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触診とゴロで覚える 四肢&体幹の機能解剖学

触診とゴロで覚える 四肢&体幹の機能解剖学 published on
評者:松永篤彦(北里大学大学院医療系研究科 教授)

リハビリテーション診療の一翼を担うセラピストにとって、解剖学を学ぶという試練は、養成校に入学して直ちに訪れ、そして間違いなく卒業しても終わることはない。それは、単に筋肉(筋群)の名称を覚えただけでは不十分であり、その筋群の「構造と機能」が日常生活動作(たとえば歩行)においてどのような役割を果たしているのかを、生体運動学と結びつけて理解していなければ、実臨床では役立たないからである。すなわち、解剖学を起点とした応用的知識の学びには終わりがない。また、頭の中に知識として詰め込むだけでなく、実際にその筋群を診て、触れて、動きを実感しながら機能を評価することが求められる。敢えて「試練」と表現したが、学生にとっても、有資格者にとっても避けては通れない膨大な学習領域である。

このような試練に立ち向かううえで大きな味方となるのが、本書『触診とゴロで覚える 四肢&体幹の機能解剖学』(中山書店)である。本書は、同社から既に出版されている『ゴロから覚える筋肉&神経』の進化形ともいえる。ページを開くと直ちに目を引くのは、①筋(群)の作用、②筋(群)名、③生体運動としての特徴(動作における役割、他筋との関係、特徴など)、④支配神経、⑤起始・停止(図)、⑥触診の方法(図:姿勢と位置)、⑦覚え方(ゴロ)、⑧POINT、⑨MEMOのすべてが例外なく整理されている点である。これらの番号は紙面上に明示されてはいないが、筆者が読者に本書の構成と充実度を伝えるために敢えて列挙した。しかも、A5サイズにも満たないコンパクトな判型の中に、これだけの情報が片面ごとに見やすく配置されている。

特筆すべきは③の生体運動に関する記述である。最も重要で実践的な知識が短文・箇条書きで整理されており、覚えやすく臨床で即使える内容になっている。⑤の起始・停止図は立体的で視認性が高く、⑥の触診図は実際の人体写真を用い、触診部位だけでなく触れやすい姿勢もひと目で理解できる。また⑧・⑨の項目では、臨床で遭遇する病態との関連知識が端的にまとめられており、実践の中での応用を想定した構成となっている。筆者はこれほど限られたスペースに、これほどまでに重要な知識を無駄なく配置した書をほとんど見たことがない。

近年、AIなどの技術革新により、豊富な知識を容易に検索できる時代となったが、要点を取捨選択し、学ぶべき本質を端的に整理してくれるものは少ない。本書は、単に「ゴロ」で覚えることを目的とした暗記本ではなく、触診を通して構造と機能を一体的に理解するための実践的な学習書である。著者の高橋仁美氏は、40年以上にわたり理学療法士として臨床・教育の第一線で活躍してきた達人である。本書は、その豊富な経験に裏打ちされた“機能解剖学の指南書”であり、初学者はもちろん、臨床経験を重ねた有資格者にも改めて学びを深める契機となる一冊である。本書を強く推薦する。