Orthopaedics Vol.32 No.11(2019年11月号)「Book Review」より
評者:山下敏彦(札幌医科大学医学部整形外科学講座)
2005年に初めて日本整形外科学会から「腰椎椎間板ヘルニア」「頸椎症性脊髄症」など5疾患に関する診療ガイドラインが発行されて以来,徐々に対象疾患は広がり,現在では整形外科疾患のガイドライン数は16にのぼる.さらに「骨粗鬆症」「関節リウマチ」など整形外科関連・周辺領域も含めると,きわめて多くのガイドラインが存在する.診療ガイドラインは,本来,診断・治療の標準化をはかり,より安全で有効な医療の実現を目指すものである.しかし,これだけ多くのガイドラインに囲まれると,その全てに目を通し内容を把握することは困難であり,また実際の臨床症例に適用する際にも若干の戸惑いや躊躇を覚えることもある.
このような状況を背景に,本書は,整形外科医が様々な疾患の標準治療の概要を短時間で把握でき,ガイドラインの実臨床でのスムーズな適用が可能となるよう配慮されている.日常の整形外科診療において頻繁に遭遇する疾患ごとに,まず「概要」「診療ガイドラインの現況」「標準治療のポイント」が簡潔に解説されている.ここで,読者は各疾患治療の「トレンド」について頭の整理ができる.次に,具体的な症例を「典型例」「非典型例」に分けて提示し,ガイドラインに沿った実際の治療の考え方と進め方を示している.実臨床における症例はもちろん画一的ではなく,臨機応変な対応が求められるが,本書では非典型例など多くのバリエーションを示している.さらに「患者説明のポイント」の項目を設けるなど,臨床の現場を意識しているのが大きな特徴と言える.また随所に診断・治療の流れがアルゴリズムで示されているのも理解の助けとなるだろう.
疾患の中には,まだ診療ガイドラインが存在しないものも含まれる.これらに対しては,海外のガイドラインを紹介したり,現状におけるエキスパートコンセンサスを提示して,それらに沿った標準的治療が解説されている.本書の最終章「リスク管理」では,「疼痛管理」「術後感染予防」「症候性静脈血栓塞栓症の予防」「医療放射線被曝」など,整形外科臨床において極めて重要なテーマについて最新の考え方や対処法が簡潔にまとめられており,本書の最も有用な部分の一つとなっている.
本書は,多くの診療ガイドラインが林立する現代の整形外科というフィールドを,われわれ整形外科医がスムーズかつ安全に往来するための有用な「ガイド」となってくれるだろう.