もっとも信頼のおける筆者によってまとめられたがん医療に携わる方必読の書
がん看護 15巻3号(2010 Mar/Apr) BOOKより
評者:武藤徹一郎(癌研有明病院名誉院長)
がんはわが国の国民病である.2人に1人はがんになり,3人に1人はがんで死ぬのが現実の世界である.逆に言えば,日本人はがんで死ぬほど長生きするようになったということであろう.発展途上国では感染症,飢え,栄養障害が問題であり,がんに罹るまで長生きできないことが多いことに思いを至さねばならない.
かつてがんの治療といえば手術と決まっていた.手術で取れるか取れないかに,患者さんおよびその家族は一喜一憂したものだ.最近ではそれに抗がん剤による化学療法と放射線治療が加わった.古典的な化学療法に分子生物学の進歩の産物として生まれた分子標的薬が加わり,化学療法の守備範囲は著しく拡大した.一方,放射線治療の技術的進歩も著しく,一部のがん腫では化学療法との併用による放射線化学療法においては,手術療法と同等の治療効果を得ることが可能になってきた.しかし,いずれの治療法も正常組織への影響は避け難く,そのために発生する合併症の問題が残されている.
そこに第4の治療法として免疫療法が登場してきた.免疫学の著しい進歩により,免疫療法は基礎研究の段階から臨床の場へと移行することになった.ペプチドワクチンはその中で最も研究が進んでおり,将来が期待されている治療法である.抗がん剤や放射線照射という,がん以外の細胞に影響を与える治療法とは異なり,ペプチドワクチン療法は自己の免疫力を利用するという点で副作用が最も少ないという利点がある.本書を編集した中村祐輔教授は外科医から基礎研究者となり,その知識を携えて臨床の場での応用を目指そうとしている.この道ではもっとも信頼のおける学者である.本書はペプチドワクチン療法の基礎から臓器別の診療までを誠に要領よくわかりやすくまとめており,がん医療に携わる者の必読の書としてお薦めしたい.
やさしく分かる新治療法の機序と効果
メディカル朝日 2010年5月号 p.73 BOOKS PICKUPより
がん治療で外科療法、化学療法、放射線療法に次ぐと目される免疫療法。なかでも細胞療法は、全身転移例への効果が期待されるという。本書は、がんの新生血管細胞を標的としたペプチドワクチン療法を平易に紹介した。臨床編ではこの療法の有効性の立証と普及に向けて、多様ながんの症例を示しながら、これまで確認された治療効果、今後の課題・展望をまとめた。