理学療法ジャーナル Vol.55 No.7(2021年7月号)「書評」より
評者:牧迫飛雄馬(鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻基礎理学療法学講座)
臨床実習は,理学療法士をめざすうえで必ず経験する過程であり,養成カリキュラムにおいても重要な修学過程に位置づけられる.学生にとっては理学療法士としての実臨床を実際に体験できるとともに,職業としての理学療法士に接することで,机上では感じることのできない疑問や難しさ,または奥深さなど,さまざまな貴重な経験の場となる.しかし,臨床実習の在り方は年々変化しつつあり,特にここ数年においては診療参加型への移行や感染症拡大予防策などへの配慮がこれまで以上に必要となっており,臨床実習での学修を支援する書籍の充実は誰しもが望むところであろう.
本書の特筆すべき特徴として,1)ポケットサイズによる携帯性,2)動画解説の充実,3)実習生目線での問診や検査・測定方法の解説,が挙げられる.ポケットサイズであるが,写真が多く用いられており,文字の大きさやフォント,背景の色使いにも工夫がなされており,「読み物」というより「実用書」としての配慮が随所にうかがえる.
運動器理学療法における臨床実習を想定した関節可動域(ROM)測定や徒手筋力検査(MMT)の実施方法が中心的な内容であり,特に運動器理学療法の臨床実習で遭遇する機会の多い人工膝関節置換術(TKA),人工股関節全置換術(THA)後の患者を想定した臨床に即した検査・測定スキルが解説されている.
さらに,これらを急性期(術後初期~1週以内),回復期(概ね3週以降)に分けて,具体的な検査・測定方法が解説されており,検査者のポジショニングや声かけの工夫,記録方法の注意点などの細かな解説が加えられている.例えば,急性期であればROMの制限や体位の制限(腹臥位や立位ができないなど),疼痛の考慮などが必要であり,これらの点に配慮したROM測定やMMTの実施方法が紹介されている.各期の臨床像を想定したモデル症例が提示されているため,「このような患者を担当することになったらどのように対応すればよいか」,「自分の担当する患者に今後どのような対応をしたらよいか」といった臨床を想定した学びに役立つ.その他,肩関節症例や脊椎疾患症例に対する検査・測定および治療,歩行観察のポイントなどが紹介されている.
本書ではROM運動や筋力増強運動などの治療プログラムに活用できる実践例も動画付きで紹介されている.運動器理学療法の臨床実習における検査・測定,およびその結果を統合して解釈する一連の評価にとどまらず,評価に基づく治療プログラムの立案や実践に結びつけるためにも有用となる.感染症拡大防止のために注意しておきたいポイントも考慮されており,今のこの時代における運動器理学療法の実技演習および臨床実習での学修を補う教材として価値のある一冊であろう.