マニュアルの上を目指したマニュアル/豊富な図表,有用な付録/示唆に富むコラム

麻酔 Vol.65 No.9(2016年9月号) 書評より

書評者:上村裕一(鹿児島大学教授)

◆マニュアルの上を目指したマニュアル
本書は,初期研修で初めて麻酔の臨床に接する若い医師が常時携帯して活用することを目的に作成された「マニュアル」であるが,麻酔を行う際に手技や薬物の投与のために参考にする手技の手順や薬物の名前と投与量を単に解説しただけの“マニュアル本”ではない。手技や薬物投与の根拠となる理由や薬物の作用機序などにも深く言及し,研修医が抱くであろう疑問も解決してくれる指南書である。そのために,本書は編者の豊富な人脈の中から選ばれた多くのスペシャリストの執筆で作成されている。その中の数名が自身のこれまでの麻酔科医としての豊富な経験に基づき,それぞれ個性あふれる内容で若い医師へのメッセージを述べているが,麻酔科医の仕事と役割を理解することができ,麻酔科医を目指す研修医への貴重な助言となっている。
◆豊富な図表,有用な付録
しかし,実際に使用する際には求める情報が迅速に得られるように,図表を多く用い視認性が向上するようにコントラストを強調した2色刷りになっている。
また,薬剤に関しては,最初に1章を設けて“薬理と効果”を説明し,実際に使用する時のために最後の章で“使い方”として,作用機序,適応・用法・用量,禁忌が簡潔にまとめられている。さらに付録として,よく用いられるスコアやスケールがまとめられているが,そこに“略語一覧”も付けられている。初期研修医はいろいろな科をローテートするが,領域ごとに多用される略語は異なっており,カンファレンスや指導を受けているときに略語が理解できず,かといって途中で略語の意味を問うこともできず戸惑う初期研修医が多い。“略語一覧”はそのような際に初期研修医が戸惑わないようにとの,編者の心優しい配慮である。
◆示唆に富むコラム
本書では各所にいろいろなコラムが設けられている。内容は用語の説明や麻酔手技のこつ,機器の説明など多様で,臨床的に示唆に富むものが多い。また,担当者の経験談に基づくものや,少しオタクな薀蓄など個性に富むものが多く,コラムだけを拾い読みしても麻酔関連のお話ネタとして楽しめる。本書はいつも携帯して使用されることを前提に書かれたマニュアルであるが,麻酔が終わって時間ができたときに,このコラムを読めば麻酔科への関心も深まると思われる。

本書は「ポケットマニュアル」として,麻酔を行う際に常に携行できるサイズになっている。実際に手技を行い薬剤を使用する際の手引きとして,さらに万一緊急事態に遭遇した際の対処の拠り所として非常に有用なマニュアルとして,そして麻酔を理解するための入門書としても推薦する。