必ずしもエビデンスは得られていないが保護者からの質問の多い補充代替療法についての項目や,そうした回答に役立つコラムも充実している
小児の精神と神経 Vol.56 No.3(2016年10月号) 書評より
書評者:山崎知克(浜松市子どものこころの診療所)
発達障害はさまざまな疾患を包括しており,その概念は歴史的に見ても大きな変革を遂げているため,専門家はそれに適応しようと近視眼的になってしまいやすいのではないだろうか.そうしたなかで,本書は発達障害の臨床と研究の連続性を意識した包括性をコンセプトにup to dateな知見と従来の基本的事項がそれぞれの第一人者により執筆された良書である.構成は「発達障害を理解する」,「社会的対応」,「治療と療育の原則」の3章からなっている.
「発達障害を理解する」では,そのはじめの項目でDSM-IV-TR(2000)から数えて13年ぶりの改定となったDSM-5(2013)について,特に広汎性発達障害から自閉スペクトラム症への診断基準の変化と,その重症度水準の変更についてわかりやすく述べられている.また,ASD,ADHD,LD,Tourette障害,発達性協調運動障害,選択性緘黙,表出性言語遅滞のそれぞれの項目において,診断,疫学と家族歴,遺伝子研究,自然経過と成人移行,必要な検査,治療と療育について見開き1頁とコンパクトにまとめられており,さらに臨床上必要となる主な検査,二次障害への対応,診断告知についてもバランスのよい解説がなされている.「社会的対応」では,発達障害者に対する行政的支援と教育的配慮(障害児保育と加配,就学相談,就学時健康診断,就学猶予,特別支援教育,通級指導教室など)について専門家が知っておかなければならない制度についての記載がわかりやすい.「治療と療育の原則」では医学モデルとの対比による生活モデルの重要性における説明につづき,乳幼児健診における療育では診断よりも先に対応が必要であること,家族支援の必要性が総論的に記載され,かかりつけ医による発達障害診断,薬物療法と注意点など臨床家にとって必要な心構えが述べられている.
さらに本書では,必ずしもエビデンスは得られていないが保護者からの質問の多い補充代替療法についての項目や,そうした回答に役立つコラムも充実している.特に入門者にとっては発達障害における臨床と研究の範囲を把握するのに優れており,また中堅以上の専門家にとっても知識の整理や簡潔な説明を求められた際にとても役立つと思われるため,ぜひご一読をお薦めしたい.