入り細に入り読者に理解してもらおうとする努力,編集に感服させられる
BRAIN and NERVE Vol.65 No.3(2013年3月号) 書評より
評者:田代邦雄(北海道大学名誉教授/北祐会神経内科病院顧問)
多発性硬化症(multiple sclerosis : MS)は1868年のCharcotによる臨床症候の記載に遡るほど歴史的であるばかりでなく,現在に至るまで神経学領域では最も重要な疾患の一つとされている。その神経症候,病態の理解,そして診断と治療への道筋はもとより,特に近年のこの疾患概念に関する注目度・関心は非常に高く,神経内科を中心に,その関連する基礎ならびに臨床の各専門領域において日進月歩の進展が見られるのである。
このたび,『最新アプローチ 多発性硬化症と視神経脊髄炎』と題する最先端の書が出版されたことの意義は大であり,これらの疾患の重要性かつ論点を提言したことになる。すなわち本書では,この両疾患を並列に取り上げ,それらの病態と診断,治療とケアも含め,各項目に最適なエキスパートを配置して論旨を展開している。
その構成は各項目のトップに「Point」として先ずエッセンスを呈示,さらに豊富でカラフルな図表,必要に応じて重要な事項をColumnとして薄紫のバックを用いて本文の一部にとりあげ,また欄外にはKeywordsの簡潔・明快な解説,さらにMemoとして疑問やその説明を追加するなど,微に入り細に入り読者に理解してもらおうとする努力,編集にも感服させられるのである。
日本における多発性硬化症の臨床像・疾患概念の変遷,診断基準の問題,臨床疫学,神経病理,補助診断法,鑑別診断,病因病態の理解,また治療とケアの諸問題は多岐にわたるが各分担執筆者が見事にまとめているとともに,本書のタイトルにも取り上げられている疾患としての「多発性硬化症」と「視神経脊髄炎」との相互関係はいかなるものであるか! という現在神経学領域で最もホットな話題について,まさに論壇で熱くなるような活発な論議が展開されている。
多発性硬化症そして視神経脊髄炎についてのディベートは,これらの疾患を専門にする神経学関係者は(筆者個人も含めて)各々の見解・結論を既に持っているであろうが,本書の役割は,冒頭にも述べたごとく,この重要課題である多発性硬化症/視神経脊髄炎について日本の神経学が“フランク”そして“オープン”に意見交換することが重要かつ必須であり,本書がそのための試金石になってくれることを信ずるとともに,今回,このテーマをとりあげまとめられた編集担当者,各執筆者の努力に対し心からの敬意を表し,書評のまとめとさせていただくこととする。